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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第百十二幕 鬼教官と指導者

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「ラム、それは本当か?」
「うん」
(鳥とは違って、最初に餌を与えた者を親と認識するようだな。だったら、なんで俺が父親なんだ。生肉を取り出したからか? ま、考えていても仕方がない)

「ラム、この子に名前をつけてやれ」
「良いの!」
「ああ、お前がお母さんなんだからな」
「分かった。ならねぇ……ロー!」
 エンペラーウルフの子供を抱き上げて名前を叫ぶ。それに呼応するようにエンペラーウルフもとい、ローも吠える。

「ゥワン!」
「どうやら気に入ったようだな」
 ラムのつけた名前に嬉しそうに尻尾を振る。

「ラムよ、どうしてその名前にしたのだ?」
「だって最初に食べたお肉が生だったから」
「それってもしかして肉の焼き加減の事を言っているのか?」
「うん!」
 ラムの名前のセンスに思わず呆れる三人。
(それよりもよく肉の焼き加減の事しっていたな。ローなんて前世の現代日本でも聞かないぞ。大抵はレアとか、ミディアム、ウェルダンあたりだろうに。ま、他の名前よりましか。ミディアムレアなんて付けられた次の日には一切の威厳を無くすだろうからな。せっかくエレメントテイルと互角の力を持つエンペラーウルフがミディアムレアなんて可哀相過ぎる)
 最初の与えた肉が生肉で良かったと心から思う千夜であった。

「それじゃあラムはこれからちゃんとローの世話をするんだぞ。お母さんなんだから」
「分かった、お父さん」
「あ、ああ。俺は奴隷達の所に言ってくる」
 呼びなれていない呼称で呼ばれ思わず言葉に詰まりながらも書斎をあとにする。


 奴隷達の許に行くと既に班分けがされていた。
 全部で5班あり、男性17人、女性11人、亜人20人、人間8人である。この中にはフーリッシュの所から助けた女性6人も含まれている。
 女性の班は2班で5人と6人。男性の班は3班で6人が2班と5人が1班である。今回も女性陣の班から1斑と付け、全部で5班まである。
 千夜はそんな班毎に分かれた総勢28人の前に立つ。

「改めて自己紹介をする。俺の名前は千夜。この屋敷の主であり、お前達のご主人様でもある。一部は違う者も居るが。お前達にはこれから二ヶ月間の間、色々な事をして貰う。掃除洗濯といった家事。読み書き、計算といった教養を身に付ける勉学、そして基礎体力を身に付ける運動をそれぞれの教官の指導の下行ってもらう。ここまでで筆問はあるか」
 まるで教官そのものである。
 奴隷達の大半は千夜の迫力に怯えて誰も質問しようとしない。一人を除いては。

「一つ良いかしら?」
「質問がある時は挙手する事いいな。イルマ」
「……分かったわよ」
「返事は『はい』だ」
「……はい」
 挙手したイルマは千夜の指示に従い、はい。と叫ぶ。

「なんだイルマ」
「私達は二ヵ月後何をさせられるんですか?」
「二ヵ月後、お前達には俺が経営してる店で働いて貰う」
「店……」
 その言葉に不安を隠せない奴隷達。

「安心しろ、お前達が想像しているような店じゃない。俺が経営しているのは酒専門のお店だ。オールリキュールと言えば分かるか?」
 千夜の言葉に全員が笑顔になる。

「二ヵ月後お前達にはオールリキュールで働く先輩達が班に一人ずる教育係としてつく。勿論習うのは専門的な事だ。で、そこから一ヶ月間の働きを見てお前達を奴隷から開放するかを審査し、奴隷から解放された者は改めてわが社で雇う事となる。他に質問は?」
 今度は誰も挙手する者は居なかった。ただ、全員がやる気に満ち溢れていた。

「お前達には二ヶ月間の間、訓練所の隅で夜営して貰う、勿論必要なテントや寝袋は渡す。食事や風呂にも毎日入れる。不満があるかもしれないが、先輩たちも乗り越えてきた壁だ。頑張ってくれ」
 それを最後の言葉に訓練が開始された。
 男の奴隷の中にはエリーゼたちを卑猥な目で見てくる者も居たが、そいつらは基礎訓練の時に千夜によってトラウマレベルの制裁を与えられた。
 そんなこんなで一日が終了した。


 次の日、奴隷達をセバスたちに任せて千夜は第一酒造場に来ていた。数メートル離れた場所では既に第二酒造場の建設工事が開始されていた。

「大将、今日はどうされましたか?」
 第一酒造に入ると、千夜に気付いたバルノが近寄ってきた。

「前にも話した新しい奴隷たちなんだが、今訓練を開始した所だ」
「そうですかい」
「で、お前達の中で指導できる者を男から3名、女性から2名選抜して貰いたい。勿論指導は二ヵ月後だから、まだ時間はあるし、指導してくれる者には給料を少し上げる。もしも負担が大きいようなら補佐をつけても構わない。だから忙しいのは分かるが選んでおいてくれないか」
「分かりやした。遅くても今週中には決めて連絡に行きやす」
「済まないな」
「いえ、お気になさらず。それよりもですね。大将が考えた新しい果実酒なんですが」
「どうだ?」
「はい、まだ完成していません。漬け込みを始めた段階ですので」
「そうか。なら週一で心境状況の報告を頼む」
「いつも通りですね。解りやした」
 見送るバルノに手を振って後にした千夜はラムの許に向かった。
(さて、ラムにはテイマーとして鍛えなければな)
 新たな用事に追われる千夜であった。
 
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