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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第百十幕 最強と万能
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次の日。千夜は久々の休暇を愛する妻たちと過ごす事にしていた。と言っても、早朝だけは何時もと変わらない。
何時ものように起き、着替え、ストレッチをしたあと朝稽古を行う。その日によって参加するメンバーも異なるが、今日は何時も同じエルザとタイガーだけだった。
軽く素振りをしたあとエルザとタイガー相手に模擬戦を行う。これが何時もの日常だ。これは余談だが、千夜たちの戦闘音がエリーゼたちの目覚まし時計代わりになっていたりもする。
一時間半模擬戦を行った千夜たちは汗を流しリビングへと向かう。少し早めに切り上げていたエルザは朝食の準備の手伝いをしていた。
「旦那様おはよう」
「おはようエリーゼ。ミレーネもクロエもおはよう」
「おはようございます」
「おはようなのじゃ。ぅふあ~」
朝が弱いクロエは目を擦りながら自分の席に座る。
「旦那様今日は何するの?」
「いや、今日は特に何も無い」
「だったら今日は一緒に居られるのね!」
「ああ」
「だったら今日は――」
「エリーゼ様。朝から騒々しいです。そう言った話は朝食後にしてください!」
「解ったわよマリン」
マリンに叱られて項垂れる姿はまるで子犬のようであり、そんな姿を見て千夜は可愛いと内心思うのであった。
「それじゃあ、頂こうか。頂きます」
「「「「「「「「「頂きます」」」」」」」」」
千夜の後に続いて、エリーゼ、クロエ、ミレーネ、エルザ、タイガー、ラム、セバス、マリン、ロイドたちは合掌する。
それから一時間、他愛も無い話をしながら食事終えた千夜たちは食後の紅茶を飲みながら、何をするか話し合う。
結局この日は外に買い物し、屋敷に帰ってからはただ雑談して一日を終えた。
次の日千夜はエルザ、タイガー、ラムの四人で奴隷商に向かっていた。
「ラム、本当について来るのか。正直子供には見せたくないんだが」
「だいじょうぶ。これも勉強」
「そうか」
社会見学の一環としてついてくるようだが、ラムの興味は周りの出店に向いていた。
歩く事数分、大通りに並ぶ店の中で唯一不気味な雰囲気を醸し出す建物に到着した。ここはミレーネ、クロエと出会った奴隷商だ。
ドアを開け中に入ると前と変わらぬ光景が広がっていた。
(相変わらず薄気味悪い場所だ。よくも大通りで仕事できるな)
内心そんな事を思いながら、この店の店長である奴隷商人に近づく。
「これはこれはセンヤ様、お久しぶりでございます。して今日はどういった奴隷をお探しでしょうか?」
奴隷商人の中で既に一番の顧客となっている千夜に身軽な動きで近づく。
「前と一緒だ。数はまだ決めていないが、犯罪奴隷以外の奴隷たちを見せて貰えるか?」
「畏まりました。して、後ろのお二人は?」
「ああ、こいつらは俺の側近兼護衛だ。だから気にするな」
「わ、解りました」
鋭い視線に強烈な威圧に思わず尻餅をつきそうになるが、直ぐに千夜を案内する事で免れた。
奴隷たちが居る地下室に向かうとそこには25人弱の奴隷が檻の中に入れられて居た。
「この中で犯罪奴隷は何人だ?」
「はい。五人です。本当なら犯罪奴隷は扱わないのですが、売り手からどうしてもと言われまして仕方なく」
「そうか」
(五人か。となると残りは22人微妙だな。まあ、良いか)
「この中に病気持ちや怪我人は居るか?」
「はい。一人だけ」
「どいつだ?」
「この女です」
檻の中には片足を失った17、8歳の人間の少女が薄汚れた貫頭衣を着て俯いていた。
ブラウンの髪は手入れされていないせいか、ボロボロで薄暗い室内でも毛割れが分かる程だった。
「彼女は?」
「はい、彼女の名前はイルマ。先日都市ロアントを襲撃した魔族軍から逃げ遅れた際に左脚を失ったそうです。肉親も居ないせいか誰も引き取る者もおらず、結果私の所に来たというわけです」
「なるほどな」
あの戦いに参加していたタイガーとエルザは助けられなかった少女の姿を見て思わず目を逸らしてしまう。
(仕方が無い。俺たちは周りから最強だの言われているが神じゃない。『最強』は『万能』ではないからな)
千夜は視線を逸らす事無く真っ直ぐ見詰める。
(彼女の足を直す事をは出来る。だが、問題が一つある)
「イルマ、悪いがこっちを向いてくれないか?」
「………っ!」
ゆっくりと振り向いたイルマは千夜とエルザに気付き一瞬目を見開けるが、直ぐに憎悪が篭った視線を向ける。
「魔族……」
千夜の縦長の瞳と額から生えた二本の角。エルザの紅の瞳を見て気付いた。
(怯えてはいない。憎しみはあるな)
襲われた人間が生き延びて心に刻み込まれるのは大抵、恐怖か憎悪のどちらかだ。イルマは後者だったようだ。
「奴隷商人」
「は、はい」
「イルマを含めて、犯罪奴隷以外全て買う。幾らだ?」
「有難うございます! 全部で金貨290枚です」
「解った………290枚だ」
金貨300枚入った皮袋から10枚だけ取り、残りを皮袋ごと奴隷商人に渡す。
「有難うございます。それではこちらにサインをお願いします」
「解った」
出された羊皮紙にサインした千夜は奴隷商人に檻を開けるように促す。
イルマが入っている折の扉が開けられると千夜はイルマに近づく。
「近づくな!」
「イルマ! 今日からセンヤ様がお前のご主人様だぞ! なんだその態度は!」
奴隷商人が叱咤するが千夜が手で制すと直ぐに黙る。
「確かに俺は魔族だ。正確には混合種だがな」
「何が違う。半分は魔族の血が流れているんだろうが」
「ま、確かにな」
「それに後ろの女は吸血鬼だろ。そいつは完全に魔族じゃないか!」
まともな食事与えられていないのか、怒りの篭った声で喋るが掠れていて威厳も迫力もない。
「エルザは俺が信頼出来る数少ない吸血鬼の一人だ。そう怒らないで貰えると助かる」
「無理だ。魔族は私の足を奪った。全てを奪った。なのにどうして許せる!」
「許さなくて良い。だが俺たちの事は恨まないで貰えると助かる」
「無理だ」
「なら、俺がお前の左脚を治すと言っても許してくれないか」
「は? 何を言っている」
千夜の言葉が理解できなかった訳ではない。ただ信じられなかったのだ。
「そのままの意味だ。『エクストラヒール』」
欠損していた左足に手を翳した千夜は短縮詠唱を唱えるすると白い粒子のような物がイルマの脚に集まり脚の形態へとなる。数分後、光の粒子は弾け飛ぶとそこには広く美しい足があった。
「嘘………」
驚きを隠せないイルマ。しかし涙を流しながら自分の足を撫でていた。
何時ものように起き、着替え、ストレッチをしたあと朝稽古を行う。その日によって参加するメンバーも異なるが、今日は何時も同じエルザとタイガーだけだった。
軽く素振りをしたあとエルザとタイガー相手に模擬戦を行う。これが何時もの日常だ。これは余談だが、千夜たちの戦闘音がエリーゼたちの目覚まし時計代わりになっていたりもする。
一時間半模擬戦を行った千夜たちは汗を流しリビングへと向かう。少し早めに切り上げていたエルザは朝食の準備の手伝いをしていた。
「旦那様おはよう」
「おはようエリーゼ。ミレーネもクロエもおはよう」
「おはようございます」
「おはようなのじゃ。ぅふあ~」
朝が弱いクロエは目を擦りながら自分の席に座る。
「旦那様今日は何するの?」
「いや、今日は特に何も無い」
「だったら今日は一緒に居られるのね!」
「ああ」
「だったら今日は――」
「エリーゼ様。朝から騒々しいです。そう言った話は朝食後にしてください!」
「解ったわよマリン」
マリンに叱られて項垂れる姿はまるで子犬のようであり、そんな姿を見て千夜は可愛いと内心思うのであった。
「それじゃあ、頂こうか。頂きます」
「「「「「「「「「頂きます」」」」」」」」」
千夜の後に続いて、エリーゼ、クロエ、ミレーネ、エルザ、タイガー、ラム、セバス、マリン、ロイドたちは合掌する。
それから一時間、他愛も無い話をしながら食事終えた千夜たちは食後の紅茶を飲みながら、何をするか話し合う。
結局この日は外に買い物し、屋敷に帰ってからはただ雑談して一日を終えた。
次の日千夜はエルザ、タイガー、ラムの四人で奴隷商に向かっていた。
「ラム、本当について来るのか。正直子供には見せたくないんだが」
「だいじょうぶ。これも勉強」
「そうか」
社会見学の一環としてついてくるようだが、ラムの興味は周りの出店に向いていた。
歩く事数分、大通りに並ぶ店の中で唯一不気味な雰囲気を醸し出す建物に到着した。ここはミレーネ、クロエと出会った奴隷商だ。
ドアを開け中に入ると前と変わらぬ光景が広がっていた。
(相変わらず薄気味悪い場所だ。よくも大通りで仕事できるな)
内心そんな事を思いながら、この店の店長である奴隷商人に近づく。
「これはこれはセンヤ様、お久しぶりでございます。して今日はどういった奴隷をお探しでしょうか?」
奴隷商人の中で既に一番の顧客となっている千夜に身軽な動きで近づく。
「前と一緒だ。数はまだ決めていないが、犯罪奴隷以外の奴隷たちを見せて貰えるか?」
「畏まりました。して、後ろのお二人は?」
「ああ、こいつらは俺の側近兼護衛だ。だから気にするな」
「わ、解りました」
鋭い視線に強烈な威圧に思わず尻餅をつきそうになるが、直ぐに千夜を案内する事で免れた。
奴隷たちが居る地下室に向かうとそこには25人弱の奴隷が檻の中に入れられて居た。
「この中で犯罪奴隷は何人だ?」
「はい。五人です。本当なら犯罪奴隷は扱わないのですが、売り手からどうしてもと言われまして仕方なく」
「そうか」
(五人か。となると残りは22人微妙だな。まあ、良いか)
「この中に病気持ちや怪我人は居るか?」
「はい。一人だけ」
「どいつだ?」
「この女です」
檻の中には片足を失った17、8歳の人間の少女が薄汚れた貫頭衣を着て俯いていた。
ブラウンの髪は手入れされていないせいか、ボロボロで薄暗い室内でも毛割れが分かる程だった。
「彼女は?」
「はい、彼女の名前はイルマ。先日都市ロアントを襲撃した魔族軍から逃げ遅れた際に左脚を失ったそうです。肉親も居ないせいか誰も引き取る者もおらず、結果私の所に来たというわけです」
「なるほどな」
あの戦いに参加していたタイガーとエルザは助けられなかった少女の姿を見て思わず目を逸らしてしまう。
(仕方が無い。俺たちは周りから最強だの言われているが神じゃない。『最強』は『万能』ではないからな)
千夜は視線を逸らす事無く真っ直ぐ見詰める。
(彼女の足を直す事をは出来る。だが、問題が一つある)
「イルマ、悪いがこっちを向いてくれないか?」
「………っ!」
ゆっくりと振り向いたイルマは千夜とエルザに気付き一瞬目を見開けるが、直ぐに憎悪が篭った視線を向ける。
「魔族……」
千夜の縦長の瞳と額から生えた二本の角。エルザの紅の瞳を見て気付いた。
(怯えてはいない。憎しみはあるな)
襲われた人間が生き延びて心に刻み込まれるのは大抵、恐怖か憎悪のどちらかだ。イルマは後者だったようだ。
「奴隷商人」
「は、はい」
「イルマを含めて、犯罪奴隷以外全て買う。幾らだ?」
「有難うございます! 全部で金貨290枚です」
「解った………290枚だ」
金貨300枚入った皮袋から10枚だけ取り、残りを皮袋ごと奴隷商人に渡す。
「有難うございます。それではこちらにサインをお願いします」
「解った」
出された羊皮紙にサインした千夜は奴隷商人に檻を開けるように促す。
イルマが入っている折の扉が開けられると千夜はイルマに近づく。
「近づくな!」
「イルマ! 今日からセンヤ様がお前のご主人様だぞ! なんだその態度は!」
奴隷商人が叱咤するが千夜が手で制すと直ぐに黙る。
「確かに俺は魔族だ。正確には混合種だがな」
「何が違う。半分は魔族の血が流れているんだろうが」
「ま、確かにな」
「それに後ろの女は吸血鬼だろ。そいつは完全に魔族じゃないか!」
まともな食事与えられていないのか、怒りの篭った声で喋るが掠れていて威厳も迫力もない。
「エルザは俺が信頼出来る数少ない吸血鬼の一人だ。そう怒らないで貰えると助かる」
「無理だ。魔族は私の足を奪った。全てを奪った。なのにどうして許せる!」
「許さなくて良い。だが俺たちの事は恨まないで貰えると助かる」
「無理だ」
「なら、俺がお前の左脚を治すと言っても許してくれないか」
「は? 何を言っている」
千夜の言葉が理解できなかった訳ではない。ただ信じられなかったのだ。
「そのままの意味だ。『エクストラヒール』」
欠損していた左足に手を翳した千夜は短縮詠唱を唱えるすると白い粒子のような物がイルマの脚に集まり脚の形態へとなる。数分後、光の粒子は弾け飛ぶとそこには広く美しい足があった。
「嘘………」
驚きを隠せないイルマ。しかし涙を流しながら自分の足を撫でていた。
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