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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第百九幕 第二酒造場と給料アップ

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「さて次なんだが?」
「まだあるのか?」
「ああ、この時期にでも作れる果実酒を作ろうと考えている。まだ試作を始めたばかりだが、確実に一つは作ろうと考えている。そこで新しい酒造場を作りたいと考えている」
「おいおい、もうかよ。まだ店が開店して1年ちょっとだってのに」
「まあな。お店の方も増やそうかと思ったが今は酒の種類と量を増やす事にした。そこで悪いんだが前回作った酒造場の隣に作って貰えないか?」
「確かにその隣は空き地だったから構わないが、大きさはどうする?」
「そうだな。酒造一号の1.5倍の大きさで頼む」
「了解。材料はどうする」
「前と同じで頼む。出来れば今度の魔族対策会議までには完成出来ていると有難い」
「おいおい無茶を言うなよ」
「それに必要は人員は増やして構わない。全部俺が払うから」
「解った。まずは土地代として金貨790枚だ」
「ほい」
「相変わらずポンポン金を出すな」
「一括の方が楽で良い」
「他の客もお前みたいに金払いが良いと助かるんだがな」
「そうだろうな」
 その後酒造場一号の設計図を見ながら手を加える部分を話し合う。その間ラムは全てのクッキーを食べ尽くし、お腹一杯になったのか千夜に凭れて寝ていた。
 それから約1時間程度で話し合いは終わるとラムをおぶさってリッチネス商会をあとにする。
 背中で気持ち良さそうに寝るラムを肩越しから視線を向け笑みを零す千夜はラムを起こさないように自宅へと帰った。
 屋敷へと戻るとタイガーとエルザが魂の抜けた抜け殻状態となっていた。
(あの二人には一日謹慎はそうとう堪えたようだな)
 苦笑いを浮かべる千夜。そんな千夜に気付いたのか訓練所で模擬戦を行っていたエリーゼ、ミレーネ、クロエがやってきた。

「旦那様帰ってきたのね」
「ああ、思った以上に時間が掛かったがな」
「そうみたいね」
 後ろでスヤスヤと寝息を立てるラムを見てクスクスと笑う。

「ラムにはまだ護衛役は大変だったようね」
「途中までは頑張っていたんだがな。俺とパルケの話が詰まらなかったんだろう。出された茶菓子を全部食べたら寝てしまったよ」
「それはただ単にお腹が一杯になったからじゃないのかしら」
「ま、護衛任務で疲れて寝てしまった事にしておいてくれ」
「ええ、そうして置くわ。それにしても可愛らしい寝顔ね」
「そうだな」
「私も子供が欲しいわ」
「………」
「なんで黙り込むのよ」
「いや、別に」
「今日は寝かさないわよ」
「わ、解った」
 ラムを寝顔を見たせいか、妙に気合が入るエリーゼたちであった。
 ラムをリビングのソファーに寝かせた千夜はセバスとフーリッシュから助けた女たちを連れてオールリキュール職員専用宿舎に向かった。
 まだ、お店で働いている者も居るがお昼休憩も兼ねて彼女たちに紹介する事にした。
 歩いて数分の宿舎に到着する。

「セバス、悪いが酒造場で働く奴らを呼んできてくれ」
「畏まりました」
 セバスと分かれた千夜は宿舎内へ入る。

「あ、センヤさん」
「アスカ。今日は非番か」
「はい」
 オールリキュールでは周に一度休みがある。勿論同じ日に全員を休ませる訳ではない。例えるならシフトである。皆で決めた日程で動いているのだ。どうやら今日はアスカと他の数名が休みのようだった。

「すまないが、今居る全員を食堂に集めて貰えないか?」
「解りました」
 何か大事な話があると理解したアスカは走った他の従業員を呼びに行った。
 十数分してオールリキュール店で働いている者以外全員が食堂に集まった。

「それで話ってのは何ですか?」
「ああ、幾つかある。まずは彼女たちが新しい従業員だ。つまりお前たちの後輩だ」
「で、でもセンヤさん。今でも十分人では足りてます。これ以上増やすのは流石に……」
 奴隷から救って貰っただけでなく、衣食住も与えて貰い、それだけでなく職まで貰ったアスカたち。これ以上人が増えれば自分たちの仕事が減り恩人である千夜に恩返しが出来ないと考えたのだ。

「本当なら周2で休みを与える所なんだが……」
「それは流石に駄目です!」
「そ、そうか」
(俺が住んでいた国では普通だったんだが)

「なら、給料のアップだな。今度からは金貨2枚に――」
「「「「「もっと駄目です」」」」」
「そ、そうか。だが、良く働いてくれるお前たちに何かしらの恩返しがしたくてな」
「いえ! 恩を感じているのは私たちです! ですからこれ以上何かされても私たちが困ります!」
「わ、分かったから落ち着け。な」
「は、はい……」
 押し迫る勢いのアスカたちに流石の千夜も気圧されてしまった。

「さて次の話だが、新しい酒を造ろうと思っている。セバス」
「はい」
 簡単に作る酒の内容を書いた資料を全員に渡す。

「新しい酒と言っても果実酒の種類を増やすだけだがな。酒自体新しいのを考えるとなると時間がいるからな」
「大将」
「どうしたバルノ」
 ドワーフであり、第五班の班長でもある。

「新しい酒を作るのは解りやしたが、酒を作る場所がありやせん」
「それに関しても大丈夫だ。さっきパルケに頼んで第二酒造場の建築を依頼してきたところだ。今週中には来るだろう」
「ですが、そうなると人手が足りなくなりやす」
「それに関しても大丈夫だ。明後日奴隷商人に会いに行く」
「また、奴隷を買うので」
「ああ。正直俺は人を雇うより奴隷の方が信頼出来ると思っている。勿論犯罪奴隷は別だがな」
 奴隷と聞いて暗い表情になるアスカやバルノたち。

「安心しろ。悪いようにはしない。お前たちに施した事をするだけだ」
「あ、あの訓練をするんですね」
「そうだが。それがどうした?」
「い、いえ! なにも」
 地獄の日々を追い出し新しく来る奴隷たちに合掌するアスカたち。

「訓練期間は2ヶ月。残り一ヶ月はお前たちの元で働かせるから教育してやってくれ。先輩たち」
「「「「「はい!」」」」」
「そうなるとやはり給料はアップしないとな」
「「「「「だからしなくて良いです!」」」」」
「お、おう」
 返事をするものの少しだけ給料を上げることを決めた千夜であった。
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