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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第百八幕 千夜とラムの一日

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 千夜はまずリッチネス商会に向かう事にした。
 玄関でブーツを履き終わるとタイガーとエルザ、ラムが遣ってきた。

「殿、お供致します!」
「私も行きます」
「何を言っているお前たちは一日自宅謹慎を言い渡した筈だが」
「し、しかし御付の者が居ないのは流石に……」
「なら、ラム」
「なに?」
「一緒に出かけるか。戦闘メイドになりたいんだろ。だったら主に使える練習はするべきだからな」
「良いの!」
「ああ、今日はタイガーもエルザも謹慎中でお供が居ないからな。今日一日はラムが俺の護衛役だ」
「分かった!」
 ラムは嬉しそうに靴を履くと、

「あるじ様、まいりましょう!」
「解った。それじゃあ行こうか」
 ラムの手を握り千夜は街へと出かける。そんな二人の後姿を恨めしそうに眺めるタイガーとエルザであった。
 路地を抜け大通りに出た千夜たちは人波中を進んで行く。

「あるじ様、どこに行くの?」
「リッチネス商会は知っているか?」
「知ってる。エルザお姉ちゃんが着ている服を作ってもらった場所でしょ!」
「そうだ。だが、まずはギルドに向かう。念のために依頼が無いか見る必要があるからな」
「解った」
 まるで親子のように歩く二人。
 数分歩くと懐かしい建物が見えてきた。
(相変わらずの賑やかさだな)
 建物内から聞こえる声に笑みを零す千夜はラムと一緒にギルドの中へ向かった。

「千夜さんお久しぶりです」
「久しぶりだなマキ」
「今日はどう要った用件ですか?」
「依頼が無いか確認に来ただけだ」
「そうだったんですか。ですが、生憎と千夜さんやエリーゼさんたちに頼むような依頼は入って無いんですよ」
「そうか。俺たちに頼む依頼が無いってのは平和で良いが、体が鈍りそうだな」
「それは我慢してください。それよりも今日はエルザちゃんたちと一緒じゃ無いんですね」
「ああ、今日はな。その代わりラムが俺の護衛役だ」
「あるじ様、私が護る!」
「偉いわねラムちゃん」
「えへへ」
 嬉しそうに笑みを浮かべるラムの姿にマキを含める受付嬢たちは癒されたと言わんばかりに頬が緩んでいた。
 周りの冒険者からも、ラム助頑張れ。などの言葉が飛んできていた。

「それじゃ俺は用事があるから行くとする。ラム護衛頼むぞ」
「うん!」
 手を繋いで二人はギルドを後にした。
 リッチネス商会に向かう途中で焼き鳥を数本かって食べながら向かう千夜とラム。

「美味しいか?」
「美味しい!」
 口いっぱいに頬張るラムの口周りについたタレを千夜が拭き取る。
 食べ終わったのを確認した千夜はラムと一緒に目的地へと向かう。
 ラムの歩幅に合わせて歩いた事もあり何時もより時間が掛かった千夜だが気にする事はない。

「千夜久しぶりだな」
「本当だな」
 店に入ると丁度パルケがカウンターで帳簿を見ていた。

「おや、そっちの可愛い娘さんは誰だ。お前の子供じゃないよな」
「当たり前だ。ラム自己紹介だ」
「私はラム。あるじ様のごえい役なの!」
「おお、そうか。頑張れよ」
「うん!」
 ラムの素性をパルケに簡単に説明した千夜は本題を話す。

「ちょっとお酒の事なんだが時間は良いか?」
「ああ、大丈夫だ。なら個室に行くとしよう」
 パルケの案内でいつもの個室へとやってきた千夜とラムはソファーに座る。

「このソファー軟らかい」
 嬉しそうにお尻で感触を確かめるラム。

「そうだろう。それは特注品だからな」
「でも私が住むあるじ様の家のソファーの方が気持ちい」
「あははは! ラムちゃんそれは当たり前だ」
「そうなの?」
「ああ、ラムちゃんたちが住んでいる家はな金貨2660枚もする家なんだぞ」
「それって出店の焼き鳥何本買えるの?」
「焼き鳥か……」
「すまないパルケ。ラムにも勉学はさせているんだが、お金よりも肉が好きなんだ」
「そうみたいだな」
 華より団子ならぬ、金より団子のラムに千夜とパルケは呆れるのだった。

「それならラムちゃんにはこっちの茶菓子の方が良いか?」
 テーブルに置かれたのは数種類のクッキーである。

「美味しそう!」
「食べていいぞ」
 食べて良いと言われたラムは俊敏な動きで一枚のクッキーを掴み一口食べる。

「美味しい!」
「そうか、それは良かった」
「すまないな」
「何気にするな。で、酒の話って言っていたがどうしたんだ?」
梅酒バイしゅあるだろう?」
「ああ、それがどうした?」
「梅の収穫は既に終わったからな。まだ貯蔵している分があるとはいえ、来年の夏までは数を減らそうと考えている」
「そうだろうな」
「流石はリッチネス商会の副店長だな」
 長年の経験から既に察していたようだ。

「そろそろ値上げも考えて居た所だ」
「そうか。なら、どれぐらい値上げするつもりだ?」
「そうだな……20~40パーセントアップと言ったところだな」
「ま、そうなるだろうな」
 本当ならもう少し安くしたいが、時が経つにつれ熟成され、尚且つ数が減るため値段の格上げを仕方がないのだ。

「で、月に渡す量は5樽程減るが構わないか?」
「ああ、仕方が無いだろう。その分上手く稼ぐさ」
「頼もしいな」
 笑みを浮かべる千夜とパルケ。そんな二人など気にも留めずラムはクッキーを頬張るのだった。


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