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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第百五幕 千夜と過去

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 千夜と対峙するエリーゼたちは何時も以上に真剣な面持ちの千夜の姿に緊張が走る。

「さて、遠まわしに言うのもあれだからな。はっきり言うとしよう。俺は転生者だ」
「「「「転生者?」」」」
「そうだ」
 聞き覚えの無い言葉に首を傾げるエリーゼたち。

「俺は一度死んで、記憶を持ったまま生まれ変わったと言えば解るか?」
「それならなんとなく理解できるわ。でも、そうなるとその体の前の持ち主が気になるんだけど」
「それを話すには俺の前世から話さなければならない」
「旦那様の前世。つまり死ぬ前の姿って事よね」
「そうだ」
 肯定にエリーゼたちは唾を飲み込む。

「俺の前世での名前は朝霧和也。つまりこの世界に勇者として召喚されたものだ」
「え、嘘でしょ」
「本当だ。幻滅したか?」
「それは無いわ! ただ驚いただけ」
「そうか。さて、何から話せば良いか。あ、先に言っておくがセレナは俺が転生者で朝霧和也って事は知っていたからな」
「そうなのセレナ?」
「はい。初めてこの屋敷にお邪魔したのはその事を聞くためでしたから」
「そうだったの」
「説明する。まず俺はこの世界に勇者として召喚されたが、ゴブリンに殺されて死んだ。で、転生した姿が今の千夜の姿だ。エリーゼ」
「なに?」
「初めて出会った時の事覚えているか?」
「ええ、盗賊から助けてくれた時でしょ?」
「そうだ。本当はあの時転生して数分しか経っていなかったんだ」
「そうなの!」
「ああ、俺は死んで天国に来たかと思ったら悲鳴が聞こえたからここが現実だと解ったんだ」
「あ、だからこの世界について色々知りたいって言ったのね」
「そうだ。俺が死んで転生してからどれ位の時間が過ぎたのか解らなかったからな。また同じ世界なのか気になったんだ」
「やはりそう言うところはカズヤさんの時から変わりませんね」
「ま、生きていくにはこの世界について知る必要があったからな」
「でも、なんで旦那様は転生して直ぐに仲間の許に戻らなかったの?」
「俺はあいつ等の事が嫌いだし、信用できないからだ。上辺だけの関係なら少しの時間付き合うのは良いが友達として過ごすのは無理だ。吐き気がする」
「そこまで言わなくても……」
「言い過ぎたかもしれないが、それぐらい俺はあいつ等の事が嫌いだし、信用していない」
「その理由を聞いても良いかしら?」
「ああ、俺が前に住んでいた世界。つまり俺が和也として生まれた世界でエリーゼと初めて出会った時のような事をしたんだ」
「そうなの」
 簡単に流す。それを見て千夜はやはり世界が違えば考え方が違うのだな。と改めて確認する。

「俺が生まれた世界と言うよりも俺が生まれた国はこの世界より法律が厳しくてな。ナイフを持ち歩く事すら善しとされない」
「それは厳しいわね」
「まあ、それには理由がある。この世界みたいに魔物も存在しなければエルフやダークエルフも存在しない世界。つまり人間だけしか存在しない世界。そんな世界なんだ」
「フィリス聖王国が喜びそうな世界ね」
「ああ、フーリッシュなんて大喜びしてたな」
「でしょうね」
「俺が住む国は戦争も無く平和な国だ。確かに理想的だと思うかもしれない。俺も同じだ。だが平和になり人が死ぬ事が減れば、どんな理由であれ人を殺してしまった人間と言うのは受け入れがたい存在になってしまうんだよ」
「それって……」
「俺は親友だと家族だと思っていた奴らを護る為に戦った。戦ったと言ってもナイフを持った男と取っ組み合いになった結果謝って刺し殺してしまっただけなんだけどな。勿論法律でも正当防衛として逮捕される事は無かった。だけど他の人からしてみれば助けられた事よりも人を殺してしまった事の方が印象的だったんだろう。誰もが俺を拒絶した。親友だと思っていた奴も妹も両親もな。その結果俺は誰も信用出来なくなった」
「何よそれ旦那様が悪者みたいじゃない!」
「本当です。助けて貰ったのにお礼を言わないなんて!」
「酷いのじゃ!」
「人間以下ですね!」
 エリーゼたちは憤りを感じてそれぞれ文句を口にする。

「勿論数年後に再会して謝罪もされた。友達としてやり直そうとも言われた。だけど凍りついた俺の心はそんな言葉を聞いても嬉しくも無かった。何も感じなかった」
「当たり前よ! 相手が後悔して反省したとしても本人は謝られて素直に受け入れられる訳がないわ!」
「そうだな。で、そんな凍りついた心を優しく溶かしてくれたのがエリーゼ、ミレーネ、クロエ、エルザ、お前たちだ。本当に有難うな」
「な、急にお礼とか言わないでよ! 恥ずかしいでしょ!」
「そ、そうです!」
「卑怯じゃ!」
「ずるいです」
「すまないな」
 顔を赤らめて俯くエリーゼたちを見て笑みを浮かべる千夜。その姿を見るだけでも千夜は嬉しくて堪らなかった。
 冷たく凍りついた心。何をされても元に戻る事は無いだろうと思っていた心。だけど少しずつ少しずつ溶けていった。それは目の前いる彼女たちのお陰である事に千夜は心の中でもう一度お礼を言うのだった。

 ――ありがとう。
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