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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第九十七幕 取引と決裂

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「この姿では始めましてだな。フィリス聖王国教皇様」
「人を馬鹿にした言い方やめろ」
 鋭い視線を向けてくるヴァイス。けして屈しないと言わんばかりの覇気を纏っていた。

「別に馬鹿にしたつもりは無いが、そう感じたのなら謝罪しよう」
「で、私に何のようだ?」
「俺は戦うつもりが無い。殺そうと思えば殺せるが、今後の事を考えて殺さない。勿論見逃してくれるのなら、これまでの出来事は俺の中で伏せておこう」
「ワシを脅迫するのか」
「別にそんなつもりはない。取引だ」
「何が取引だ。お前の力があれば逃げようと思えば逃げれただろうに」
「確かにな。だが、フーリッシュの屋敷に監禁されている女たちを救出して連れて帰るには時間が掛かるからな」
「お主には関係無い筈だが?」
「確かにな。だが、あの中には亜人も居る。このまま見捨てて帰ったらきっと殺されるか奴隷商に売られる。それなら俺が連れて帰った方が目覚めが良いからな」
「フッ、好きにするが良い」
「それはどうも。それと魔族との戦争が終結した後に帝国に戦争仕掛けても良いが俺の縄張りで暴れるようなら容赦しない。その時は後悔させてやる」
「また脅迫か」
「違う。警告だ」
「どこがだ」
 千夜の言葉に鋭い視線を向けるヴァイス。

「それじゃあ、あいつ等を止めてもらえるか?」
「それは無理だ」
「何故だ?」
 今度は千夜が鋭い視線を向ける。

「この国の威厳を守るためだ」
「下らない理由だな」
「一介の冒険者にはそうかもな。だが国の代表であるワシや仕える者たちはそうも行かない」
「そうか。ならこっちも早く帰るためにもう少し本気を出すとしようか。後悔するなよ」
「………」
 ヴァイスとの話を終えた千夜は訓練所中央へと戻って行く。そんな千夜の後ろ姿を睨みつけるヴァイスと衛兵たち。
 先程の立っていた定位置へと戻って来た千夜は早速夜天斬鬼を抜きエクスに襲い掛かる。
 水のヤマタノオロチと戦っていたエクスは突然背後に現れた千夜に驚き反応が遅れる。

「死ね」
「クッ!」
 振り下ろされた夜天斬鬼をなんとか防ぐも重い一撃に吹き飛ばされる。

「行け」
「エクス!」
 誰かの声が響き渡る。吹き飛ばされたエクスは再び壁に激突し起き上がる事が出来ない所を水のヤマタノオロチが千夜の命令で襲い掛かる。

「次はお前だ」
「っ!」
 先程までエクスが立っていた場所に居た筈にも拘わらず気がつけば背後を取られていた事に驚き目を見開けるクロウ。しかし何とか一撃を躱す。

「ちっ」
 しかし完全に躱す事は出来なかったのか右腕から血が流れ落ちていた。

「あれは躱すか。流石にエクスよりかは経験が違うようだな、クロウ」
「………」
 不敵な笑みを浮かべる千夜に対して、憎悪を宿した瞳で睨みつける。
 しかしクロウには分かっていた。この男には勝てないと。けして今後関わってはならないと。見た事も無い全属性を持つ大蛇を発動しながら接近戦を行うなど異常としか言いようが無かった。そんな男が目の前に立っている事に嫌気が差す。
 これまで戦ってきた敵よりも強く、恐ろしい存在。

「だが……俺は……戦う……!」
「そうか」
「っ!」
 簡素な返答をしたかと思った瞬間、千夜は目の前に立っていた。

「終わりだ」
「くっ!」
 死を覚悟したクロウは目を瞑る。

 キィッ!

 しかし体には斬られた感触も痛みも無い。その代わり甲高い音が響く。
 目を開けるとそこにはベイラントが千夜の攻撃を防いでいた。

「ベイ……ラント……」
「よう、何ボケッとして居る。今こそ我らの力を見せ付ける時だろうが!」
「蛇は……どうした……」
「蛇ならリアンに任せてきたから安心しろ」
 まるで獅子が立っているようだ。そんな感じがしたクロウ。背後からは「まったく無茶をさせるね」と軽口が聞こえてくる。

「ほら、早く立て。俺でもこの男の攻撃を受け止めておくにも限度がある。この男、見ため以上に力がある様だからな」
 笑みを浮かべてはいるが額からは冷や汗が流れており余裕が無い事ははっきりと分かる。

「ほら、早くしろ!」
「……」
 返答する事は無い。ただ立ち上がり千夜の左側面から攻撃を仕掛ける。が

「甘いな」
 そう聞こえた瞬間目の前に複数のファイヤーボールが出現し襲い掛かって来た。

「なっ!」
 突然の事に驚きを隠せないクロウはまともに攻撃を食らってしまう。初級魔法でも尋常では無い魔力が込められたファイヤーボールは剣で叩き斬る事が出来ずそのまま後方へと吹き飛ばされる。

「クロウ!」
 暑苦しい男の叫びに耳を塞ぎたくなる千夜だが、頭を切り替えベイラントを蹴り飛ばす。
 体中が激痛に襲われるクロウは意識が歪み立ち上がることが出来ない。
(無詠唱魔法まで使えるなんてな。それも上級以上の魔法を発動しつつ接近戦中に発動するなんて見た目以上の化物だ、この男は)
 クロウはそこで気を失った。
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