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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第九十五幕 和也と二人っきり
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エクスは怒り狂いそうになっていた。己の信念を馬鹿にしただけでなく、馬鹿にした張本人とこの数ヶ月間共に過ごしていた事に。
(あつまさえ我々を騙すなんてやはり貴様は悪だ!)
消して負ける事は無いと確信しているような態度に一層腹が立つ。
(なのにどうして当らない!)
教皇に与えられた聖剣フラガラッハの効果はあらゆる防御が無意味。全てを一刀両断する効果だ。だがそれは当らなければ意味がない。
(なんだ。何なんだ。この男は! 僕だけじゃない。レイ殿やリアン殿と言った我々七聖剣の中でもトップクラスのステータスと実力を持つ二人でも掠り傷与える事が出来ないなんて……そうか、この男は混合種じゃない。きっと魔人だ。それも四天王クラスの。間違いない。魔族風情が僕たち人間の聖地に足を踏み入れたな!)
「死ね、この魔族が!」
「エクス、考え無しに攻撃するな!」
レイの声など聞こえていない。ただ己の正義を翳して剣を振り下ろす。その姿をまさに愚者。無鉄砲としか良いようが無かった。
そんなエクスの攻撃を難なく躱した千夜は相手の腹を蹴る。
「がはっ!」
圧倒的ステータスを誇る千夜の蹴りはエクスの体をくの字にして後方へと吹き飛ばす。
蹴られた勢いのまま壁に激突して止まったエクス血反吐を地面に撒き散らす。どうやらたった一撃で肋骨の何本かは折れたようだ。
(なんて威力だ。前に戦った時よりも強い。手加減していたのか。舐めやがって……)
視界が歪み揺れる。それでもエクスは立ち上がる。己が掲げる信念のために。まるでその姿は物語の主人公のようだ。もしかしたら力が覚醒して一撃叩き込む事が出来るようになるかもしれない。そんな光景だ。
だが現実は違う。
そんな力など手に入るはずが無い。エクスはただ今振り出せる力を持って悪と断定している存在に立ち向かうだけ。
******************************
ライラは憎悪を宿した瞳で目の前に立つ千夜を睨む。
騙されていた事。良いように使われた事。全てが嘘、偽りであった事にライラは涙が止まらなかった。
(どうしてだ。お前は確かに面倒な事には直ぐに嫌そうな顔していた。それでも真面目に取り組んでくれた。休日には私の買い物にも付き合ってくれた。部下たちへの訓練指導も前向きに行ってくれた。戦場では部下たちに睨まれながらも冷静に状況を判断して落ち着かせてくれた。勝つために囮も引き受けてくれた。その全てが嘘だったと言うのか。私の信頼を得るためだけの物だったと言うのか。あの書庫での一時も嘘だったと言うのか)
「カズヤ!」
嗚咽交じりの絶叫しながら千夜目掛けて一撃を放つ。その攻撃は勿論千夜に当る事は無かった。だが躱したわけでもない。千夜は高速で襲い掛かってくる槍を左手で掴んで止めたのだ。
その事に周りの誰もが驚きを隠せなかった。勿論ライラ本人もだ。だが今はそんな事よりも別の事で頭が一杯だった。
「答えろ、カズヤ! 本当に全部が嘘だったのか。あの書庫での一時も全部嘘だったのか!」
訴えるように答えを求めるライラ。だが心のどこかで、頼むから否定して欲しいと嘘だと言って欲しいと小さな希望に掛けていた。
だが、
「そうだ。全部が嘘だ。依頼を達成するために、お前を騙し信じ込ませた。ただ、それだけだ。それと俺は和也じゃない。千夜だ」
「っ! あああああああぁぁぁ!」
ライラを見下ろす目はとても冷たい物だった。まるで感情など無いかのような、そんな目だった。その事にライラの頭は真っ白になった。ただ己の底から湧き上がる怒りをぶつけたい、それだけの思いで槍に力を込める。
「甘いな」
同情しても可笑しく無い状況で千夜から呟かれた冷たい一言。それを最後にライラの体は後方へと吹き飛ばされていた。
「ライラ!」
イザベラの声が耳に届くが反応できない。壁に激突した事は体を襲った衝撃で分かる。痛みはあるが戦えない程ではない。だが立ち上がれない。体に力が入らないのだ。どうしてそうなったのかは分からない。胸が痛い。寒いのだ。
(どうして、あんなに楽しかったのに。本当にあの時感じた事が現実になっていればこんな事にはならなかったかもしれないのに)
ライラがあの時思った事、それは書庫で和也と二人っきりで居た時の事だ。
ライラは椅子に座り本を読む振りをして本だの前から動こうとしない和也を見詰めていた。何かが起こるわけでもない。静寂が支配し、時々紙が捲られる音が聞こえてくるだけの空間。だがライラにとってはそれがとても幸せで心が暖かくなった。それは窓から差し込む日差しを浴びて暖かく和むようなそんな感じだ。
「ライラ、この槍は返す」
視線を千夜に向けると千夜の手には聖槍グングニルが握られていた。
(そうか、蹴られる直前に奪われたのか……)
自分の武器を奪われたにも拘わらずライラの中には焦りも怒りも無かった。ただ疲れた。それだけだった。
風を切る音が聞こえたかと思えばライラの数センチ離れた壁にグングニルが突き刺さっていた。
(槍があろうと無かろうと勝てると言う事か……)
怒りすら湧いて来ない。乾いた笑いが漏れるだけだった。
(あつまさえ我々を騙すなんてやはり貴様は悪だ!)
消して負ける事は無いと確信しているような態度に一層腹が立つ。
(なのにどうして当らない!)
教皇に与えられた聖剣フラガラッハの効果はあらゆる防御が無意味。全てを一刀両断する効果だ。だがそれは当らなければ意味がない。
(なんだ。何なんだ。この男は! 僕だけじゃない。レイ殿やリアン殿と言った我々七聖剣の中でもトップクラスのステータスと実力を持つ二人でも掠り傷与える事が出来ないなんて……そうか、この男は混合種じゃない。きっと魔人だ。それも四天王クラスの。間違いない。魔族風情が僕たち人間の聖地に足を踏み入れたな!)
「死ね、この魔族が!」
「エクス、考え無しに攻撃するな!」
レイの声など聞こえていない。ただ己の正義を翳して剣を振り下ろす。その姿をまさに愚者。無鉄砲としか良いようが無かった。
そんなエクスの攻撃を難なく躱した千夜は相手の腹を蹴る。
「がはっ!」
圧倒的ステータスを誇る千夜の蹴りはエクスの体をくの字にして後方へと吹き飛ばす。
蹴られた勢いのまま壁に激突して止まったエクス血反吐を地面に撒き散らす。どうやらたった一撃で肋骨の何本かは折れたようだ。
(なんて威力だ。前に戦った時よりも強い。手加減していたのか。舐めやがって……)
視界が歪み揺れる。それでもエクスは立ち上がる。己が掲げる信念のために。まるでその姿は物語の主人公のようだ。もしかしたら力が覚醒して一撃叩き込む事が出来るようになるかもしれない。そんな光景だ。
だが現実は違う。
そんな力など手に入るはずが無い。エクスはただ今振り出せる力を持って悪と断定している存在に立ち向かうだけ。
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ライラは憎悪を宿した瞳で目の前に立つ千夜を睨む。
騙されていた事。良いように使われた事。全てが嘘、偽りであった事にライラは涙が止まらなかった。
(どうしてだ。お前は確かに面倒な事には直ぐに嫌そうな顔していた。それでも真面目に取り組んでくれた。休日には私の買い物にも付き合ってくれた。部下たちへの訓練指導も前向きに行ってくれた。戦場では部下たちに睨まれながらも冷静に状況を判断して落ち着かせてくれた。勝つために囮も引き受けてくれた。その全てが嘘だったと言うのか。私の信頼を得るためだけの物だったと言うのか。あの書庫での一時も嘘だったと言うのか)
「カズヤ!」
嗚咽交じりの絶叫しながら千夜目掛けて一撃を放つ。その攻撃は勿論千夜に当る事は無かった。だが躱したわけでもない。千夜は高速で襲い掛かってくる槍を左手で掴んで止めたのだ。
その事に周りの誰もが驚きを隠せなかった。勿論ライラ本人もだ。だが今はそんな事よりも別の事で頭が一杯だった。
「答えろ、カズヤ! 本当に全部が嘘だったのか。あの書庫での一時も全部嘘だったのか!」
訴えるように答えを求めるライラ。だが心のどこかで、頼むから否定して欲しいと嘘だと言って欲しいと小さな希望に掛けていた。
だが、
「そうだ。全部が嘘だ。依頼を達成するために、お前を騙し信じ込ませた。ただ、それだけだ。それと俺は和也じゃない。千夜だ」
「っ! あああああああぁぁぁ!」
ライラを見下ろす目はとても冷たい物だった。まるで感情など無いかのような、そんな目だった。その事にライラの頭は真っ白になった。ただ己の底から湧き上がる怒りをぶつけたい、それだけの思いで槍に力を込める。
「甘いな」
同情しても可笑しく無い状況で千夜から呟かれた冷たい一言。それを最後にライラの体は後方へと吹き飛ばされていた。
「ライラ!」
イザベラの声が耳に届くが反応できない。壁に激突した事は体を襲った衝撃で分かる。痛みはあるが戦えない程ではない。だが立ち上がれない。体に力が入らないのだ。どうしてそうなったのかは分からない。胸が痛い。寒いのだ。
(どうして、あんなに楽しかったのに。本当にあの時感じた事が現実になっていればこんな事にはならなかったかもしれないのに)
ライラがあの時思った事、それは書庫で和也と二人っきりで居た時の事だ。
ライラは椅子に座り本を読む振りをして本だの前から動こうとしない和也を見詰めていた。何かが起こるわけでもない。静寂が支配し、時々紙が捲られる音が聞こえてくるだけの空間。だがライラにとってはそれがとても幸せで心が暖かくなった。それは窓から差し込む日差しを浴びて暖かく和むようなそんな感じだ。
「ライラ、この槍は返す」
視線を千夜に向けると千夜の手には聖槍グングニルが握られていた。
(そうか、蹴られる直前に奪われたのか……)
自分の武器を奪われたにも拘わらずライラの中には焦りも怒りも無かった。ただ疲れた。それだけだった。
風を切る音が聞こえたかと思えばライラの数センチ離れた壁にグングニルが突き刺さっていた。
(槍があろうと無かろうと勝てると言う事か……)
怒りすら湧いて来ない。乾いた笑いが漏れるだけだった。
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