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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第九十幕 行動開始と謎の集団

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 自分の書斎に戻った和也はハクアたちを呼んで先程の出来事を詳細に伝えた。

「まったく貴方みたいな人をよくも信じられるわね。私には絶対無理よ」
 フーリッシュの愚かさになのか、それとも和也の手腕の凄さかは解らないが、呆れながら平然と本人を目の前でディするような事を口にする。しかしそれで腹を立てる和也ではない。

「明日、昼前にフーリシュと会うから、その時に行動してくれ」
「解ったわ」
「これが記録魔水晶だ。念の為に複数渡しておく」
「これを相手に気づかれない場所にしかかれば良いのね?」
「そうだ。それに魔力を込めれば記録される。魔力量によって記録時間が変わってくるから気をつけろよ」
「解ってるわ。で、どれぐらい魔力を込めれば良いの?」
「そうだな。一日記録するとしたら数値にして1500~2000っと言った所か」
「普通の人間には使い勝手の悪い魔道具ね」
「だが、お前らなら余裕だろ?」
「ええ、勿論よ」
 不適な笑みを浮かべる二人を見てもうどうにでもなれと心底主ギンであった。

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 仕事を終え、自宅へと帰宅したフーリッシュはオフィスチェアに座り込む。

「とんだ馬鹿だと最初は思ったが案外使えそうだな。上下関係も理解しているようだしな。アイツの弱みは分らないが、民を想う気持ちは本物だろう。それを揺さぶってやれば間違いなく私の側に付く。これで7人か。ふふっ、これであの男も終わりだ。だが、それは先の事。今は帝国の愚か者どもいかに排除するかが先だ」
 下卑た笑みを浮かべながら立ち上がったフーリッシュは本棚に設置された隠し扉を開き地下へと下りる。
 扉を開いた先には鎖で拘束された複数人の女性達が居た。体中に痣や傷があり、魂が抜けたかのようにぐったりとしていた。

「さて、今日もこの玩具で遊ぶとするかの」
 ワインを片手に近くの女の頬を引っ叩くのだった。

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 とある部屋に数人の人物達がテーブルを囲んでいた。喋るわけでも食事しているわけでもない。まるで誰かを待っている様だ。
 静寂が支配する一室に扉を叩かれる音が一瞬にして浸透する。テーブルを囲んでいた者たちはそれにつられる様に視線を扉に向ける。

「失礼します」
 一人の男が薄暗い部屋に入ると礼儀正しく一礼する。

「詳細は?」
「はい。今の所怪しい動きは見せておりません。ただ、時々ですが不気味な笑みを浮かべる時があります。まるで何かを企てているようなそんな感じです」
「証拠はあるのか?」
「いえ、何も。ただ我々に気が付いているのか分りませんがたまに書斎での会話を盗聴する事が出来ない時があります」
「感付かれたのかしら?」
「いや、あの男は用心深い男だ。まだ我々を信頼していないのだろう。だが、何か隠している事があるのは確かだ」
「だろうね。で、これからどうするの?」
「現状は変わらない。だが、怪しい動きを見せたら直ぐに私達に報告しろ」
「解りました」
 リーダー格の男の指示を受けた男は一礼すると部屋を退室した。

「いったい何を企んでいるんだろうね」
「それは分らない。だがもしかしたらあの男が魔族と通じている可能性だってあるからな」
「魔族の諜報員が紛れ込んでいるという噂のあれね。本当かどうかも分らないのに信じるの?」
「そんな噂が出ること事態おかしいからな」
「ま、確かにね」
「今日はこれまでとする。全員持ち場に戻れ」
 男の最後の言葉と同時に全員が椅子から立ち上がると壁に備え付けられていた隠し扉から退室して行った。


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 次の日、いよいよ計画を実行する日がやって来た。
 既に、ハクアとギンの姿は何処にもない。きっとフーリッシュの屋敷の近くに潜んでいるのだろう。和也も自分が為すべき事をするため書斎を後にし、フーリッシュの許へと向かう。
(さあて、その下種の皮を剥いでやるとするか)
 意気込みを入れて和也は扉を叩く。

「フーリッシュ枢機卿、和也です。入っても宜しいでしょうか?」
「構わないよ」
 相手の了承を得た和也は扉を開く。

「カズヤ、待っていたよ」
「昨日の今日に続き私の相手をしてくださって有難う御座います」
「なに、気にするな。今は大切な時期だ。国が一つにならないといけないからな」
「そう言って頂けて有難う御座います」
「さあ、座りたまえ。で、今回君を呼んだのは見せたいものがあるからだ」
「見せたいものですか?」
「そうだ。我が国にしかない秘宝の薬と言ってもよい」
「そんな高価な者を私に見せていただけるのですか?」
「あたりまえだよ。君は誰よりも民の事をこの国の事を想っているのだから」
「そこまで信じていただき有難う御座います」
「なに、気にする事はない。さあ、時間もあんまりない事だし行くとしようか」
(ここに有るわけじゃないのか。ま、考えてみれば当たり前か)
 フーリッシュに案内され向かった先に王宮の地下だった。大切な宝物や禁書が厳重に保管されているそこの一室に和也は案内されようとしていた。
 十数分かけてたどり着いた一つの扉分厚い鉄で出来た扉は重々しく不気味な雰囲気を漂わせていた。

「ここだよ」
 笑みを浮かべたまま扉を開ける。古いのか軋ませながら開かれる扉は甲高い音を響かせる。
 開かれた先にあったのは一つの木箱のみ他には何もない。大きさにすればビール瓶1ケースぐらいだろう。
 好奇心に逆らう事無く歩み寄る和也は箱の中を覗き込む。

「これは?」
「これが秘宝の薬だよ」
「これがでですか?」
「そうだ」
 一面に入った小瓶数にしておよそ60はあるだろう。和也はそれを見て確信した。
(やはりドーピングだったか。しかしこれだけの数。いったい何処で手に入れたんだ?)

「フーリッシュ枢機卿、これは何処で?」
「下等生物であるエルフの村を襲撃した際に手に入れたものだ」
「そうだったんですか」
(まさかミレーネの村じゃないだろうな)
 そう思うと怒りが湧き上がってくるがどうにか抑え込んだ。

「これを飲めば一瞬にして力が手に入るのだ」
「力がですか。一時的なものではなく?」
「そうだ。だが、数は見てのとおり少ない。だから選ばれた者にしか与えないようにしている」
「な、なるほど」
「そしてカズヤ、君は選ばれし者だ。さあ、飲みたまえ」
「これを私に?」
「そうだ」
「一つ伺いますが、これを飲んだ者は他に居るのですか?」
「勿論だ。八聖天で飲んで居ないのは君と第一席のレイ殿だけだ」
 八聖天の一員と言うこともあり和也の前で第一席を呼び捨てにする事はなかった。

「そうだったんですね」
「さあ、飲みたまえ」
(どうするかな。俺のプライドで言えば飲みたくない。だが飲まなければ間違いなく不審に思われるだろう。仕方が無いが、ここは)

「フーリッシュ枢機卿あれはなんですか?」
「ん、どれだ?」
 和也はフーリッシュの背後を指差し振り向かせる。その隙にアイテムボックスから同じ形の瓶を取り出し交換する。勿論中身は唯の水だ。

「何も無いがね」
「申し訳ありません。薄暗かったものですから影が他の物に見えてしまったようです」
 なんとも典型的な遣り方だ。
(まさか成功するとは)
 どうやら和也本人が一番驚いているようだった。

「確かに薄暗いからな。それよりもさあ、飲みたまえ」
「解りました………」
 和也は瓶の栓を抜き一気に流し込む。

「どうかね?」
「凄いですね。力が漲って来ます」
「そうだろうそうだろう。さあ、用事も終わった事だし部屋に戻るとしようか」
「分りました。フーリッシュ枢機卿、このような素晴らしい力を与えて下さって真に有難うございます。このご恩は一生わすれません」
「なに、気にする事はない」
 笑みを浮かべるフーリッシュだが。
(よし、これでこの男も我が手駒となった。いよいよ計画す進められる。ふふふっ)
 何も知らないフーリッシュは笑いを堪えるのに必死だった。
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