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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第八十七幕 黒幕と企て

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 書庫で本を物色しているとある程度この国の事が分って来た。
 歴史があるようでそこまで無い事。
 皇国や帝国のように500年以上も続く国ではなく、極最近200年ほど前に神を崇める教会が大きくなり国になった事。
 国を造るのに尽力した人物などが分って来た。
(だがやはりどの国にも闇はあるものだな。国が出来る直後の指導者が病で無くなった。と書いてあるがどうみても暗殺だな)
 指導者であり先導者、国を造るのに最も尽力した人物、ハンリー・スミス。複数の称号を持て生まれ、誰にでも優しく接し、魔法に長け周りからの人望も厚かった青年。
 しかし、国がもう少しで出来上がるという時に病によって急死。24歳と言う若さでこの世を去った。
(24歳で急死。ありえなくはない話だが、どう考えても他の奴らが私利私欲の為に暗殺したと考えるべきだろう。で、そんなハンリーと共に尽力したのがセンチ・オラーケルとユーリ・バスラか。他にも入るが、ここ数百年で家系が途切れているな。生き残りはこの二人の子孫だけ。オラーケルは教皇だ。バスカは誰だ)
 聞いたことの姓に頭を悩ませるが答えが出るはずもない。

「カズヤ」
「ライラか、どうした?」
「これ、前にお前が読みたいって言っていた本じゃないか?」
「ああそうだ。見つけてくれてありがとうな」
「別に気にするな。暇だったからな!」
「そうか。ん? ライラ、その手に持っている本はなんだ?」
「ああ、これか。これは歴代の七聖剣の資料だ。前の本は古くなってボロボロになっていたからな。新しくなった奴ではあるがな」
「そうなのか。少し見せてもらって良いか?」
「ああ、構わないぞ」
 ライラから本を受け取るとパラパラと捲って行く。歴史が浅いせいか、そこまでの人数は居なかったが、歴代の七聖剣の生い立ちが記されていた。
(やはり、昔の人物の方が強かったようだな。時が流れていくにつれて全体のスタータス値が低くなったようだな。ん?)

「そうだったのか……」
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもない」
 笑みを零す和也の姿に怪訝な表情を浮かべるライラ。

「ありがとうな」
「もう良いのか?」
「ああ、他に読みたい本もあるからな」
「そうか。私はこの本を持って部屋に戻るが、カズヤはどうする?」
「俺はもう少しここで本を読んでから戻る事にする」
「そうか。閲覧可能時間は決まっているから気をつけろよ」
「ああ、解っている」
 忠告を残してライラは書庫を後にした。

「それなりに上層部の人間だとは思っていたが、その通りだったな」
 ライラが持っていた本の最後のページに記された名前に和也は再び笑みを零す。

 修復担当、記録部。
 代表、フーリッシュ・バスラ。

(あの男だったとはな)
 意外な発見に和也は調べる内容を限定していく。歴史、国の生い立ち。そして、フーリッシュ・バスラ。
 和也の調べ物は日が暮れるまで続いた。


 次の日、書斎で資料整理をしながら偶然見つけた日記とも言えそうな本の内容を思い出す。
(バスラ一族は代々、多種族を嫌う一族であり、貪欲で傲慢であったか。初代バスラ当主は特にその思考が強く。多種族に関係無く地位や力が弱いものは見下し、力がある者は妬んだ。もしもあの男が同じならば帝国を異常に嫌う理由にも説明がつく。それにしてもやっぱり私利私欲か。ハンリー・スミスを殺したのも間違いなく奴の祖先だろう。ふふ、面白くなってきた)
 明確な標的を見つけた事に和也は嬉しく感じていた。
(ハクアたちの目的がなにか解らないが多分俺と同じだろう。他にもあるかもしれないが)
 和也は机に置かれた小さな鈴を鳴らす。

「御呼びでしょうかカズヤ様」
「ああ、ギンを呼んで来てくれないか。それと紅茶を3人分頼む」
「畏まりました」
 和也の言葉で理解したハクアは笑みを浮かべて退出した。
 十数分してギンを呼んできたハクアはテーブルに紅茶が注がれたティーカップを人数分置く。
 和也はその間に防音と盗聴防止の魔法結界を発動させる。

「で、話って何かしら?」
「姉御は切り替えが早いな」
「メイドなんて面倒だもの。少しでも気を休めないとね」
「そうですか」
「それで?」
「ああ、お前たちが何を求めて来たかは俺には解らないが、ある程度の推測を出来る」
「へぇ、面白そうね。その推測を聞かせてもらいましょうか」
「多分だが俺と同じだろう。フィリス聖王国の急激な戦力の上昇。特に個人のステータス上昇についてじゃないか?」
「………」
「あ、姉御どうしよう! バレてるよ!」
「貴方は少し黙って為さい!」
「はい……」
 ギンの慌てようにハクアの無表情も意味を成さなくなった。

「選抜する奴を間違えたわ」
「そうみたいだな」
 呆れるハクアの態度に苦笑いを浮かべる和也。


「どうして諜報なんかって言うのは可笑しいけど、どうしてだ? 再び戦争をするための情報収集か? それなら前からしている筈だよな。何故今頃になって」
「隠していても仕方ないわね。どうせある程度予想はしてるんでしょ」
「まあな」
「私も詳しくは知らないけど予定が狂ったらしのよ」
「やはりか」
「やっぱり気づいていたのね」
「まあな。魔族対策会議同日に届いた魔族軍の襲撃はタイミングが良過ぎたからな」
「それだけでここまで推測が出来るなんて流石ね」
 ハクアの言葉はきっと本心なのだろう。だが、和也には皮肉にしか聞こえなかった。

「で、お前たちもその理由を知るためにお前たちの上司と情報を交換している黒幕を調べに来たんだろう?」
「そうよ」
「誰か教えて貰っても良いか?」
「…………フーリッシュ枢機卿って奴よ。私達はそれぐらいしか知らないわ。だから多分貴方の方が情報は持ってると思うわよ」
「そんなに情報は持っていないぞ。その証拠に予想通りではあったがフーリッシュが犯人だと確証を得たのは今だからな」
「本当かしら?」
 疑わしいと言わんばかりに鋭い視線を和也に向ける。

「で、お前たちには悪いんだが明日にでも俺はフーリッシュに会おうと思う。理由は何でも良いがな。その隙に奴の部屋、寝室や家を調べて貰いたい。お前たちの事だから使い魔も使役してるんだろう?」
「ほんと何もかも見透かされているみたいで気持ち悪いわね」
 気持ち悪そうに吐き捨てるハクアだったが、情報収集を楽にさせて貰えると判断し了承するのだった。
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