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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第八十二幕 帰還と報告

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 あれから時は流れ、ライラたちはフィリス聖王国に帰る事になった。
 王宮前には自国に帰るであろう各国の使者たちが馬車と護衛がズラリと並んでいた。
 それを見送ろうとベルグやセレナ、月夜の酒鬼、勇者メンバーが集まっていた。

「無事に自国へ帰還できる事を願っている」
 ベルグが皇帝として言葉を口にする。
 それに対してそれぞれの使者が当たり前のように言葉を返す。

「よし、乗馬開始」
 ライラの指示で一斉に乗馬を開始するフィリス聖王国の騎士達。少しでも威厳のある所を見せようとしているのが見え見えである。和也も一兵士として周りと合わせて乗馬する。その姿と一部の者が視線を向けていた事は言うまでも無い。

「あんな事があったからな国境までは我が国の兵士が護衛につく」
「お心遣い感謝致します」
 本音である事は間違いない。だが、監視する口実であることは誰もが理解していた。いや、勇治を除いてと言うべきだろう。

「それではベイベルグ皇帝、私達はこれにて失礼します」
「大儀ある会議が出来て良かった」
「こちらもです」
 握手を交わしたライラは乗馬する。
 こうしてライラたちフィリス聖王国一行は自国へと帰還するのだった。


 月日は流れ、フィリス聖王国へと帰還したライラたちは王宮にて教皇ヴァイスに報告するため謁見の間に来ていた。
 そこにはヴァイスの他に七聖剣の面々や枢機卿と言った重鎮達が並んでいた。
 その中心でライラを先頭に和也や部下達が跪いていた。

「ライラ、そして他の者たちよ。今回は大儀であった。では、早速報告を聞かせて貰うとしよう。先に言っておくがライラはこの国、そして私を代表して言ったのだ。どんな結果であろう反論する事は認めん。反論等は私が代表してライラに問う。良いな?」
 横に並ぶ面々が言葉を発する事無く頷く。

「では、報告を聞くとしよう」
「はっ、まず……」
 ライラは魔族対策会議で決定した事を報告していく。
 報告内容に重鎮達の表情が明るくなったり暗くなったりとアップダウンの激しいものだなと和也は内心思う。

「次に魔族対策会議中に魔族侵攻について報告させて頂きます」
「うむ、大まかにではあるが報告は聞いておる。申してみよ」
「はっ、会議中に魔族が侵攻を開始。近くの都市ロアントを襲撃しました。それに対して我々は少数精鋭の援軍を派遣いたしました。これはには理由があり、軍を即座に編成し都市ロアントに向かわせるには距離も在り時間が掛かり過ぎると判断したからです。急遽決まった事でしたが、会議室には武に長けた者が多く出席して居りましたのでその中から部隊が決まり即座に出発しました。選ばれたのはXランク冒険者が率いるクラン『月夜の酒鬼』勇者様一行、そしてカズヤが選ばれました」
「そうか、カズヤよ大儀であったな」
「恐悦至極に御座います」
 顔を伏せたまま和也は返答する。

「私はその場に居ませんでしたので詳細は不明ですが、結果だけ申し上げますと侵攻して来た魔族22000の九割弱を殲滅、撃退に成功致しました」
 ライラの報告に感嘆の声が室内に充満する。

「次に成果ですが、やはり一番大きかったのは『月夜の酒鬼』です。全員が四天王の副官である十二神将とその補佐官を一騎打ちの末勝利を収め、戦略、戦術、臨機応変さに飛び抜けておりました。魔族軍の軍隊の大半を屠ったのも奴らなので」
「やはり、侮れない冒険者達だな」
 ヴァイスは顎に手を当てて少し思考を巡らせる。

「次に成果を上げたのは私の部下の和也です。魔族軍の約二割を一人で殲滅し、十二神将2名とその補佐官3名を一人で討ち取りました」
「それは真か?」
 先程よりも大きな喜びと驚きの声が謁見の間に充満し、ヴァイスも和也に聞いてくる。

「真に御座います。ただ一つだけ訂正させて頂けるのであれば、十二神将の補佐官の一人は勇者と共に戦いましたので数に含まれるかが不明です」
「止めを刺したのは誰だ?」
「私に御座います」
「なら、問題ない」
 ヴァイスは即座に大丈夫だと了承した。

「次に勇者ですが、これと言った成果はありません。先程カズヤが申し上げた事意外成果と言う成果がないのです。ただその力は本物ですが、精神面に問題があり……」
「はっきりと申してみよ」
 ヴァイスに言われるがライラは言葉に詰まる。それを見て和也が口を開く。

「教皇様ここからは私が報告しても宜しいでしょうか。現場に立ち、勇者戦いを目にしたのは私ですので」
「よかろう」
「有難う御座います。では報告させて頂きます。ライラ様が言われたとおり勇者達には精神面に問題があります。正確には勇者一行を代表する勇者の称号を持つ者に問題があるのです」
「それはどう言う事だ?」
「はい。魔物やオーガに似た魔族を殺す事には問題はありません。しかし魔人、人と姿形が似た者たちを殺す事が出来ないのです」
「それは……」
「同じ世界から来た者として言わせて貰いますと、目の形や角、翼が生えた程度では人間と大差変わらないため殺せないのだと思われます。また敵が命乞いなどして来た場合に『もう、人は襲わない。殺さない』と言う言葉を信じやすい所があります」
「確かに人殺しに忌避感を持つのは当たり前じゃ。だが、戦場でどうして殺せないのだ」
「理由は幾つかあります」
「申してみよ」
「一つは私達が居た世界、正確には住んでいた国に関係してきます。私達の国には人間しか居らず、魔物も存在しません。肉食動物は生息していますが。そして私達が住んでいた国はとても治安が良い国です。確かに犯罪や殺人が無いわけではありません。しかし法律によりナイフを持ち歩く事すら許されない国なのです。そんな国で事件に巻き込まれる方が少ないのです。ですからいきなりこちらの世界に来て犯罪者や人間に似た魔族を殺す事が出来ないのです」
「成る程な。だが自ら勇者になる事を望んだのだろ?」
「はい。ですが彼らは深く考える事無く『勇者』と言う肩書きに舞い上がり了承したに過ぎません」
「………」
 和也の言葉にヴァイスは言葉を発しない。ただ続けろと、和也に視線を向けるのみだった。

「私達の国にも勇者が出てくる童話や物語があります。それに憧れていたに過ぎないのです。確かに魔族は悪です。なんの罪も無い民達を平然と殺し、楽しそうに破壊行為をする存在です。ですがこれは戦争です。勇者たちはただ目の前に悪の存在が居て正義を成せる。そこに殺す。殲滅するの考えが無いのです。正義を成して更生出来れば良いとしか考えていないのです」
「つまり勇者に憧れる子供が現実を知り、打ちのめされた。お主はそう言いたいのか?」
「そうです。この事は本人達にも言いましたので、今後したいではありますが」
「そうか………では何故、お主は殺せるのだ?」
 最もな疑問だろう。同じ世界から召喚されてきたにも拘わらずこれ程平然と殺しが出来るのか疑問に感じない者は居ないだろう。

「既に私は前の世界で人を殺していますので」
「それは……真か?」
「真に御座います」
 和也の言葉に全員の視線が鋭くなる。平和な世界で人を殺した。それは信用を揺るがすのに十分だった。

「教皇様、それについては私が――!」
「カズヤに問うておるのだ」
「申し訳ありません」
「理由を申してみよ」
「家族と友人を守るためでした。偶然事件に巻き込まれ犯人が友人の一人を犯そうとしたのです。ですから私は助けるために犯人に襲い掛かり、武器の取り合いになりました。その時に犯人を刺し殺してしまったのです」
「だが、それは正当防衛ではないのか? 我が国ならそうだが」
「はい、私の国も同じでしたので、罪を問われる事はありませんでしたが、人を殺した事には変わりません。それが友人や家族には耐えられなかったのでしょう。拒絶されてしまいましたから。ま、もう終わった事ですので」
 本当に終わった事なのだとヴァイスや他の者たちは思った。何故ならその顔にはなんお表情も無かったからだ。ただ己が今すべき事を全うする事しか考えていないそんな表情だった。

「そうか。すまなかったな」
「いえ、終わった事ですので」
「では、次の報告を聞くとしよう。ライラ」
「はっ、次に報告しますのは………」
 空気が重たくなる前に話題を変えたヴァイス。

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