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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第七十九幕 私利私欲と謹慎処分

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 謁見が終わり、解散にる。
 和也はゆっくりと休めるかと思っていたが、その考えは甘かった。とても甘かった。
 謁見の間を退室した和也を待ち受けていたのは険しい表情で仁王立ちするライラだった。
(やっぱり不味かったか)
 先程の出来事を思い出しながら和也は嘆息する。
 結局その後はライラに設けられた寝室に呼び出され、和也の予想通り説教が待ち受けていた。

「お前は何を考えてるんだ!」
 今にも頭の天辺から溶岩が噴き出しそうなほど激怒し怒鳴り始めた。

「仕方が無いだろ。思いつかなかったんだから」
「思いつかないことは無いだろう。少しでも我が国が有利になるように魔族との全面戦争の時に指揮を頼むとか色々あっただろう! それでも思いつかないのなら上官と相談してから決めますと言えば良かったんだ!」
「なるほど、確かにそうだな!」
「成る程じゃない!。お前は強いし、頭も良い。誰よりも戦いを好みそれに必要な訓練だって誰よりも多くこなしている。なのにどうしてこういった時にその力が発揮できないんだ!」
「何故だろうな?」
「私が聞いてるんだ!」
「ライラ様、もうそのぐらいで! カズヤ副隊長も反省してますから」
「これが反省してる顔に見えるか!」
 ライラは和也を指し部下に問う。それに対し部下は苦笑いを浮かべるだけだった。

「まあ、良い。私も怒りすぎた。お前達部屋に戻って休んで構わないぞ」
「了解です」
「カズヤは残れ」
「…………はい」
 誰よりも早く返答した和也だったが低い声音と鋭い眼力を持って阻止された。
 部下達が出て行ったのを見計らってライラはソファーに座り込む。それを見て和也もライラの対面する形でソファーに座る

「で、魔族の奴らはどうだった?」
「どうだったとは?」
「まだ怒られ足りないのか?」
「………強い奴らも数人は居た。十二神将とか言う四天王の副官は俺でも少し危ないと思わせる場面が幾つか会ったほどだ」
「それほどまでにか」
「それと今回は腕試しだったようだ」
「どういう事だ?」
「確証はないが、四天王が誰一人今回の進軍に加わっていなかった。相手も前に痛い思いをしてるから自分達がどれだけ出来るのか試したって所だろう」
「なるほどな……」
「それと今回内部に魔族と通じてる奴が居る可能瀬がある」
「それは本当か?」
「確証があるわけじゃない。だが、あまりにもタイミングが良すぎるんだ。魔族対策会議行われる数日前に突如侵攻してきた。どう見ても誰かが魔族に今回の情報を流したとしか考えられない」
「確かに……だが誰がそんな事を?」
「それは分からないがこの帝国はまずありえないだろう。今回この魔族対策会議を開いたのは帝国だ。今回は魔族を撃退する事が出来たが、一歩間違えれば己の国土と他国との信頼を同時に失う所だったからな。また帝国の友好国であるガレット獣王国と火の国も無いだろう。帝国があるおかげでファブリーゼ皇国やスレッド法国、そして我が国からの侵略を防いで貰っているんだからな」
「だが、今は魔族の事が最優先の筈だ!」
 和也の言葉にライラはテーブル強く叩く。

「落ち着け。これは仮説なんだからな」
「ああ、すまない……」」
「ファブリーゼ皇国も低いだろう。帝国と一部面しているからな。今回の事がバレたら帝国がファブリーゼ皇国に侵攻するかもしれない」
「それはありえない」
「ああ、確かにな。だからファブリーゼ皇国は低いんだ。で、スレッド法国も同じだ。あの使者は馬鹿だったが法王は違うだろう。帝国の軍事力は知っているはずだ。国の一部が面しているにも拘わらずそんな愚かな事をするとは思えない」
 和也が何を言いたいのかライラはこの時理解し目を見開けた。

「カズヤ……お前……」
「ああ、可能性が高いとすれば我が国であるフィリス聖王国が一番可能性が高い」
「馬鹿な! ありえない! 我が国はどの国よりも魔族を嫌い恐れている。それに我が国も先日魔族の軍隊に襲われたばかりだぞ。それはカズヤお前も知っているだろう!」
「ああ、知っている。俺もその戦いに居たからな。そして民達は前以上に魔族に恐怖し憎しみを強くしただろう」
「だったら………」
「だが、死んだのは民だ。上層部の人間じゃない」
「っ! カズヤ、今の言葉は聞かなかった事にする」
 一瞬目を見開いたライラは己の剣を握り和也に睨む。

「ああ、悪かった」
 両手を挙げて謝る和也だが、心からの謝罪ではない事はライラも分かっていた。

「話を続けるが、もしも今回の事件の犯人が我が国に居たとする」
「カズヤさっきも言ったが――」
「もしもだ。ライラ、自分の国を疑いたくないのは分かる。俺だって身内を疑うような事はしたくないからな。だがな、誰かが今回の魔族の進撃を不自然に感じて明日魔族対策会議で口に出してみろ。全員が疑心暗鬼に陥るだろう。で、一番疑われやすいのはどの国だ?」
「それは……」
「そう俺たちの国だ。魔国のある大陸に一番遠く二つの国が壁となっているのは俺たちの国なんだ。そして帝国を一番嫌っているのも俺たちの国なんだ」
「だが……」
「俺たちの国も先日魔族に襲われた。それがあるから俺たちの国は疑われないだろう。威厳を失う事は無いだろう。もしもそう考える奴が俺たちの国の中に居て、実行したとしたら」
「…………もしもその話が本当だったとして何故そんな事をした?」
「そんなの私利私欲に決まっているだろう。国の威厳が上がればそれだけ有利になれる。魔族と通じているのならそれだけ魔国国内の状態もそれなりに知っているだろう。その間に他国に侵攻し成功させれば国内での発言力も強くなるからな」
「だが、我が国は地位が高くなるにつれは給料は低くなる仕組みだ」
「確かにな。だが全員がそれに納得しているとは限らない」
「そんな事ある筈が……」
「分からないぞ。魔族だけでなく亜人を嫌っているのも事実だからな。亜人を殲滅し、威厳と発言力を高め私利私欲に走る奴は少なからず居る筈だ。特に上層部にはな」
「っ! カズヤ二度目だぞ」
「すまない」
「話は終わりだ。お前休んで良いぞ」
「分かりました」
「それとカズヤ」
「なんだ?」
「この国を出るまでの間お前を謹慎処分とする」
「………了解です」
 そう言って立ち上がった和也は部屋を出ようとするが、

「ライラ」
「なんだ?」
「帰還して教皇様に俺が謁見の間で言った事を報国するのか?」
「勿論だ」
「ならその時は耳を研ぎ澄ませていた方が良いぞ。もしも俺が言っている事が正しければ誰かがこう言うかもしれない『愚か者が。せっかく我が国の威厳と発言力を確固たるものにする好機を見す見す逃したと言うのか』とな」
「………これ以上処分を重たくされたくなければ早く出て行け」
「分かりました。ライラ様」
 こうして和也は部屋を後にし、寝室へと向かった。
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