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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第七十一幕 勇者とドット

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 全員の戦いが終わり、城門付近に集合する。
 苦戦した者も居れば、余裕で勝てた者も居る。それは相性や調子など様々だが、集合した全員の表情には勝てた事と仲間達が無事に生きていた事に対する安堵だった。

「どうやら勝てたようね」
「はい。少し苦戦しましたが」
「私は少しじゃなかったわ。まさか大量の魔物を相手する羽目になるとは思わなかったもの」
「確かにあれはしんどいじゃろうな」
 離れた所から観戦していたであろうクロエがウンウンと頷く。

「それにしてもエルザの戦いは派手だったわね。私と同じぐらいに終わったようだったけどそんなに苦戦したの?」
「いえ、主を馬鹿にされた事で怒ってしまって……」
「な、なるほどね」
 恥ずかしそうに説明するエルザをみてエリーゼたち女性陣は苦笑いを浮かべていた。

「それよりあのサハフと言う蛆虫を取り逃がしたのは痛恨の極みです」
「そうね。でも旦那様も居るし、大丈夫よ」
「主に失敗などありえませんが、もしもあの勇者腰抜けの方に行っていたらと思うと」
「心配?」
「はい。心配です。主の苦労が増えるので」
「そっちなのね」
「それ以外にありますか?」
 意地悪のつもりで質問したエリーゼだったが、エルザに答えに何時も通りだな。と思うエリーゼたちである。

            **************************************

 時は遡り、エリーゼたちが戦闘を開始して少し時間が経った頃。
 西エリアで待機していた勇治たちは激しい戦闘音に鼓動が跳ね上がる。

「ねえ、今の戦闘音どう見ても城内からだったわよね」
「私もそう思いました」
「まさか、失敗したんじゃないわよね!」
「なら、助けにいかないと!」
 先ほどよりも激しく轟く戦闘音に冷静さを失う勇治たち。しかし一人だけは違った。

「待って」
「奏ちゃんどうして止めるんだ! この間にもエリーゼさんたちが危ないかもしれないんだよ!」
 親しいわけでもない。ただ数度会っただけで、まともに会話もした事も無い相手だが、それでも知り合いが死ぬかもしれないという事実に勇治は真ともで居られなかった。

「作戦を忘れたの。相手の主力部隊が出てきたら城壁を壊されるまえに城門を開くって作戦会議の時に言われた筈よ」
「「「「っ!」」」」
 奏の言葉にようやく思い出したのか鼓動が緩やかになるが、それでも普段の時と比べればまだ早い。

「ごめん奏ちゃん。緊張のあまり冷静さを失っていたよ」
「私もだわ」
「俺もだ」
「私もです」
 反省する先輩達を見て笑みを零す。

「それに私達の任された任務はここで待機し、敵が来たらそれを殲滅する事よ」
 本当なら誰よりも魔族と戦いたいのは奏の筈だ。なのに誰よりも冷静なのはもう親しい人間を死なせたくない想いからだ。

「そうだったね」
「まさか奏に諭される日が来るとはね」
「まゆちゃんそれ、酷くない」
「そんな事無いわよ」
 戦場でありながらまるで下校途中の高校生のノリが其処にあった。
 しかし、

「随分と可愛らしい勇者だこと」
「「「「「っ!」」」」」
 突如聞きなれない声と肌に伝わる緊張感から敵が来た事を理解した勇治たちは即座に剣を声の持ち主に向ける。

「貴方は誰ですか?」
「相手に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るものでしょう?」
「僕の名前は桜井勇治。ファブリーゼ皇国によって召喚された勇者の一人だよ」
「そうなの。私はドット。十二神将の一人サハフ様の補佐官のドットよ。よろしくね勇者さん」
 スーツ姿の女性ドット。だがその性格と見た目から見ても違和感のあるスーツ姿だった。
 別に似合っていないわけでも、きちんと着こなしていないわけでもない。だがどちらかと言えばドレスなどの方がしっくり来ると言わざる終えなかった。

「さてと早くしないとサハフ様が来ちゃうし始めましょうか」
「僕は貴女と戦いたくはない」
「どういう意味かしら?」
「貴女は女性だ。女性を殺す事なんて僕には出来ない」
「まあ、カッコいい事。でもあんまり調子に乗ると嬲り殺すぞ」
「「「「「っ!」」」」」
 女性の声とは思えない低い声音に勇治たちの身体がビクッと震える。

「それじゃ始めましょうか。お前達は後ろの兵士雑魚共を殺しなさい。私は勇者この子達を相手するわ」
 いつの間にか集まっていた魔族軍その数約400はドットの指示に従い勇治たちを無視して帝国郡500との戦いを始めた。

「それじゃあ私達も始めましょうか」
「…………」
「勇治殺るしかないわ」
「そうだね」
 真由美に言われ勇治は剣を強く握り締める。

「みんな始めるぞ!」
「「「「ええ!」おう!」はい!」分かった!」
 これまでの戦いで培った経験を活かし勇治たちは初めて魔族と戦う。
 これまでどんな敵と戦う時でもしてきた勇治、奏、正利前衛、真由美、紅葉後衛の陣形を即座に組む。

「まずは何時も通りの戦法で行くよ!」
「「「「分かったわ」了解」ましした」った」
 勇治の指示の基全員が動き出す。
 勇治、正利、奏の三人は3方向から同時に仕掛け、接近するまでの間は真由美と紅葉の魔法でサポートする戦法を繰り出す。

「ファイヤアロー!」「ウィンドカッター」
 ドット目掛けて放たれた複数のファイヤアローとウィンドカッターだが、ドットは何事も無かったように躱す。

「やあっ」「はっ!」「どりゃっ!」
 それは勇治たちも分かっていた。運が良くて一発当たれば良いとしか考えていない。その間に攻撃するのが僕達の役目た言わんばかりに剣を、拳を振るう。がそれも躱されてしまう。

「思った以上に速いわね」
 身軽な動きで躱したドットは屋根の上から見下ろし賞賛の言葉を口にする。

「でも、それだけよ。『血鉤爪ブラッティネイル』」
 呟かれた短縮詠唱によって魔族軍や帝国軍の死体から大量の血がドットの許に集まり長い鉤爪へと変貌する。

「それと『血流武器ブラッティアルマ』」
 先ほどと同じように死体から吸い出された血液が今度はドットの周辺であらゆる武器へと変貌する。その数およそ50。

「私はね闇魔法の中でも血を扱った魔法が得意なのよ。だからせいぜい味わって頂戴」
 右の人差し指をクイッと上下させた瞬間血液で出来た武器が一斉に勇治たちを襲う。

「「アースウォール!」」
 真由美と紅葉が一斉に魔法を発動する。
 真由美は勇治たちの前、紅葉は真由美と自分の前に出現させた。
 勇治たち目掛けて放たれたブラッティアルマはアースウォールに刺さると変形が解け血液に戻り地面に水溜りを作った。

「へぇ~やるじゃない。でも、それじゃ何も見えないわよ!」
「それはどうかしらね。ファイヤボール!」
「ちっ!」
 壁の上から突如出現しドットに襲い掛かる。突然の事に思わず舌打ちするドットだったがすぐさま躱す。

「まさか他属性同時発動が出来るとは思わなかったわ。後でサハフ様に報告しないいけないわね」
 タ属性同時発動という極僅かな人間にしか出来ない高等技術を目にした事に驚くが表情は一切変わっていない。魔族にとってそれは出来て当たり前の事だからだ。

「報告する必要なんて無いわ」
「あら、どうしてからしら?」
「アンタはここで私達に倒されるからよ。それにアンタの仲間も最強の冒険者たちが倒す筈だから」
「あの冒険者たちの事ね。確かに尋常じゃない力を感じたけどあの程度なら私やサハフ様が居なくても余裕で殺せるわ。それに貴方達下等生物風情じゃ私を倒すなんて無理よ」
 嘲笑うドット。相手の力量をある程度知る事が出来ても詳細に見比べる事は出来ないようだ。しかし勇治たちは城門前で戦う他の魔族たちの事は知らない。だからこそドットの言葉に不安が過ぎる。

「今は目の前の敵に集中する時よ」
「わ、分かってるよ!」
 勇治の心を読んだ奏が現実に戻す。

「みんな行くよ!」
 揺らぐ心をどうにか抑え勇治は再び攻撃を仕掛ける。
 そこからはエリーゼたちに比べれば見劣りする戦いではあったが、激しい戦闘が繰り広げられた。
 戦いが始まって20分近くが経過した。
 相手の血を操る力に苦戦しながらも少しずつだが確実に相手の体力と魔力を削っていった。
 しかし、それは突如終わりを迎える。
 軽い怪我を負いながらも攻撃してくる勇治たちに苛立ちを覚え徐々に膨らみ表情に余裕をなくした時だった。

「ファイヤーアロー!」
「しつこいわよ!」
「今よ勇治!」
「しまっ!」
「やああっ!」
「ぎゃあああああああぁぁ!!」
 完全に真由美の放ったファイヤアローに気を取られていたドットは背後から近づく勇治に気づかなかった。
 気がついた時には遅く、躱しきれなかったドットは勇治の一撃を食らってしまう。
 その場に倒れ込むドット。
 そんな彼女に剣を突きつける勇治。

「お、お願い助けて……」
「………」
「ゆうくん殺して!」
「こ、殺さないで……」
「早く殺して!」
 目の前で血を流し助けを求めるドット。後ろから怒りと焦りを含んだ叫び声にも似た声で急かす奏。

「お、お願い……もう…誰も殺さないわ。だから………助けて……」
「本当に?」
「ゆうくんその人の話を聞いちゃ駄目!」
「本当よ。もう殺さないわ……それに私には子供が居るの。家で私の帰りを待って居るの………だからお願い助けて」
「…………」
「ゆうくん殺して!」
「助けて……」
「分かった……助ける」
「ゆうくん!」
「ありがとう………貴方が馬鹿で助かったわ!」
「え?」
 弱りきった表情から狂気に満ちた笑みを浮かべてブラッティネイルを振り上げる。

 キイッ!

 勇治を襲った一撃は勇治に届く事は無かった。
 突如横から飛んできた蒼槍・・に阻まれたからだ。

「ちっ!」
 攻撃が失敗したと判断したドットは即座に距離をとる。

「まったく予想通りの展開に呆れるな」
 嘆息気味に呟きながら蒼槍を引き抜くのは槍と同じ色の蒼い髪靡かせながら仮面で顔隠した男。

「カズサさん」
 呆然と見つめる勇治は血塗れの鎧を身につけた男の名を呼ぶ。

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