鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第六十九幕 エリーゼとハット

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 ハット。
 十二神将の補佐官の一人にして、唯一魔物生成スキルを魔族。ステータスだけでみれば、十二神将の中でも低いが知略、戦略、謀略などをおいて彼の右に出るものは居ない。
 ずば抜けた戦略を使い、魔物生成スキルで創り出した魔物たちを自由自在に操る力は厄介極まりないと言えた。
 ブラックウルフ、レッドボア、ロックマウス、ブラックバード、多種多様の魔物が一斉にエリーゼに襲い掛かる。
 低レベルの魔物を倒す事はエリーゼにとって朝飯まえだ。しかしその数が10や20であればだ。確認できるだけでも一種類50は居る。全部で500は居るのだ。

「まったく斬っても斬っても、切が無いわね」
 倒せば倒すだけで、地面からブラックウルフが、シルクハットからブラックバードなどが手品のように出現してくる。

「存分に堪能していってください」
 優しい微笑を浮かべるスーツ姿の男性。彼こそがハット。エリーゼが苦戦している相手だ。

「見た感じ力技で戦うタイプでは無いと思っていたけど、まさか魔物使いテイマーだったとわね」
「驚きましたか?」
「ええ。流石に貴方みたいな相手と戦うのは初めてだもの」
「そうですか。それは私とっては朗報ですね」
 冷や汗を垂らすエリーゼに対して、先ほどから一歩も動かないハットは喜びに笑みを浮かべた。

「さあ、戦いはこれからですよ。存分に楽しんでいってください」
 指を鳴らすのと同時に魔物たちが一斉にエリーゼ目掛けて襲い掛かってくる。
 迫り来る魔物たちに舌打ちしながら剣と魔法を屈指して次々と殺していく。
 斬り、焼き、突き、蹴り、己が考え付く戦い方で倒していく。しかし、魔物は一向に減る気配がない。


「はぁ……はぁはぁ……」
 あれからどれぐらいの時間が経過したかエリーゼには分からない。そんな事考える余裕すらない。

「貴方、しつこいと女に嫌われるわよ」
「ご忠告痛み入ります。ですが、何分貴女が頑張るのでこちらもムキになってしまいました。それももう終わりのようですが」
 返り血で紅く染まるエリーゼは肩で息をしていた。それを見て限界が近いと判断したハット。

「それはどうかしらね」
「そうですか。なら、まだ楽しんで結構ですよ」
 再び戦いが始まる。
(ここでは使いたくなかったけど仕方が無いわね)

「火魔法武装!蛇炎舞踏じゃえんぶとう!」
 千夜に貰った焔鬼に炎を纏わせる。しかし、これまでとは違い炎に自我が生まれ呼吸するかのようにうねる。

「燃やしつくせ!」
 焔鬼を振るえば、炎が伸び襲い掛かる魔物を燃やし灰と化す。まるで蛇炎が自ら喰らっているかのようだ。
 紅色の炎を操り、熱気を纏い、全てを燃やし尽くそうとする姿はまさに『火炎の剣姫』と呼ばれるに相応しい姿をしていた。

「これは驚きですね」
 目の前の光景に本音が漏れたのだろう。しかし、表情はいっさい変わっておらず、薄気味悪い笑みが浮かんでいた。
 それもその筈でこういった場面は何度も経験していた。そんな状況を切り抜け十二神将補佐という地位にまで上り詰めたのは彼が鍛錬に鍛錬を重ねて結果なのだ。
(魔国は弱肉強食の世界。生きるか死ぬかの世界。そんな世界に才能も努力も関係ない。あるのは強者か弱者か。それだけです)
 剣術や武術の才能に恵まれなかったハット。長所と言えるのは他より少し魔力量が多かった事と魔物生成スキルがあったことだけ。そんな彼が強くなる方法が頭を使った戦いだけ。
(どれだけ不利な状況であろうと表情を崩さない)
 それが十二神将サハフに最初に教わった事だった。相手に隙を与えない。好機だと思わせてはならない。そう言う意味だとハットは考えてから真顔か笑顔のどちらかで過ごすようになった。
 どれだけ強い相手に勝って嬉しくても、負けそうで混乱しているときであろうとサハフに教わった事を思い出し未だに笑みを浮かべる。
(次の魔物を出さないと)
 エリーゼが操る蛇炎が魔物たちを燃やし続ける姿に内心動揺が走る。圧倒的有利だった状況が一瞬にして不利になりつつあるからだ。
(あれだけの魔力と剣術、才能の塊ですね)
 妬ましくない訳が無い。悔しくないわけが無い。才能という一言でこれまで努力を否定されている気分になるのだから。
(だから私は負けない!)
 残り少ない魔力を全てを注ぎ込み100対の魔物を創造する。
(ちっ、まだ出てくる!)
 正直エリーゼにも余裕はない。火魔法武装はこれまでの鍛錬で使いこなせるようになった。しかし蛇炎舞踏は違う。未だに魔力制御が完璧ではない。常時高度の炎を放出し続けなければならない。それは魔力を放出する事と同じ。
(それに力加減がまだ掴めてないのよね)
 送り込み過ぎると己も焼かれそうになる。この魔法はまさにじゃじゃ馬と呼ぶべき魔法なのだ。
 先にエリーゼの魔力が尽きるか、ハットの魔物が尽きるかの勝負。
(あと少し!)
 これまで倒した魔物は優に1000を越えている。残りは100を切った。
 戦いももうじき終わりを迎えようとしていた時だった。

「っ!」
 突如、エリーゼに眩暈が襲い掛かる。
(こんな時に魔力欠乏症なんて)
 己の不甲斐無さに奥歯を噛み締めるが、身体に力が入らない。
 その隙にと一匹のブラックウルフが襲い掛かる。
(殺られてたまるか)
 渾身の力で焔鬼を天高く突き上げ、襲い掛かってきたブラックウルフを突き刺した。

『おめでとうございます。新たな称号、『不屈の精神』が貴女に贈られます』
 脳内に響いくアナウンス。それは頭痛を与えるだけだったが、エリーゼは気がついた時には不屈の精神を使っていた。

「なにが起きたの?」
 何がなんだか分からないといったエリーゼ。だが、

「これでまだ戦える」
 笑みを浮かべたエリーゼは襲い掛かる魔物を次々と斬り殺していく。
 そして、

「これで終わりよ」
「そのようですね」
「あら、最後は潔いのね」
「悔しいですが、ここから貴女に勝てる気がしませんし、何よりもう魔力がありませんんから」
「そう」
 最後の最後まで薄気味悪い笑みを浮かべたハットはエリーゼによって倒された。

「ようやく終わったわ」
 その場にへたり込むエリーゼ。

「それよりあれは何だったのかしら?」
 疑問を感じたエリーゼはステータスを開き新たな称号『不屈の精神』の詳細を開く。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

不屈の精神

効果
 HP,MPが50パーセント回復し、5分間の間ステータスが5倍になる。

忠告
 一日の使用回数は3回まで。
 残り2回

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「どうりで身体が軽く感じた訳ね」
 新たな称号に感謝しつつエリーゼは回復ポーションと魔力回復ポーションを飲む。

「何度飲んでも不味いわね」
 慣れない味に顔を顰めるのだった。

 
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