鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒

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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第六十七幕 ミレーネとアグナ

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 都市ロアント防衛戦主戦力同士の戦闘において最も苦戦を強いられているのはミレーネの他に居ないだろう。
 弓と言う遠距離攻撃が可能な武器で、接近戦をしてくる相手を仕留めるのは今のミレーネにとって造作も無い事。しかし、相手が圧倒的な力技とタフネスさでなければ。
 オーガが振り回す金棒と同じ物を楽々と振り回す女性はミレーネの攻撃を躱す事無く突進し振り下ろす。
 爆発にも似た衝撃音が轟き、砂塵を巻き上げる。
 一瞬の隙に躱したミレーネに怪我は無いが、先ほどまで立っていた場所には大きなクレーターが出来上がっていた。

「いったいその身体のどこにそれほど大きな物を振り回す力があるんですか」
 敵に対し嘆息気味に問いかけるミレーネ。

「それを貴女に教えるつもりはありません」
「そうですよね」
 左手の人差し指でメガネの淵をクイッと軽く持ち上げる。その姿はまるで社長秘書のような光景そのものだった。

「一つ聞いても良いですか?」
「答えられる事なら」
「貴女のお名前は?」
「名前を尋ねる時は自分から名乗るものですが、貴女の名前は知っているので、特別に許しましょう、ミレーネさん」
「…………」
 どうして自分の名前を知っているのか一瞬疑問に感じたが、『月夜の酒鬼』について調べたのだろうと推測した。

「私の名前はアグナ。四天王シーザー様の副官にして、十二神将が一人であるへルート様の補佐官を勤めさせて頂いております、アグナと申します。どうせ、直ぐに貴女はこの世から消える方。そんな方に名乗っても仕方が無いのですが」
(子の人、絶対一言余計って言われるタイプですね)

「今、失礼な事を考えませんでしたか?」
「いえ、なにも」
「そうですか、なら再開させて頂きます!」
 一瞬にして間合いを詰めて来ようとするアグナ。しかし、驚く事無く後方に跳び距離を保ちつつ3本の矢を同時に放ち牽制しようとすが、金棒を盾代わりにして突っ込んでくる。が3本のうち1本はアグナの右肩に刺さる。

「アクアバレット!」
 大量のアクアバレットが一斉にアグナを襲う。その光景は己に向かって降り注ぐ豪雨の中を突き進むかのようだ。
 この世で最も躱す事が困難な物。それは液体である。直径10センチのアクアバレットを金棒で防ごうと接触すると同時にその姿を変え、分離し、アグナの顔に付着する。それは当たるだけでも相当の痛みがアグナを襲う。
 僅かにせよ相手の動きを鈍らせた隙に距離をとり連続して攻撃する。

「風魔法武装!」
 一本の矢に風魔法を纏わせる。

「貫け!」
 願いを込めて放たれた一撃は空気を裂き、アグナの胸に目掛けて一直線に進む。

「くっ!」
 しかしアグナの金棒が防ぐ。

「っ!」
 だが、矢の勢いは弱まる事が無かった。矢に纏った高濃度空気が高速回転しながら金棒を押し退けようとする。その光景にアグナは思わず目を見開ける。

「うっ!」
 防ぎきれないと判断したアグナは無理やり矢の軌道を逸らす。だが、雑な逸らし方だったためか右肩を軽く抉っていた。
 しかし傷はみるみる再生していく。

「やはり、あなたの回復力は異常ですね。その尻尾から考えるにあなたは魔族とドラゴン、それも上位ドラゴンの間に産まれたハーフですね」
「そうよ。よく知っているわね」
「私が愛する旦那様は博識ですから」
 半年以上前に図書間で調べ物をしようとしていた時、ドラゴンについて千夜に尋ねた時に教えて貰った事を思い足したのだ。

「上位ドラゴンの生命力と魔族の膨大な魔力によって低確率ではありますけど驚異的な回復力と再生能力を手に入れる事があると教えて貰いました」
「確かにその通りでし。でもね私はそれだけです。魔族の血が半分流れているのに魔法は全然駄目でした。せいぜい生活魔法が使える程度です」
 己の才能の無さに苛立ちを隠しきれないアグナ。

「ですが。私にはドラゴンと魔族のずば抜けた身体能力がありました。そしてその力をへルート様は認めてくださいました。だから私は!」
「彼の為に戦うと?」
 問いかけると同時に風魔法武装の第二の矢が放たれる。

「そうです! 認めてくださったへルート様の為に!」
「辛くないのですか?」
「っ!」
「見ていれば分かります。貴女はその彼の事が好きなんですよね」
「貴女に何が分かるのですか!?」
「分かりません。ですが、言える事があります。もしも貴女が先にセンヤさん出会っていれば間違いなく惚れていたでしょう」
「ありえないですね」
「そんな事はありません。センヤさんは種族や階級なんかで人の価値を決める方ではありませんから」
「そうですか。ですが、私にはへルート様しか居ません。ですから私はへルート様の為に戦うのです!」
 身体では戦闘を行い口では好きな男の自慢話を繰り広げるなんとも可笑しな光景になってしまったが、それも最終局面へと移動する。
 互いの体力、魔力の底は近い。あと一回の攻防で勝敗が決まると互いに直感する。

「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「風魔法武装!」
(来る!)
「貫け!」
 全魔力を乗せて放たれた一撃はこれまでの攻撃とは比べ物にならないほど強力な風を纏いてアグナへと向かう。

「叩き潰す!」
 躱す事も出来ただろう。だがアグナはしなかった。この一撃を躱せばこれまでの自分の否定するような気がしたからだ。
(私は間違ってはいない)
 間違ってはいないのだろう。いや、それ以前に正解も間違いも存在はしない。ただ己が信じる想いが強いのかを証明するためなのだから。

「くっ、うぅ………」
 呻き声にも似た声がアグナから漏れる。それだけミレーネの一撃は真っ直ぐで強く重いのだ。

「ぅぅぅううああああっ!」
 渾身の一振りは徐々に押し退けようとする。その光景に、
(勝った!)
 勝利を確信するアグナ。だが、その確信は意外な物から裏切られる。
 突如、アグナの金棒が砕け散る。

「え?」
 突然の事に理解出来なかったのか呆けた声が漏れるが既に遅い。金棒を粉砕したミレーネの矢はそのままアグナの心臓を貫いたのだ。
 何が起こったのかようやく理解したときには身体から力が抜け地面に倒れ伏せていた時だった。

「ヘ、へルート……さま………もう……しわけ……ありま……せん………」
 地平線の彼方を眺める。そんな目尻からは一滴涙が流れ落ちる。

「もしも、来世があるのでしたら早く転生して私達の前に姿を見せてください」
「………わかり………ました………」
 ミレーネの一言に安らぎを感じたのか笑みを浮かべて眠るように息を引き取るのだった。
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