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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第六十四幕 タイガーとクーゲル

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 主戦力同士の戦いが始まった。
 それだけで周りで戦っていた魔族軍は危機感を察知すると撤退を開始し、使命感が勝った帝国軍は、この機を逃すまいと魔族軍を城門外まで押し戻した。
 その結果、帝国軍と魔族軍との戦いは城門外で行われる事となったが、サハフが引き連れた1000人の魔族が都市内に潜伏していた。
 しかし、そんな事をはエリーゼたちにはどうでも良かった。今、成す事は目の前の十二神将とその補佐官達を倒す事だけ。
 それは勿論、タイガーも同じ意見であった。
 タイガーの相手はへルートの補佐官の一人、クーゲルと言う名の魔人。
 タイガーよりも筋骨隆々の大男は大きな拳でタイガーを殴り掛かる。が、難なくと躱す。しかし、先ほどまで立っていた場所は抉られたように陥没していた。
(なんて拳圧だ。まともに食らったら間違いなく骨が粉砕する!)

「がははっ! やはり男同士の戦いは拳と拳だよな! 己が鍛えた上げた身体。それはまさしく男の象徴! そして男が強さを語るにはやはり拳だよな!」
 暑苦しさ全快で己の思いを語りながらも豪雨の如く拳がタイガーを襲う。
(この男、力が強いだけではない。的確に相手の急所を狙って打っている。ただの単細胞では無いって事か!)
 右、左、右、右、左、右、左、左、と不規則のパンチは次々と地面を陥没させる。しかし、タイガーには一発も当たってはいない。
 これまで忠誠を誓った主、千夜に鍛えられ、教わった事が生かされている証拠だとタイガーは改めて実感する。
(流石は殿。昔の我輩ではどうする事も出来なかった)
 戦闘中でありながらもタイガーの脳内では千夜との訓練の日々が高速で再生される。
(そうだ。我輩とした事が相手の力に翻弄されて臆病風に吹かれておったとは情けない。殿、今こそ我輩の力お見せします!)

「がはは、どうした躱すだけじゃ俺には勝てないぜ!」
「拳闘士の戦いは殴るだけにあらず!」
「なに!?」
 クーゲルから放たれた右ストレートを身体捌きのみで躱したタイガーは相手の力を利用して投げた。

「おらっ!」
 相手の力を利用し投げる。柔道技の一つ、一本背負いがこの異世界において初めて披露された瞬間だった。

「ぐっ!」
 地面に勢いよく叩きつけられたグーゲルの背中と腰に鈍痛が響く。が、それでも十二神将の補佐官。体勢が悪いと気づくや即座にタイガーから距離をとる。

「今のは驚いたぜ。いったいなんだったんだ」
 この世界に投げ技が無いわけではない。しかし、武術の基本は殴ると蹴るであるため、知っているものは殆ど知らないとされる。

「今のは我輩が忠誠を誓った殿より、教授して頂いた技の一つである」
「殿ってのはあの吸血鬼娘が言っていた主の事か?」
「如何にも。そしてお前達は後悔するであろう。あのお方の縄張りに土足で踏み荒らした事を」
「それはどうかな。俺が仕えるへルート様。へルート様が仕える四天王シーザー様。そして四天王の皆様方が尊敬し、畏怖するお方、アノルジ大陸で最強、いや、世界最強のお方こそ、我らが王、魔王様だ。お前の主ですら勝てはしねぇよ」
「お主らが使える魔王とやらがどれだけ強いかは分からぬ。だが、間違いなく言えることがある」
「なんだ?」
「この世で最強なのは千夜様だという事だ!」
「……がはははっ! そうかよ! なら、証明して見せろ!」
「無論そのつもりだ!」
 互いに拳を構え地面を蹴る。
 一瞬にして零距離になった二人は戦いは正反対だった。
 殴る蹴るの応酬のクーゲル。
 武術で応戦するタイガー。
 その光景は喧嘩する子供と武術に精通した者の戦い。
 殴る蹴るだけしか知らない者と武術に精通した者。どちらか強いかは言うまでもない。
 グーゲルの攻撃を悉く躱し、受け流し、その隙に肘打ち、掌低、ローキック、ボディーブロー、あらゆる技がグーゲルを襲う。

「ぐっ! がはは強いな! なら、これならどうだ!」
 鈍痛に見舞われながらも耐え、笑い出すグーゲル。それはけしてタイガーには分からない事だった。

「………カウロイ!」
 大振りのフックを躱すと同時にムエタイ技の一つ、カウロイが裏首を襲う。

「がっ!」
 これまでに感じた事のない衝撃と痛みに眩暈に襲われる。
 攻撃が止まりふらつく相手に何もしないタイガーではない。ここぞとばかりに技を拳を叩き込む。
 無防備の相手を攻撃するほど楽なものはない。次々に放たれる拳の連打と武術。そのたびに、タイガーの脳内にアナウンスが流れる。

『クリティカルヒットを確認』
『クリティカルヒットを確認』
『クリティカルヒットを確認』
『クリティカルヒットを確認』
『クリティカルヒットを確認』
『クリティカルヒットを確認』
『クリティカルヒットを確認』
『クリティカルヒットを確認』
『クリティカルヒットを確認』
『クリティカルヒットを確認』
 蒼牙の籠手が持つ能力、クリティカルヒット時、攻撃力が20倍となる。
 それはたった一撃で相手の筋肉を貫き、骨を粉砕する。
 胸、腹、腕、顔、ありとあらゆる場所が曲がり、陥没していく。
 数分してその攻撃は止む。体力の限界なのか肩で息をするタイガーはクーゲルに視線を向けると。そこには先ほどまでの姿はなく、顔の穴という穴から唾液、鼻水、涙、血、垂れ流し、陥没、骨格が変形していた。
 上半身の全てともいえる場所が内出血と腫れで青くなり、腕もけして曲がらない方向に曲がっていた。

「ぴゅー、ぴゅー」
 骨が粉砕し、その破片が肺に刺さったのか、それとも喉を潰されたのか、変形するまで顔を殴られたせいなのかは分からないが、クーゲルはまともに息をする事すら叶わなくなっていた。
 しかし、タイガーは彼が何を言いたいのか即座に理解する。

「よかろう」
 武士として、強敵だったからこその敬意なのかは分からないが、タイガーはクーゲルの背後に回りこみ、首を骨を折り、絶命させるのであった。
 こうして、タイガーVSクーゲルの戦いはタイガーの勝利で幕を閉じた。


『レベルアップしました。これにより存在進化が可能となり、ビーストからハイビーストとなります。それによりステータスは4倍のステータスとなります。おめでとうございます」
 クーゲルを倒した事により、タイガーは存在進化を果たす事に成功した。それだけクーゲルが強敵だったという事だろう。

「殿、貴方と言った事に間違いはありませんでした。武術を磨いて良かったです」
 ステータスを見る事が出来なくなったが、間違いなく力、体力、HPはクーゲルが上だったと確信するタイガーは、他の者たちの戦闘に巻き込まれないよう移動してステータスの確認を行うのであった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

タイガー
ハイビースト
LV1
HP 890000
MP 209000
STR 76000
VIT 84000
DEX 47000
AGI 56000
INT 22000
LUC 80

スキル
体術LV99
武術LV96
HP自動回復LV89
MP自動回復LV54
威圧LV32
危機察知LV78
火属性耐性LV67
水属性耐性LV65
風属性耐性LV70
土属性耐性LV72
光属性耐性LV43
闇属性耐性LV69

称号
竜殺し
森の母の守護者

属性
風 土 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「やりましたぞ、殿」
 圧倒的に上昇したステータスに歓喜の涙が零れる。
 忠誠を誓った家臣でありながら、気が付けが戦闘が出来る誰よりも弱くなっていた事に己の未熟さを恨んだ。しかし、存在進化を果たした事でその荷が軽くなり、これからも鍛錬に励む事を誓ったのだった。
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