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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第六十三幕 十二神将とその補佐VS月夜の酒鬼

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 塞き止められていた水が放水されるように城門から次々と魔族軍が侵入していく。
 しかしタダで通れるほど帝国軍は甘くはない。1000という僅かな戦力ではあるが、侵入してくる魔族軍と互角、いや、それ以上に戦っている。
 周りから惜しげもなく轟く、金属音と咆哮と絶叫。その激戦区と成り果てた北城門内。
 その中心で未だに武器を構えただけで動かない者たちが睨み合い対峙していた。

「どうやらお前達は他の人間下等生物よりかは強いようだな。通りで計画が進まないわけだぜ」
「レイク様、誰がレナード様を殺したんですかね」
「さあな。だが、あいつは俺達副官の中でも最弱だったからな」
「レイク、事実だったとしても口にするな。レオンハルト様にでも知られたらお前の命は無いぞ」
「ちっ、分かっているよ。相変わらずサハフは頭が固いなぁ」
「お前が適当すぎるからだ」
「はいはい」
 右から左へ聞き流すレイクというモヒカン頭の魔人。

「それにしてもまさか、吸血鬼と魔人と混合種が敵側に居るとわな」
「確かに。おい、吸血鬼。お前もアノルジ大陸の出身だろ。なぜ下等生物の味方をする」
「別に味方している訳ではありません。私が敬愛し、忠誠を誓った主が魔族殲滅を求めている。それだけです」
「けっ、これだから吸血鬼の考えは理解出来ねぇんだ。俺達より遥かに弱い下等生物に仕えるなんて頭がおかしいだろ」
「おい、蛆虫。人間を下等生物呼ばわりするのは構わないが、主の侮辱だけはけして許さない」
 未だ幼さが残る顔にも拘わらず、その口から発せられた声音は低音で、まるで死神の死刑宣告のようだ。

「お~お、怖っ! だったら証明して見せろよ。俺様に勝てたらお前の主様とやらは俺より強いことになるからな」
「その言葉覚えていろ。そしてあの世で、後悔するがいい」
 今にも飛び出しそうな勢いで激怒するエルザはレイクを睨み付ける。

「レイクあまり相手を挑発するな。へルート、お前はどうする?」
「俺はあいつの相手が出来ればそれで良い」
 へルートと呼ばれた最後の副官はスケアクロウを指差し答える。

「そうか。ならここはお前達に任せる。俺とドットは部下を連れて都市内攻略してくる」
「また弱いもの苛めかよ。そんな性格のくせに俺より悪趣味とか最悪だな」
「お前に言われたくはない。それに俺は臨機応変に行動しているだけだ。お前と一緒にするな」
「はいはい」
「ハットお前はここに残りあいつらの相手をしてやれ」
「分かりました」
 赤い髪のモヒカン頭のレイク。緑色の髪のサハフ。黒髪のへルート。この3人が四天王の副官にして十二神将である。
 そんな彼らに付き従う6人の補佐官達。
 個性溢れるその姿は見分けるのにコンマ数秒といらないだろう。
 レイクの補佐官二人を簡単に言えば、白ギャルと黒ギャルである。
 耳、手首といったあらゆる場所に大量のアクセサリーを身につけ、装飾品かと思うほど武器にも自分好みにデコレーションされていた。
 サハフの補佐官二人はレイクの補佐官二人とは対極的できちんとした身なりと手入れが行き届いた武器。そしてなにより二人とも黒スーツという統一性。傍から見れば間違いなくボディーガードと間違われても可笑しくはない。
 まるでそれぞれの性格がそのまま補佐官に出ているようだった。
 しかしヘルートに至っては無口と垂れ目のせいか何時もやる気の無さを感じずには居られない。
 それに比べ後ろに控える補佐官二人は女教師、もしくは秘書かと間違えそうな吊り目の魔族。他の魔族と違うところがあるとすれば、それは尾てい骨から生えた龍の尻尾。
 分厚い筋肉に覆われた筋骨隆々の男は闘争心を燃やしながら拳と拳を叩き付け合うという可笑しな組み合わせだった。

「話し合いは終わったかしら?」
「ああ、終わったぜ。早速始めようや」
「貴方は私が殺す」
「はっ、殺ってみろや」
「レイクここは任せたぞ」
「お前に言われるまでもない」
「そうか」
「あら、通すと思っているのかしら?」
「思ってはいない。だが、お前達程度なら通り過ぎる事など容易いことだ」
「言ってくれるわね」
 嫌味や挑発ではないからこそ性質が悪い。
 エリーゼもその事には気づいているからこそ額に青筋を浮かび上がらせるのだた。

「それに俺はレナードを倒した奴と戦ってみたいからな」
「あら、私達の中に居るとは思わないのかしら?」
「思わないな」
 即答で答えるサハフにエリーゼはどこからその自信が来るのか知りたくなった。

「では行ってくる。ハットここは任せた。ドット行くぞ」
「「分かりました」」
 周りのことなど気にする素振りも見せる事無く、サハフは歩き出す。

「だから通す訳が――え?」
 行き先を塞ごうとするが、既にサハフとドットの姿は何処にも無かった。

「どういうこと?」
「何処に行ったのですか?」
「分からないのじゃ!」
 先ほどまで目の前に居たはずが何処にもいない。走り去った形跡もない。突如姿を消したことにエリーゼたちから困惑の表情が生まれる。

「慌てるな」
 そんな彼女達を見てか。ラッヘンが千夜になりきり、冷静になるよう促す。

「多分幻惑魔法を使ったんだろう」
「幻惑魔法?」
「そうだ。強力な幻惑は相手の認識をずらす事が出来る。だから探したところで意味はない。今は目の前の敵に集中するんだ」
「分かったわ」
 エリーゼたちもラッヘンの態度が千夜の指示だと知っているからこそ、普段どおりに対応している。
 ラッヘンの言葉で今、何をすべきか即座に判断し、目の前の敵に集中するのだった。

「みんな行くわよ!」
「「「はい」分かったのじゃ」りました」
 全員が定めた敵に目掛けて武器を構えて飛び出す。
 こうして、十二神将とその補佐VS月夜の酒鬼の戦いが始まる。
 
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