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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第六十二幕 任せたと気持ちの連鎖
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開戦して一時間が経過しただろうか。未だに突破されていないことにサイロは驚きを隠せないでいた。
雪崩の如く次々と押し寄せる魔族軍がけして弱いわけではない。確かに帝国軍は他国に比べて軍に力を入れている。その力を大陸で一、二を争うほどだ。だが、先日の事を考えるとどうしても驚きを隠せないのだ。
その理由、いや、功労者と呼ぶべき存在は今サイロの横で敵を屠り続ける二人の女冒険者だろう。
金髪を靡かせる華奢な少女が放つ風魔法を纏った矢は狙った敵だけでなく、半径3メートル周辺の敵を巻き添えにして後方の続く敵すら貫く。まさしく砲弾。
その横で敵の行動を予測し臨機応変に対処する褐色肌の女性はストーンバレットを放ちながら、城壁を登ってきた魔族軍にダークゲートから短剣を投擲する。
突如目の前から放たれた短剣に驚き転落していく。そのお陰で軽く負傷したものは居るが未だ死傷者は出ていない。
(これがクラン『月夜の酒鬼』の『疾風の妖精』と『闇夜の麗人』か。なんたる戦闘能力)
「サイロさん」
「どうかされましたか?」
「そろそろ門を開ける準備をしたほうが良いかもしれません」
「何故ですか? 戦況的に我々が有利ではありませんか」
「確かにそうですが、私とクロエはあの者たちの相手をする事になりそうなので」
ミレーネの視線の先に居たのは圧倒的に漂わせるオーラが違う9人の魔人。それを見たサイロは直ぐに理解した。
「このままでは間違いなく城壁を登られます。そうなれば下で控えるエリーゼお姉さまたちが危険になりますから」
「わかりました。あの魔人達が行動を開始すると同時に開けましょう」
「お願いします」
まだ後方からこちらを眺めているとはいえ、いつ行動を開始するか分からない以上作戦が即座に移せるようにしておくのは定石である。
「しかし、今は目の前の敵を倒すことが先決。クロエ、なるべく温存しておいて」
「無論じゃ」
千夜の指導で身につけた事。それは如何なる敵であろうと侮るな。ということだ。その教えを守ってきたからこそミレーネとクロエは如何なる状況下でも冷静で戦えているのだ。
(ほんと私達の旦那様は凄いです)
改めて思うミレーネは狙いを定めた敵に矢を放つ。
「ミレーネ殿、貴方方のおかげで半数近くを削ることが出来ました。後は我々だけで大丈夫です。ですので貴方方はエリーゼ殿たちの許へ向かってください!」
「しかし……」
「大丈夫ですので。それにもともと国を守るのは軍人の務めですから」
「………分かりました。クロエ行きましょう」
「分かったのじゃ。サイロ殿、あとは任せたのじゃ!」
近くの敵に一撃を与えた二人はエリーゼたちの下へ向かう。
********************
城門前で待機しているエリーゼたち『月夜の酒鬼』メンバーは慌しく動き回る兵士達の姿をみて、覚悟を決める。
「そろそろのようね」
「ですね。多分ですが副官クラスが姿を現したんでしょう。それも複数」
「そうでしょうね」
「エリーゼお姉さま!」
「ミレーネどうして」
「サイロさんが大丈夫だからと、こちらに行くようにと。それと副官クラスが全部で9人です」
「そう。ミレーネとクロエ、私とエルザ、タイガー、スケアクロウ、ラッヘンで7人。誰かが二人相手する事になりそうね」
「そうなりますね。スケアクロウ、主からの指示は来てますか?」
「いえ、今のところは。ですが昨夜夜襲に備えて周辺警戒しておいてくれ。と命を受けた時に言伝を頼まれました」
「言伝?」
「はい。そっちは任せた。雑魚は兵士達に任せておけば良い。との事です」
「そう……」
「主が……」
「千夜さん……」
「千夜……」
「大丈夫ですか?」
「ええ、心配ないわ。ただ……胸の奥から湧き上がるこの気持ち。上手く言えないけど――」
「はい。大事な任務だのは分かっています。ですが、主に託された。それだけで胸が熱くなって――」
「卑怯です千夜さん。そんな事言われたら――」
「本当に卑怯じゃ。じゃが――」
「「「「嬉しいわ」です」です」のじゃ」
「それは良かったです」
(創造主様は奥方様達の士気を上げ方を熟知しているようですね)
創造主である千夜。圧倒的で規格外の力を持つ存在にして愛する存在。そんな人物が「任せた」と言われて嬉しくない妻などいない。
だからこそ、湧き上がる思いが熱を帯び、身体を熱くする。
兵士達が城門をゆっくりと開け放つ。先頭に立つ9人の魔人がゆっくりと不敵な笑みを浮かべて門を潜る。
「「エリーゼお姉さま」」
「エリーゼ姉」
「ええ、開戦ね!」
それぞれ武器を構える。
顔には恐怖も不安も無い。あるのは愛する人から任されたと言う責任感のみ。それが胸の奥を熱くさせ、心を弾ませる。
戦において言葉は武器にもなる。だが、言葉を発せせずとも、漂うオーラが伝わり、味方の士気を上げる。
「帝国軍に勝利を!!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」
(まさしく、気持ちの連鎖ですね。まあ、兵士達に奥方たちの気持ちは分かっていないようですが)
「スケアクロウ」
「何ですか、ラッヘン」
「創造主様に我らの力を見せる時ですね」
「ええ、その通りです」
「殿、見ていてください!」
それぞれ秘めた思いを胸に己が倒す敵を見据える。
雪崩の如く次々と押し寄せる魔族軍がけして弱いわけではない。確かに帝国軍は他国に比べて軍に力を入れている。その力を大陸で一、二を争うほどだ。だが、先日の事を考えるとどうしても驚きを隠せないのだ。
その理由、いや、功労者と呼ぶべき存在は今サイロの横で敵を屠り続ける二人の女冒険者だろう。
金髪を靡かせる華奢な少女が放つ風魔法を纏った矢は狙った敵だけでなく、半径3メートル周辺の敵を巻き添えにして後方の続く敵すら貫く。まさしく砲弾。
その横で敵の行動を予測し臨機応変に対処する褐色肌の女性はストーンバレットを放ちながら、城壁を登ってきた魔族軍にダークゲートから短剣を投擲する。
突如目の前から放たれた短剣に驚き転落していく。そのお陰で軽く負傷したものは居るが未だ死傷者は出ていない。
(これがクラン『月夜の酒鬼』の『疾風の妖精』と『闇夜の麗人』か。なんたる戦闘能力)
「サイロさん」
「どうかされましたか?」
「そろそろ門を開ける準備をしたほうが良いかもしれません」
「何故ですか? 戦況的に我々が有利ではありませんか」
「確かにそうですが、私とクロエはあの者たちの相手をする事になりそうなので」
ミレーネの視線の先に居たのは圧倒的に漂わせるオーラが違う9人の魔人。それを見たサイロは直ぐに理解した。
「このままでは間違いなく城壁を登られます。そうなれば下で控えるエリーゼお姉さまたちが危険になりますから」
「わかりました。あの魔人達が行動を開始すると同時に開けましょう」
「お願いします」
まだ後方からこちらを眺めているとはいえ、いつ行動を開始するか分からない以上作戦が即座に移せるようにしておくのは定石である。
「しかし、今は目の前の敵を倒すことが先決。クロエ、なるべく温存しておいて」
「無論じゃ」
千夜の指導で身につけた事。それは如何なる敵であろうと侮るな。ということだ。その教えを守ってきたからこそミレーネとクロエは如何なる状況下でも冷静で戦えているのだ。
(ほんと私達の旦那様は凄いです)
改めて思うミレーネは狙いを定めた敵に矢を放つ。
「ミレーネ殿、貴方方のおかげで半数近くを削ることが出来ました。後は我々だけで大丈夫です。ですので貴方方はエリーゼ殿たちの許へ向かってください!」
「しかし……」
「大丈夫ですので。それにもともと国を守るのは軍人の務めですから」
「………分かりました。クロエ行きましょう」
「分かったのじゃ。サイロ殿、あとは任せたのじゃ!」
近くの敵に一撃を与えた二人はエリーゼたちの下へ向かう。
********************
城門前で待機しているエリーゼたち『月夜の酒鬼』メンバーは慌しく動き回る兵士達の姿をみて、覚悟を決める。
「そろそろのようね」
「ですね。多分ですが副官クラスが姿を現したんでしょう。それも複数」
「そうでしょうね」
「エリーゼお姉さま!」
「ミレーネどうして」
「サイロさんが大丈夫だからと、こちらに行くようにと。それと副官クラスが全部で9人です」
「そう。ミレーネとクロエ、私とエルザ、タイガー、スケアクロウ、ラッヘンで7人。誰かが二人相手する事になりそうね」
「そうなりますね。スケアクロウ、主からの指示は来てますか?」
「いえ、今のところは。ですが昨夜夜襲に備えて周辺警戒しておいてくれ。と命を受けた時に言伝を頼まれました」
「言伝?」
「はい。そっちは任せた。雑魚は兵士達に任せておけば良い。との事です」
「そう……」
「主が……」
「千夜さん……」
「千夜……」
「大丈夫ですか?」
「ええ、心配ないわ。ただ……胸の奥から湧き上がるこの気持ち。上手く言えないけど――」
「はい。大事な任務だのは分かっています。ですが、主に託された。それだけで胸が熱くなって――」
「卑怯です千夜さん。そんな事言われたら――」
「本当に卑怯じゃ。じゃが――」
「「「「嬉しいわ」です」です」のじゃ」
「それは良かったです」
(創造主様は奥方様達の士気を上げ方を熟知しているようですね)
創造主である千夜。圧倒的で規格外の力を持つ存在にして愛する存在。そんな人物が「任せた」と言われて嬉しくない妻などいない。
だからこそ、湧き上がる思いが熱を帯び、身体を熱くする。
兵士達が城門をゆっくりと開け放つ。先頭に立つ9人の魔人がゆっくりと不敵な笑みを浮かべて門を潜る。
「「エリーゼお姉さま」」
「エリーゼ姉」
「ええ、開戦ね!」
それぞれ武器を構える。
顔には恐怖も不安も無い。あるのは愛する人から任されたと言う責任感のみ。それが胸の奥を熱くさせ、心を弾ませる。
戦において言葉は武器にもなる。だが、言葉を発せせずとも、漂うオーラが伝わり、味方の士気を上げる。
「帝国軍に勝利を!!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」
(まさしく、気持ちの連鎖ですね。まあ、兵士達に奥方たちの気持ちは分かっていないようですが)
「スケアクロウ」
「何ですか、ラッヘン」
「創造主様に我らの力を見せる時ですね」
「ええ、その通りです」
「殿、見ていてください!」
それぞれ秘めた思いを胸に己が倒す敵を見据える。
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