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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第五十二幕 妻たちと殺戮舞姫
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「貴様だな。部下を大量に殺してくれたのは」
都市の入り口まで遣って来たレナードは無表情で問いかけるが、内心は確信していた。
白銀の鎧を着込み、蒼天と同じ色の髪を靡かせ、蒼槍を右手に持ち、仮面で顔を隠す槍使い。
その彼から漂う雰囲気は尋常ではないと人目にて気づいた。
「そうだ」
簡素に答える和也の返答に怒りも沸いてこない。レナードにとってそれほど部下の命は大切なものではない。それどころか戦場に立たせる機会をくれた事に感謝したい程だった。
(ようやく、レオンハルト様に忠義を示せる)
命の恩人であり、尊敬する上司に自分の忠義と力を示せる事だけがレナードの心を満たしてくれた。
「ソーナ、マイラ」
「分かってますよぉ、手出し無用なんでしょぉ~」
「仰せのままに」
「3人同時で行くぞ」
「「え?」」
レナードは冷静な判断力を持つ魔人だ。しかし、相手が強者であれば誰であろうと一対一で戦う事を望む男でもある。
十年以上レナードの側近として付き従ってきた二人はその事をよく理解している。目の前に立つ男は間違いなく強敵だと。だからこそ心から敬愛する男は一人で戦うと思っていた。いや、確信していた。
だが、レナードから発せられた言葉は右斜め上を行く意外な言葉に二人は一瞬思考停止してしまう。
「どうしてですか?」
「そうですよぉ~。レナード様なら勝てますよぉ~」
「…………」
信頼する側近二人の言葉。それは嬉しくもあり、重圧でもある。
男として格好良い所を見せたい気持ちもある。だが、目の前に立つ男に一対一で勝てるビジョンがまったく見えない。
(3人で勝てるかぐらいだろう)
見栄を張り一人で戦うか、確実に勝利を取るか一瞬悩んだが、レナードは即座に決断する。
「いや、3人同時で行く。今回の相手はそれだけ強敵だということだ」
(もしも、俺がただの風来坊でソーナとマイラが上下関係の無い仲間なら一人で走っていただろう。だが、今の俺は四天王レオンハルト様の副官にして十二神将、白殺しのレナードとして此処に居る。だからこそ俺は自分の責務を確実に果たすのみ)
欲求よりも理性を優先させたレナード。それが彼を弱肉強食の魔国軍で十二神将という地位まで押し上げた礎なのだ。
もちろんそんな冷静な判断力を持つ事をソーナとマイラは知っている。だからこそこれ以上反論する事無く、敵に鋭い視線を向けて同意するのだった。
「行くぞ!」
「「はい!」」
それぞれの武器を構え地面を駆ける。
都市ロアント城門前で今、最初の壮絶な激闘が始まろうとしていた。
********************
千夜からの指示を貰ってから一時間が経過したことだろう。ようやく都市ロアントに到着したエリーゼたちは戦闘音が聞こえる東側へと向かった。それは和也がまだ倒していなかった魔族軍半数が居る方角だった。
既に敵は視認出来る距離まで近づいている。
「エルザちゃんとエリーゼお姉さまは前衛、私とクロエは後衛、ラッヘンさんは状況判断で前衛後衛兼任で行きます!」
「分かりました!」
「了解よ!」
「分かったのじゃ!」
「承知いたしました」
各々返事をすると即座に戦闘を開始する。
音速を超える速さで近づき斬り殺し、弓矢で射殺し、闇魔法で奇襲し、再び斬り殺す。
ずば抜けた個人技能と修練によって身についた連携は遥かに和也のスピードを上まっていた。
圧倒的速さは相手が気づく頃には既に死体へと成り果てているほど。
だが、敵の数は圧倒的に多い。死体が増えるだけ相手が気づく数も増える。だが、そんな事はエリーゼたちには関係ない。気が付かれたとしても反撃される前に殺す。殺す。殺す。ただそれを繰り返す。
その姿は殺戮兵器であり、ステージの上で舞い踊り観客を魅了する踊り子。
まさしく、殺戮舞姫。
その言葉が相応しいかった。
そんな彼女たちを使い魔を使って見ている者が何時などこの時は誰も知らなかった。
********************
蒼い髪の魔人、黒い翼を持つ魔族、少女吸血鬼。
今まで戦ってきた奴等よりも圧倒的に強い存在たちが目の前に居ることに和也は心の奥から湧き上がる興奮を必死に抑え冷静さを保っていた。
何時始まるのかと待ち望んでいた和也だが向こうが動くと分かった瞬間和也も地面を蹴り駆けた。
25メートルも離れていた距離は一瞬にして零距離へと変わる。
レナードの一撃を躱し、ソーナの闇魔法を光魔法で相殺し、死角から放たれるマイラの一撃を蒼槍で受け止める。この間2秒。
まさしく一瞬の攻防が行われた。
それだけで互いの力量、実力はある程度分かった。
レナード、ソーナ、マイラの三人は警戒レベルをさらにあげ、和也は笑みを零すと同時に本能の一部を押さえ込む。
(強い。このままだと確実に死ぬのは俺だ。好き勝手に暴れている場合ではないな)
昔の和也なら好き勝手に行動していただろうが、今の和也は千夜として生きている。千夜として僅か2年以上過ごして色んな人物たちと会ってきた。仕事仲間、友人、親友と呼べる者、大切な家族。そして愛する妻たち。
和也の時には無かったもの。いや、あったが偽りだったもの。だが今は違うまさしく本物を手に入れそれを一生守り抜き共に歩んでいくと誓った。だからこそ千夜は、
(こんな所で死ぬわけにはいかない)
その瞬間和也の中にあった本能は全て封印された。その代わり心には熱く熱く燃え盛る使命感が渦巻き始めていた。
都市の入り口まで遣って来たレナードは無表情で問いかけるが、内心は確信していた。
白銀の鎧を着込み、蒼天と同じ色の髪を靡かせ、蒼槍を右手に持ち、仮面で顔を隠す槍使い。
その彼から漂う雰囲気は尋常ではないと人目にて気づいた。
「そうだ」
簡素に答える和也の返答に怒りも沸いてこない。レナードにとってそれほど部下の命は大切なものではない。それどころか戦場に立たせる機会をくれた事に感謝したい程だった。
(ようやく、レオンハルト様に忠義を示せる)
命の恩人であり、尊敬する上司に自分の忠義と力を示せる事だけがレナードの心を満たしてくれた。
「ソーナ、マイラ」
「分かってますよぉ、手出し無用なんでしょぉ~」
「仰せのままに」
「3人同時で行くぞ」
「「え?」」
レナードは冷静な判断力を持つ魔人だ。しかし、相手が強者であれば誰であろうと一対一で戦う事を望む男でもある。
十年以上レナードの側近として付き従ってきた二人はその事をよく理解している。目の前に立つ男は間違いなく強敵だと。だからこそ心から敬愛する男は一人で戦うと思っていた。いや、確信していた。
だが、レナードから発せられた言葉は右斜め上を行く意外な言葉に二人は一瞬思考停止してしまう。
「どうしてですか?」
「そうですよぉ~。レナード様なら勝てますよぉ~」
「…………」
信頼する側近二人の言葉。それは嬉しくもあり、重圧でもある。
男として格好良い所を見せたい気持ちもある。だが、目の前に立つ男に一対一で勝てるビジョンがまったく見えない。
(3人で勝てるかぐらいだろう)
見栄を張り一人で戦うか、確実に勝利を取るか一瞬悩んだが、レナードは即座に決断する。
「いや、3人同時で行く。今回の相手はそれだけ強敵だということだ」
(もしも、俺がただの風来坊でソーナとマイラが上下関係の無い仲間なら一人で走っていただろう。だが、今の俺は四天王レオンハルト様の副官にして十二神将、白殺しのレナードとして此処に居る。だからこそ俺は自分の責務を確実に果たすのみ)
欲求よりも理性を優先させたレナード。それが彼を弱肉強食の魔国軍で十二神将という地位まで押し上げた礎なのだ。
もちろんそんな冷静な判断力を持つ事をソーナとマイラは知っている。だからこそこれ以上反論する事無く、敵に鋭い視線を向けて同意するのだった。
「行くぞ!」
「「はい!」」
それぞれの武器を構え地面を駆ける。
都市ロアント城門前で今、最初の壮絶な激闘が始まろうとしていた。
********************
千夜からの指示を貰ってから一時間が経過したことだろう。ようやく都市ロアントに到着したエリーゼたちは戦闘音が聞こえる東側へと向かった。それは和也がまだ倒していなかった魔族軍半数が居る方角だった。
既に敵は視認出来る距離まで近づいている。
「エルザちゃんとエリーゼお姉さまは前衛、私とクロエは後衛、ラッヘンさんは状況判断で前衛後衛兼任で行きます!」
「分かりました!」
「了解よ!」
「分かったのじゃ!」
「承知いたしました」
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音速を超える速さで近づき斬り殺し、弓矢で射殺し、闇魔法で奇襲し、再び斬り殺す。
ずば抜けた個人技能と修練によって身についた連携は遥かに和也のスピードを上まっていた。
圧倒的速さは相手が気づく頃には既に死体へと成り果てているほど。
だが、敵の数は圧倒的に多い。死体が増えるだけ相手が気づく数も増える。だが、そんな事はエリーゼたちには関係ない。気が付かれたとしても反撃される前に殺す。殺す。殺す。ただそれを繰り返す。
その姿は殺戮兵器であり、ステージの上で舞い踊り観客を魅了する踊り子。
まさしく、殺戮舞姫。
その言葉が相応しいかった。
そんな彼女たちを使い魔を使って見ている者が何時などこの時は誰も知らなかった。
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今まで戦ってきた奴等よりも圧倒的に強い存在たちが目の前に居ることに和也は心の奥から湧き上がる興奮を必死に抑え冷静さを保っていた。
何時始まるのかと待ち望んでいた和也だが向こうが動くと分かった瞬間和也も地面を蹴り駆けた。
25メートルも離れていた距離は一瞬にして零距離へと変わる。
レナードの一撃を躱し、ソーナの闇魔法を光魔法で相殺し、死角から放たれるマイラの一撃を蒼槍で受け止める。この間2秒。
まさしく一瞬の攻防が行われた。
それだけで互いの力量、実力はある程度分かった。
レナード、ソーナ、マイラの三人は警戒レベルをさらにあげ、和也は笑みを零すと同時に本能の一部を押さえ込む。
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