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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第四十八幕 魔族対策会議と睡魔
しおりを挟む魔族対策会議当日。
朝食を終えた和也は白銀の甲冑に身を包み、ライラに追従する形で今回行われる対策会議室に足を踏み入れた。
帝国代表としてベイベルグと軍務総監に、ファブリーゼ皇国代表としてセレナとレイド、フィリス聖王国からはライラと和也、ガレット獣王国からは環とナヤタ、スレッド法国からは大使と補佐が参加しており、火の国もまた同じであった。
そして魔族との戦争の要となる勇者たち、冒険者からはXランク冒険者が率いる月夜の酒鬼が参加する事となった。
合計23名によって行われる。
しかし、国の文化や進言している事が違うため、既に一触即発となりかけていた。
(本当に上手くいくのか?)
不安要素しかない今回の会議に和也は疑問に感じ始める。
「さて魔族との戦争が停戦状態に陥って早10年が過ぎたが、最近では魔族の動きが活発化なり、既にフィリス聖王国では魔族襲撃に被害も出ている」
前口上として述べるベルグ。
(そういえばどうして魔族との戦争が停戦状態になったのか知らなかったな。あとでさり気なく聞いてみるか)
「そこで今回魔族対策会議を開かせて貰った。まず行うべきは情報の共有だとワシは考える。情報が共有できねば協力しようがないからの」
「ふん、亜人種と協力しろと。そんな時間の無駄な事をする必要があるのでしょうか。だいたいこの会議に亜人種が参加している時点でおかしいとおもうのだが」
ベルグの言葉に対して意見というより私情を口にしたのはスレッド法国の大使であった。
「ほう……ではスレッド法国は今回の会議は無意味だと?」
「無意味だとは申してはおりません。私が申しておりますのは亜人種が参加する意味があるのかと問うておるだけです」
(いきなり話が逸れたな。情報の共有に関してならどこまで開示するのかを話し合うはずだろう。まったくこっちは正体がバレる可能性もある分、早く終わって欲しいのに。どうして話を逸らすんだよ。馬鹿だろ!)
スレッド法国大使を心の中で罵倒する。
「魔族の脅威は大使殿もご存知であろう。魔族を倒すのには協力が不可欠だと私は進言しているのだが」
「確かに魔族の力は脅威としか言いようがないでしょう。しかし亜人種にいつ寝首を掛かれるかと思うとおちとち寝てもいられませんので」
「なるほど。では他の国も同意見か聞いてみるとしよう」
「ファブリーゼ皇国は全面的に協力致します」
「ガレット獣王国も協力するわ」
「我が国も協力に依存はありません」
「して、フィリス聖王国はどうお考えか?」
ベルグの鋭い視線に動じる事無くライラは口を開く。
「確かにスレッド法国の意見も一理ある」
「流石はライラ殿。話のわか――」
「しかし、それは相手も同じこと。だいたい今回の相手は魔族であって亜人種ではない。よってフィリス聖王国も協力は惜しまないつもりだ」
「なっ! それが貴国の考えなのですか!」
「今回に関しては教皇様より一任されている。使者殿に口を挟まれる理由はない」
「くっ!」
ライラの言葉に顔を顰める使者。
「では協力しあうということで文句はないな」
国とって最悪なのが孤立することだ。協力しないとなると援軍も頼めなくなるということ。それだけは避けねばならないのだ。
「勇者殿もそれで良いか?」
「僕たちは国の事に関してはよく分からないので、意見できることなどありません。ですが、全員の敵が同じなのに協力し合わないのはおかしいと思います」
シンプルかつ単純な答え。しかしこれほど分かりやすい意見もないだろう。
「さて、各々の答えが一致した所で情報共有だが、どこまで共有するのかを話し合いたいと思うが良いだろうかスレッド法国の使者殿」
「異論はありません……」
(これでスレッド法国は終わったな)
別に国が終わるわけではない。しかし会議とはいえ、これは駆け引きの場。少しでも判断を誤った者が待つのは不遇の結果しか残らない。
「ワシが思うに情報の共有の範囲は魔族に関するものだけとする。襲撃を受けた場所、出撃した兵の数、戦死者の数、必要な物資、今後の魔物や魔族の動向などの情報だ」
「それでは兵数を他国に知られることに!」
「だからなんだ? 今はいつ進軍してくるか分からない魔族どのも対処するかの話をしているのだ。そんな時にまさか他国へ進軍するような愚国が居るとでも言いたいのか?」
「そ、それは……」
ベルグが開示を求める情報はあまりにも大きすぎた。これでは他国に自軍の情報が殆ど知られることとなる。しかしここで断ればそれは魔族以外の国に進軍する意図があると疑われかねない。無かったとしてもだ。
「さて、ワシの意見に対して他に意見のある者はおるかの?」
各代表人を見渡すベルグだが、反論する者は誰一人として居なかった。
「居ないようだな。さて、次の議題だ」
和也の予想とは違い。スムーズに進行する会議。それは喜ばしいことではあったが興味の無い人間にとっては退屈でしかない。
退屈な人間がすること行動は幾つかあるが一番は居眠りである。
幾つ議題が終わったのか分からないが、気がつけば最後の議題となっていた時ようやく和也は目を覚ました。
(しまった。寝ていた)
「最後の議題だ――」
「会議中失礼します!」
慌てた面持ちでノックもせずに入り込んできた衛兵。普通であれば叱咤すべきことだが、異常な慌てようにだれも口を開かない。
「どうした?」
「そ、それが、北西より魔族軍と思われる。集団がこちらに向けて進軍してきます!」
「なんだと!」
思いがけない衛兵の一言に勢いよく立ち上がる。
「魔族どもめ団結する前に攻め滅ぼすきか! 軍務総監今すぐ軍を編成し魔族軍を対処せよ!」
「はっ!」
「各国の使者どの緊急の事態ゆえ、会議はお開きとするが構わぬか?」
「異論などありません」
「私も無いわよ」
「私も無い。副隊長もそうでっておい、何をしている!」
横に座っていた筈の和也が突如立ち上がり背筋を伸ばしている姿に驚きを隠せないライラ。
「何って魔族が現れたんだろ。なら、殺さないとな」
「フィリス聖王国の使者殿、ありがたい申し出だが帝国で起きた事、客人に手間を取らすわけには――」
「別に恩を売るつもりはない。退屈な会議で体が鈍りそうだから体を動かしたいだけだ」
「いや、しかし――」
「それに、少しでも戦力があった方があんたらも楽できるだろ」
それはある者たちからしてみれば聞きなれた口調。
アイテムボックスから取り出された蒼槍を担ぐ口調に二つのグループは驚きを隠せないでいた。
「あの槍は……」
「あれってアイテムボックス。でもアイテムボックスは異世界人しか……」
困惑広がる二つのグループだが、和也は気にすることなく、
「ライラ、少し出てくる」
「まて、カズサが行くなら私も」
「別に構わないがバレても良いのか?」
「そ、それは……」
和也が言いたいことそれはハイヒューマンである事を意味する。
七聖剣がハイヒューマンであることは格部隊に選ばれた騎士のみ。それも他言無用であり、情報流出が発覚でもすれば即死刑されてしまうのだ。
「ま、そういう訳だ。ちょっくら行って来る」
「まったく、自由な奴だな」
「それが、俺だ」
そういい残して和也は部屋から出て行くのであった。
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