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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第四十七幕 牽制と再会?
しおりを挟む謁見も終わり、メイドの案内で各部屋に案内される。が、
「すまないが、私の部屋はカズサの隣にして貰えないだろうか。補佐である彼には近くに居て貰った方が色々と楽なのでな」
「畏まりました。では、お部屋を取り替えさせていただきます」
不機嫌な顔色を一切見せる事無く美しい一礼後、メイドは一旦何処かへ行ってしまう。
(メイド長にでも相談しに言ったんだろうな)
そう推察する和也は最初に案内された部屋の椅子に座り、寛ぐ。
「それにしても豪華な部屋だな。我が国とは大違いだ」
「そりゃあな。この国は俺達の国に比べて魔物の種類や量が段違いに多い。つまり討伐される量が多いほど単価は安くなり、その分買う人も増える。そうなれば消費税は大量に入ってくる。それに他国へ移動する際には必ずと言っていいほどこの国を通るからな。また人間だけでなく他種族も暮らしている分、年間に収められる納税金も凄いはずだ」
「国が立つ場所だけでこれほど変わってくるとはまったく恐れ入る」
「ま、その収められたお金の大半が軍の武器や食料、開発費用に回されているからこの国は大陸一の軍事国家なんだろうな」
「だが、どうしてそこまでする必要がある」
「ま、一番の理由は魔族との戦争に備えてだろうが、他国への牽制する意味も含まれているだろうな」
「どうしてだ?」
「………」
「むっ、なんだその目は?」
「いや、ほんとよく七聖剣になれたなと思ってな」
「私は侮辱しているのか」
「侮辱ではなく呆れているんだよ。部下の命の行く末を決めることが出来る存在があまりにも理解力の無さにな」
「やはり侮辱しているだろ!」
憤りを表してはいるが、どこか拗ねた表情を見せるライラ。信頼の無かった時ならば打ち首になれてもおかしくない和也の言葉だが、どこか可愛らしくも感じるライラの態度に思わず笑みを零す。
「牽制する理由として一番は国の場所に関係している」
「どういうことだ?」
「帝国は大陸位置国土が大きいくにだ。その分場所も関係しているが隣国が多い国だ。そうなればそれだけ攻められる国が多いということだ。一つと戦争を始め、その隙の他の国が進攻されでもされたらたまったものじゃない。それに種族平等を掲げる国だが、中立国ではない。つまり他国同士が戦争を始めれば大義名分を理由に攻め入る事が出来るし、俺達の国やファブリーゼ皇国、スレッド法国は人間至上主義だが、帝国は種族平等を掲げる国だ。それは俺達の国からしてみればあってはならないこと。それを理由に三国連合軍で攻められでもされたら帝国は一瞬にして滅ぶだろう。だが、そうならないのが魔族の問題もあるが、大陸一の軍事力を持っているにほかならない」
「なるほどな。流石は異世界人というべきなのだろうな」
「褒められることじゃねぇよ。ま、俺が住んでいた世界には190以上の国があったからな。この世界より遥かに面倒でごちゃごちゃしていたのは間違いないな。ま、俺が学生だったからよくは知らないが」
「190……それだけの国がありながらよくも戦争にならなかったな」
「今は無いだけで俺が生まれる何十年も前には世界大戦があった。その時の総死者はたしか5000~8000万人だったか?」
「それだけの死者を出す戦争。聞いただけでも背筋が凍りそうだ」
「ま、今は二度とこんな事が起こらないよう、平和的に解決しようとしているがな」
「そうか、なら良かったな」
「……そうだな」
「す、すまない!」
悲しげな表情をする口調にライラは慌てて謝罪を口にするが、既に遅く、椅子から立ち上がる。
「少し疲れたから部屋に戻るな」
「ま、待ってくれ!」
「……なんだ?」
「別に傷つけるつもりで言ったのではない。そ、そのなんだ……つい本音が洩れたというか……その……すまない」
「気にしないでくれ。平和と聞いたら誰だって喜ぶのが普通だからよ」
「すまない……」
今にも消えそうな小さな謝罪の言葉は和也にも届いていた。だから、いや、元々ライラを責めるつもりなどない。それでも傷つく人間が居ることは確かであった。
(平和か。平和てなんだろうな。暴力が無い世界か? 負の感情が無い世界か? それって平和って言えるのか? いや、平和なんだろうな。だが、それは完全な退屈な世界だともいえるじゃないか。苦悩や辛い事があるからこそ、喜びや幸せを感じられる。片方が失えば、もう片方も機能しない。それってつまりこの余は表裏一体ってこと。だが俺からしてみればそっちの方が良かったかもしれないな。負の感情が無ければあんな事にもならなかっただろうしな)
助けた。
だが拒絶された。
人殺し。と罵られ、見捨てられた。
友人から、親友から、家族から。
負の感情によって。
(つまり、この世に全ての人間を幸せにする楽園は無く、あるのは個人のみを幸せにする楽園のみ。なんて不完全な楽園なんだ。恐ろしいな)
人間は完璧ではない。だからこそ限界がないとも言える。
しかし、それはけして辿り着くことも、作ることも不可能な楽園。
なぜなら、楽園はこの世の完結なのだから。
部屋が用意されていないことを思い出した和也は適当にぶらつく事にした。頻繁では無いにしろ、何度も来た事のある和也は迷う事無く目的地に向かう。
その場所は約一年前に見つけたこの城でお気に入りの場所。
帝都西側の景色を一望出来るベランダであった。
(ここからの夕日が好きなんだよな)
この世界に来て和也にとって、千夜にとって数少ない癒しの場所。嫌なことや辛い時だけでなく眺めているだけで落ち着く場所。
「………落ち着く」
仮面に取り付けられた蒼いウィッグを靡かせながら黄昏る和也の呟きは肌を撫でる薫風と共に何処かへ流される――
「貴方もなの?」
事は無かった。
(背後の存在に気づかないほど浸りすぎた)
無警戒になっていたことを反省しつつ振り替える。
(なっ!)
そこに居た人物たちの姿に驚く和也は声に出さなかった自分を褒めたくなった。
(なぜ、ここに居る。魔族対策会議に参加することはベルグから聞いていたが、それは明日の筈だぞ!)
和也を動揺させるほどの存在たち。それは、
「何気に人気があるのね。旦那様も個々が好きだからセレナに案内してけど先約が居たわね」
(エリーゼ)
和也を動揺させた存在たち。それは愛する妻達エリーゼ、クロエ、ミレーネ、エルザ。そしてエリーゼの友人のセレナであった。
幸か不幸か勇治たちが居ないことだけが和也の救いだった。
「エリーゼお姉様、御下がりください。この者はフィリス聖王国の者です」
エリーゼたちを守るように前に出るエルザ。その姿にきっちりと役目を果たしていることに嬉しさを感じる和也。
「エルザ、大丈夫よ。で、フィリス聖王国の騎士様がお一人でこのような所に?」
(棘のある口調だな。まさか気に入らない人間に対していつもこうなのか? いや、こうだったな。でも仕方ないな。今の俺は千夜じゃなく和也だからな)
「少し散歩をしている時に偶然この場所を見つけたので景色を眺めていただけです」
「そう。なら忠告しておくわ。あまり動き回ると不審者とまちがわれるから」
「お気遣い感謝します。それでは」
一国も早くこの場を立ち去りたい和也は一礼し逃げようとしたが、
「待ちなさい」
「……他になにか?」
「貴方フィリス聖王国の騎士よね。なのに随分と私達に対して礼儀正しいわね」
「それがなにか?」
なにかおかしいな所でもあっただろうかと怪訝に思う和也。
「フィリス聖王国の騎士が私達を見たら嫌悪や敵意を向けてもおかしくは無いのだけど。貴方からは一切感じられないのよ」
「なるほど、そういう事ですか。生憎自分は冒険者だったのでそういった偏見は他の騎士に比べて少ないだけです」
「……なるほどね」
「それではこれで」
慣れていない丁寧語。ましてや妻達に使う填めになるとは想像してもいなかった和也は蕁麻疹が出る思いだった。
「待ちなさい」
「まだ何か?」
「貴方騎士らしけど、紳士では無いわね。普通初対面の相手には名乗るものでしょ」
(ま、確かにそうだが。今の俺にそんな余裕は無いし、そういう場合は自分から名乗るものだろ。ま、面倒になりそうだから言わないけど)
「これは失礼しました。自分はフィリス聖王国、三日月の剣騎大隊長補佐兼副隊長のカズサと申します。今回は使者としてこちらに来たライラ様の補佐として来ております」
「そう、やはり貴方なのね。仮面騎士ってのは」
「エリーゼお姉様! 流石に失礼です」
慌ててエリーゼに注意するセレナだが、和也は気にする素振りを見せる事無く、
「それで貴女方のお名前は?」
「私はエリーゼ。で、こっちがクロエ、ミレーネ、エルザよ」
「私はセレナ・L・ファブリーゼと申します」
「これはファブリーゼ皇国の皇女殿下で在らせられましたか。無知な自分をお許しください」
「いえ、お気になさらずに」
慌てて謝罪を口にする和也だが、勿論芝居である。
(赤の他人に芝居するよりも遥かに疲れるな)
「それでは、これにて失礼させていただきます」
社交辞令を口にした和也はよやくエリーゼたちから開放されるのであった。
(任務終えたら少しお仕置きしてやる)
内心そんな器の小さい事を考える和也であった。
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