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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第三十四幕 ヴァイスと魂の輪廻

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 魔族軍襲撃に関しての報告を行うべく、和也はライラを追従するかたちで目的地の謁見の間の前まで来ていた。
 高さ3メートルはあろうかという扉には天から降り注ぐ光を浴びる戦乙女が悪魔を突き殺す絵が施されていた。
(その国の成り立ちや目的が描かれる事が多いが、やはり分かり易いな)
 内心そんなことを思っていると扉が軋み音を発しながら開かれる。

「先ほども言ったが失礼の無いようにな」
「分かっている」
 和也の性格を知っているライラは最後の念を押すが不安が膨らむだけだった。
 完全に開かれた扉を潜るライラの後を追従する形で和也も謁見の間へと入室した。
 ファブリーゼ皇国やレイーゼ帝国に比べて派手さ威圧感は無く、どちらかと言えばシンプルな作りになっている。それでも気品あふれる一室ではあった。特に青主体のステンドグラスは心を落ち着かせてくれるような。静けさを醸し出していた。
 それでも謁見の間で待ち構えていた者たちから発せられる異様な重圧に和也は真剣な面持ちになる。
(流石にふざけられないな)
 左側に一瞬視線を向ければ白銀の鎧を纏った5人の聖騎士が並び、右側には白を基調した服に身を包む神父やシスターが並んでいた。
 そして、玉座には金の十字架が施された帽子を被る一人の老人。その側近と思われる白銀の鎧を身につけた聖騎士と神父が数段低い場所で立っていた。
(七聖剣の一席と枢機卿だろう。であの老人が教皇だろうな)
 和也は一目でそう判断すると、跪くライラの一メートル後ろで同じく跪くのだった。

「七聖剣が一人、ライラ・オネスト。只今魔族軍殲滅から帰還いたしました」
「うむ、ご苦労であった」
 渋い声音が謁見の間に浸透する。気品溢れる声音なのだ。

「ライラよ。すでに報告は受けている。近隣の村が魔族軍に襲撃に受け、村人の救出と魔族軍撤退真にご苦労であった」
「勿体無きお言葉。恐悦至極に御座います」
「そこでだ。なにか褒美を取らそう。何がよい?」
 沈黙のひと時が訪れる。普通ならば、宰相や貴族が意見を申すところだが、この場にはそんな無粋な人間は誰も居なかった。だが、これはライラからしてみれば試練でもあった。私欲を望めばバッシングされる事は間違いく、だからと言って断ればそれも教皇の厚意を無下にしたと批判される。つまり望みを伝えるが私欲だ取られない範囲で答えなければならない。それは他国の貴族からしてみれば我慢なら無いだろう。
 しかし、ライラの一言でとばっちりを食らうのは和也であった。

「では、後ろに控えるカズヤ・アサギリを七聖剣に推薦いたします」
「ほう……」
 一瞬にして全員の視線がライラの後ろで跪く和也に集中する。
(頼むから勘弁してくれ)
 怒りすら通り越して憂鬱になる。

「理由を申してみよ」
「はっ。カズヤはファブリーゼ皇国が召喚した勇者の一人に御座います」
「それは真か?」
「はい。私と部下がステータスを確認いたしましたので、間違いないかと」
「しかし、確か仲間を庇い毒矢で戦死したと聞いておるが?」
(よくご存知で)
 教皇の一言にどれだけ内通者が潜んでいるのか疑いたくなる思いであった。

「カズヤ本人からもそう聞いております。しかし、カズヤには他の勇者には無かったスキルによって再びこの地に蘇ったのです」
「ほう……して、そのスキルとは?」
「『魂の輪廻』というスキルに御座います」
 内心個人情報を喋るな。と怒鳴りたくなる思いだったが、今はこの場から一刻も早く退散したいが為に抑え込むのだった。

「真か?」
 驚きを含んだ返しに誰もが違和感を覚える。

「真に御座います」
「そうか……よもや『魂の輪廻』を持つ者が再び現れるとはな」
 どこか懐かしげに呟く教皇の姿に驚きを隠せないで居た。
 誰もが知る教皇の姿。それは威風堂々とした態度、魔族に対しては冷徹にして冷酷。民に対しては慈悲を持って答える。この国の者からしてみれば尊敬を通り越して畏怖すら覚える存在なのだ。

「カズヤ・アサギリとか言ったな」
 教皇の視線が和也へと向けられる。

「私の名前はヴァイス・ハイル・オラーケル。この国の王だ」
 ヴァイスは淡々名乗ると本題へと移った。

「お主はどうして生き返った後仲間の勇者たちの許に戻らなかった?」
「私は一度親友だと思っていた者達。現在の勇者ですが、その者たちに裏切られたからです」
「裏切られたじゃと」
「はい。しかし、先日それは私自身にも非があった事に気づいたので裏切りという言葉は不適切かもしれませんが」
「ならば、今から勇者たちの許に戻るか?」
「いえ、既に私はライラ様の部下に御座います。一身上の都合で辞めるなど、ライラ様に失礼に御座います」
「ほう、恩義を感じていると」
「はい。私に非があることが分かったのはライラ様のおかげですので」
 嘘ではない。しかし、辞めない理由は別にあった。
(止めたら依頼達成が困難になるからな)

「そうか……さて、話が逸れたな。カズヤよ。ライラはお主を七聖剣にしたいと申しておる。確かに報告では今回の魔族襲撃の首謀者、貴族吸血鬼を一騎討ちのすえ討ち取ったと聞いて居るが間違いないか?」
「間違いありません」
「ほう、それは凄い。この世界に来て僅か一年弱で貴族吸血鬼。それも存在進化に至っていたであろう首謀者を討ち取るなど武の才能に恵まれて居るとしか言いようは無いのう」
 どこかご満悦なヴァイス。

「教皇様、そのことについて訂正しても宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
「首謀者は確かに貴族吸血鬼にて間違いありません。しかし存在進化には至っておりませんでした」
「なんじゃと。それは真か?」
「はい。私には解析というスキルを所持しております。死ぬ間際にもう一度確かめて見るとレベル239と脅威ではありましたが存在進化には至っておりませんでした」
「では、ライラが倒せなかったのは何故だ?」
「奴は称号持ちでした。それも複数持っている事が発覚したのです。それを発動していたせいでライラ様でも苦戦したのではないかと推測致します」
「そうであったか……。じゃがライラが苦戦した相手を倒したのだ。それでも素晴らしい功績だと言えるがの」
「そのような事はありません。ライラ様は七聖剣でもありますが。三日月の剣騎の大隊長でも在らせられます。ましてや一騎討ちを行ったのは戦場のど真ん中。部下に指示を出し気配りもしながら戦うなど、私には到底行えません。それに私は目の前の敵に集中するだけでしたので」
「そうか。しかしどうしてそこまで七聖剣になることを拒む」
「理由は幾つかあります」
「申してみよ」
「まず、一つは他の七聖剣の方がに比べて遥かに実力で劣るからです。もう一つは入隊して間もない私には信頼など皆無。それでは他の者の反感を買うだけかと」
「確かに一理あるな……」
 顎に手を当てながら考え込むヴァイス。

「教皇様、恐れながら申し上げます。確かにカズヤはまだ実力的に私達に劣りますし、信頼も皆無に等しいです」
(人に言われると辛いから止めてほしいな)

「しかし、将としての器は確かです。戦場での状況把握。いつ如何なる時でも我を失わない冷静さ。カズヤにはそれがあります!」
 ライラは必死になって和也の長所を語る。

「確かにお主の部下が怒りで冷静さを失いかけた時、一人だけ冷静だったらしいな」
「その通りです」
「しかし、首謀者との一騎討ちでは冷静さを忘れていたとも報告を受けておるが」
「そ、それは……」
 ヴァイスの言葉に口ごもる。

「その通りで御座います教皇様。私はまだまだ未熟。ですのでライラ様の部下として精進したいと考えております」
「本人はこう申しておるが?」
「……私に依存はありません」
「そうか。なら、カズヤ・アサギリの七聖剣への資格は保留とする」
 その言葉に誰もが驚愕表情を浮かべる。
 普通ならば無かったことになる。しかしヴァイスから発せられた言葉は保留。つまり他の誰よりも七聖剣になる素質がある証拠なのだ。
 その言葉に和也は憂鬱さがますのであった。
(勘弁してくれ)
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