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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第二十六幕 ヘロンと壊す

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「お久しぶり。それとも初めましての方が良いかな? 初対面だし。ま、どっちでもいいや~。どうせ直ぐ殺すんだし」
 子供のような仕草をしたかと思えば一瞬にした身体が硬直するほどの殺気がライラたちに向けられる。
(この重圧やはり貴族吸血鬼だ。千夜の時だと力の関係上そこまで感じはしなかったがこの姿だと身体が重く感じる)
 予想していたより危険な状況に陥った事に和也の額に一滴の汗が伝う。

「本当ならね。僕は観戦してるだけだったんだよ。でもね思った以上に君達がやるから仕方なく僕が君達の相手をしてあげるよ」
 殺害予告しているとは思えないほど満面な笑みを浮かべる青年。

「貴様が魔族どもに村を襲わせたのか」
「そうだよ~。理由は二つ。一つは僕の望みを叶えるため。もう一つは~……」
 青年はライラに視線を向ける。

「暇だったから」
「っ!!」
 一瞬にしてライラの魔力が膨張し爆発する。それは風圧となって敵味方関係なく襲う。

「ライラ落ち着け!」
 和也は慌ててライラを宥めようとするが。

「カズヤは黙っていろ。奴は私が殺す」
(クソッ! 完全にブチギレてやがる!)
 近づくこともままならないほどの怒気を含んだ魔力。和也は直ぐにライラの説得を諦め頭上に笑みを浮かべる青年に視線を向けた。

「おい」
「君か……」
(どういうことだ。俺に対してだけ以上に敵意を向けてくるのは)
 疑問に感じながらも優先事項を果たす。

「お前の名前はなんだ?」
「そうだったね。まだ名乗っていなかったね。でも名乗る必要があるかな~どうせ殺すんだし~」
「………」
「あはは! 冗談だよ! 冗談。僕の名前はヘロン・グルーミー。グルーミー伯爵家現当主さ」
(伯爵家当主だと……)
 思いがけない答えに和也の目は見開かれる。

「そうだよ。無能だった父と兄を殺して僕が当主に君臨したんだよ~。凄いでしょ!」
 自慢気に答えるへロン。

「ああ、凄いよ。俺の想像以上だよ」
「人間に褒められても嬉しくないけど、そうでしょ~」
「ああ、俺が想像していた以上に屑だったことにな」
「ふう~……」
 一瞬にして満面の笑みがゴミでも見るような目に一変する。

「どうしようかさっきまで悩んでたんだけどやっぱりお前は僕が殺す」
「そうかよ。だけどな」
「ん?」
「余所見してて平気なのか?」
 不適な笑みを浮かべる和也。

「は? なに言って――」
「ここで塵と化せ、吸血鬼!」
「あぶなっ!」
  突如地上から放たれた槍がへロンを襲う。しかし僅かな所で躱される。

「まったく危ないな~」
 呑気に呟くへロンだが目が完全に憤りを宿していた。

「っ!」
 頬を伝い落ちる何かを感じへロンは手を当てると、そこには真っ赤な鮮血で染まっていた。

「へえ~……僕の顔に傷をつけるなんていい度胸だね」
 顔からも完全に笑みが消え、ただ怒りで歪み始めていた。

「それにしても観戦しているときはそんな槍もっていなかったのにね」
「生憎と私の優秀な部下の中にはアイテムボックス持ちがいるからな。どこかの吸血鬼の部下と違ってね」
 優越の笑みを浮かべるライラ。
(大人気ないぞ)
 内心そんな事を思う和也である。

「それに私は元から剣ではなくカズヤ同様槍使いだ」
「そうだったんだ」
(ん?)
 へロンの返答に違和感を感じる和也。

「この教皇様より授かりし聖槍、グングニルをもって貴様を断罪する」
 槍で断罪するんだ。と和也は思ったがそれは無粋と言うものだろうと直ぐに思考を切り替える。

「七聖剣は全員、聖剣や聖槍を授かったと聞いてるけど本当だったんだね」
「よく調べているな」
「まあね」
(いや、調べたんじゃない。正確には誰かに聞いたんだ。いったい誰だ。まさか魔族と内通するものが王都にいるのか)
 どうやら思わぬところで暗躍していることを知った和也ベルグたちに報告するか悩む。
(今考えても時間の無駄だ。帰ってから改めて調べてみるとするか)
 和也は一旦保留にするとゆっくりと落下してくるへロンに集中する。
(いったい何の魔法だ? それとスキルか称号のどれかだろう)
 超解析を使ってみるが、
(駄目だな。レベル差何も見えない。ん? 見えない……もしかしたら)

「ライラ気をつけろ。その吸血鬼も存在進化を至っている恐れがある」
「なに!」
 和也の言葉に驚愕するライラは今以上にへロンを警戒する。

「やっぱり君は危険だ。さっきもいったけど本当ならすでに君たちは全滅してるはずなんだ。でも何故かこっちが危機的状況に陥っている。それは君が原因なんだよ。君がそうやって助言し、士気を高めるから狂ったんだよ。まったく君はどこまで僕の計画を邪魔すれば気が済むんだよ!」
 これまで溜まっていた怒りが爆発する。
 膨大な魔力と殺意が和也一人に放たれる。
(くっ! さすがにこれは)
 予想以上の風圧に吹き飛ばされそうになるが、足に力を込めて何とか押し止まる。

「……だから、言っただろ。お前の計画を壊すって」
「やっぱり、お前はここで殺す!」
 不適な笑みを浮かべて相手を挑発する和也に口調まで変わってしまったへロンは和也めがけて地面を蹴るのだった。
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