139 / 351
第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第二十五幕 囮と思ってるのかな~
しおりを挟む戦場を駆け抜ける蒼槍使いは誰よりも速く確実に敵を屠る。その姿は味方であれば心強く。敵であれば恐怖の対象でしかなかった。
そんな彼の背後を護るのは七聖剣が一人、ライラ・オネスト。
人間でありながら人外の力を手にした女騎士と異世界の少年は敵陣のど真ん中で戦っていた。
「まったく何時になったら終わるんだよ」
あまりの多さに呆れる和也。
「そう嘆くな。これも作戦だ」
「分かってるけどさ……」
和也自身も理解している。だからといってやる気が上がるかと言われればそうではない。
数十分前のこと、幾度の突撃で敵勢力を半減させた三日月の剣騎。しかしそれは相手に馴れと耐性を与えた。その結果、突撃に成功しても敵を倒せる量が減っているのだ。
ライラ自身も何度成功するとは思っていなかった。逆にこれほど成功したことに内心驚いていたぐらいだ。だがそれもここまでであり、ライラは第二の作戦を提案した。それは、
「私とお前だけは敵陣中央に残り囮になり、その間にラケムたちが外から攻撃する。お前だって賛成したではないか」
「いや、確かにそうなんだがな。まさかここまで囮に釣られるとは思っていなかったんだよ」
作戦実行前に賛成した自分を殴りたいと思いながらも和也は的確に近場の敵を突き殺す。
「お前が見誤るなんて珍しいな」
出会ってからそこまで親しくないにしろライラは和也がどういった人間なのか理解しているつもりでいた。
(沢山戦えるから賛成したなんて言えないな)
本能に従った事が裏目に出たことに後悔する。
「それにしても以外だったよ」
「何がだ?」
「いや、ラケムが囮作戦に賛成した事にだ」
「奴なりに考えた結果だろう。特に今回の囮役は生存可能性の高い者が適任だったからな。そうなれば私とカズヤぐらいしかいないだろう」
「ま、確かにな」
ラケムと和也、ラケムとライラという組み合わせもあったが、生存確率が高いのと部隊を指揮する関係上この二人になったのだ。
「だが、それにしたって本当多すぎだろ!」
半分以下になったとはいえ、それでも四千弱はいまだにいる。半分にしても二千弱。それだけの敵を倒さないといけないと考えると和也は億劫になりかけていた。
(千夜なら楽勝なんだがな……)
最強の力を都合の良いときだけ欲する和也である。
「安心しろ。それももう終わりのようだ」
笑みを浮かべて和也に投げかける。
「そのようだな」
地鳴りを起こす蹄、轟く雄たけびを肌で感じた和也もようやくかと笑みを浮かべ、襲い掛かる敵の喉を突き刺す。
「ライラ様! ただいま任務を完了致しました!」
互いに目視できる距離まで接近した時、ラケムが弾んだ声で叫ぶ。
「よくやった! カズヤ行くぞ!」
「分かってるよ!」
真横を駆け抜けようとする三日月の剣騎に合流したライラたちはそのまま中央から左翼に向けて突撃を開始した。
ライラと和也の囮に釣られた敵は密集しており勢いのある三日月の剣騎によって薙ぎ払われ、吹き飛ばされ、踏みつけられていく。まるでドミノ倒しの一部だけが倒れているかのような光景だ。
敵陣を突破し反転した三日月の剣騎。
「よし! このまま行くぞ!」
「させると思ってるのかな~」
「っ!」
鼓舞するライラの上空に突如現れた青年。
藍色のセミロングに紅に輝く瞳を持つ青年は一人の少年をただ睨み付けていた。
「ようやくお出ましのようだな」
和也もまた空から見下ろす吸血鬼を不適な笑みを浮かべて見上げるのであった。
0
お気に入りに追加
10,102
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。