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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第二十三幕 重装歩兵とアホか
しおりを挟む三日月の剣騎は雄たけびを上げながら敵陣右翼へと突撃を開始ししていた。
「フフ、あれほどの力を隠していたのはな。いや、あれもまだ準備運動程度だろうな」
「凄い……あれほどの技をあの歳で己のものにしているとは。それ以前にこの世界に来てまだ一年と少しの筈だ」
「どうやら、カズヤは生まれてくる世界を間違えたようだな」
「遺憾ながら私もそう思います」
ライラたちは和也に聞かされた内容でしか、和也が生まれた世界を知らない。しかし、遠目からでもはっきりと分かる和也の戦闘能力の高さにそう思ってしまう。
「皆の者、カズヤが敵の一角魔族を一騎討ちにて討ち取ったぞ! この機に魔族を殲滅するのだ!」
「「「「「「おおおおおぉぉぉ!!!」」」」」」
和也の勝利が騎士たちの士気を上げる。それを肌で感じ取ったライラも煽るように叫ぶ。
「突撃!」
「「「「「「おおおおおぉぉぉ!!!」」」」」」
和也と一角魔族の一騎討ちに注目し、倒されたことに動揺していた敵陣右翼は目の前から迫るライラたちに気づくのが遅れる。それは突然現れたように感じられただろう。そんな彼らに三日月の剣騎を止めることは出来なかった。
再び勢いを手にした三日月の剣騎は右翼を突破し、すぐさま反転すると和也と合流すべく背後から敵陣中央に突撃を開始した。
「魔族どもを殲滅せよ!」
「「「「「「おおおおおぉぉぉ!!!」」」」」」
士気は下がる事無く、むしろ先ほどよりも上がる三日月の剣騎たちはいつも以上に力を発揮していた。が、
「ソウ何度モ、上手ク行クト、思ウナヨ!」
「ライラ様、魔族の重装歩兵です!」
三日月の剣騎の前に立ちはだかったのは高さ1メートル弱はある分厚い盾と鉄の棍棒や斧を持つ魔族兵だった。
先ほどの一角魔族ほどではないにしろ、全員が2メートルを超える隆々筋骨の魔族。少しでも怯み、速度を落とせば盾と後続から来る味方によって押し潰される事は目に見えていた。
「怯むな! 我等は三日月の剣騎! 教皇様より授かったこの名と我等を見守り下さる神に、その勇姿を見せるのだ!」
「「「「「「おおおおおぉぉぉ!!!」」」」」」
部下の士気が落ちることを恐れたライラは先頭に立ち鼓舞する。それが部下の心を刺激し、猪突猛進ぎみに重装歩兵に向かって突撃する。その光景を第三者が見れば、勇猛か愚者のどちらかを思うだろう。
「まったくアホか」
「「「ギィヤアアアァァ!!」」」
ライラたちが突撃する直前、突如重装歩兵が倒れる。その光景に目を見開きく。
「カズヤ!」
原因を作った名前を弾んだ声でライラは叫ぶ。
「そのまま突撃しろ!」
和也の叫びを即座に理解したライラは笑みを殺し真剣な面持ちで魔族軍中央に突撃した。
その突撃に巻き込まれるかとライラは思ったが、突撃の流れに乗りいつの間にか飛矢と化した三日月の剣騎に合流していた。
「まったく重装歩兵に突っ込むとかアホだろ」
しかし、合流した和也から吐かれた一言は賛辞では無く罵倒だった。
「むっ、何が不満なのだ。士気が高い今なら突破は難しいことでは無いはずだ」
「確かに突破は出来ただろうな」
「なら、何が不満なのだ」
納得がいかないライラは噛み付くように和也に問う。それは他の部下達も同じだったのか嫌悪感を放っていた。
「状況把握不足とその決断にだよ」
「どういうことだ」
自分が出した決断に不満を持たれた事だけでなく、淡々と指摘する和也に怒気を含んで再び問い返す。
「俺達の部隊は千弱だ。それに加え相手は一万に届く兵力だ。確かに最初の突撃で2割削れた事は賞賛に値するが、それでもまだ圧倒的に戦力差が違うにも拘わらず、重装歩兵に突撃するとかアホとしか思えなかったんだよ。どう考えたって間違いなく味方の戦力を減らしていただろ」
「うっ」
和也の指摘にライラは何も言い返せなかった。それだけ的を射た指摘だった。
「それでもこの兵力でここまで出来るライラは凄いとしか言えないけどな」
「そ、そうか。それは……ありがとうな」
突如褒められたことに戦場のど真ん中である事を忘れ頬を赤く染める。それでも身体に染み付いた戦闘が勝手に敵を屠って行く。そんなライラの姿にラケムはなんとも表現しにくい表情を浮かべていた。
(ライラ様、嬉しいのは分かりますが追い詰めたのもカズヤですよ)
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