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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第二十幕 グレーと殿
しおりを挟む「これより、王都へ帰還する!」
ライラの合図のもと、救助した村人達をつれて後方にある仮設作戦本部へと向かう。重軽傷関係なく馬に二人乗りするかたちで出発した三日月の剣騎たちは崩れ果て、蹂躙されつくされた村を立ち去る。
徐々に遠く、小さくなっていく村が見えなくなるまで見つめる村人達の目には悲しみと魔族に対する恨みが宿っていた。
そんな彼らに肩越しに視線を向ける和也は思う。
(恨みは恨みしか生まないか)
直ぐに切り替え敵意を持つ者がいないかマップを使い徹底的に調査する。
(ん? グレーだと)
マップに表示された一つの存在。その色は赤でも黄色でも増してや緑でもない。色は灰色。グレーである。
その意味するのは、
(洗脳された者)
和也は直ぐに答えに行き着く。
洗脳された者とは、催眠術や幻惑魔法などで植えつけられた偽の記憶。または意思である。
洗脳にはいくつか種類があり、対象者に対して敵意を植え付ける物や、敵意はなくても殺さなくてはならない。ここに心あらず状態にする、この二つである。で、今回は後者である。洗脳されてあろうと敵意を持つ限りマップには赤で表示される。そのためグレーは本当の意味で術に掛かっており、また色々な意味で面倒な相手なのである。
(あの貴族吸血鬼の仕業だろうな)
反吐が出ると思いたくなる和也。
(今は監視だけして様子見だな。どういった無いようで術に掛かっているのか分からないしな)
和也は一度、術に掛かった村人に視線を向ける。
稲穂のような長髪に、ソバカスが印象的な村娘。唯一若者である。
術にかかった正体をしった和也の眉間に皺が寄る。
(あの貴族吸血鬼完全に遊んでやがる)
口調からして面白いことが好きそうな奴だとは思っていた和也だが、まさかここまでするとは思っていなかった。
(いや、平然と魔族を囮にするような奴だ。これぐらいあたりまえだな)
そう結論付けた時、和也の脳内に電気がはしったように閃く。
「なるほどな」
不適な笑みを浮かべて誰にも聞こえない声量で呟く。
重軽傷者も居ることも考え、速度はそこまで出ていないが、迅速に目的地へと向かおうとする。が、
「「きたな」ようだな」
和也とライラの呟きが重なり合う。
「全隊臨戦態勢をとれ! 敵がやってくるぞ!」
ライラの一言で、村人達は恐怖が、騎士たちは無表情ではあるが怒りを瞳に宿していた。
「殿は私の部隊が務める! 他のものは第三部隊と合流した後即座に王都へ向かえ!」
「ライラ様が殿を務める必要はありません! 殿は我々の部隊が!」
「私の第一部隊以外は村人や負傷でまともに殿を務められるものが居ないだろうが!」
「それならライラ様は我々と共に!」
「馬鹿者! この三日月の剣騎の隊長であり七聖剣の私が部下を置いて逃げられる訳があるか!」
怒鳴り散らすかのように己の思いとともに喝を飛ばす。
「これは隊長命令だ! さっささと行け!」
「………分かりました……お前達ライラ様の指示に従うのだ!」
「「「「「はっ!」」」」」
最初と同様に大声で判事はする。しかし何人かは掠れており、涙を流していた。
そんな彼らの姿を視界の隅で傍観していた和也は、勝手に隊長を殺すなよ。と思いながらもある人物に念話を飛ばす。
(スケアクロウ)
(何でしょうか創造主様)
(第三部隊と合流する第二、第四、第五、第六の行動を監視し、魔族と戦闘になった場合や面に助太刀しろ)
(よろしいのですか?)
(奴らに死なれては俺の目的に支障をきたす恐れがあるからな)
(かしこまりました)
(念のためグレータースケルトンたちにも戦わせろ)
(畏まりました)
指示を出し終えた和也は一旦軽く深呼吸をするとライラと並ぶ形で敵が進行してくる方角を睨み付ける。
(多いな)
真っ赤に染まったマップを見て思う。しかし、和也の表情は嬉しそうに嗤っていた。
「カズヤ、今回はお前に私の背中を預ける」
「存在進化を果たしハイヒューマンとなったライラの背中を守る必要があるのか?」
「つべこべ言わずに従え」
「分かっているさ。さて、お出ましのようだぜ」
地鳴りのごとく轟く進軍音。そんな魔族たちの姿を目視で確認した二人は互いに鑓と剣を構えるのであった。
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