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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第十幕 情報統制と棘

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 次の日、バルディに情報を貰った千夜は書斎に篭っていた。
 情報の整理と有無を確かめるのもあるが、千夜にとって一番気がかりだったのは情報の少なさである。

「徹底的に情報統制しているな」
 最初に出た結論が呟かれる。それだけ情報が少ないのだ。
 情報をまとめると大まかに3つである。
 一つ目は、代表する騎士が7人居ること。
 二つ目は、7人のうち、女性は二人だという事。
 三つ目は、各分野のスペシャリストだということだ。
(何がスペシャリストなのか分からないが、予想だと格戦闘だろう)
 千夜の推測が正しいかどうかはフィリス聖王国に行ってみないと確かめようが無い。
 しかし、千夜が行くには大きな問題があった。
(この見た目だよな)
 千夜は種族でいえば鬼だが、現在は混合種としてとうしているため、どうしても無理があるのだ。
(国ごとで亜人種や魔族対する法律が違うからな)
 レイーゼ帝国は亜人も人間も平等に罰せられる。しかしフィリス聖王国では、どんな理由であろう人間に手を出せば即死罪という無茶苦茶としか言いようが無い法律があるのだ。
(俺一人でなら、何の問題も無いだろう。しかしそうなるとエリーゼたちがな……)
 一番手っ取り早い策は一人でフィリス聖王国と戦う。つまり戦争である。しかし、それはエリーゼたちに心配をさせるため愚策と言わざるを得なかった。それに今回は情報収集が主な依頼内容であるためフィリス聖王国の者たちと戦う必要はないのだ。
(だからといってエリーゼたちを連れて行くわけにも……)
 千夜同様にエリーゼたちも冒険者として有名なため連れて行くのに憚られるのだ。
(やはり、一人で行くしかないだろうな)
 千夜はエリーゼたちが悲しむ姿が脳内に過ぎるか心を鬼にしてそれを振り払う。
(行く理由はバルディから貰った情報でどうにかなるだろう。ま、本当だったらのはなしだが)
 バルディが齎した情報の中にはフィリス聖王国が兵を募集しているという情報だ。
(一応入団テストはあるらしいが、なんとかなるだろう。問題は……)
 懐から出したとあるペンダント。それは以前サンクリード達がこの都市に入国する際に使用した変化スキルが付与されたペンダントだった。
(よりにもよってどうしてあの姿に)
 千夜は嘆息する。

「仕方が無い。今回は我慢するとしよう」
 諦めが肝心と己にきかせるのであった。
 次の日早朝、千夜はこっそりと屋敷を抜け出す。勿論エリーゼたちに見つからないがためだ。

「すまないな。お詫びは帰ってからちゃんとするから、我慢してくれ」
「何を我慢しろって言うの」
「え、エリーゼ」
 大通りに差し掛かろうという所で千夜は立ち止まった。正確には道を塞がれたというべきだろう。

「どうしてここに居る?」
「妻である私達が気付かないと思ったの?」
「それもそうだな」
 心配そうな面持ちでありながら怒気が含んだ問いかけに千夜は全て納得した。

「また、一人で行こうとするのね」
「愛するお前達を危険な場所に連れて行くわけにはいかないからな」
「そんなに私達が信用できないの?」
「そうではない」
「なら、私達も連れて行って」
「駄目だ」
 まっすぐ言い放つ千夜。その言葉でエリーゼだけでなくミレーネたちまでもが何時泣き出してもおかしくない表情を浮かべる。

「そう言うと思ったわ」
「………」
 怒気すら含まれなず、純粋な悲しみだけの返答が千夜の心に突き刺さる。

「ねえ、旦那様」
「なんだ」
「本当に私達の事を愛しているの?」
「当たり前だ」
「なら、私達のことを心から信頼してる」
「もちろ――」
「嘘ね」
 千夜の返答が完遂する前にエリーゼによって邪魔される。

「旦那様は私達の事になると一生懸命になってくれる。本人以上に怒りを顕にしてくれる。でも、心から信頼はしていない」
「微妙に矛盾していないか?」
「してないわよ。相手のためなら何だって出来る。けど、相手を信頼しきったわけじゃない。ううん、少し違うわね。信頼して欲しいからなんだってする。違う?」
「………」
 エリーゼの問いに千夜は言葉を返せなかった。それが肯定を現している事を知っておきながら。

「私達は心から旦那様を愛しているし、信頼している。なのにどうして私達を心から信頼してくれないの?」
 それはまるで悲しみの叫びであり、懇願であり、問いかけ。

「………」
「やっぱり、答えられないのね」
「………」
「ねえ、旦那様」
「なんだ?」
「何を隠しているの?」
(っ!)
 突然の質問に千夜の心臓は大きく跳ね上がる。
 それでも表情に一切出さなかった事を幸運に思う千夜。

「私達が気付かないと思った。勇者の子が言っていた事。セレナがあなたについて調べていた事、ガレット獣王国の女王との密会。これだけ気になる事があるのに私達が気付かない無いわけ無いでしょ」
「…………」
「ねえ、お願い。教えて旦那様」
 再びの懇願。しかし、千夜は黙ったままエリーゼたちの横を通り過ぎようとする。



「私達はけして拒絶しないわ」


「っ!」
 すれ違い座間に呟かれた一言で千夜の心の奥底で未だに突き刺さっていた棘が抜けようとする。

「この世に絶対などない」
「そうね。絶対はないわ。でもね、絶対に救えない絶対も無いと思うわ」
「…………そうだな」
「待ってる。旦那様が帰ってくるその日まで。旦那様が真実を、本当の事を語るまで待ってるから」
 涙を我慢する音が、奥歯を噛み締める音が、聞こえる。しかし、それはエリーゼたちのものではない。

「……ああ、帰ったら話す。だから、すまないが待っていてくれ」
「ええ、私達は旦那様の妻なんだから」
 こうして千夜はフィリス聖王国へと向かうのであった。
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