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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第九幕 終わったはずと忘れられた
しおりを挟む模擬戦が終了した千夜たちは気絶した勇治たちをベイベルグたちに任せて王城を去ろうとしていた。
「お久しぶりですね」
「ああ、そうだな」
そんな千夜たちの前に現れたのはファブリーゼ皇国第一皇女、セレナ・L・ファブリーゼだった。
「元気そうですね」
「ああ。楽しい新婚旅行だったぞ」
「そうですか……」
千夜の言葉に何処か悲しげな返答をするセレナ。
(終わったはずです。それなのにどうしてこんなに胸が痛いのでしょうか)
「どうかしたか?」
「い、いえ。なんでもありません」
「そうか。悪いがベイベルグに頼まれた依頼があるからな」
「そうですね……」
(ここで別れたら次は何時会えるのでしょうか。いえ! そんなこと考えてはいけないわ! 私の恋は終わったのだから……)
強く握り締める。
「じゃあな」
「はい、ごきげんよう……」
セレナは想いを告げることは出来ないまま千夜を見送るのであった。
我が家へと戻ってきた千夜は妻たちとともに湯船に浸かっていた。
「やはり、風呂は良いな」
「そうね。それより旦那様はこれからどうするの?」
「まずは情報収集からだな。なにも分からないまま近づくのは危険すぎる。明日にでもバルディのところに行って情報を貰ってくるつもりだ」
「その話じゃないわ!」
「他に何があるんだ?」
「セレナの事よ」
(その事か)
「彼女、どう見ても旦那様に惚れているわよ」
「そうなのか?」
勿論千夜も薄々だが気付いていた。しかしここで正直に答えるわけにはいかなかった。
(セレナは俺の秘密をしる数少ない奴だからな)
エリーゼたちにすら話していない事。それは千夜とは和也が想像したアバターの姿であり、千夜の中にある魂は和也ということだ。
「で、セレナが告白してきたらどうするの?」
「断るつもりだ」
「どうしてよ」
エリーゼにとってセレナは妹みたいな存在。そんな彼女が愛する夫に恋をした。普通なら憤りを感じる所なのかも知れないがこの世界は一夫多妻制が当たり前の世界。ましてや千夜の姿、強さ、正確を知っているものならば千夜に惚れてもおかしくは無いとエリーゼは思っていた。そのため千夜から言葉にどうしても納得がいかないのだ。
「理由は幾つかある。一つ目はセレナがファブリーゼ皇国の第一皇女だという事だ。俺は何処の国にも忠誠は誓っていないが、それでも俺はこの帝国が好きだし、離れるつもりも無い。二つ目はセレナは皇族で俺が平民という事だ。確かに俺には財力も戦闘能力もある。彼女を守り安心した生活を送らせる自信もある。しかしそれをよく思わない連中だっている。特に貴族とかはな。三つ目はフィリス聖王国ほどじゃないにしろ、ファブリーゼ皇国も人間至上主義だ。そんな皇国の皇女様が人間ではない俺と結婚なんてしたらこの帝国にすら迷惑をかけるおそれがある。最悪戦争だってありえるかもしれない」
「それは……」
(ま、一番の理由は俺の事を知っているセレナと結婚すれば、勇治たちに気付かれる恐れがあるからな)
「だから俺はセレナが告白してきたとしても受けるつもりはない。勿論、ガレット獣王国の女王のように王族として生きる事を諦めて貰えるなら考えない事ないが」
勿論可能性の話である。異世界から勇者を召還させるほどの少女をファブリーゼ皇国が認めるわけがないと考えるからこその発言でもある。
「分かったわ。これ以上この話はしないわ」
「そうか」
その後千夜たちは気まずい雰囲気を解消するべく身体を洗いっこするはめになる。
(そういえば、何か忘れているような……まあ、大丈夫だろ)
奏との約束を忘れる千夜であった。
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