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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。
第八幕 勇者パーティーVS月夜の酒鬼 終盤 二
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エルザたちが正利と戦っている頃、エリーゼとミレーネは怒りで冷静さを失った勇治と戦っていた。
威力もスピードも段違いに上がった勇治の斬撃。しかし、エリーゼは淡々といなしていく。
上段からの攻撃なら、躱すか受け流し。中断から横一文字には剣で受け止める。
躱す事も可能な攻撃にも時々付き合うエリーゼ。これにはきっとエリーゼの思うところがあるのかもしれない。
(ごめんなさいね。大切仲間を傷つけて。でもね、これも貴方たちが強くなるためなの。私たちの世界の問題に巻き込んでしまったお詫びなの)
憤怒させる事がお詫びなんて、誰も納得はしないだろう。しかし、死んで欲しくないからこその所業と思ってもらいたいと心から、そう願うエリーゼであった。
「エリーゼお姉さま。そろそろ」
「ええ、分かってるわ」
後方で控えるミレーネの言葉に勇治から視線を逸らす事無く応答する。
「もっと強くなりなさい!」
叩き斬る思いで振り下ろされた剣が再び持ち上げられる事は無かった。
振り下ろされた剣を躱しすと剣の腹で剣を握る勇治の手を叩いたのだ。
痛みに顔を歪める勇治は痛みで力が入らなくなり剣を落としてしまう。それでも勇治の闘志の炎が消える事はなく、痛みで手を押さえながらもエリーゼ睨み付けていた。
「人を恨むな、憎むな。とは言わないわ。でもね、けしてそれに呑みこまれちゃ駄目よ。大切な者を守りたければ強くなりなさい。その憎しみと恨み。そして悔しさが貴方を強くする。二度と味わいたくない。という願望によってね」
「何を言っている! お前たちは真由美を紅葉を!」
「殺してはいないわよ」
「え?」
怒りで周りが見えていなかったのか勇治は呆けた返事をしてしまう。
「貴方たちの大切な仲間は旦那様が治癒魔法で傷を癒しているわ。それでも目を覚ますのは明日になるでしょうけどね」
エリーゼの言葉に勇治は千夜の方に視線を向ける。
そこでは奏が真由美たちの傍で看病している姿があった。
その姿に安堵する勇治だが、
「ぐはっ!」
突如、腹部に鈍痛が襲う。全ての空気を吐き出すだけではなく、食べたものまで吐き出していた。
「い、いきなり……何を…する」
腹部を押さえ蹲りながらもエリーゼを見上げる。そこには真顔で見下ろすエリーゼの姿があった。
「何を言っているの? まだ終わってはないわよ」
「それはこちらの台詞だ。俺は武器がない。その時点で――」
「ほんと旦那様が言っていた通り甘いわね」
「な……に……」
「これは模擬戦よ」
「そう……だ……」
「つまりは戦場での戦いを想定した戦いなの。つまりこれは試合じゃない。決闘でもない。死なないだけで、ここは立派な戦場なの。分かる?」
「………」
「戦場で武器を落としたから見逃してくれ。なんて甘いわよ。武器が無いなら木で戦えば良い。木が無いなら素手で戦えば良い。接近戦が無理なら魔法で攻撃すればいい。魔力が尽きたなら石を投げれば良い。いかなる時でも生きる事を諦めてはならない。そのためには周りの状況把握を怠ってはならない。それが戦場よ」
鋭い視線で相手を見下ろすエリーゼ。その姿に勇治は恐怖した。
「僕の負け――」
「何を言っているのですか?」
「え?」
「エリーゼお姉さまが言っていたでしょう。どんな状況であろうと生きる事を諦めてはならない。これは確かに模擬戦で死ぬ事はありません。しかし貴方はここで諦めるのですか? それはつまりここが戦場ならば貴方は生きる事を放棄すると同義ですけど、よろしいのですね?」
笑顔で語りかけるミレーネ。その姿はとても戦場とは不釣合いの美しさを醸し出していた。
しかし、その言葉で勇治の心に覆っていた影は綺麗に消えていた。
「ああ、そうだね。ここで諦めたらどこでも戦えなくなる。そんな事では舞おう討伐なんて出来るはずが無い」
体中から悲鳴が上がるが、己自身を鼓舞しながら勇治は立ち上がる。
「それでこそ、勇者殿ですよ」
勇治は拳を構える。
「エリーゼお姉さま、ここは私に」
「ええ、好きにして良いわよ」
まるで玩具の譲り合いのような会話に聞こえる。
後方に下がったエリーゼの姿などすでに勇治の視界には入っていなかった。今見えるのはただ目の前の敵のみ。
「ふっ!」
息を吐くと同時にミレーネに接近する勇治。しかし、そう易々と近寄らせてくれる相手ではない。
「アクアバレット」
短縮詠唱によって発動した魔法は大量の水の弾。
数えきれない程の水弾は接近しようとする勇治目掛けて次々と襲い掛かる。
「くっ!」
月夜の酒鬼の中でも魔法を得意とするミレーネの魔力量は無尽蔵に近いほどだ。ましてやアクアバレットは初級魔法に分類される魔法。そこまで魔力を消費しないがために勇治にとって長期戦は好ましくないのだ。
「まだまだ、いきますよ」
弾んだ声で告げるミレーネ。その姿に千夜ですら勇治に同情の念を覚えてならなかった。
まともに近寄る事も出来ないまま、十数分の攻防が続く。正確には一方的だが。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
なんとか耐え抜いた勇治。しかし、20発以上も食らってしまった勇治の身体はびしょ濡れになり、体中が鈍器で殴られたような鈍痛が勇治の行動を制限させる。
「そろそろ、終わりにしましょうか」
(来る!)
声を出す事も辛いほどまでに疲労している勇治は覚悟を決める。
「フラットトルネード」
短縮詠唱によって呟かれた呪文。
その瞬間勇治の周りを大量の水が発生する。しかしその発生スピードと量は異常であった。まるで洪水の如く勇治を飲み込み、水の竜巻となった。
「ぐっ! がはっ!」
耐え抜く気でいた勇治だがまともに息する事も出来ず、全ての空気を吐き出してしまう。その原因は体中に襲い掛かる水の刃。
高速で回転する水は触れただけで相手の身体を斬りつける。
圧倒的硬さを誇るダイアモンドですら高圧で発射される水の刃には勝てないのだから。
それほどの威力が竜巻の中で勇治に襲い掛かる。逆に数分持ちこたえただけでも褒めるに値する魔法なのだ。
魔法を解除した瞬間地面に倒れ伏す勇治。警戒しながら近づくエリーゼは安否を確かめる。
「命に別状はないわ。気絶はしているけどね」
その言葉と同時に月夜の酒鬼の勝利となったのだった。
威力もスピードも段違いに上がった勇治の斬撃。しかし、エリーゼは淡々といなしていく。
上段からの攻撃なら、躱すか受け流し。中断から横一文字には剣で受け止める。
躱す事も可能な攻撃にも時々付き合うエリーゼ。これにはきっとエリーゼの思うところがあるのかもしれない。
(ごめんなさいね。大切仲間を傷つけて。でもね、これも貴方たちが強くなるためなの。私たちの世界の問題に巻き込んでしまったお詫びなの)
憤怒させる事がお詫びなんて、誰も納得はしないだろう。しかし、死んで欲しくないからこその所業と思ってもらいたいと心から、そう願うエリーゼであった。
「エリーゼお姉さま。そろそろ」
「ええ、分かってるわ」
後方で控えるミレーネの言葉に勇治から視線を逸らす事無く応答する。
「もっと強くなりなさい!」
叩き斬る思いで振り下ろされた剣が再び持ち上げられる事は無かった。
振り下ろされた剣を躱しすと剣の腹で剣を握る勇治の手を叩いたのだ。
痛みに顔を歪める勇治は痛みで力が入らなくなり剣を落としてしまう。それでも勇治の闘志の炎が消える事はなく、痛みで手を押さえながらもエリーゼ睨み付けていた。
「人を恨むな、憎むな。とは言わないわ。でもね、けしてそれに呑みこまれちゃ駄目よ。大切な者を守りたければ強くなりなさい。その憎しみと恨み。そして悔しさが貴方を強くする。二度と味わいたくない。という願望によってね」
「何を言っている! お前たちは真由美を紅葉を!」
「殺してはいないわよ」
「え?」
怒りで周りが見えていなかったのか勇治は呆けた返事をしてしまう。
「貴方たちの大切な仲間は旦那様が治癒魔法で傷を癒しているわ。それでも目を覚ますのは明日になるでしょうけどね」
エリーゼの言葉に勇治は千夜の方に視線を向ける。
そこでは奏が真由美たちの傍で看病している姿があった。
その姿に安堵する勇治だが、
「ぐはっ!」
突如、腹部に鈍痛が襲う。全ての空気を吐き出すだけではなく、食べたものまで吐き出していた。
「い、いきなり……何を…する」
腹部を押さえ蹲りながらもエリーゼを見上げる。そこには真顔で見下ろすエリーゼの姿があった。
「何を言っているの? まだ終わってはないわよ」
「それはこちらの台詞だ。俺は武器がない。その時点で――」
「ほんと旦那様が言っていた通り甘いわね」
「な……に……」
「これは模擬戦よ」
「そう……だ……」
「つまりは戦場での戦いを想定した戦いなの。つまりこれは試合じゃない。決闘でもない。死なないだけで、ここは立派な戦場なの。分かる?」
「………」
「戦場で武器を落としたから見逃してくれ。なんて甘いわよ。武器が無いなら木で戦えば良い。木が無いなら素手で戦えば良い。接近戦が無理なら魔法で攻撃すればいい。魔力が尽きたなら石を投げれば良い。いかなる時でも生きる事を諦めてはならない。そのためには周りの状況把握を怠ってはならない。それが戦場よ」
鋭い視線で相手を見下ろすエリーゼ。その姿に勇治は恐怖した。
「僕の負け――」
「何を言っているのですか?」
「え?」
「エリーゼお姉さまが言っていたでしょう。どんな状況であろうと生きる事を諦めてはならない。これは確かに模擬戦で死ぬ事はありません。しかし貴方はここで諦めるのですか? それはつまりここが戦場ならば貴方は生きる事を放棄すると同義ですけど、よろしいのですね?」
笑顔で語りかけるミレーネ。その姿はとても戦場とは不釣合いの美しさを醸し出していた。
しかし、その言葉で勇治の心に覆っていた影は綺麗に消えていた。
「ああ、そうだね。ここで諦めたらどこでも戦えなくなる。そんな事では舞おう討伐なんて出来るはずが無い」
体中から悲鳴が上がるが、己自身を鼓舞しながら勇治は立ち上がる。
「それでこそ、勇者殿ですよ」
勇治は拳を構える。
「エリーゼお姉さま、ここは私に」
「ええ、好きにして良いわよ」
まるで玩具の譲り合いのような会話に聞こえる。
後方に下がったエリーゼの姿などすでに勇治の視界には入っていなかった。今見えるのはただ目の前の敵のみ。
「ふっ!」
息を吐くと同時にミレーネに接近する勇治。しかし、そう易々と近寄らせてくれる相手ではない。
「アクアバレット」
短縮詠唱によって発動した魔法は大量の水の弾。
数えきれない程の水弾は接近しようとする勇治目掛けて次々と襲い掛かる。
「くっ!」
月夜の酒鬼の中でも魔法を得意とするミレーネの魔力量は無尽蔵に近いほどだ。ましてやアクアバレットは初級魔法に分類される魔法。そこまで魔力を消費しないがために勇治にとって長期戦は好ましくないのだ。
「まだまだ、いきますよ」
弾んだ声で告げるミレーネ。その姿に千夜ですら勇治に同情の念を覚えてならなかった。
まともに近寄る事も出来ないまま、十数分の攻防が続く。正確には一方的だが。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
なんとか耐え抜いた勇治。しかし、20発以上も食らってしまった勇治の身体はびしょ濡れになり、体中が鈍器で殴られたような鈍痛が勇治の行動を制限させる。
「そろそろ、終わりにしましょうか」
(来る!)
声を出す事も辛いほどまでに疲労している勇治は覚悟を決める。
「フラットトルネード」
短縮詠唱によって呟かれた呪文。
その瞬間勇治の周りを大量の水が発生する。しかしその発生スピードと量は異常であった。まるで洪水の如く勇治を飲み込み、水の竜巻となった。
「ぐっ! がはっ!」
耐え抜く気でいた勇治だがまともに息する事も出来ず、全ての空気を吐き出してしまう。その原因は体中に襲い掛かる水の刃。
高速で回転する水は触れただけで相手の身体を斬りつける。
圧倒的硬さを誇るダイアモンドですら高圧で発射される水の刃には勝てないのだから。
それほどの威力が竜巻の中で勇治に襲い掛かる。逆に数分持ちこたえただけでも褒めるに値する魔法なのだ。
魔法を解除した瞬間地面に倒れ伏す勇治。警戒しながら近づくエリーゼは安否を確かめる。
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