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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第七幕 勇者パーティーVS月夜の酒鬼 終盤 一

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 真由美と紅葉が戦闘不能のになったことで、勇治と正利の魔力が膨張する。
 それは怒り。憤り。憤怒。
 愛するものがやられた事への怒りと憎しみ。
 そんな彼らの姿に千夜は嘆息する。
(仲間が気絶したぐらいで、我を忘れてどうする)
 心の中でそう思う千夜だが、けして注意はしない。今は模擬戦闘中だからというわけではない。模擬戦闘が終わったとしても伝えるつもりは千夜にはなかった。いや、資格がないからだ。
(俺も一度だけだが、似たような状態になっていたからな)
 蟲毒の蛇との戦いの光景が千夜の脳裏に蘇る。
 そんな千夜の気持ちなど知る由も無い勇治たちは、ただただ突っ込む。
(猪突猛進か)
 勇治はミレーネ、正利はクロエの許へ突っ走る。
 そんな彼らが持つ意思は殺意であり、発するのは殺気であった。
 しかし、接近戦担当の二人を易々と今回は後衛担当のクロエとミレーネに近づかせるエリーゼとエルザではない。
 それぞれの目標の間に割り込む二人。

「「邪魔だ、退け!」」
 怒りそのままに振り下ろされる剣。
 怒りで暴走気味とはいえ、勇者。彼らの常人では、けして太刀打ち出来ないまでのステータスを持っている。
 しかし相手は人外のステータスを持つ二人。常人では無理だが、人外にとっては油断しなければ対処できる剣撃なのだ。
(勇治たちはまだ、常人の域を出ていないからな)
 人間が本当の意味で人外と言える存在になるには存在進化に至らなければならない。つまり、現在この場で人外となったのはエリーザただひとりなのだ。
 それに加え、存在進化を果たし、もとより人間よりも圧倒的ステータスを誇るエルザにとっては存在進化を果たしていない敵など、蛆虫以下の存在でしかないのだ。

「その怒りの行動は助けられる側としては嬉しいですが、敵からしてみれば無様でしかありませんね」
「ぐはっ!」
 正利の剣を弾くと瞬時に蹴り飛ばした。

「連携技も無く、ただ斬りかかるとは」
 ただ怒りをぶつけるだけだった事にエルザは呆れていた。
 勇治たちからしてみればこれは模擬戦闘だが、エルザたちからしてみればこれはただの指導訓練でしかないのだ。

「少しやり過ぎじゃないかえ?」
「そんな事ありません。この程度で起き上がれないようでは勇者失格です」
 土煙が舞い上がる中央に視線を向けるクロエとエルザ。
 咳き込む声が聞こえる。それだけで気絶していないと判断した二人は。

「なら、次はワシが」
「どうぞ、クロエ姉さま」
 一歩下がるエルザを気配で確認したクロエは短縮詠唱を行う。

「ラーヴァバレット」
 クロエが発動した魔法。それはオリジナル魔法。正確には違うが。現代ではそう呼ぶのが正しいだろう。
 正確に言うならば融合魔法、別属性同士を合わせ発動する魔法は単一の魔法を発動するよりも遥かに難しく、精神を消耗する。
 ましてや、それを短縮詠唱で発動するなど歴史を紐解いても数人居るか居ないかである。
 今回、クロエが混ぜ合わせた属性は火と土。
 ストーンバレットは土属性の魔法。
 ファイヤーボールは火属性の魔法。
 この二つを掛け合わせ、生み出されたのは灼熱の炎によって赤く解け始める溶岩の塊。
 それが全部で30以上が正利に照準を合わせていた。

「ワシの親友に攻撃した報いじゃ」
 ほんの僅か怒気を含んだ呟きと同時に未だ晴れぬ土煙の中に居る存在に目掛けて、クロエは集中砲火を浴びせる。
 先ほどよりも巻き上がる土煙。それと同時に轟く鈍い音と地鳴り。

「お、おいセンヤ大丈夫なんだろうな!」
「念のために結界を張っておいた。この訓練所が破壊される事はない」
「そうか」
 慌てふためくベイベルグだが千夜の言葉を聞いて安堵する。
(確かに結界は張っているが、やり過ぎだ。正利の奴生きてると良いが……)
 冷や汗を流す千夜に気付くものは誰一人居なかった。
 数分して、ようやく土煙が晴れる。

「見直したのじゃ」
「ええ、ほんの僅かですけど」
 笑みを零すクロエと吐き捨てるように言うエルザ。その二人の視線の先には立ったまま気絶している正利の姿があった。
(意地か……)
 正利の姿に内心そんな事を思う千夜であった。
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