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第六章 帰って早々、呆気なくフィリス聖王国調査を始めました。

第二幕 謁見の間と人殺し

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 次の日、千夜たちは王宮に招かれていた。
 勿論、その理由はフィリス聖王国の七聖剣と呼ばれる者たちの急激な力の上昇の説明のためだ。
 現在千夜たちは謁見の間の中央にて皇帝ベイベルグと対面していた。

「久しいな、センヤよ」
「そうだな」
 この国のトップである皇帝に対して平然とタメ口で話す千夜。普通ならば不敬罪にされてもおかしくは無い。しかし、そうならないのはこの帝国の英雄であり、皇帝ベイベルグの信頼を得ているためだ。勿論その事を整列している貴族たちも知っている。
 唯一知らないのはこの場に同席している勇者たちとセレナぐらいだろう。

「さて、いくつかセンヤには聞いておかないといけない事がある」
(存在進化とフィリス聖王国だけじゃなさそうだな)
 ベイベルグの言葉に千夜は他に何があるのか思考を駆け巡らせる。

「まず、聞いておきたいのはお主がガレット獣王国の現女王と婚約した事についてだ」
(なるほど、そのことか)
 世界初のXランク冒険者、生きる伝説、レイーゼ帝国を救った英雄、あらゆる噂が世界中に広まっている現在、千夜がただの英雄でないことはこの場にいる誰もが理解している。それはベイベルグも同じである。
 つまり、計り知れない力を持つ千夜が隣国であるガレット獣王国の貴族になる事を恐れているのだ。
 ましてやガレット獣王国は帝国以上に個人の力が全ての国である。それに、現女王は過去未来において最高にして最強の王だといわれている。そんな存在の婚約者が世界初のXランク冒険者である千夜なのだからレイーゼ帝国の者たちからしてみれば由々しき事態なのは明らかだった。
 勿論千夜もその事は理解している。だからこそ、不安が漂うこの空気を消すため口を開く。

「安心しろ。確かに現女王である環とは婚約したが、アイツが女王を辞めるまでは結婚しないと約束したからな」
「そうか。それを聞いて安心だ」
 ベイベルグだけでなく、貴族たちもホッとした表情を浮かべていた。それだけ千夜の力を恐れていた証拠なのだ。

「それにしてもまさか、あの女王までも虜にするとはな」
「ま、アイツとは昔パーティーを組んだ事が合ったからな。ま、結局離れ離れになってしまったが」
 ゲームの中で知り合いパーティーを組んだが、和也が高校に入学しパーティーを抜けると同時に自然崩壊したのだ。言ってしまえ、それだけ千夜は仲間に信頼されていたのだ。

「そうだったのか。いや、あの女王と仲間だったのだ。お前の強さにも頷ける」
 それに同意するように貴族たちも頷いていた。

「さて、ここからが本題だ」
(ようやくか)

「お主は知っているのだろう。フィリス聖王国の急激な力の上昇の理由を」
「ああ、知っている。どうしてそうなったのかを」
「なら教えてくれ」
「別に構わないが……」
 そこで千夜は言葉を切り、視線をとある一部に向ける。
 それを察したかのようにベイベルグが言葉にする。

「安心しろ。勇者殿たちは信頼出来る者たちだ」
「ああ、知っている。種族が違うからと差別もしない。それに関しては同意見だ。だが、人殺しは悪だと軽蔑の目で見てくる奴に教えるのはちょっとな」
 それは約一年前の出来事。タイガーが長をしていた犯罪組織。正確には宗教集団といった方が良いだろう。その者たちが千夜たちを襲撃した時に起きた口論を言っているのだ。

「それは別におかしくは無いだろう。人殺しは悪い事だ。何が駄目なのだ?」
 ベイベルグは理解していない。しかしそれは結果では無く過程を理解していないのだ。

「簡単だ。俺たちは襲ってきた連中に対して反撃し、撃滅した。それを見た勇者殿たちは不満を述べただけだ」
「なるほど、確かにそれは……勇者どの。お主たちの世界がどのような世界だったのかは我々には分からぬ。しかし、襲われて何もしなければ死ぬだけだ。それは分かっているな」
「はい、分かっています。身をもって体験しましたのだ」
「そうか。なら良い」
 その言葉で千夜は理解した。あの時勇治が何も言ってこなかった事に不自然に感じたい宝だ。

「ほう、人を殺したか」
「ああ、仲間が大切な人が殺されそうになったから殺した。僕は人殺しになった。だけど気分は最悪だ」
「それで良い」
「え?」
「俺は人殺しを好きになれ。と言った訳ではない。誰かを守るために人を殺す事を躊躇うなと言ってるんだ」
「っ! あ、ああ、分かったよ。よく分かったよ。君が言いたい事も、そして彼が殺した理由も身をもって分かったよ」
「……そうか」
 勇治が言っている彼とは和也の事だと、千夜は直ぐに分かった。その事に千夜は安堵する自分と勇治たちに謝罪する自分がいた。
(これで、あいつらが死ぬ可能性は下がったな。だが、すまなかったな)
 どれだけ、口論しようと離れ離れになろうと、拒絶されようと、和也の中に少しだけ残っていた欠片。友達への思いがこの時をもって完全に消滅するのであった。
(これで、もう心配はいらないな)
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