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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。

第百二十一幕 心配と最後に一つだけ

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 朝を向かえ、いまだ情緒不安定なミレーネをエリーゼたちに任せた千夜は一人で村へと向かっていた。
 本当ならばミレーネの傍に居たかった千夜だが、問題を解決しないかぎりミレーネの笑顔を再び見ることは叶わないと千夜は思った。そのため一時の感情よりも全て解決するため心を鬼にして村へと来たのだ。
(それにしたって俺って信用無いな)
 今朝の出発間際、エリーゼたちに言われたのだ。

「絶対に村を滅ぼさないでね!」
「センヤは怒ると加減を忘れるから、気をつけるのじゃぞ!」
「センヤさん、あの時みたいな事は今回ばかりは控えてください」
(確かにエルザの時は我を忘れて斬り殺したが、そこまで酷くはないと思うぞ)
 強力だからこそ取り扱いが難しい薬品と同じ扱いに千夜は悲しみを感じるのだった。

「さてとそれじゃ、試してみるか」
 結界を通り抜け目の前に広がる村。
 そこには昨日と同じで敵意を向けるエルフたちが出迎えてくれていた。
(ま、嬉しさ半分悲しさ半分だな)
 そんな事を思いながら千夜は相手の敵意など関係なく村の中へと進んでいく。

「止まれ!」
 数歩歩いて直ぐに男エルフによって命令が下るが、無視して進み続ける。

「止まれ! 止まらなければ射る!」
 歩き続ける。

「チッ! 死んでも恨むなよ!」
 男エルフが矢を放つと同時に他のエルフたちも矢を放つ。数にしておよそ100本。
 殺意へと変わった大量の矢が千夜に放たれた。しかしその矢が千夜に当たるどころか掠る事も無かった。
 圧倒的強さを誇る千夜の動体視力もずば抜けている。それはすなわち当たる矢と当たらない矢を判別するだけでなくどう躱せば良いのかも予測出来るのだ。
 未来余地にも等しい予測を圧倒的速さで躱す。
 そんな事千夜にとって朝飯前であった。

「な、何故当たらない!」
「貴様何をした!」
 動揺を隠し切れないエルフたちからは驚きと焦りが見て取れた。
 それでもエルフたちは第二射に入ろうとしていた。そんな彼らの行動を見た千夜は。
(このままじゃ何時になったら話せるか分からないからな)

「すまないが別にお前たちと戦うつもりは無い」
 戦う意思が無いと告げたときには既に千夜は村に中央付近にまでたどり着いていた。

「嘘を吐くな! 裏切り者の仲間なんて信用できるか!」
「そうだ! ならなぜここまで侵入してきた!」
「ちゃんと話をするためだ」
「それならここまで来る必要はないだろ!」
「それもそうだが、俺は早く話がしたかったしな。それにお前たちも早く俺を追い出したいはずだ。ましてやこんなところまで入り込まれたら、その気持ちが強くなる筈だ。そうだろ?」
「…………何が聞きたい?」
「話が早くて助かる」
「言っておくが長はここにはいない」
「どこにいるんだ?」
「それはお前には関係ないだろ!」
「それもそうだな」
(取引か何かと勘違いしたんだろうが、別に誰からでも話は聞けるから良いだろう)

「俺が聞きたいのはお前たちが裏切り者と罵るミレーネについてだ」
「お前には関係ないはずだ!」
「そうでもない。俺はミレーネの夫だ。妻が悲しむ姿は見たくないからな」
「なるほど。夫として裏切り者が自分自身も裏切らないか心配になったか」
 嘲笑うように吐き捨てるエルフ。そんな言葉に憤りを感じるが千夜は話を聞けるチャンスだと思い、話を進めることにする。

「教えてくれるか?」
「良いだろう。奴は一番大切な掟を破ったのだ」
(また掟か。嫌になってくるな)
 ダークエルフの時でも固すぎる掟に千夜は呆れていた。

「どんな掟だ?」
「それは奴がこの場所を教えた事だ」
「この村の事か?」
「そうだ! 我々は他の種族と交流することはない。それなりに信頼出来る商人と取引を行う程度はするが、それも森の外で行う。それはこの村に侵入させないためだ」
(確かにそれは一理ある。多種族と交流するうんぬんは置いとくとしても、信頼できないものに住処を教えることは無いからな)
 千夜は自分の屋敷を思い浮かべる。

「だが奴は、ミレーネはあろうことかその掟を破り、人間共にこの村の場所を教え連れ込んだのだ!」
「それはつまり俺たちみたいにミレーネと一緒に結界を通りぬけてきたということか?」
「違う。人間どもはいきなり襲ってきたのだ!」
 その言葉に悲しみと憤りが入り混じった表情を浮かべていた。
 しかし、ここでおかしな点が生まれた。

「どうしてミレーネが村の場所を教えたと分かった?」
「長が教えてくれたのだ?」
「長が?」
「そうだ」
(どういうことだ?)

「その長には何か犯人を見通せるスキルか称号を持っているのか?」
「違う。長は偶然薬草採取の時、ミレーネが人間どもと密会をしているところを目撃したそうだ」
(おかしい、おかしすぎる。なら何故長はミレーネはその場で叱らなかった。ミレーネが奴隷となったのが約8年前。つまり9歳の時だ。そんな子供が己の私利私欲のために村を襲わせることは到底ありえない。その長が怪しいな)

「一つ聞くが、この村が最初に襲われたのはミレーネが密会していると同じ日かそれとも別に日か?」
「同じ日だ?」
(そうなると、既に前々から話し合っていた事になる。でなければその日に襲うなんて無理だからな)

「なら、襲われたのは昼か夜か?」
「夜だ」
「なら、なぜ長は直ぐにお前たちに教えなかった?」
「長はその日から姿を消したミレーネを追いかけて帰りが遅くなった」
(なるほど。そういうことか)
 一つの線に繋がった。千夜は笑みを零す。
(だが、まだ動機が見つからない。犯人に仕立てるのにどうしてミレーネを選んだのかが気になる)

「どうやら長は優秀らしいな。この村の豊かさが証拠だ」
「ああ、長はとても優秀で皆に慕われている。まだ20歳という若さにも拘わらずだ」
「20歳。それは随分と若いな」
「あたりまえだ。本当なら前の長の娘であるミレーネが長になる筈だった。だが、奴は我々を裏切り仲間を誘拐させた」
(ミレーネが前の長の娘で、犯人だと教えたのが若き長か。これで間違いない。この村がいまだに残っていることにも頷ける。だが長と繋がりのある人間というのが気になるな。いや、もしかするとこの時にでも人間たちと密会をしている可能性がある)

「もういいだろ! さっさと出て行け!」
「最後に一つだけ」
「なんだ!」
「長の名前は?」
「――だ」
「そうか、教えてくれてありがとうな。これはほんのお礼だ」
 千夜は地面に数本の中級ポーションを置いて村から立ち去るのであった。
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