111 / 351
その頃、百鬼家では?
我輩は、童ラムと約束する
しおりを挟む
我輩の名はタイガー、主たる千夜殿に仕える家臣である。
現在は我輩はワイバーン討伐のため小川で野宿をしているのだが、偶然攫われそうになった幼子、童ラムとともに夕食を食べているのだが、
「なぜそこで食べるのだ」
「ここがいいから」
「そ、そうか」
何故か、我輩の肩に乗って食べているのだ。ま、軽いし別に構わないが左手が使いづらくていかん。
「それで童ラムよ。お主はこれからどうする?」
「タイガーと一緒に居たい」
「駄目じゃ」
寂しそうに本音を吐く童ラムじゃが、我輩には完遂しないといけない任務があるのだ。
「どうしても?」
「駄目じゃ。我輩はこれからワイバーンの討伐に向かわなければならないのだ。そんな危険な場所にお主を連れて行くわけにはいかぬ」
「それってあの山の下にいる沢山のワイバーンの事?」
「お主何故それを知っておる!」
「私、元々捕まってたんだけどワイバーンの群れに襲われてその隙に逃げてきたから……」
「そうだったのか。よくぞここまで逃げてきたの。ほれ褒美にこの魚もやる」
「やったー!」
嬉しそうに焼き魚を食べる童ラム。食べるのは良いがあまり落とさないで欲しいの。
童ラムは思った以上に頑固で言うことを聞かないため一旦街に帝都ニューザに戻ることにした。
次の日、
「あはは、速い速い!」
急いで戻るが童ラムに負担を掛けまいとと思ったが、何故か楽しそうにするだけで苦しいそうな表情をする事は無かった。おかしな童だ。
帝都ニューザに着き門兵に事情を説明して、童ラムをお預ける。
「嫌! タイガーと一緒にいる!」
どうやら懐かれてしまった。賢い子なのだがやはりまだ幼子。こういうところは他の子供と変わりはしないのだ。しかし、
「駄目じゃ。お前はここに居るのだ」
「嫌!」
「無事に帰ってくる。じゃからその後なら存分に上手いものを食わしてやるから。それで我慢せい」
「本当に?」
「ああ、本当だ」
「絶対に?」
「絶対にじゃ」
「約束」
「うむ、約束」
小さな小指を出してくる童ラム。我輩はそんな小指に己の小指を絡める。
「「約束」」
二人の声が重なる。
こうして我輩は心置きなくワイバーン討伐に向かう。
結局、二日ほど予定が遅れたが問題は無かった。ワイバーンの群れは餌を求めて森上空を飛び回っておった。
「任務を果たすためお前たちには我輩の糧となって貰う!」
木の物陰から飛び出した我輩は食事中のワイバーン数体に突撃する。
「おらっ!」
食事に夢中になっていたワイバーンの横っ腹を殴り飛ばす。
「次!」
生死を確認する必要もない。拳に伝わってくる感触だけで殺せたどうかわかるからの。それにしても恐ろしい。これまで殿に稽古をつけてもらっていたが強くなっているのか正直実感できなかった。じゃが今はそれを体全体ではっきりと感じておる。
「さすがは殿じゃ!」
二体目、三対と殴り飛ばす。さて次は――
「っと!」
上空から飛来してくるワイバーンの攻撃を躱す。
「強くなったことには喜びを感じえるが、じゃからといって油断も慢心もするわけがなかろう!」
地面を蹴り襲い掛かってくるワイバーンの下に潜り込み腹を殴りつける。
数分で数体の仲間を殺られたことに気づいたワイバーンたちは怒り狂い次々と襲い掛かってくる。
「我輩からしてみれば有難いかぎりよ!」
攻撃を躱しては殴り、時には自ら接近して殴る。それを一時間ほど繰り返した。
「はぁ……はぁ……流石に多いのう……」
残り3分の1以下にまで減らしたが、そろそろ体力的にも限界が近い。今の所掠り傷程度で済んでおるが気を抜いたら殺られる。
「じゃが、任された使命は達成してこそ家臣! 我輩は生きて帰る!」
童とも約束したからの。
接近するワイバーンを殴り飛ばす。
「なにっ!」
じゃが、殴り飛ばした後ろにもう一体隠れておった。しまった! 腕を伸ばしきったまま、ましてや重心が前のめりになっている今、躱すことは難しい。が、
「なら、これでどうだ!」
右足を軸に回転し裏拳をワイバーンの眉間に叩き込む。まさか仲間を囮にして襲ってくるとは思わなかった。じゃが、なんとかなったの。
「さて、残りは――」
「タイガー!」
「ラム! 何故お主がここにおる!」
突然最近耳にした幼い声の持ち主がそこに居た。
「ごめん約束破って。でも心配で!」
「馬鹿者が!」
我輩は急いでラムを回収し、物陰に隠れる。
「まったく何を考えておる!」
「ごめんなさい……」
反省はしておるようじゃ。じゃが、理性より感情が先走ったのであろう。この年の幼子にはよくあることじゃ。妹も昔はそうじゃったからの。
「説教は後で存分にしてやる。じゃからお主は逃げろ!」
「嫌!」
………なんという頑固。我輩は怒りを通り越して感嘆してしまう。
「なら、ここで隠れておれ!」
「嫌!」
これはもう呆れるしかないの。
「お主の頑固さは一級品じゃの。この我輩を超えておる」
「ありがとう」
褒めておらんわ。
「じゃから落とされるではないぞ!」
「うん!」
左肩に乗せて戦う。まったく愚かじゃの我輩はじゃが、安堵しておる自分が居るのも確かじゃ。
「行くぞ!」
「うん!」
残り4体。
片腕しか使えないがやるしかない!
「タイガー最初は前から、すぐに左から1体くる!」
「なに!?」
童ラムは叫びながら教えてくる。じゃがそんなでたらめ信じられるわけがない。と思っていた。しかし童ラムの言うとおりにワイバーンが襲ってきた。
「お主何故分かった?」
「分かんない。でも、ワイバーンたちの声が聞こえるの。それどころか他の動物たちの声も」
もしやスキル。いや、そんなスキル聞いたことがない。だとすると
「称号か」
一定の条件を満たした場合のみだけでなく、神からの贈り物として稀に称号を与えられる者たちが居る。まさかその一人が童ラムだったとはの。
「よし、ラム指示を出せ!」
「分かった!」
その後の戦いは最初よりも遥かにスムーズにして楽に倒せることが出来た。恐ろしい称号じゃの。
「さて、帰るかの」
「待って」
「どうしたのじゃ?」
「あのワイバーンまだ生きてる」
「なに」
ラムが指差したワイバーンは仲間を囮にしてきた奴じゃった。
「眠らせてやるかの」
「待って。何か言ってる」
「なに?」
会話が出来る能力か。なら、今回のことも知ることが出来るかも知れんな。
「なんて言っておる」
「えっとね。なんで……殺されなきゃ……ならない。俺たちは……ただ平穏に……生きたかった……だけ……」
「そうか。なら、どうしてここに来たのか分かるか?」
「動物たちと話した事無いけど訊いてみるね」
死に掛けのワイバーンンを見つめるラム。
「えっと。東にある……人間だけの国……他の種族や生き物を嫌う国の……奴らに……追い出された……昔より……遥かに強い……奴らは……得体が……しれない……ただ……遥かに強く……なった。だってさ」
「どういう事だ?」
「分からない」
もしやギルドマスターが言っていた事と何か関係があるのかもしれない。じゃが詳細に知ることは難しいだろう。しかし殿ならば何か知っておるかもしれん。
我輩は死に掛けのワイバーンに止めを射した。
「さて、帰るかの」
「うん!」
「約束はお主が破ったからの美味い物は無しじゃ」
「ええええ!」
「じゃが、助けられたのも事実じゃ。それで許してやるとするか」
「やったー!」
まったく賢く、凄い奴かと思えば、やはり子供じゃの。
こうして我輩とラムは帝都ニューザに帰るのであった。
現在は我輩はワイバーン討伐のため小川で野宿をしているのだが、偶然攫われそうになった幼子、童ラムとともに夕食を食べているのだが、
「なぜそこで食べるのだ」
「ここがいいから」
「そ、そうか」
何故か、我輩の肩に乗って食べているのだ。ま、軽いし別に構わないが左手が使いづらくていかん。
「それで童ラムよ。お主はこれからどうする?」
「タイガーと一緒に居たい」
「駄目じゃ」
寂しそうに本音を吐く童ラムじゃが、我輩には完遂しないといけない任務があるのだ。
「どうしても?」
「駄目じゃ。我輩はこれからワイバーンの討伐に向かわなければならないのだ。そんな危険な場所にお主を連れて行くわけにはいかぬ」
「それってあの山の下にいる沢山のワイバーンの事?」
「お主何故それを知っておる!」
「私、元々捕まってたんだけどワイバーンの群れに襲われてその隙に逃げてきたから……」
「そうだったのか。よくぞここまで逃げてきたの。ほれ褒美にこの魚もやる」
「やったー!」
嬉しそうに焼き魚を食べる童ラム。食べるのは良いがあまり落とさないで欲しいの。
童ラムは思った以上に頑固で言うことを聞かないため一旦街に帝都ニューザに戻ることにした。
次の日、
「あはは、速い速い!」
急いで戻るが童ラムに負担を掛けまいとと思ったが、何故か楽しそうにするだけで苦しいそうな表情をする事は無かった。おかしな童だ。
帝都ニューザに着き門兵に事情を説明して、童ラムをお預ける。
「嫌! タイガーと一緒にいる!」
どうやら懐かれてしまった。賢い子なのだがやはりまだ幼子。こういうところは他の子供と変わりはしないのだ。しかし、
「駄目じゃ。お前はここに居るのだ」
「嫌!」
「無事に帰ってくる。じゃからその後なら存分に上手いものを食わしてやるから。それで我慢せい」
「本当に?」
「ああ、本当だ」
「絶対に?」
「絶対にじゃ」
「約束」
「うむ、約束」
小さな小指を出してくる童ラム。我輩はそんな小指に己の小指を絡める。
「「約束」」
二人の声が重なる。
こうして我輩は心置きなくワイバーン討伐に向かう。
結局、二日ほど予定が遅れたが問題は無かった。ワイバーンの群れは餌を求めて森上空を飛び回っておった。
「任務を果たすためお前たちには我輩の糧となって貰う!」
木の物陰から飛び出した我輩は食事中のワイバーン数体に突撃する。
「おらっ!」
食事に夢中になっていたワイバーンの横っ腹を殴り飛ばす。
「次!」
生死を確認する必要もない。拳に伝わってくる感触だけで殺せたどうかわかるからの。それにしても恐ろしい。これまで殿に稽古をつけてもらっていたが強くなっているのか正直実感できなかった。じゃが今はそれを体全体ではっきりと感じておる。
「さすがは殿じゃ!」
二体目、三対と殴り飛ばす。さて次は――
「っと!」
上空から飛来してくるワイバーンの攻撃を躱す。
「強くなったことには喜びを感じえるが、じゃからといって油断も慢心もするわけがなかろう!」
地面を蹴り襲い掛かってくるワイバーンの下に潜り込み腹を殴りつける。
数分で数体の仲間を殺られたことに気づいたワイバーンたちは怒り狂い次々と襲い掛かってくる。
「我輩からしてみれば有難いかぎりよ!」
攻撃を躱しては殴り、時には自ら接近して殴る。それを一時間ほど繰り返した。
「はぁ……はぁ……流石に多いのう……」
残り3分の1以下にまで減らしたが、そろそろ体力的にも限界が近い。今の所掠り傷程度で済んでおるが気を抜いたら殺られる。
「じゃが、任された使命は達成してこそ家臣! 我輩は生きて帰る!」
童とも約束したからの。
接近するワイバーンを殴り飛ばす。
「なにっ!」
じゃが、殴り飛ばした後ろにもう一体隠れておった。しまった! 腕を伸ばしきったまま、ましてや重心が前のめりになっている今、躱すことは難しい。が、
「なら、これでどうだ!」
右足を軸に回転し裏拳をワイバーンの眉間に叩き込む。まさか仲間を囮にして襲ってくるとは思わなかった。じゃが、なんとかなったの。
「さて、残りは――」
「タイガー!」
「ラム! 何故お主がここにおる!」
突然最近耳にした幼い声の持ち主がそこに居た。
「ごめん約束破って。でも心配で!」
「馬鹿者が!」
我輩は急いでラムを回収し、物陰に隠れる。
「まったく何を考えておる!」
「ごめんなさい……」
反省はしておるようじゃ。じゃが、理性より感情が先走ったのであろう。この年の幼子にはよくあることじゃ。妹も昔はそうじゃったからの。
「説教は後で存分にしてやる。じゃからお主は逃げろ!」
「嫌!」
………なんという頑固。我輩は怒りを通り越して感嘆してしまう。
「なら、ここで隠れておれ!」
「嫌!」
これはもう呆れるしかないの。
「お主の頑固さは一級品じゃの。この我輩を超えておる」
「ありがとう」
褒めておらんわ。
「じゃから落とされるではないぞ!」
「うん!」
左肩に乗せて戦う。まったく愚かじゃの我輩はじゃが、安堵しておる自分が居るのも確かじゃ。
「行くぞ!」
「うん!」
残り4体。
片腕しか使えないがやるしかない!
「タイガー最初は前から、すぐに左から1体くる!」
「なに!?」
童ラムは叫びながら教えてくる。じゃがそんなでたらめ信じられるわけがない。と思っていた。しかし童ラムの言うとおりにワイバーンが襲ってきた。
「お主何故分かった?」
「分かんない。でも、ワイバーンたちの声が聞こえるの。それどころか他の動物たちの声も」
もしやスキル。いや、そんなスキル聞いたことがない。だとすると
「称号か」
一定の条件を満たした場合のみだけでなく、神からの贈り物として稀に称号を与えられる者たちが居る。まさかその一人が童ラムだったとはの。
「よし、ラム指示を出せ!」
「分かった!」
その後の戦いは最初よりも遥かにスムーズにして楽に倒せることが出来た。恐ろしい称号じゃの。
「さて、帰るかの」
「待って」
「どうしたのじゃ?」
「あのワイバーンまだ生きてる」
「なに」
ラムが指差したワイバーンは仲間を囮にしてきた奴じゃった。
「眠らせてやるかの」
「待って。何か言ってる」
「なに?」
会話が出来る能力か。なら、今回のことも知ることが出来るかも知れんな。
「なんて言っておる」
「えっとね。なんで……殺されなきゃ……ならない。俺たちは……ただ平穏に……生きたかった……だけ……」
「そうか。なら、どうしてここに来たのか分かるか?」
「動物たちと話した事無いけど訊いてみるね」
死に掛けのワイバーンンを見つめるラム。
「えっと。東にある……人間だけの国……他の種族や生き物を嫌う国の……奴らに……追い出された……昔より……遥かに強い……奴らは……得体が……しれない……ただ……遥かに強く……なった。だってさ」
「どういう事だ?」
「分からない」
もしやギルドマスターが言っていた事と何か関係があるのかもしれない。じゃが詳細に知ることは難しいだろう。しかし殿ならば何か知っておるかもしれん。
我輩は死に掛けのワイバーンに止めを射した。
「さて、帰るかの」
「うん!」
「約束はお主が破ったからの美味い物は無しじゃ」
「ええええ!」
「じゃが、助けられたのも事実じゃ。それで許してやるとするか」
「やったー!」
まったく賢く、凄い奴かと思えば、やはり子供じゃの。
こうして我輩とラムは帝都ニューザに帰るのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10,135
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。