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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。

第百十五幕 甘えん坊と不満

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 馬車で揺られること二十日、次の目的地であるミレーネの故郷に向かっていた。
 盗賊や魔物に襲われる事も無い事は無かったが、その都度返り討ちにあっていた。
(本能に正直なのは分かるが、エリーゼたちの訓練相手になった奴らは運が無かったな)
 千夜もまた他人事のように内心思っていたが、千夜の運動の相手をする羽目になった魔物たちのほうが不運だっただろう。
 ゆっくりと流れる風景を眺めながら、出立してからずっと密着しているクロエの頭を撫でる。
 それを見て快く思わないのが他の女性人であり、理由も知っているからこそ恨めしくて仕方が無い様子で睨んでいた。
 自分の向けられているのではないと分かっている千夜ですら気圧される迫力である。
(ここまでクロエが甘えん坊だったとは)
 予想外の展開に悩まされる千夜だが、それでもゆっくりと馬車は目的地へと向かっていた。
 その日の夕暮れ、野宿のために準備を始める千夜たち。
 スケアクロウは千夜の命令で休息している。
 馬車の中では寛ぐために改装しているため食事の準備などは外でしないといけない。現在、千夜とエリーゼは食料調達のため森に入り、それ以外の者は夕食の準備を行っている。最初はクロエが千夜と食料調達に向かう筈だったが、限界だったのかエリーゼたちが猛反対した。結果、エリーゼが同行することとなったのだ。

「旦那様、最近クロエに甘くないかしら」
「どうした唐突に」
 突然の事に問い返す。

「分かるでしょ。ここ数日クロエの態度を見ていれば」
「確かにな。だが、クロエがどうしてああなったのかも知っているからな」
 クロエが甘えん坊になったのは千夜がプレゼントした通信結晶が原因である。離れ離れになった家族、親友。しかし、それはクロエ本人が選んだこと。それでも夫である千夜はなんとかしたいと思い、クロエに通信結晶をプレゼントしたのだ。

「それでもよ。見てる私たちからしてみればいい気持ちじゃないわ」
「もしかして妬いているのか?」
「え、ええ、そうよ! もっと構って欲しいのよ!」
「そうか、悪かったな。これからは気をつけることにしよう。それとエリーゼたちも遠慮無く甘えてきたって構わないからな」
 そう言って頭を優しく撫でる。

「……そうさせてもらうわ」
 恥ずかしそうに俯いて答えるエリーゼを見て微笑みを浮かべる千夜。

「なら、ミレーネたちにも伝えないとな。だが、まずはこいつらを片付けてからだがな」
「そうね」
 千夜たちは周囲を囲む魔物に警戒する。

「半分は任せたぞ」
「ええ、分かったわ!」
 次々と襲い掛かってくる敵を冷静に倒していく。
 物の数分で片付いた千夜はアイテムボックスにしまうと、近くを通りかかったスィールラビットを即座に狩り、ミレーネたちの許へ戻るのだった。
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