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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。

第百八幕 無我夢中と温泉

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 過酷とも言える特訓が開始されてから7日。いよいよ明日で特訓は終わる。
 現在、シャイネは千夜が取り出した魔煙香によって無造作さといえる数の魔物と戦っていた。
 HPが減れば千夜が回復魔法をかけ、MPが減ればポーションで回復させる。それを淡々繰り返す。
 体に残るのは疲労と睡魔のみ。最初に比べて攻撃する回数も減ってきている。それでもシャイネは一体一体確実に倒していく。
 魔物の即死攻撃を食らいそうな時だけ千夜がカバーに入る。が、それも相手を怯ませる程度の攻撃でしかない。
 Dランクの魔物からAランクの魔物のまで、たまにS、SSランクも混じってはいるが、その時は千夜が気を引き付けている間に攻撃をしかけたりしていた。
 それから数時間後ようやく魔煙香の効果も切れ、終わりを迎えた。
 既に身体中に傷だらけ、アザだらけになっているシャイネ。

「大丈夫か?」
「ほんとセンヤは鬼だな。この状況を見ても大丈夫のように見えるのか?」
「大きな怪我はないか」
「………無い」
「そうか。ならこれでも食べていろ」
「ああ、貰おう」
 千夜から手渡された弁当と水袋を持ってシャイネは木に凭れ掛かる。

「……………………」
 シャイネは無我夢中で水を喉に流し込む、胃袋に身体の糧となる飯を入れていく。

「俺は魔物の後片付けと準備がある。それまでは休んでいろ」
「分かった。それにしてもそのアイテムボックスは本当に便利だな」
「俺も重宝している。それより休んでいろ」
「ああ、そうさせてもらおう」
 疲れきった表情で笑みを浮かべるシャイネは千夜に言われた通り重たくなった瞼を閉じる。

「それにしても何が凡人だ。お前は天才だよ」
 千夜は目の前に広がる光景を眺めながら愚痴のように呟く。
 そこには魔物の死屍累々があった。
 一時間ほどして

「おい、シャイネ起きろ」
「…………んん…………っ! あ、ああ。すまない。寝ていた」
「無理はない。ここ1週間殆ど寝ていないからな」
「そうしたのはセンヤだろ」
「そうさせたのはお前だろ」
 皮肉に対して皮肉で返す。そんなやり取りをした後、千夜に連れられてシャイネは洞窟に来ていた。

「ここは?」
「ここは元々魔物の住みだったようだが、さっきの戦闘で居なくなった」
「そうか。で、ここになんの用が」
「あれだ」
 千夜が指差す方に視線を向ける。そこには

「あれはまさか温泉か?」
「ほう、温泉は知っているんだな」
「当たり前だ。私の村にもあるぞ」
「そうなのか?」
「ああ。村の中と言うわけではないが、少し離れた所にある」
「そうか。だが、あれは温泉ではない」
「違うのか?」
「ああ。あれは俺が作った風呂だ」
「千夜はなんでも出来るんだな」
「…………」
「どうした?」
「別に。なんでも出来るわけではない。出来たとしても大切な人を守れなければ意味が無いからな」
「………気にさわったか?」
「気にする事はない。それよりさっさと入ると良い。身体の疲れがとれる。俺は外で見張りをしている」
 タオル、バスタオル等を手渡した千夜は歩き出す。

「なんなら一緒に入るか?」
 シャイネの言葉に振り返り、

「別に構わないが、夫でもない俺が一緒に入っても長になる時に障害にはならないよな?」
「うっ」
「人をからかう余裕があるならさっさと入れ」
 そう言い残して千夜は洞窟の外へと向かうのだった。
 一人きりになったシャイネは服を綺麗に畳んで、温度を確めて、爪先からゆっくりと湯船に浸かる。
 シャイネは名前を知らないが、湯船の底で光る魔法石を見詰めたのち、一旦出口に視線を向けて呟く。

「まったく食えないやつだな」
 響くこともない呟きは水滴の音によって掻き消されるのだった。
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