78 / 351
第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。
第百一幕 接触とシャイネ
しおりを挟む登山を始めて2日目。ようやく7割近く来た千夜たち。
標高も既に6000メートルを超えていた。吐く息は白く。空気が薄いせいか少し息苦しく感じるエリーゼたち。それでも少ししか感じないのは強くなった恩恵でもあった。
「あと少しじゃ、頑張るのじゃ」
先頭で歩くクロエは一度振り返り励ましの言葉をエリーゼたちに投げ掛ける。
(そろそろだな)
マップを開き敵意を持った存在が居ないか確める。
(今のところは居ないか)
敵意を持った敵どころか千夜たち以外は魔物の反応が数キロ離れた場所にあるだけだった。
「それにしても綺麗ね」
「そうだな」
「雲の上を歩いてる気分です」
雲の上に出た千夜たち。気温は低いが、日光に照らされた風景は神秘的で心も体も温かかった。
最初に比べて疲労はあるが、モチベーションは良好と言えた。
残り数キロと言うところまで来た時だった。
(来たか)
肌に感じる殺意と敵意ですぐさまマップを確めた。そこには十数人にもの赤い点が千夜たちを囲むようにして表示されていた。
「気づいているか?」
千夜の小さな呟きに全員が無言で頷く。
「向こうから接触してくるまでは手を出すなよ」
妻たちへの指示だが、一番は腰にある短剣に手を伸ばすエルザに向けられたものだった。
気づかない振りをして進むこと数分。
シュッ!
千夜の足元から一本の短剣が突如として飛び出してくる。
しかし短剣は顎を上げたことで空高くへとどこかに行ってしまった。
(ようやくか)
待ち草臥れたと言いたげな視線を岩影に隠れるダークエルフたちへ向けられた。
「ここは、我らの土地。よそ者はさっさと立ち去るが良い!」
敵意を向けてくるダークエルフたち。
「生憎とそれは出来ない」
「なら、お前たちは死有るのみだ」
「警戒するのも分かるが、まずは人の話を聞いたらどうだ?」
「人間の話など聞く必要はない。関わるだけで我らが一族に災厄が降り掛かる」
「大袈裟だな」
「事実だ!」
怒声を含んだ言葉に千夜は思うところがあった。
(前にクロエが言っていたやつだろうな)
「お前たちに何があったかは知らないが、俺は許可を貰いに、そしてクロエはお前たちに会いに来たんだが?」
その言葉にざわめき出すダークエルフたち。
「クロエだと」
「そうだ。嘘だと思うならクロエと話すといい」
「シャイネ、我じゃ! クロエじゃ!」
「お前など知らない! 確かに見た目はクロエに似ているが、クロエはそんな喋り方はしない」
「これはに訳があるのじゃ! だから一先ず我の話を聞いてくれぬか!」
嬉しそうに、だが、同じ村人から敵意を向けられ悲しみがクロエの焦りを増幅させる。
「だからお前など知らない!」
「なら、どうやったら信じてくれるのじゃ! ステータスを見せれば良いのか! 昔の出来事を喋れば良いのか!」
「……………お前が6歳の時、私とお前はある場所に行こうとして母さんに怒られた。その場所はどこだ?」
「竜の巣じゃ」
「……………なら、お前が8歳の時にある事をして泣いた。それはなんだ?」
「うっ、言いたくは無いが仕方がない。……………お………お……おね……おねしょ……」
「最後だ。お前が最初の狩りで倒した魔物はなんだ?」
「ロックバットじゃ」
「貴女本当にクロエなのか?」
「そうじゃ。最初ッからそう言っておるじゃろうが」
シャイネと呼ばれたダークエルフの質問に答えていくクロエ。その答えにシャイネだけでなく周りのダークエルフまでもが敵意が無くなっていった。
「クロエ!」
「シャイネ!」
短剣を放り捨ててクロエに抱きつくシャイネ。
数年ぶりの再会に二人の涙腺は緩みきっていた。
0
お気に入りに追加
10,102
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。