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その頃、百鬼家では?

我輩は討伐に行く。のだが……

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 我輩は主たる千夜殿の命により、千夜殿たちに変わって帝都ニューザでの依頼をこなすべく帝都ニューザを発った。
 今回の依頼は急遽大量発生したワイバーンの群れの撃退及び、その調査である。
 目的地は一度、殿が黒龍を討伐したアトラス山脈の麓である。元々ワイバーンや龍種などは地上を好まず、山脈や断崖絶壁などを好む。しかし山脈とはいえ、麓に住み着くなど何かが起きてるとしか思えん。現在は繁殖で食料を大量に欲するかもしれんが、それでも麓に下りて来るほどの問題でもない。にも拘わらず下りてくるとなると何かがあるに違いない。

「急がねば!」
 殿にあらぬ心配をさせないため我輩は急いでアトラス山脈へと向かう。
 街道を走り、途中から林道に入り駆けぬける。我輩の力なら走って16時間で麓に到着するだろう。確か殿は半日もあれば余裕で到着すると仰っていた。流石です。我輩全力で走っても半日では到着はなど不可能。
 己と殿の実力差は改めて実感した我輩だったが、気がつけば日が傾いていた。

「仕方が無い。今日はここで野宿をするとしよう」
 近くの小川で野宿の準備を行う。

「きゃああああああぁぁ!」
「ん?」
 川魚でも取ろうかと思った時、森の中から甲高い悲鳴が耳に届く。

「行ってみるか」
 我輩は両手に篭手を填めて森の中へと進む。
 少しして数人の人影を捕らえる。

「待ちやがれ!」
 人攫いか。帝都の近いとはいえ、やはり物騒だな。ま、元裏社会に身を置いていた者の台詞ではないな。
 木の陰から眺めていると、少女は石か何かに躓きこけてしまう。その間に3人の音子供が下卑た笑みを浮かべて少女へと歩み寄って行った。

「手こずらせやがって」
「兄貴、何気に可愛い顔してやすぜ」
「馬鹿か、売り物を傷つけどどうする。お前は相変わらず変態だな」
「その言い方は酷いですぜ」
「本当のことだろ。それより早くこいつを連れて行くぞ」
「分かってますよ。ほら! さっさと立て!」
 男は処女の手首を握り連れ去ろうとする。良く見るとまだ幼子のようだ。だが我輩には関係ない。我輩には大切な役目があるからな。

「……お願い……助けて……誰か……」
 震える声音で小さく呟かれる。普通の者ではけして聞こえぬだろう呟き。しかし我輩は獣人族。人間よりも遥かに聴覚は鋭い。そのため聞こえてしまった。小さく怯える幼子の求める声が。だが……我輩には……。

「ほら、来い!」
「いやああぁぁぁ!」
「外道が!」
「ぐへっ!」
 気がつけば我輩は幼子の手首を掴んでいた男を殴り飛ばしていた。

「てめぇ! 何者だ!」
「外道に名乗るなど思っておらぬわ!」
「どうしますか兄貴!」
 もう一人の男が不安げに問う。

「クソッ! こうなったら殺っちまうぞ!」
「ですが、あいつ強そうですよ!」
「こっちは二人だ。それに餓鬼を庇いながら戦える筈がねぇ!」
「そうですよね!」
 男二人はさほど手入れされていない剣を構える。

「お前らにやられる我輩ではない!」
 先手必勝。我輩はまず、兄貴と呼ばれていた男の懐に入り込み全力で腹部を拳を打ち込む。

「ぐはっ!」
 男は全ての空気と鮮血を吐きながら宙を舞い、地面に落ちると同時に首の骨を折り絶命する。

「うわわああああぁぁぁ!」
「逃がすか、戯け!」
 一瞬の出来事に怯えた男は剣を放り捨て、脱兎のごとく逃げるが、先回りをして退路を塞ぎ、そのまま男の顔面を破壊するほどの拳を打ち込み殴り殺した。

「自業自得だ。あの世でせいぜい反省するんだな」
 我輩は粉砕した男の死体を見下ろして呟く。
 しかし、どうして我輩はこんな事を。

「あ、あの……」
「ん? なんだ幼子」
「助けて頂きありがとう御座います」
「いや、気にしなくて良い。偶然お主の叫び声が聞こえたから来ただけだ。最初は助ける気などなかった。だから礼などいらん」
「でも、助けてくれました。ありがとうございます」
「むう……」
 満面の笑みで礼を言う幼子……そうか。なぜ助けたのかようやく解ったぞ。似ているのだ。あやつに。

「あ、あのう……どうかされましたか?」
「いや。それよりお主、名は何と言う」
「ラムです」
「だっちゃ」
「え?」
「いや、なんでもない」
 なんじゃ今のは。名を聞いた瞬間、なぜかあのような言葉が。

「それよりもお主はこれからどうするのだ」
 我輩の言葉に表情が暗くなる。

「解りません。お父さんもお母さんもいないのでこれからどうして良いのか分かりません」
「そうか。なら飯でも食べながら考えるとしよう。ついて来い」
「え、良いんですか?」
「魔物に襲われて食われデモしたら助けた意味がないからな」
「ありがとう御座います!」
 ラムは嬉しそうに我輩の後ろを小さな足でテクテクついて来る。

「ほれ」
「うわっ!」
 しかし遅いので担いで先ほどの小川に戻るのであった。
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