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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。

第八十九幕 シチューと揺らめく炎

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「今日の夕食はシチューとパンか」
「ええ、そうよ。好きでしょ?」
「ああ、こういう時はシチューに限る」
 深淵の森はまともに光が差し込まない場所。
 それは日中でも肌寒い場所。それが夜になれば気温が急激に下がり、夏であろう吐く息は白くなり、シチューからは湯気が立ち上っていた。

「うん、美味い」
「「「「……………」」」」
「どうした?」
 簡素に感想を述べる千夜。そんな彼をジッと見つめるエリーゼたち。

「いえ、別に。本当だな。と思っただけよ」
「はい、なんでもありません。気にしないでください。頑張りますから」
「センヤは気にしなくていいぞ。大変なのは私たちだけだからな」
「そうですね。センヤさんは気にしなくて構いません」
「ん? そうか」
 そう言ってシチューを口に運ぶ。しかし、エリーゼたちは食事もせずにクスクスと笑うのであった。
 食事も終わり、簡易テントで仮眠をとるクロエとエルザ。千エリーゼ、ミレーネは焚き火を眺めながら千夜に凭れていた。

「すまなかった」
「どうしたの急に?」
「きつく言いすぎたと思ってな」
「もう、いいのよ。妻なのに夫の事を分かってなかった私たちのせいだわ。それに私は旦那様を叩いたし……」
「そうですよ。焦っていた私たちが悪いんです。センヤさんはちゃんと忠告してくれていたのに……」
「いや、それでもだ。拒絶される気持ちは俺が一番知っていたのにな……」
「どういう事?」
「昔な…………いつか話す。俺が抱えている真実をな」
「………分かったわ。旦那様が話すその時まで待つわ。何時までもね」
「すまないな」
「それより今は明日の事です。目撃証言が正しければ明日の昼前には戦闘になります」
「そうだな。出来れば周りの何も無い場所が良いんだがな」
「そうなの?」
「ああ、今回のブラッドワームは全長15メートルそうなればまともに食事をすることも難しい。なんせアイツの好物は血だからな。しかしそこまでの巨体だとそうそう食事なんて出来やしない。そうなると奴等は体から触手を生やす。そうすれば一気に沢山の魔物たちに噛みつき血を啜ることが出来る。それは戦闘時でも同じだ。自分の命が危険だと判断すれば、敵や周りにいる生物に噛みつき血を啜ることで体力を回復し、また力を得る。正直森のなかだと長期戦は避けた方が懸命だ」
「なるほどね。それよりも旦那様は詳しいわね」
「昔、何度も戦った事があるからな」
 ゲーム時代に環たちと共に戦ったことを思い出す。

「それに、今回は知らないがたまに亜種がいる」
「亜種?」
「そうだ。その土地特有の進化を遂げた存在だ。これはブラッドワームだけでなく、他の魔物にも共通する事だ。大抵は生息が難しい場所で育った魔物たちに多いことだがたまに、こういった森でも起きることがある。ましてやここは深淵の森。奥へ行くほど魔物たちのレベルが上がる厄介な場所だ。だからお前たちも気を抜くなよ」
「分かってるわ。焦って視野を狭くするなって言われたばかりだもの」
「そうだったな」
 笑みを溢すとエリーゼとミレーネの肩に手をまわして抱き寄せるのだった。

「体が冷える。もう少し寄ると良い」
「ありがとう」
「そうさせて頂きます」
 二人もまた嬉しそうに千夜に抱きつくのであった。

「(役得ね)」
「(そうですね)」
 クロエとエルザには悪いと思いながらも笑みを溢す二人であった。

(さあ、いよいよ明日が本番だ)
 揺らめく炎を見詰め意気込む千夜である。
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