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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。
第八十六幕 怒りと焦り、そして別れ!?
しおりを挟むまだ見ぬ強さを求め、ブラッドワーム討伐に向かったエリーゼたち。
討伐対象であるブラッドワームが生息するのは王都から北西にある深淵の森と呼ばれている場所だ。
馬車で片道2日。しかしエリーゼたちは急ぐため、自分の足で森の中を駆ける。
「自分の足で走った方が馬車より早く着くなんて、変な話ね」
これまで体験したことの無い出来事に違和感を覚えながらエリーゼたちは目的地へと急いで向かう。
「仕方がない。馬車だとどうしてもスピードが加減される。それならステータスの高い俺たちが自ら走った方が早く着く」
「それもそうね。でも旦那様はこんなに速いスピードで走っても半分もの力も出してないのよね」
「ああ、お前たちのスピード合わせているからな。本気で走ったら1分もしないうちにニューザに到着するだろうな」
「「「「……………」」」」
千夜の言葉に返す言葉が出てこない妻たち。
千夜は自慢するつもりで言ったのではない。事実をそのまま語っただけに過ぎないのだから。それでも千夜がもたらした言葉に己の弱さを突き付けられているような気がしたからだ。
「だが、これだけは覚えておくといい。今回のブラッドワーム討伐が成功すればお前たちは飛躍的に強くなるだろう」
「どうして分かるの?」
「ん? ………全て終わってから教えてやる」
「………そう。なら、頑張らないとね!」
「はい!」
「無論だ!」
「ですね!」
一瞬、存在進化の事を教えるか悩む。が、結局は言わなかった。それには大きな理由があった。
(力を求めているエリーゼたちに飛躍的に強くなる存在進化の事を教えれば間違いなくブラッドワームを意地でも倒そうとするだろう。そうなれば必ずと言って言いほど視野が狭くなるからな。ましてや、存在進化まであと一歩というところまで来ているからな)
今回の戦闘で愚かな行動をさせないために千夜は敢えて言わなかったのだ。
「皆、急ぐわよ!」
「「「はい!」」」
時速100キロ近くで林道を駆け抜ける妻たちの後ろ姿に不安が増す千夜である。
(なにか焦っているな。休息の時に聞いてみるか)
走り続けること一時間目的地の深淵の森まであと少しとなった場所で一度休息をとる事にしたエリーゼたち。
しかし、エリーゼたちは何処か落ち着かない様子だった。
(やはりな)
休息して正解だと、思う千夜。今回この休息は千夜が無理にとったものだ。
「さて、今日はここで夜営をする」
「なっ! なにいっているの旦那様! まだ日も傾きだしたばかりよ! ここで夜営なんて早すぎるわ! そんな悠長な事してたら─」
「どれだけ急いだところでブラッドワームは逃げはしない」
「でも!」
「エリーゼ、何を焦っている?」
「っ!」
「エリーゼだけじゃない。ミレーネやクロエ、エルザもだ。なぜそんなに焦っている?」
「そ、それは………」
ゆらゆらと揺らめく炎を見詰める千夜からの問い。
それに対して言葉に詰まるエリーゼたち。
「お前たちが強さを貪欲に求めていることは前から知っていた。だから特訓もした。それでもお前たちは力を求めた。何故だ? 」
「…………」
「言いたくないのなら。今は言わなくても良い。だが、このまま向かうと言うのなら今回の討伐は俺一人で行う」
「「「「なっ!」」」」
千夜から放たれた言葉に驚く。
「どうしてよ!」
「このままならば、お前たちは死ぬからだ」
「そんな事は――!」
「なら、聞くがここまで来るまでに目につく範囲で何体の魔物との遭遇した? 今、どれだけの魔物が気配を忍ばせている?」
「それは………」
「誰も気づいていなかったな?」
「「「「……………」」」」
「いつものお前たちならば気づいていて当たり前の魔物の気配すら気づかない。そんな今のお前たちに戦闘をさせるわけにはいかないということだ」
千夜から冷たく言い放たれた言葉に返す言葉が見つからない。それもその筈、千夜が言っている事が正しいのだから。
「そ、それでも私は強くなりたいんです!」
「ミレーネ……」
「何故だ?」
「何時も何時も危険な戦いには家でお留守番です。それは私たちが弱いから。でも私はセンヤさんと共に戦いたいです! 背中を守りたいです! 守られるだけは嫌なんです!」
「それで、力を求めている訳か」
「…………はい」
己の不甲斐なさ、己の未熟さに苛立ちと焦りが膨らむ。そんな気持ちを打明けたミレーネ。それはエリーゼたちもまた同じだった。
が、
「必要ない」
「え?」
千夜から放たれた冷徹なまでの一言。
それはミレーネたちの思考を停止されるのに充分だった。
「必要ないと言っている」
「どうして……ですか?」
「今の状態のお前たちでは助けになるどころか足手まといと言っているんだ」
「だから、私たちは強くなるために!」
「何度も言わせるな。今のお前たちは邪魔なだけだ」
「っ!」
「ミレーネ!」
涙を流しながら何処かへと走るミレーネ。それを心配して追いかけるクロエ。
「旦那様」
「なんだ?」
パシッン!
静寂が支配する深淵の森。
その一角で乾いた音が響き渡る。
「言い過ぎよ」
「……………」
憤りの籠った視線と言葉が千夜に投げつけられる。
「エルザ、行くわよ」
「センヤさん、いえ、主………流石に酷いと思います」
エルザもまた憤りを露にする。それでも主に対してお辞儀をすると、エリーゼと共にミレーネとクロエを追いかけるのであった。
そして、誰もが千夜が伝えたかったこと。
想いに気付くことなく千夜の許から離れて行くのだった。
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