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第五章 依頼が無いので、呆気なく新婚旅行に行く事になりました。

第八十二幕 サインと転生者

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 武闘大会も終わり先日までの賑やかさは消えつつあった。
 それでも、まだ昨日の千夜とサシャの闘いが忘れられないのか王都では武闘大会の話題で持ちきりだった。もちろん女王との婚約も話題の1つになっている。
 そのため、

「あ! じょうおうさまの、こんやくしゃだ!」
 道を歩けば子供にまで指を指される始末となっていた。
 そして、

「あ、あの、ちょっと良いですか?」
「ん?」
 歩いていると1人の礼儀正しい少年が緊張ぎみに声をかけてきた。
 いったい何事かと思ったが良く見れば少年の後ろには護衛らしき男性が二人いた。

「なんだ?」
「…………サイン下さい!」
(サインだと。またか)
 前にサシャしたときの事を思い出す。

「あら、流石は旦那様」
「ま、当然ですね。子供から見れば憧れの対象ですから」
 エリーゼたちは楽しそうに笑みを浮かべていた。
(ま、確かに。この子の年頃だとヒーローや英雄に憧れたりするものだからな)
 前の世界にもヒーローに憧れていた人物が周りに居たことを思い出す。
(ま、俺はどちらかと言えば漫画の世界に憧れていたがな)

「ほら、サインしてあげたら」
「あ、ああ」
 千夜は少年からこの世界では珍しい綺麗な白紙と羽ペンを受けとるとスラスラと名前を書く。勿論念のためにと紙に細工がされていないか確めてからだが。

「ほら」
「あ、ありがとうございます!」
 少年は満面の笑みを浮かべてお辞儀をすると護衛の許に戻るのだった。

「商人の息子さんでしょうね」
「だろうな」
 身なりや口調、護衛たちの態度などをふまえて二人は推測を呟くのであった。

「さてと、そらじゃロミオたちの許に向かうとしよう」
「ええ、そうね」
 腕を組み直してエリーゼと千夜はロミオたちの許に向かう。
 それから歩くこと数分。ようやく目的地に到着する。
 扉を開け中に入ると。

「あ!」
「ん?」
 そこには先程のサインを求めてきた少年と護衛が居た。
 
「センヤさんにエリーゼおねえちゃ!」
「ナオちゃん久しぶり」
「うん! またきてくれたんだね!」
「ええ、勿論よ」
 滑舌もだいぶ良くなってきたナオは嬉しそうにエリーゼの許に駆け寄り抱きつくのだった。

「あ、あのナオちゃんと知り合いなんですか?」
「ん? ああ。前にこの店に立ち寄ったときに丁度店番をしていたんだ。この店の物は細かい所まで繊細に作られているからな」
「ですよね! それにしてもセンヤさんは強いだけじゃなくて商品を見る目も持ってているんですね! 凄いです!」
「いや、そんな事はないと思うが」
 興奮気味の少年は嬉しそうに目を輝かせていた。

「すまないが、名前を教えて貰って良いか? 俺の名前は千夜だ。で、此方が妻のエリーゼとミレーネ、クロエにエルザだ」
「初めましてエリーゼよ」
「ミレーネです」
「クロエだ」
「エルザです」
「すいません! つい嬉しくて。僕はジョン・ケイルです! 姓はありますが貴族ではありません。僕はこの王都に本部を持つケイル商会の嫡男です。宜しくお願いします」
「ふむ、しっかりしているな。年は幾つだ?」
「はい、7歳です」
「それは凄いわね」
「本当ですね」
「これでも商人の息子ですので礼儀作法は母に叩き込まれましたので」
「なるほどね」
 元貴族であるエリーゼはジョンの言葉に納得する部分があったようだ。

「…………」
「旦那様?」
「ん? どうした?」
「どうしたじゃないわよ。ジョンの顔をジッと見て」
「いや、本当に凄いと思っただけだ」
「そうなの?」
「ああ」
 この時千夜はあることを思い出す。よく小説の転生物では大抵がまだ幼いにも拘わらず、何処か大人びた雰囲気を持っている事があることに。そしてこの少年もまたその雰囲気を持っていると千夜は思ったのだ。
(念のために見ておくか)
 千夜は超解析を発動してジョンのステータスを確認する。

───────────────────

 ジョン・ケイル(松下海斗まつしたかいと)
種族 ヒューマン
LV 30
HP 8600
MP 960
STR 190
VIT 260
DEX 780
AGI 160
INT 1010
LUC 80

スキル
言語理解
鑑定眼 LV52
調合 LV48
調教 LV39
料理 LV28
剣術 LV8

属性


称号
商売の加護
転生者

───────────────────

(やはりか)
 この世界に来て二人目、そして初めてまともな転生者に出会うのだった。
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