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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第百五幕 冒険者と海賊幹部

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 両者一斉に敵に目掛けて走り出す。
 対極なことが一つあれば、冒険者側はリーダーが先頭に立って戦い、海賊側は一番後ろで高みの見物と言ったところだろう。
 勿論その程度の事で千夜は怒りを覚えたりしない。千夜は。

「前に出て戦いなさいよ。この卑怯者!」
 完全に怒りで我を忘れたアイーシャたちは暴走気味に敵に突っ込む。
(まったく、人の命令をまったく聞かないな。こんなじゃじゃ馬初めてだ)
 内心嘆息しながら敵を斬り倒して行く。

「クーエ!悪いがアイツ等のフォローに回ってくれ!」
「お安い御用じゃ!」
 クロエに指示を出し千夜は次々と屠っていく。斬る、斬る、斬る!
 ランタンで照らされた洞窟内の港に大量の血桜が舞い散る。
 その中心に居るのは不敵な笑みを浮かべた一人の鬼。
 徐々に減っていく海賊たちは千夜の力と表情に腰が引けていた。

「俺が想像していた以上のやり手だな。おい、ジック」
「分かりやした」
「それから、ポールとルーケはあのイカレタ女どもを殺して来い」
「「了解です」」
 側頭部に切り込みにもにた傷跡を持つ寡黙そうな見た目のジックは千夜目掛けて駆けて行く。
 隻眼同士のポールとルーケもエルザとクロエ目掛けて動き出した。
(幹部どもを動かしだしたか)

「二人とも注意しろ。少し手ごたえのありそうな奴等が出てきたぞ」
「了解です」
「それは愉快な事じゃのぉ」
 千夜同様、暴れまわるエルザとアイーシャたちをフォローしながらも彼女たちよりも多く海賊を倒していくクロエは楽しそうに返事をした。
 その現状に完全に放置されたアイーシャは驚きと苛立ちが駆け巡る。
(なんなのよ、いったい!クズの海賊たちもそうだけど、なんなのよあいつ等は!なんで笑いながら戦えるのよ。殺し合いが出来るのよ!イカれてるでしょ!)
 そんなアイーシャたちを気にするようすもなく千夜はジックとの戦闘を開始した。

「少しは楽しめそうだな」
「舐めた態度がいつまで出来るか楽しみだ」
「それはこっちの台詞だ!」
 夜天斬鬼と二本のロングソードが火花を散らす。

「ほう、俺の刀を真正面から受けて折れないか。大した武器だ」
(なんだ、こいつの武器は。ボスから頂いた英雄級の武器だぞ。一国の国宝として扱われてもおかしくない武器が一撃で欠けるだと。奴の武器はそれ以上という事か。それに奴の強さは伊達じゃない。この俺が一撃入れられるかどうかだな)
 互いに一撃だけで相手の武器、そして技量までもを理解した。
 それでも逃げない。
 この楽しい宴を終わらせたくないからだ。
 互いに沢山喋るほうじゃない。寡黙、クールと言える二人が互いに武器を手に殺し合い、そして楽しんでいる。
 そのひと時が一瞬にして終わると分かっていても。
 正確な時間までは分からない。だが殺し合いは2分。カップ麺が出来上がるより早くジックの武器ごと一刀両断して終了した。

「なかなか楽しめたぜ」
 命が消えた死体を見下ろしながら呟いた。

「二人の方はどうだ?」
「こっちは既に終わっておるぞ。正直見掛け倒しじゃ」
「私の方も同じです。搦め手が得意なようでしたが懐に入り込んだら一瞬でした」
「そうか」
(俺より先に終わらすなんて、二人とも成長したな)
 未だに気が抜けない戦場の中心に立ちながら、親心のようなものに浸る。

「おいおいマジかよ。俺の側近と幹部を瞬殺するなんて、大したものだな。やはりお前俺の右腕にならないか?」
「幹部から右腕か随分と出世したな」
「てめぇが俺の右腕を殺すからだろうが」
「それにしては全然悲しそうじゃないな」
「俺は強い奴が好きなんだ。アイツはお前に負けた。つまりは雑魚だ。そんな奴を気にしてどうする」
「つまりはお前にとって部下はただの駒ってわけか」
「その通りだ。俺がしたい事の為に手足が欲しいんだ。刺されようが、切られようが痛くない駒って言う手足がな」
 奴にとって大事なのは家族でも仲間でもなんでもない。己の欲望のみ。
(そこらへんは俺との考えは違うな)

「やはりお前の下につくのは無理だ。それに俺は自分より弱い奴の下に付くつもりは毛頭無い」
「言ってくれるじゃねぇか」
「ほら出て来いよ。後ろで踏ん反り返って無いで戦って見せろ。まさか見かけ倒しなんて言わないだろうな?」
「上等じゃねぇか。後悔させてやるよ」
 全長二メートルはあろう金棒を片手で持ち上げた船長はズシズシと歩く。

「お前は言ったな。所詮こいつ等はお前にとって捨て駒だって」
「その通りだ。ま、てめぇが全て殺しちまったがな。お陰でこっちも商売あがったりだぜ」
「俺はそんな考えの野郎は嫌いなんだよ」
「なら、てめぇにとってそいつらは何だ?」
「こいつ等は俺にとって大切な仲間であり、家族であり、愛する女であり、妻だ」
「はっ、何が仲間だ、愛する女だ。反吐が出るぜ。欲しいものがあれば力ずくで奪う。抱きたい女が居れば無理やり犯す。それだけだろうが」
「まさにクズの考えだな。やはりお前は殺すしかないようだ。だが、安心しろ。楽には殺すつまりはない」
「さっきからほざきやがって。それはこっちの台詞だって、さっきから言ってるだろうが!」
 金棒を振り上げ男は千夜目掛けて地面を蹴った。
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