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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第百一幕 三頭とボスは女

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 海賊の拠点を潰すべくべノワたちとは別行動をすることにした千夜たちは日の出を迎えていた。

「あとどれ位だ」
 未だにマストに縛り付けられた海賊二人に問いかける。

「この速度なら今日の夕方には到着します」
「そうか。なら少しここで休憩する」
 そう指示を出した千夜は懐から水袋を取り出して喉を潤す。

「そんな悠長な時間はないわよ!」
 そんな千夜に文句を言って来たのは予想通りアイーシャだった。
(少しは変わったかと思ったが、変わってないな)
 嘆息しながら千夜はアイーシャに視線を向ける。

「作戦も無しに突入したところで何の意味もないだろう」
「そ、それはそうだけど……」
「それに、昨日の夜から戦い続きでまともに寝たいんだ。少しは体を休ませておけ。でないと戦えないぞ」
「アンタに言われなくてもそうするわよ!」
 喚き散らすと船内へと消えていった。
 アイーシャとすれ違いにエルザがやってきた。

「物資の確認が終わりました」
 そう言ってエルザは二枚の羊皮紙を千夜に手渡す。

「そうか、ありがとう。ならルーザも少し休め」
「いえ、主より先に休むなど……」
「いいから休め。これは命令だ」
「わ、分かりました。では休ませて貰います」
 軽くお辞儀をしたエルザもまた船内へと消えていった。
 詳細にまとめられた資料に目を通しながら千夜は作戦を練りだす。
(片舷に大砲が五門。火薬と砲弾も使用可能。食料もこの人数なら余裕で持つな)
 手持ちの物を確認終えた千夜は海賊に視線を向けた。

「住処の中はどうなっている?」
「そ、それは……」
「別に言いたくなければこのまま刻んで魚の餌にしても良いんだぞ」
「わ、分かった!喋るから殺さないでくれ!」
 なら、最初からそうしろ。と内心思いながらも海賊たちの話を聞く。
 海賊たちの住処の詳細を聞いて予想以上だった事に千夜は嘆息した。
(前に話を聞いてはいたが、これは予想以上だな。街は大まかに三つの組織に分けられている。一つが海賊もう一つが歓楽街を仕切る女頭領。貴族たちとのコネクションを持つマフィアのボスか。まさに暗黒街の三頭だな。よくも今まで国に知られなかったな。いや、場所が場所なのと貴族たちが隠蔽していたんだろう。まったくどの世界も私利私欲の連中はいるもものだな)
 嘆息しながらも思考を止めようとせず作戦を考える。
(港付近一帯が海賊たちの縄張りか。で歓楽街と呼ばれる場所が女頭領の縄張り。それ以外の闇市や闇オークション、カジノなどの施設がある場所がマフィアのボスの縄張りか)

「おい、それぞれのボスの名前を教えろ」
「俺たちのボスの名前がシーザー。歓楽街を支配している女帝がヴァイオレット。闇市を支配しているのがボスがドン・ダイスだ」
(サメと花とサイコロでだな)
 なんとも分かりやすい名前なんだと思いながら千夜は話を話を続ける。

「で、お前たちのボスが居るのはどこだ」
「大抵は自分の屋敷にいるだろうよ。ボスは大の女好きだからよ」
「そうだな。護衛の当番の時なんて外まで女の喘ぎ声が聞こえるからよ」
 自分たちの立場を忘れて下世話な話をし始める。がクロエの威圧に即座に黙り込む。
 海賊とクロエのやり取りを無視しながら作戦を練る。

「で、屋敷の場所はどこだ?」
「港さ」
「なに?」
「屋敷って言ったけど正確にはボス専用の船の事なんだよ。だからボスはいつも港にいるのさ」
「ほう……」
 思いがけない情報に不敵な笑みを零す。

「っても別の港だけだよ!」
「どういうことだ?」
「俺たち海賊の縄張りには全部で三つの港があるんだけどよ、そのうち二つが海に出て奪った金品などを搬入する港で残りの一つが船長専用の港なんだよ。そこは護衛担当の奴らか、幹部しか入ることが出来ない場所なんだ」
「なるほど、間抜けな奴かと思ったがそうでもないんだな」
「なら、ボスの港から入れば良いだけの話じゃないのかえ?」
「それは無理だ。ボス専用の港の入り口には分厚い鉄で出来た扉があって出航するとき意外はいつも閉まってるからよ」
「それに港の周りには大量の大砲が設置されてる。近づくだけで直ぐに海の藻屑にされちまうよ」
「なるほどな。なら、普通に港から潜入するしかないってことだな」
 思いのほか強固な警備に千夜は頭を悩まされていた。
 そんな時ふとあることを思い出した。

「お前たちのボスに客人は来なかったか?」
「客?」
「何でもいい。お前たちのボスに会いに来た奴はいなかったか?」
「それなら、たまにドン・ダイスが取引に来るぐらいだ」
「それだけか?島の外から会いに来たやつは居なかったか?」
「そう言えば、数年前から取引している連中がいるって幹部の一人から聞いたな」
「どんな連中だ?」
「そん時はちょうど俺が護衛の担当で見張りしていたらよ。見かけない二人組みがボスに会いに来たって言うから本当かどうか確かめに言ったら直ぐに通せって言われたんだよ。で、あとになって少し気になって幹部の一人に聞いたら外の連中で新しい商売相手だって言うんだ」
(間違いない、暗霧の十月ミラージ・サヴァンだな)

「で、その二人組みの特徴は?」
「素顔までは分からなかった外套を目深く被っていたからよ。でもボスは女だと思うぜ」
「なに、女だと」
「ああ、ちょうど俺と一緒に見張りしていた奴がちょっかいかけたら二メートル近くある大柄な男がもう一人を庇うように前に出て殴り飛ばしてたからよ」
「だが、それだけじゃ女だとは分からないだろ」
「いや、その後俺の横を通り過ぎたとき甘い香水の香りがしたんだ」
「それがどうして香水じゃと分かるんじゃ?」
「いや、それは歓楽街に遊びにいくからよ」
「なるほど、遊びで身についた嗅覚ってやつか」
「そう言うことさ」
「一つ聞くが、もしももう一人が女だとして身長はどれぐらいだ?」
「そうだな……あの紅い目をしたおっかない譲ちゃんより少し背が高いぐらいだったな」
「ルーザより少し高いぐらいだな」
「ああ、そうだ」
 思いがけない情報に千夜は思考を巡らせる。
(確かにその程度の身長なら女だろう。だが低い男性だっているし、まだ少年だとも考えられる)

「もう一つ聞くが、そいつが商売相手のボスだってどうして分かる?」
「俺たちのボスは慎重深くて。商売相手になる奴は必ずその組織のボスに会ってから決める御人だからよ」
「これまでもそうしてたのか?」
「ああ、そうさ。ボスの忠告を無視した商売相手は直ぐに潰されたりしてたからよ」
「なるほどな」
(まさか暗霧の十月ミラージ・サヴァンのボスが女だったとはな。これで思い残すことなく海賊たちを潰せる)
 不敵な笑みを浮かべて千夜は再び船を動かし始めた。
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