上 下
335 / 351
第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第九十九幕 無法島と勝鬨 それと新作の告知

しおりを挟む
「わ、分かった!だから剣を向けないでくれ!」
「………」
 怯え叫ぶ海賊の言葉に千夜は無言で刀を下ろす。

「さあ、話せ」
「ば、場所は隣の領にある無人島だ」
「どれぐらいの人数がそこに居る?」
「正確には分からないが、たぶん千人近く居るんじゃないか?」
「ああ、そのぐらいはいるな」
「千人……だと」
 予想外の人数に思わず言葉が詰まる。

「なぜ、そんなにいる」
「あそこは言わば犯罪者たちの溜り場なんだ。殺人者や元盗賊に海賊、色々な事情で表では暮せない連中の行き着く場所なのさ」
「スラム街みたいなところか……」
「スラム街だと、そんな生易しい場所じゃないぜ」
「なに?」
「なにをしようと兵士も誰も来ない無法地帯だ。薬、強姦、恐喝、殺人なんでもありの場所さ。ま、犯罪者連中にとっては楽園だろうけどな。なんせ街の中で好き勝手できる場所なんだからな」
「なるほどな」
 国ですら実態が掴めない島で犯罪者たちが暮しているそれも街一つという大きな場所でだ。

「だが、それほど大きさだと気づかない方が変だが……」
「そりゃ場所が場所だからな」
「場所が場所だと。どう言う意味だ?」
「魔の海域って聞いたことないか?」
「いや、ないな」
 初めて聞く単語に千夜は目を細める。

「そこら中に大きな渦潮があっるせいでその島にはたどり着けないからさ」
「勿論、決められた場所から入れば勝手に辿り着くけどな」
「なるほど、正解の海路に乗れば渦潮が勝手に島に連れて行ってくれるってことか?」
「そ、そうさ」
「なら、お前たちをここで殺すのはやめておこう。その代わり俺をそこに案内しろ」
「お、おい本気か!あそこに居る連中は全員が犯罪者だ。勿論戦えねぇような奴だっているだろうけどよ。それでも千人近い犯罪者たちを一人で相手するつもりかよ!」
「殺すかどうかは言ってから決める。使えそうなら黙っておく。それだけだ」
「お前も対外闇に浸かってるな」
「俺は俺が守りたいもの、したいことをするだけだ。そのために必要なら犯罪者だって理由する。それだけだ」
「「っ!」」
 この時二人の海賊はようやく理解した。目の前に立つ男は遥かに自分たちよりも恐ろしく、異常な存在だと。

「一応逃げられないように紐で縛っておくが逃げようなんて考えるなよ」
「当たり前だろ!誰がお前から逃げようなんて考えるかよ!」
 目の前に広がる惨劇を目の当たりにした二人は千夜から逃げようとは微塵も思わなかった。

「それはいい心がけだ。さてそろそろリーゼたちの戦いも終わる頃だろう」
 未だ聞こえる砲声と金属音に耳を傾けながら千夜はエルザとクロエを待つのだった。

                       ********************

 甲板の上で繰り広げられる戦闘はまさに乱戦そのものだった。
 大型の船とはいえ50人弱の人間が甲板の上で戦かうには狭すぎる。結果作戦など無意味と化し完全に敵味方が乱れる乱戦となったのだ。
 それでも士気の高さは段違いだった。増援があると信じていた海賊たちの士気は徐々に落ちてゆくが冒険者たちは減っていく海賊たちの姿に士気が上がる。
 それはまさにシーソーゲーム。
 片方が下がれば、もう片方が上がる。
 そんな戦場を駆け抜けるエリーゼの姿はまさに剣姫に相応しい凛々しさと美しさに他ならなかった。

「あと少しよ!みんな気を引き締めなさい!」
「「「「「おおおおおおおおぉぉぉ!!!」」」」」
 エリーゼが剣を振るえば冒険者たちの力は高まり、砲声を発すれば冒険者たちの勢いが増していった。
 先頭に立つもの。その資質はまさに本物。
 千夜で隠れ気味のエリーゼたちもまた、個々が持つ資質や素質は十分高いのだ。ただ千夜がその誰よりも多く強い資質や素質を持っているだけのこと。
 小さな光が大きな光によって隠れてしまうのと同じ事である。
 斬り、突き、斬り上げ、魔法は使わず己の身体能力と剣術のみで海賊たちを次々切り殺しているエリーゼの周りには紅の鮮血が花のように舞い散っていた。
 これではどちらがリーダーなのか分からないと思うかも知れないが、エリーゼはどちらかと言えば先頭に立ち仲間の士気を上げることに向いている。
 そしてミレーネは冷静な判断で戦況を見極めるのに向いている。
 戦術はミレーネ、士気はエリーゼ。
 それが千夜が考える最高の陣形の一つなのだ。

「「これで、終わりよ!」です!」
 二人の声が重なり放たれた一撃が頭と胸に刻まれ、海賊のリーダーは甲板に倒れた。

「私たちの勝利です」
「さあ、みんな勝鬨をあげるわよ!」
「「「「「おおおおおおおおおおぉぉぉ!!!」」」」」
 剣や拳を天に掲げ大きな勝利の咆哮が闇夜の海に波紋を生み出すのだった。
 それからはエリーゼたちの勝利に続くように他の船からも勝鬨の咆哮が上がるのだった。




─────────────────────
どうも月見酒です。
更新が遅れて申し訳ありません。
さて、ここで告知させて貰います。
第七章六七幕でも言いましたように新作を公開したいと考えておりましたが、いよいよ明日0時にプロローグを含めた5話分を一挙に公開します。
タイトルは『地獄王の異世界放浪録~なぜ、こうなる!!~』です。
正直タイトルに悩んでいます。もしも思いついた方は是非感想などと一緒に書いて頂けると幸いです。
意見、感想などもお待ちしております。
プロローグを除いて平均5000文字と読み応えも十分だと思いますので是非読んでみて下さい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。