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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。
第九十三幕 指導とカモメ
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「もうあれから五日になるのね」
「そうですね」
人工島を出発してから早五日が経った。明後日には港都市ダラに到着する予定になっている。
出航してから今のところ海賊に襲われる事はなかったが、この後も襲われないとは限らないため十分な警戒が必要だ。と言っても全員で警戒していては精神的に疲れるため行きと同じで交代制になっている。因みに今の見張りはエリーゼとミレーネだ。
地平線まで何もない青い海を眺めながら黄昏る。
そんな二人は下から聞こえる咆哮に耳を傾けるのだった。
「今日も元気ね」
「そうですね」
現在甲板ではウィルとエルザ。それから他の冒険者たちが千夜の指導を受けていた。何故そうなったかと言うと、それは三日前まで遡らなければならない。
いつものように稽古をしていた千夜とウィルのところに冒険者たちが興味本位で近づいてきた。
「どうした?」
「いや、アンタの息子そんなに小さいのにどうしてそんなに強いのかと思ってな」
ウィルはまだ子供だが実力だけで言えば同世代より遥かに強いだろう。
「それはお父様のお陰です」
そんなウィルが正直に答えた。これが発端と言えば発端なのかもしれない。
「お父様のように強くなりたくて僕はお父様に頼んで指導して貰っています。そのお陰で強くなれました」
「そんなに強くなれるのか?」
「それは人それぞれだとお父様は言っていましたが、僕が知る限りお父様に教えて貰った人たちは強くなっていますよ」
「「「「おおおおおぉぉ!!」」」」
期待に満ち溢れる歓声とキラキラと輝く瞳に千夜は嘆息しそうになる。
(まったく余計な事を)
「センさんお願いです!」
その言葉だけでこの後の展開を直ぐに理解できた。
「「「「どうか俺たちも指導して貰えないでしょうか!」」」」
(やっぱりな)
そんな事を思いながら額に手を当てる。
(さて、どうしたものか。こいつらに教える義理なんてない。ここで断っても平気だがセンと言う冒険者の悪名が広まるのだけは勘弁したい。いや、ここで鍛えてやれば海賊に教われた際に少しは安全になるかもしれない)
その考えに至るのに差ほど時間は必要なかった。
「いいだろう。ただし鍛えるのはダラに到着するまでの間だけだ」
「「「「勿論です!」」」」
「それと一度でも弱音を吐いたら即座に海に叩き落すからな」
「「「「はい!」」」」
こうして千夜は他の冒険者たちにも指導することになり、現在に至るというわけだ。因みにこれまでに弱音を吐いて海に落とされた者はいない。その事に何気に根性だけはあるな。と内心思う千夜であった。
夕方になり訓練を終えた冒険者たちは甲板の上に寝転がっていた。
毎日のように続く訓練にも大分慣れ始めたころだ。
「お疲れじゃのぉ。ほれ水じゃ。飲むがえぇ」
疲れきった冒険者たちにクロエとエルザたちが水が入った皮袋を手渡していた。これも千夜の提案だ。疲れた後には少しでも癒しがなければ続かないからだ。
(それにしてもこれじゃ、まるで放課後の部活風景そのまんまだな)
監督目線からそんな事を思う千夜であった。
その時一羽のカモメが帆桁に止まる。その事に気がついた千夜は違和感を覚えた。
(鳥類の大半は集団行動をする生き物だ。鷲や鷹といった猛禽類は別だが、カモメの殆どは集団行動をとる。ましてやこんな場所に一羽だけで行動するはずがない。もしかして逸れたのか?いやだとしても港からは離れすぎているし大陸を移動してきたとも考えにくい。だとして考えられるとしたら……)
怪しまれないよう一瞬だけ視線を向けた千夜だったが、すぐさま視線を戻した。が、カモメは気がついたのか定かではないが、どこかへと飛び立ってしまった。
(どうやら楽には戻れないようだな)
茜色の空を飛ぶカモメの後姿を眺めながらそう思う千夜であった。
「ウィル、すまないがベノワのところへ行ってくる」
「分かりました」
そういい残してさっそく行動を開始した。
べノワの書斎はすでに把握していた千夜は迷うことなく船内を歩いて到着した。
「センだが入っても良いか?」
「構いませんよ」
一様礼儀としてノックして確かめた千夜はべノワの了承を得て書斎へと足を踏み入れた。
「どうかされましたか?」
「ああ。早ければ明日の夜には海賊たちが襲ってくるだろう」
「それは本当なのですか?」
「確信があるわけじゃない。この海域でカモメが一羽だけで飛んでいるということがあるのかと思ってな」
「なるほど分かりました。他の船には私から伝えておきます。この船の冒険者の皆様にはお伝えして頂いても構いませんね」
「ああ、問題ない」
そう返答した千夜は踵を返して書斎を後にした。
扉がしまり千夜の気配が無くなったのは感じ取ったべノワは呟く。
「まったくたった一羽のカモメからそこまで推測するとは末恐ろしい人ですね。だからこそ残念です。専属の護衛にできないのが」
そんな事を思いながら秘書を呼び出すのだった。
「そうですね」
人工島を出発してから早五日が経った。明後日には港都市ダラに到着する予定になっている。
出航してから今のところ海賊に襲われる事はなかったが、この後も襲われないとは限らないため十分な警戒が必要だ。と言っても全員で警戒していては精神的に疲れるため行きと同じで交代制になっている。因みに今の見張りはエリーゼとミレーネだ。
地平線まで何もない青い海を眺めながら黄昏る。
そんな二人は下から聞こえる咆哮に耳を傾けるのだった。
「今日も元気ね」
「そうですね」
現在甲板ではウィルとエルザ。それから他の冒険者たちが千夜の指導を受けていた。何故そうなったかと言うと、それは三日前まで遡らなければならない。
いつものように稽古をしていた千夜とウィルのところに冒険者たちが興味本位で近づいてきた。
「どうした?」
「いや、アンタの息子そんなに小さいのにどうしてそんなに強いのかと思ってな」
ウィルはまだ子供だが実力だけで言えば同世代より遥かに強いだろう。
「それはお父様のお陰です」
そんなウィルが正直に答えた。これが発端と言えば発端なのかもしれない。
「お父様のように強くなりたくて僕はお父様に頼んで指導して貰っています。そのお陰で強くなれました」
「そんなに強くなれるのか?」
「それは人それぞれだとお父様は言っていましたが、僕が知る限りお父様に教えて貰った人たちは強くなっていますよ」
「「「「おおおおおぉぉ!!」」」」
期待に満ち溢れる歓声とキラキラと輝く瞳に千夜は嘆息しそうになる。
(まったく余計な事を)
「センさんお願いです!」
その言葉だけでこの後の展開を直ぐに理解できた。
「「「「どうか俺たちも指導して貰えないでしょうか!」」」」
(やっぱりな)
そんな事を思いながら額に手を当てる。
(さて、どうしたものか。こいつらに教える義理なんてない。ここで断っても平気だがセンと言う冒険者の悪名が広まるのだけは勘弁したい。いや、ここで鍛えてやれば海賊に教われた際に少しは安全になるかもしれない)
その考えに至るのに差ほど時間は必要なかった。
「いいだろう。ただし鍛えるのはダラに到着するまでの間だけだ」
「「「「勿論です!」」」」
「それと一度でも弱音を吐いたら即座に海に叩き落すからな」
「「「「はい!」」」」
こうして千夜は他の冒険者たちにも指導することになり、現在に至るというわけだ。因みにこれまでに弱音を吐いて海に落とされた者はいない。その事に何気に根性だけはあるな。と内心思う千夜であった。
夕方になり訓練を終えた冒険者たちは甲板の上に寝転がっていた。
毎日のように続く訓練にも大分慣れ始めたころだ。
「お疲れじゃのぉ。ほれ水じゃ。飲むがえぇ」
疲れきった冒険者たちにクロエとエルザたちが水が入った皮袋を手渡していた。これも千夜の提案だ。疲れた後には少しでも癒しがなければ続かないからだ。
(それにしてもこれじゃ、まるで放課後の部活風景そのまんまだな)
監督目線からそんな事を思う千夜であった。
その時一羽のカモメが帆桁に止まる。その事に気がついた千夜は違和感を覚えた。
(鳥類の大半は集団行動をする生き物だ。鷲や鷹といった猛禽類は別だが、カモメの殆どは集団行動をとる。ましてやこんな場所に一羽だけで行動するはずがない。もしかして逸れたのか?いやだとしても港からは離れすぎているし大陸を移動してきたとも考えにくい。だとして考えられるとしたら……)
怪しまれないよう一瞬だけ視線を向けた千夜だったが、すぐさま視線を戻した。が、カモメは気がついたのか定かではないが、どこかへと飛び立ってしまった。
(どうやら楽には戻れないようだな)
茜色の空を飛ぶカモメの後姿を眺めながらそう思う千夜であった。
「ウィル、すまないがベノワのところへ行ってくる」
「分かりました」
そういい残してさっそく行動を開始した。
べノワの書斎はすでに把握していた千夜は迷うことなく船内を歩いて到着した。
「センだが入っても良いか?」
「構いませんよ」
一様礼儀としてノックして確かめた千夜はべノワの了承を得て書斎へと足を踏み入れた。
「どうかされましたか?」
「ああ。早ければ明日の夜には海賊たちが襲ってくるだろう」
「それは本当なのですか?」
「確信があるわけじゃない。この海域でカモメが一羽だけで飛んでいるということがあるのかと思ってな」
「なるほど分かりました。他の船には私から伝えておきます。この船の冒険者の皆様にはお伝えして頂いても構いませんね」
「ああ、問題ない」
そう返答した千夜は踵を返して書斎を後にした。
扉がしまり千夜の気配が無くなったのは感じ取ったべノワは呟く。
「まったくたった一羽のカモメからそこまで推測するとは末恐ろしい人ですね。だからこそ残念です。専属の護衛にできないのが」
そんな事を思いながら秘書を呼び出すのだった。
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