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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第八十五幕 魔物軍団とアンデッド軍団

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 半漁人のような見た目をした魔物や、リザードマンのような魔物の鋭利な爪を難無くと躱してから、その首を刎ねる。
 千夜が相手する魔物の数はおよそ二十体。千夜からしてみれば目を瞑っていても殺せる相手だが、数対殺すたびに無尽蔵ではないかと思わされるほど天井、壁、床から次々と魔物が出現してくる。
(まったく面倒な)
 久々に大量の敵と戦えて嬉しいと思っていた千夜だが、さすがに鬱陶しく感じ始めていた。
 それでも千夜は斬る。斬る。斬る!
 今、千夜に出来ることを無心になって行うだけ。

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「凄い……」
 戦闘音が止めどなく響き渡る通路でまともにその声を聞き取れる者はいない。それは近くにいるウィルですら同じだ。
 ベノワは大量の魔物をたった一人で屠る千夜の姿に目を奪われていた。
 他の誰よりも速く、多く敵を屠る姿はまるですべてを喰らい尽くす戦鬼そのものだった。

「ウィル君だったわね」
「は、はい」
 突然名前を呼ばれたウィルは驚きを覚えながらも周囲を警戒しながら返事をした。

「君のお父さんは凄いわね」
「はい。自慢のお父様です」
 ウィルを見下ろしたベノワの目に映ったのは憧れの存在を見る子供がそこにいた。
(レイク……)
 そんなウィルの姿は幼き頃の我が息子と重なる。

「どうかしましたか?」
 悲しげな表情をするベノワに気がついたウィルに声に我に戻ったベノワは軽く指先で目を擦ると笑みを浮かべて「なんでもないわ」と答えるのであった。
 
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 戦闘が開始されて二十分が経過しただろうか。これまでで最も長い戦闘に冒険者たちの体力は限界に近づいていた。
 だが、魔物の数も最初の時の3分の1にまで減っていた。
(そろそろだな)
 敵を斬り殺しながら戦況を把握しながらそう感じた千夜。
 魔物を殺しても出現しなくなったことは数分前には気がついていた千夜は残り僅かの魔物を刹那の時間で屠るとウィルに駆け寄る。

「ウィル大丈夫か」
「はい、大丈夫です!」
「そうか」
 笑みを浮かべるウィルの頭を撫でようとした時だった。

「スケルトン軍団だあああああぁぁぁ!!」
「なにっ!」
 十字路で戦う三班からの知らせに千夜は驚きの声をあげる。

「各班密集して応戦しろ!」
「ですが、それでは別行動になってしまいますよ!」
「構わない!最悪なのはバラバラに散らばる事だ!」
 ベノワの心配に千夜は即座に答える。

「挟み撃ちの要領で攻撃して殲め――」
「大変です!今度は大量のゾンビやグールが出現しました!」
「なにっ!」
「嘘だろアンデッド軍団なんてありえないだろ!」
「光属性魔法か火属性魔法が使える者は集中砲火!前衛組は頭部を狙って攻撃しろ。困難な場合は足止めに集中しろっ!」
 背後から襲い掛かってこようとしたゾンビ三体の首を一振りで跳ね飛ばしながら千夜は指示を出した。が、

「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁ!」
「今度はなんだ!」
「二班の冒険者の一人がゾンビたちに食われました!」
 冒険者の言葉に千夜はエリーゼに視線を向けると向こうも気がついたのか、軽く頷いた。
(よし、一人は片付いたか)

「隙間を作るな!殺られた冒険者の穴を埋めろ!」
 内心は喜びながらも的確な指示を飛ばす。

「ウィル、ベノワは任せたぞ!」
「はい!」
「さて、俺もそろそろ本気で戦うか」
(アイツには悪いが)
 まるでバイ○ハザードのワンシーンのような大量のゾンビの群れの中へと駆け抜けた。
(やっぱりさっきの魔物よりレベルが高いな)
 内心そんな事を思いながらも千夜の人たちはゾンビたちの頭を刎ねていた。
 魔物とは違い倒す度に眉を顰めたくなるほどの強烈な腐臭が放たれる。
(これ、臭いで常態異常になったりしないよな?)
 そんな風に思ってしまう千夜だが気にする事無く千夜は屠り続けた。
 そのあとアンデッド軍団との戦闘は一時間を費やして終了した。
 魔物軍団との戦闘終える直前でのアンデッド軍団との戦闘は冒険者たちに肉体面と精神面で多大なる消耗を与えた。
 合計にして約一時間二十分。そんなに長くは感じないかもしれないが、広くない通路で密集した戦闘。包囲され退路も休憩する暇はなく、血と汗、腐臭が漂う空間で次々と襲い掛かってくる敵。それを一時間以上行えば疲労するのは当たり前である。
 そのため誰もがその場に座り込んで方で息をしていた。

「被害報告を頼む」
「死者一人、負傷者十人。そのうち重傷者は二人だけよ」
「そうか。重傷者にはポーションを飲ませたうえでミーナに治療して貰ってくれ」
「もうしてるわ」
 エリーゼの報告に千夜は指示を出したが既にしているらしく笑みを零した。
 しかしそれを聞いた冒険者たちは違った。

「マジか。あの戦いで死人が一人って……」
(拙い。これは暴動が起きる可能性がある)
 焦りを覚える千夜だったがそれは杞憂に終わった。

「俺たちって凄いな!」
「ああ、やれば出来るんだな!」
「俺、今の戦いでレベル2も上がったぜ!」
「私なんてスキルレベルも上がったわ」
 いつ死んでも可笑しくない戦いを乗り切った冒険者たちの顔には笑みが浮かび、今度は黄色い笑い声が通路に響き渡るのだった。
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