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第七章 忙しいが、呆気なく都市ルーセントに向かう事になりました。

第七十四幕 二手と十字路

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 財宝集めをしているとクロエが近づいてきた。

「センよ。それでこの後はどうするのじゃ?」
 クロエが何を言いたいのか理解した千夜は返答した。

「正直困っている」
「困る?」
「ああ。探索は俺が入れば安全に探索が出来ると全員が思っている」
「それはそうじゃ。センの力を持ってすれば容易いかろう」
「そうじゃない」
「どういうことじゃ?」
「信頼されていることが問題なんだ。暗殺が成功すると死人がでる。そうなれば信頼を失ってしまうのが問題なんだ」
「他人の信頼を気にするのか?」
(最近エリーゼたちもそうだが、平然と酷いことを口にするようになったな。でも――)

「確かに俺は気にはしない。だがそうじゃない。俺に対する信頼を失っても構わないが、ベノワへの信頼を失っては困る」
「何故ベノワが信頼を失うのじゃ?」
「簡単なことだ。俺を推薦したのがベノワだからだ。そうなれば今後の探索にも支障をきたす恐れがある」
「では、探索最終日に仕掛けてはどうじゃ?」
「それも考えたが、そうなれば依頼主と冒険者の間で遺恨を残したままダラに帰還することになる。そうなれば帰還中に海賊に襲われた場合の指揮系統が機能しない恐れだってある」
 殆どが初対面で信頼も薄いため崩れるのは容易い。

「では、どうするのだ?」
「一応案が無いわけじゃない」
「どんな方法だ」
「それに関しては帰ってから話す」
「分かった」
 その後は黙々と財宝集めを行った千夜とクロエ。トラップなどにも警戒しながら集めたが二回目ということもあり、思いのほか早く財宝集めを終えた千夜たち。
 その後はいつもどおり一人一つ財宝を手にしてから箱に収納した。

「これからどうする?」
 千夜は時間的に余裕があることに気づきベノワに問いかける。

「別行動しようかと」
「つまり二つに別けるということか?」
「そうです。私は残り財宝は秘書に預けて帰還させます。その護衛として班を二組ほどつけることは可能ですか?」
「つまり残りの3班は探索を続けるってことだな」
「そうです」
「大丈夫だ。というより妥当な判断だな。1班だけじゃもしもの時護りきれるか不安だしな」
「そうですね。では、どの班を護衛として帰還させますか?」
「そうだな……」
 顎に手を当てて考え込む。この選択によっては最悪の展開だって考えられるからだ。
(護衛としてつけるなら接近戦が得意な方がいいだろう。となるとミレーネは除外だな。遠距離攻撃を得意とするミレーネにはまだ探索をしてもらいたいしな。となるとエリーゼ、クロエ、エルザのどれかとなるが、確実にいくならエルザがいる5班を入れるべきだろうが背後の警戒には居てもらわないと困る。となるとエリーゼとクロエか。どうせ今日は暗殺をしないからな)

「なら二班と四班を護衛につかせよう。その際ウィルとベノワを交換というかたちでも構わないか?」
「ええ、私は構いません」
「そうか。ならそうしよう」
 こうしてこの後の行動について話し合いが終わりそれを全員に伝えた。少しウィルが不満そうな表情をしていたが、文句を言うことなく千夜の指示に従いエリーゼたちと一緒に帰還することとなった。
 五分ほど休憩したそのあと探索組と帰還組に別れて行動を開始した。
 千夜のいいつけを守り誰もが警戒しながら進む。そんな時千夜が突如その場で止まる。

「どうかしたのかしら?」
「分かれ道だ。どっちに進む?」
 照明ライトの魔法で照らされた通路の先には十字路があった。
 左の通路は戦闘でもあったのか破損が激しく。それに対して右の通路は綺麗な状態だ。真っ直ぐ進む通路に関しては天井から垂れ落ちる水滴で床が水浸しになっていた。
 普通なら右折を希望するだろう。障害が少ないほうが移動の際の疲労が少ないからだ。しかし千夜にとってはそれが不気味で仕方がなかった。というよりも全ての通路が不気味でしかなかった。
(破損が激しいにも関わらず水滴が一滴たりとも垂れていない。それに対して真ん中は老朽化で海水が流れ込んできたと言わんばかりだ。そして右に関しては一番安全ですよと誘い込んでいるようだ)
 あらゆる可能性を考慮する千夜の思考は気がつけば完全に出口のない迷宮に入り込んでいた。そんな時ベノワが口を開いた。

「そうですね。センさんならどの道にしますか?」
(困っているから聞いたんだが。ま、決めるのはベノワだからな。俺は参考としていくつか提示しておくだけで良いだろう)

「まず左の通路だが戦闘が行われた形跡がある。となると誰かが通った可能性がある」
「しかしここは……」
「勿論遥か昔のことだ。で真ん中は水浸しになっているだけで戦闘の形跡はない。ただこの水が害をなすものかどうかは俺には分からない。最後に右の通路だがこれが一番怪しい。他の二つに比べて綺麗過ぎる。どう考えても誘い込んでいるようにしか思えない」
「つまり罠ってことですか?」
「そうだ」
 その質問を最後にベノワは考え込むが数分後には答えを出したのか口を開いた。

「では、左の通路に行きましょう。戦闘の形跡があるということは人が通ったってことです。そしてそこで奇襲にあったってことでしょう。いつ、それも奇襲があるかどうかも分からない二つに比べればあると仮定して動く分、幾分精神的に楽だと思うので」
(それは熟練の冒険者のことだ)
 内心そんなことを思いながらも千夜さちは左折するため歩みを再開した。
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