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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第十一話 街観光
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イザベラたちとの模擬戦を終えて屋敷に戻って来た俺は昼食を堪能した後、庭でリリーと一緒に銀と遊んでいた。
昼食時、いつも食べる食堂には俺を含めて4人しかいなかった。
当然ながらイザベラ、ロイド、ライオネルの3人は俺が模擬戦で気絶させたので未だ起きておらず寝室のベットで寝ている状態なわけで、イザベラに対して絶対的な信頼と忠誠を誓うイカれた三姉妹の視線には殺意が宿っていた事は言うまでもないだろう。理不尽だとは思うけど。
それにしても身体を動かした後の飯は最高だな。特に肉は最高だ。
「ねぇ、ジンお兄ちゃん」
「なんだ?」
庭で遊んでいると唐突にリリーがクリっとした可愛らしい表情で話しかけて来た。
「銀も将来強くなるの?」
「ああ、とっても強くなる。才能で言えば俺なんかよりたくさん持っているからな」
「そうなんだ!銀、頑張ってね」
「ガウッ!」
リリーの言葉に尻尾を振りながら答える。ん?誰かが近づいてくるな。
振り返るとタキシードを完璧に着こなした老紳士こと、セバスが近づいてきていた。ほんとこの家にはテレビに出れば一瞬で人気者になりそうな人しかいねぇな。
「ジン様、イザベラ様がお呼びでございます」
「目が覚めたのか?」
「はい。5分ほど前にございます」
そうか。なら向かうとするか。
「銀、お前はどうする?」
銀に聞いてみる。答えるわけないか。と思っていたが銀は首を横に振って答えてきた。すごい理解力。俺より知能高いんじゃないか?
「リリー、銀のこと頼んだ」
「うん、任せて!」
誰かに頼まれると言うことがなかったのか。嬉しそうに手を挙げて答える。可愛い。
セバスの案内で向かったイザベラの寝室は三階らしく、階段上るのかと思っていたらエレベーターに乗せられた。エレベーターも完備しているのか。流石は金持ち。
そんな驚きを抱いているうちにイザベラの部屋の前まで来ると、セバスが扉をノックする。
「お嬢様、ジン様をお連れしました」
「入れて頂戴」
「畏まりました」
静かに扉を開け、中に入る。
女の子らしい物は少ないけど、殺風景と言うわけでもない。気品のある部屋と言うべきだろう。
お、ロイドも居るのな。あいつも目が覚めて来たらしい。
ベッドから状態を起こしたイザベラが俺の方を見てくる。
「よ、もう平気か?」
そんな俺の言葉にロイドが眉間に皺を寄せて鋭い眼光を向けてくるが気にしない。
「気絶させた張本人がする態度とは思えないわね」
イザベラに関しては一切表情を変える事はなく、ただ呆れた口調で口を開いただけだった。
「模擬戦なんだ。文句を言われる筋合いはないと思うが?」
「それもそうね」
納得したように軽く目を瞑る。ロイドよ、お前はまだ俺を睨んでいたのか。
「それで俺になんの用だ?」
「気になったのよ」
「気になった?」
なんの事だ?ある程度話したと思うが。
「最初から勝てるとは思っていなかったわ。瞬殺もありえたわけだし」
ああ、さっきと模擬戦のことか。
「思いのほか苦戦したけどな」
「慰めのつもり?」
頼むからそんなに睨まないでくれ。
「思ったままの感想だよ。俺の予想ではあの程度でも勝てると思ったんだけどな。お前たちの連携に翻弄されて思いのほか力を出す羽目になった」
「褒められてる気がしないわね」
それはすいませんね。なんせ、5年間も魔物たちと死闘を繰り広げていたからな。人と喋るなんて久々なんだからな。
「それで、なん%で戦ったの?」
「ん?」
「さっきの模擬戦の事よ」
なるほど。そういう事か。
「最初は0.5%だな。編入試験の時のこともあったからな。でも苦戦させられたからな。最後の攻撃はだけは0.9%でやらせて貰った」
イザベラがあのテトルより強い事は分かっていた。ましてや相手は3人。それでもテトルを一瞬で倒してしまった事とハロルドのおっさんたちの目の前である事を考えて俺はテトルの時よりも力を制限して闘った。
ま、その結果苦戦してしまった訳だが。
因みに0.5%と言うのは5分の1の中の0.5%と言う意味だ。
つまり全力全開の20%を100%と置き換えた時の中の0.5%だ。
テトルの時よりも遥かに制限していると思うかもしれないが、俺だって馬鹿じゃない。
ここ十数日でこの国、大陸に住む人々はあの気まぐれ島に居る連中よりも遥かに実力が劣ると言う事が分かったんだからな。
だってあの蜥蜴野郎に苦戦するほどだからな。
だからと言って油断したりはしない。この世界は広い俺が前世で住んでいた世界よりも遥かに人口が多く色んな種族や魔物が存在する。もしかしたら俺よりも強い奴が居ても可笑しくはないんだからな。
なら、何故テトルの時に3%も出したかって?そんなのアイツが嫌いだったからだ。
「つまり、私たち3人が本気を出してようやくジンの0.9%までの力を引き出したってことね」
「ま、そういう事になるな」
俺に肯定にイザベラは強く拳を握る。
だがもしかしたらイザベラは気づいていないかもしれない。俺が言っている0.9%とイザベラが言っている0.9では遥かに差がある事に。
その事を正直に言うべきなんだろう。だが言わなくても大丈夫だろう。
「悔しいのか?」
「…ええ………」
「嬉しいか?」
「ええ!」
輝かせた瞳を俺に向けて肯定した。
なんせ嬉しそうなんだからな。
まったく、凄いな。普通は絶望したりするんだろうが、イザベラは違う。強さへの驚異的な執着心。大きな好奇心と言っても良い。上には上が居ると身を持って知れたことが何より嬉しいのだろう。自分はまだ強くなれると分かったのだから。ま、ロイドの気苦労が増えそうだが、俺には関係ない。
「あ、忘れるところだったわ。ジンにこれを渡しておこうと思ってね」
そういって引き出しから取り出した封筒を俺に渡す。少し分厚いな。
「なんだこれ?」
「通帳とキャッシュカードよ」
「俺のか?」
「ええ、そうよ」
確かにないよりあった方が良いのは分かる。だけどお金がすぐにお金が稼げるわけでもないし、意味ないんだが。
「中に300万RK入っているわ」
「なにっ!ってそれはどれぐらいなんだ?」
「そうね……ジンが前世で住んでいた国の通貨単位って何かしら?」
「円だ」
「そう。なら300万円になるわね」
「そんなにか!」
「ええ」
俺は慌てて通帳残高を確かめる。一、十、百、千、万、十万、百万……マジだ。
それにしても前世と通貨価値が一緒って。ま、計算しやすくて助かるけど。
あ、でも物価の値段ってどうなってるんだ?
コンビニのおにぎりは大体120円とかだけど。こっちの世界だとどれぐらいなんだろう?
「だが、俺は金を稼いだ覚えはないんだが?」
まさかくれたのか?いや、それはないだろ。もしかして学園での生活費とかか。いや、あそこは全寮制だ。金を使う必要はないはず。だったらなんだ?
「それは炎龍討伐した代金よ。と言っても本当はもっと高いわ。肉や鱗の値段。討伐報酬なんかを合わせたら本当は1億は行くけど部下たちにも払わないといけないから。本当はジンが1人で倒してくれたわけだけど……」
申し訳なさそうな表情を浮かべる。
確かにそれを考えれば300万RKと言うのは少ないのかもしれない。
だが、
「別に構わねぇよ。俺は命を救って貰ったからな」
本当なら俺はその前に死んでいたかもしれないんだ。それを考えれば大した事はない。
それよりも炎龍一体でこんなに貰えるのか。てか、これだけあれば遊んで暮らせる。つまり学園に行く必要性は……。
「300万RKなんて質素な暮らしをしたって一生は生きていけないわよ」
ご尤もです。だが、やはり冒険者になるのは間違っていなかった。炎龍一体でこんなに貰えるんなら直ぐにでも金持ちになれるぜ!
「言っておくけど炎龍なんてそうそう会えるものでもないわよ」
ですよねー。
「ジンも買い物したいでしょうし、明日にでも街案内してあげるわ」
「頼む!」
ああ、明日が楽しみだぜ。
4月5日木曜日。
次の日、いよいよこの日がやってきました!
俺、イザベラ、ロイドの3人で街へとやって来たのだ。前にも街には来たが編入試験を受けるためだけだったし、憂鬱な気持ちだったから正直よく覚えていない。
だからこそ今日は存分に堪能するぜ!
――と、思ったんだが。
「ここは、魔法関連のお店よ。魔法武器、メンテナンス用品なんかを売っているお店。で、こっちは魔導武器を取り扱っているお店。色んな武器や色んな魔導弾丸が置いてあるわ。ここのお店は鍛冶屋も営んでいるから修理とかもしてくれるわよ。このお店は装備を売っているお店。外套、ジャケットなんかも多種多様でおすすめよ」
と、戦闘に必要なお店ばっかり紹介されている。俺は普通に飲食店やゲーセン、本屋、飲食店なんかを教えて貰いたかったんだが。おっと気がついたら飲食店を二回言っていたな。気にしないでくれ。
それよりもイザベラよ。俺には魔力が無いし、呪いのせいで武器も使えないって事を忘れちゃいないか?
せっかくATMでお金を下ろしたのに使う場所がない。お、あの通路はまさか!
「ジン、次のお店に行くわよ」
「あ、ああ」
夜にでも行くか。
その後も武器関連のお店を回ったあと、近くのファーストフード店に入って昼食をとる。個室に案内された時は流石は貴族と思った。
だけどまさか午前中の間ずっと武器関連のお店ばっかりだったとは。イザベラの女子力を疑いたくなる。
模擬戦の時も目を輝かせていたからな。あ、そうだ。
「イザベラ」
「何かしら?」
「イザベラとロイドってどれぐらい強いんだ?」
その言葉に二人は不機嫌になる。なんで不機嫌になるのか分からないんだが?
「それ皮肉のつもり?」
「そうじゃなくて、ステータスの事だ」
「ああ、そういうことね」
どうやら理解してくれたようだ。
「これが私のステータスよ」
そう言ってスマホ画面を見せてくれる。
─────────────────────
イザベラ・レイジュ・ルーベンハイト
種族 人間
職業 学生
レベル 157
MP 142700
力 8560
体力 8420
器用 8020
敏捷性 7950
固有スキル
経験三倍速
スキル
剣術Ⅶ
指揮Ⅵ
魔力操作Ⅷ
射撃Ⅲ
属性
火 水 風 土 雷 光 無
─────────────────────
「ついでだ。僕のも見せておこう」
嫌そうだな。でも相手のだけ見て自分のは見せないのが嫌なんだろう。ほんと愚直というか真っ直ぐな奴だな。
─────────────────────
ロイド・サウス・グリード
種族 人間
職業 学生
レベル 120
MP 12200
力 4300
体力 4400
器用 4310
敏捷性 4000
スキル
剣術Ⅳ
護衛Ⅴ
魔力操作Ⅳ
射撃Ⅵ
属性
水 風
─────────────────────
なるほどなるほど。
「で、これは凄いのか?」
ガタンッと前のめりに滑る二人。別に漫才をした覚えはないぞ。
「確かにジンのステータスに比べたら天と地の差があるわよ。でもそれは酷いんじゃないかしら」
「いや、平均が分からないと凄いのかどうか判別出来ないんだよ」
「それもそうね」
納得してくれたか。
「教えるにしても、職業や年齢が違えばそれだけ平均も違うわ」
「なら、俺たち同世代ならどうだ?」
「それなら大丈夫よ。ならジンも私たちと同じ学園に通うわけだし、学園の平均で良いかしら?」
「ああ、それで大丈夫だ」
まだ合格発表されてないのにすでに確定なんだな。
「まず、普通科の平均ね。レベル50で総合5000よ」
「低すぎないか?」
「言っておくけど魔力は合計に入らないわよ。魔力は個人差が激しいからね」
なるほど、通りで。
「次は技術科はレベル70で総合7300。軍務科はレベル100で総合10300。冒険科はレベル95で総合9500ね」
「それを考えると二人のステータスを凄いな。ロイドですら17000超えだもんな」
「僕なんて大したことは無い」
真顔で答えてやがる。本当にそう思ってるんだな。
「それにしても軍務科と冒険科は随分と離れているがどうしてだ?」
「理由としては貴族と平民の差でしょうね。軍務科の8割が貴族だもの」
「それとなんの関係が?」
ロイド、嘆息するな。
「私もそうだけど、貴族に生まれた男子は小さい時から親によって英才教育を受けるの。勉学だけじゃなくて剣術や射撃訓練をね」
なるほど。一般人が剣術を学べたとしても毎日じゃないだろうし、射撃訓練なんて親が冒険者じゃない限り出来ないだろうしな。
「なら、どうして貴族は軍務科に入る奴が多いんだ?」
「通う中には次代の跡継ぎも通ってるし、私やロイドみたいに跡継ぎじゃなくても貴族としての矜持や使命、義務が大きいわね」
だとしても偏り過ぎているような気がするんだが。
言葉は理解していても納得出来ず疑問に感じている俺の表情でイザベラは悟ったのか。
分かりやすく教えてくれた。
「ま、簡単に言えば、金目当ての傭兵集団より、国に仕える軍人のほうが貴族としての体裁やプライドが保てるってこと」
なんて下らないんだ。プライドじゃ食っていけないだろうに。
「ま、中にはプライドより自由やお金を選ぶ貴族も居るわ。その証拠に冒険科の2割が貴族だもの」
うん、そいつらは頭が良いな。仲良くなれそうだ。
「あ、それから、これだけは覚えておいて。ステータスはあくまで、その人物の実力を数値化したものだけだから」
「どういうことだ?」
「よく、漫画や小説、ゲームなんかにステータスが出て来るでしょ」
「ああ」
確かにあるし、俺から言わせても貰えばこの世界のステータスも似たような物だと思っている。
「あれは現実じゃ無理だから」
「どうしてだ?」
「だってそうでしょ。HPがどれだけあったって首を刎ねられたり、心臓を突き刺されたりしたら死ぬのよ。無理に決まってるじゃない」
「確かに」
「それに戦っただけで知能が上がるんなら勉強なんか誰もしないわ」
「ご尤もです」
正にイザベラの言うとおりだ。ん?
「だったら、レベルはどういう意味だ?」
「あれは、大まかな総合力を表したものよ」
全然意味が分からん。
「例えば、ジンのステータスがさっき言った冒険科の平均ステータスだったとするわね。そんなジンに貴方の強さはどれぐらい?と質問したとしたらどう答える?」
「レベル95」
「なら、レベルがなければ?」
レベルがなければ?えっとたしか……総合力は……。
「そういう事。レベルだけなら直ぐに覚えられるけど、全てのステータスを覚えるのは大変。ましてや訓練や魔物と戦えば直ぐに変わる。そうなれば総合力も変わってくる。そんなの一々覚えてられないでしょ?」
「確かに」
「だから、レベルがあるの」
なるほど、よく分かった。
「なら固有スキルやスキルは何なんだ?称号は気まぐれ島に居た時に知ったんだが」
あれはどう考えても総合力には関係ないものだからな。
「簡単に言えば、固有スキルは神様からの贈り物、スキルは技能。スキルにある数値は熟練度を指しているわ。で、称号は模擬戦の時にジンが言っていたとおり神様からの賞賛と褒賞ね」
「つまり俺の『創造の女神を怒らせし者』は罵倒と呪いか」
「そ、そう言う事になるわね」
そんな俺の言葉に肯定しずらいのかイザベラは言葉を詰まらせながら答えた。
「自業自得とも言えるけどな」
「なんだと?」
「なんだ?」
「はいはい、二人ともやめなさい。お店にも他のお客さんたちにも迷惑よ」
イザベラに言われて俺たちは椅子に座りなおす。
それにしてもあのクソ女神。絶対にまた会って文句言ってやる!
「だけど、俺があの島に居たときに魔物を倒せば異常に力が湧き上がってきたんだが、それはどういうことなんだ?」
「それは経験値が入ったのよ」
「経験値ってまるでゲームだな」
「そう思うのも仕方が無いわ。それがこの世界のシステムよ。いえ、それがアリエス様が全ての生物に与えた仕組みよ。でないと、私たちが作り出したステータスにアリエス様から頂いた加護が表示されるわけないじゃない」
「確かにそうなのかもな」
変なところであの女神介入してるな。どうせ面白そうとか、そんな理由で加えたに違いない。
昼食を終えた俺たちは店を出た後、また色々な場所を見て回った。また武器関連かと思ったが普通に飲食店や本屋、大きなデパートなんかを案内してくれた。最初からこっちを案内して欲しかった。
夕食を食べ終えた俺はハロルドのおっさんの許に向かった。
まずはノックして。と。
「誰だね?」
「ジンだ」
「入って構わないよ」
了承を終えた俺は扉を開けて中に入る。
「それでどうしたんだい」
「いや、少し出かけたいから伝えておこうと思ってな」
「わざわざ私にかい?」
「いや、その……イザベラには言いにくいからな」
その言葉で理解したのかハロルドのおっさんはニヤリと笑った。
「確かに君も年頃だからな。仕方が無い。その欲求を娘やメイドたちに向けなかったのは大変素晴らしいことだ」
なんか知らないが褒められてしまった。てっきり顔を顰めると思ったんだけどな。
「そんなジン君におすすめのお店を紹介しよう」
そう言って引き出しの置くの方から一枚の名刺を渡してきた。
「このお店は妻に浮気がバレる前に通っていたお店だ。未だに営んでいるから行ってみると良い」
おお、これは思いがけない情報だ!でも……。
「浮気って大半の国が一夫多妻制じゃなかったか?」
「確かにそうなんだが、ライラが許してくれなくてね」
確かにあの温厚そうなライラさんが怒ったら怖そうだが、アンタ一応領主で当主だよな?
「だから私の代わりにどんな子が居るのか調べて味わって来たまえ!ジン二等兵!」
「その任務、謹んでお受けします。ハロルド閣下!」
俺たちは互いに敬礼をする。まさかこんなところに同士が居たとは。少し感激だ。
「では、行ってまいります!」
「武運を祈る!」
「はっ!」
俺は屋敷を抜け出し、午前中見つけた娼館が並ぶ通路を目指す。
さて、ハロルド閣下が渡してくれた名刺の名前だと………ここだな。
現代建築の建物が並ぶ中アンティークな雰囲気を醸し出すお店。看板には『妖精の楽園』と書かれていた。
お金よし!息子よし!いざ、戦場へ!
両手で扉をあけて中に入る。そこには正に楽園が広がっていた。
5時間後。
「あ、ありがとうございました」
と少し怯えた表情で送り出してくれた男性店員は入り口に閉店の名札をかけて店の中へと消えていった。いやぁ満足した。転生して初めてあの女神に感謝したかもしれない。自分の身体の一部を見たとき思わず「ボブ!」と叫んでしまったほどビッグな息子と称号にある精力絶倫の力もあってか閉店させてしまったのだ。
それに俺は転生したら三大欲求に素直になり自重せずに生きると決めていたのだ!それなのにあの島では三大欲求のうち、二つしか叶えることが出来なかったからな。今日はその願いが叶えることが出来て満足だ。
「おっともう3時か。早く帰らなければ」
満面の笑みを浮かべて少し軽くなった腰で俺は帰路を歩く。
昼食時、いつも食べる食堂には俺を含めて4人しかいなかった。
当然ながらイザベラ、ロイド、ライオネルの3人は俺が模擬戦で気絶させたので未だ起きておらず寝室のベットで寝ている状態なわけで、イザベラに対して絶対的な信頼と忠誠を誓うイカれた三姉妹の視線には殺意が宿っていた事は言うまでもないだろう。理不尽だとは思うけど。
それにしても身体を動かした後の飯は最高だな。特に肉は最高だ。
「ねぇ、ジンお兄ちゃん」
「なんだ?」
庭で遊んでいると唐突にリリーがクリっとした可愛らしい表情で話しかけて来た。
「銀も将来強くなるの?」
「ああ、とっても強くなる。才能で言えば俺なんかよりたくさん持っているからな」
「そうなんだ!銀、頑張ってね」
「ガウッ!」
リリーの言葉に尻尾を振りながら答える。ん?誰かが近づいてくるな。
振り返るとタキシードを完璧に着こなした老紳士こと、セバスが近づいてきていた。ほんとこの家にはテレビに出れば一瞬で人気者になりそうな人しかいねぇな。
「ジン様、イザベラ様がお呼びでございます」
「目が覚めたのか?」
「はい。5分ほど前にございます」
そうか。なら向かうとするか。
「銀、お前はどうする?」
銀に聞いてみる。答えるわけないか。と思っていたが銀は首を横に振って答えてきた。すごい理解力。俺より知能高いんじゃないか?
「リリー、銀のこと頼んだ」
「うん、任せて!」
誰かに頼まれると言うことがなかったのか。嬉しそうに手を挙げて答える。可愛い。
セバスの案内で向かったイザベラの寝室は三階らしく、階段上るのかと思っていたらエレベーターに乗せられた。エレベーターも完備しているのか。流石は金持ち。
そんな驚きを抱いているうちにイザベラの部屋の前まで来ると、セバスが扉をノックする。
「お嬢様、ジン様をお連れしました」
「入れて頂戴」
「畏まりました」
静かに扉を開け、中に入る。
女の子らしい物は少ないけど、殺風景と言うわけでもない。気品のある部屋と言うべきだろう。
お、ロイドも居るのな。あいつも目が覚めて来たらしい。
ベッドから状態を起こしたイザベラが俺の方を見てくる。
「よ、もう平気か?」
そんな俺の言葉にロイドが眉間に皺を寄せて鋭い眼光を向けてくるが気にしない。
「気絶させた張本人がする態度とは思えないわね」
イザベラに関しては一切表情を変える事はなく、ただ呆れた口調で口を開いただけだった。
「模擬戦なんだ。文句を言われる筋合いはないと思うが?」
「それもそうね」
納得したように軽く目を瞑る。ロイドよ、お前はまだ俺を睨んでいたのか。
「それで俺になんの用だ?」
「気になったのよ」
「気になった?」
なんの事だ?ある程度話したと思うが。
「最初から勝てるとは思っていなかったわ。瞬殺もありえたわけだし」
ああ、さっきと模擬戦のことか。
「思いのほか苦戦したけどな」
「慰めのつもり?」
頼むからそんなに睨まないでくれ。
「思ったままの感想だよ。俺の予想ではあの程度でも勝てると思ったんだけどな。お前たちの連携に翻弄されて思いのほか力を出す羽目になった」
「褒められてる気がしないわね」
それはすいませんね。なんせ、5年間も魔物たちと死闘を繰り広げていたからな。人と喋るなんて久々なんだからな。
「それで、なん%で戦ったの?」
「ん?」
「さっきの模擬戦の事よ」
なるほど。そういう事か。
「最初は0.5%だな。編入試験の時のこともあったからな。でも苦戦させられたからな。最後の攻撃はだけは0.9%でやらせて貰った」
イザベラがあのテトルより強い事は分かっていた。ましてや相手は3人。それでもテトルを一瞬で倒してしまった事とハロルドのおっさんたちの目の前である事を考えて俺はテトルの時よりも力を制限して闘った。
ま、その結果苦戦してしまった訳だが。
因みに0.5%と言うのは5分の1の中の0.5%と言う意味だ。
つまり全力全開の20%を100%と置き換えた時の中の0.5%だ。
テトルの時よりも遥かに制限していると思うかもしれないが、俺だって馬鹿じゃない。
ここ十数日でこの国、大陸に住む人々はあの気まぐれ島に居る連中よりも遥かに実力が劣ると言う事が分かったんだからな。
だってあの蜥蜴野郎に苦戦するほどだからな。
だからと言って油断したりはしない。この世界は広い俺が前世で住んでいた世界よりも遥かに人口が多く色んな種族や魔物が存在する。もしかしたら俺よりも強い奴が居ても可笑しくはないんだからな。
なら、何故テトルの時に3%も出したかって?そんなのアイツが嫌いだったからだ。
「つまり、私たち3人が本気を出してようやくジンの0.9%までの力を引き出したってことね」
「ま、そういう事になるな」
俺に肯定にイザベラは強く拳を握る。
だがもしかしたらイザベラは気づいていないかもしれない。俺が言っている0.9%とイザベラが言っている0.9では遥かに差がある事に。
その事を正直に言うべきなんだろう。だが言わなくても大丈夫だろう。
「悔しいのか?」
「…ええ………」
「嬉しいか?」
「ええ!」
輝かせた瞳を俺に向けて肯定した。
なんせ嬉しそうなんだからな。
まったく、凄いな。普通は絶望したりするんだろうが、イザベラは違う。強さへの驚異的な執着心。大きな好奇心と言っても良い。上には上が居ると身を持って知れたことが何より嬉しいのだろう。自分はまだ強くなれると分かったのだから。ま、ロイドの気苦労が増えそうだが、俺には関係ない。
「あ、忘れるところだったわ。ジンにこれを渡しておこうと思ってね」
そういって引き出しから取り出した封筒を俺に渡す。少し分厚いな。
「なんだこれ?」
「通帳とキャッシュカードよ」
「俺のか?」
「ええ、そうよ」
確かにないよりあった方が良いのは分かる。だけどお金がすぐにお金が稼げるわけでもないし、意味ないんだが。
「中に300万RK入っているわ」
「なにっ!ってそれはどれぐらいなんだ?」
「そうね……ジンが前世で住んでいた国の通貨単位って何かしら?」
「円だ」
「そう。なら300万円になるわね」
「そんなにか!」
「ええ」
俺は慌てて通帳残高を確かめる。一、十、百、千、万、十万、百万……マジだ。
それにしても前世と通貨価値が一緒って。ま、計算しやすくて助かるけど。
あ、でも物価の値段ってどうなってるんだ?
コンビニのおにぎりは大体120円とかだけど。こっちの世界だとどれぐらいなんだろう?
「だが、俺は金を稼いだ覚えはないんだが?」
まさかくれたのか?いや、それはないだろ。もしかして学園での生活費とかか。いや、あそこは全寮制だ。金を使う必要はないはず。だったらなんだ?
「それは炎龍討伐した代金よ。と言っても本当はもっと高いわ。肉や鱗の値段。討伐報酬なんかを合わせたら本当は1億は行くけど部下たちにも払わないといけないから。本当はジンが1人で倒してくれたわけだけど……」
申し訳なさそうな表情を浮かべる。
確かにそれを考えれば300万RKと言うのは少ないのかもしれない。
だが、
「別に構わねぇよ。俺は命を救って貰ったからな」
本当なら俺はその前に死んでいたかもしれないんだ。それを考えれば大した事はない。
それよりも炎龍一体でこんなに貰えるのか。てか、これだけあれば遊んで暮らせる。つまり学園に行く必要性は……。
「300万RKなんて質素な暮らしをしたって一生は生きていけないわよ」
ご尤もです。だが、やはり冒険者になるのは間違っていなかった。炎龍一体でこんなに貰えるんなら直ぐにでも金持ちになれるぜ!
「言っておくけど炎龍なんてそうそう会えるものでもないわよ」
ですよねー。
「ジンも買い物したいでしょうし、明日にでも街案内してあげるわ」
「頼む!」
ああ、明日が楽しみだぜ。
4月5日木曜日。
次の日、いよいよこの日がやってきました!
俺、イザベラ、ロイドの3人で街へとやって来たのだ。前にも街には来たが編入試験を受けるためだけだったし、憂鬱な気持ちだったから正直よく覚えていない。
だからこそ今日は存分に堪能するぜ!
――と、思ったんだが。
「ここは、魔法関連のお店よ。魔法武器、メンテナンス用品なんかを売っているお店。で、こっちは魔導武器を取り扱っているお店。色んな武器や色んな魔導弾丸が置いてあるわ。ここのお店は鍛冶屋も営んでいるから修理とかもしてくれるわよ。このお店は装備を売っているお店。外套、ジャケットなんかも多種多様でおすすめよ」
と、戦闘に必要なお店ばっかり紹介されている。俺は普通に飲食店やゲーセン、本屋、飲食店なんかを教えて貰いたかったんだが。おっと気がついたら飲食店を二回言っていたな。気にしないでくれ。
それよりもイザベラよ。俺には魔力が無いし、呪いのせいで武器も使えないって事を忘れちゃいないか?
せっかくATMでお金を下ろしたのに使う場所がない。お、あの通路はまさか!
「ジン、次のお店に行くわよ」
「あ、ああ」
夜にでも行くか。
その後も武器関連のお店を回ったあと、近くのファーストフード店に入って昼食をとる。個室に案内された時は流石は貴族と思った。
だけどまさか午前中の間ずっと武器関連のお店ばっかりだったとは。イザベラの女子力を疑いたくなる。
模擬戦の時も目を輝かせていたからな。あ、そうだ。
「イザベラ」
「何かしら?」
「イザベラとロイドってどれぐらい強いんだ?」
その言葉に二人は不機嫌になる。なんで不機嫌になるのか分からないんだが?
「それ皮肉のつもり?」
「そうじゃなくて、ステータスの事だ」
「ああ、そういうことね」
どうやら理解してくれたようだ。
「これが私のステータスよ」
そう言ってスマホ画面を見せてくれる。
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イザベラ・レイジュ・ルーベンハイト
種族 人間
職業 学生
レベル 157
MP 142700
力 8560
体力 8420
器用 8020
敏捷性 7950
固有スキル
経験三倍速
スキル
剣術Ⅶ
指揮Ⅵ
魔力操作Ⅷ
射撃Ⅲ
属性
火 水 風 土 雷 光 無
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「ついでだ。僕のも見せておこう」
嫌そうだな。でも相手のだけ見て自分のは見せないのが嫌なんだろう。ほんと愚直というか真っ直ぐな奴だな。
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ロイド・サウス・グリード
種族 人間
職業 学生
レベル 120
MP 12200
力 4300
体力 4400
器用 4310
敏捷性 4000
スキル
剣術Ⅳ
護衛Ⅴ
魔力操作Ⅳ
射撃Ⅵ
属性
水 風
─────────────────────
なるほどなるほど。
「で、これは凄いのか?」
ガタンッと前のめりに滑る二人。別に漫才をした覚えはないぞ。
「確かにジンのステータスに比べたら天と地の差があるわよ。でもそれは酷いんじゃないかしら」
「いや、平均が分からないと凄いのかどうか判別出来ないんだよ」
「それもそうね」
納得してくれたか。
「教えるにしても、職業や年齢が違えばそれだけ平均も違うわ」
「なら、俺たち同世代ならどうだ?」
「それなら大丈夫よ。ならジンも私たちと同じ学園に通うわけだし、学園の平均で良いかしら?」
「ああ、それで大丈夫だ」
まだ合格発表されてないのにすでに確定なんだな。
「まず、普通科の平均ね。レベル50で総合5000よ」
「低すぎないか?」
「言っておくけど魔力は合計に入らないわよ。魔力は個人差が激しいからね」
なるほど、通りで。
「次は技術科はレベル70で総合7300。軍務科はレベル100で総合10300。冒険科はレベル95で総合9500ね」
「それを考えると二人のステータスを凄いな。ロイドですら17000超えだもんな」
「僕なんて大したことは無い」
真顔で答えてやがる。本当にそう思ってるんだな。
「それにしても軍務科と冒険科は随分と離れているがどうしてだ?」
「理由としては貴族と平民の差でしょうね。軍務科の8割が貴族だもの」
「それとなんの関係が?」
ロイド、嘆息するな。
「私もそうだけど、貴族に生まれた男子は小さい時から親によって英才教育を受けるの。勉学だけじゃなくて剣術や射撃訓練をね」
なるほど。一般人が剣術を学べたとしても毎日じゃないだろうし、射撃訓練なんて親が冒険者じゃない限り出来ないだろうしな。
「なら、どうして貴族は軍務科に入る奴が多いんだ?」
「通う中には次代の跡継ぎも通ってるし、私やロイドみたいに跡継ぎじゃなくても貴族としての矜持や使命、義務が大きいわね」
だとしても偏り過ぎているような気がするんだが。
言葉は理解していても納得出来ず疑問に感じている俺の表情でイザベラは悟ったのか。
分かりやすく教えてくれた。
「ま、簡単に言えば、金目当ての傭兵集団より、国に仕える軍人のほうが貴族としての体裁やプライドが保てるってこと」
なんて下らないんだ。プライドじゃ食っていけないだろうに。
「ま、中にはプライドより自由やお金を選ぶ貴族も居るわ。その証拠に冒険科の2割が貴族だもの」
うん、そいつらは頭が良いな。仲良くなれそうだ。
「あ、それから、これだけは覚えておいて。ステータスはあくまで、その人物の実力を数値化したものだけだから」
「どういうことだ?」
「よく、漫画や小説、ゲームなんかにステータスが出て来るでしょ」
「ああ」
確かにあるし、俺から言わせても貰えばこの世界のステータスも似たような物だと思っている。
「あれは現実じゃ無理だから」
「どうしてだ?」
「だってそうでしょ。HPがどれだけあったって首を刎ねられたり、心臓を突き刺されたりしたら死ぬのよ。無理に決まってるじゃない」
「確かに」
「それに戦っただけで知能が上がるんなら勉強なんか誰もしないわ」
「ご尤もです」
正にイザベラの言うとおりだ。ん?
「だったら、レベルはどういう意味だ?」
「あれは、大まかな総合力を表したものよ」
全然意味が分からん。
「例えば、ジンのステータスがさっき言った冒険科の平均ステータスだったとするわね。そんなジンに貴方の強さはどれぐらい?と質問したとしたらどう答える?」
「レベル95」
「なら、レベルがなければ?」
レベルがなければ?えっとたしか……総合力は……。
「そういう事。レベルだけなら直ぐに覚えられるけど、全てのステータスを覚えるのは大変。ましてや訓練や魔物と戦えば直ぐに変わる。そうなれば総合力も変わってくる。そんなの一々覚えてられないでしょ?」
「確かに」
「だから、レベルがあるの」
なるほど、よく分かった。
「なら固有スキルやスキルは何なんだ?称号は気まぐれ島に居た時に知ったんだが」
あれはどう考えても総合力には関係ないものだからな。
「簡単に言えば、固有スキルは神様からの贈り物、スキルは技能。スキルにある数値は熟練度を指しているわ。で、称号は模擬戦の時にジンが言っていたとおり神様からの賞賛と褒賞ね」
「つまり俺の『創造の女神を怒らせし者』は罵倒と呪いか」
「そ、そう言う事になるわね」
そんな俺の言葉に肯定しずらいのかイザベラは言葉を詰まらせながら答えた。
「自業自得とも言えるけどな」
「なんだと?」
「なんだ?」
「はいはい、二人ともやめなさい。お店にも他のお客さんたちにも迷惑よ」
イザベラに言われて俺たちは椅子に座りなおす。
それにしてもあのクソ女神。絶対にまた会って文句言ってやる!
「だけど、俺があの島に居たときに魔物を倒せば異常に力が湧き上がってきたんだが、それはどういうことなんだ?」
「それは経験値が入ったのよ」
「経験値ってまるでゲームだな」
「そう思うのも仕方が無いわ。それがこの世界のシステムよ。いえ、それがアリエス様が全ての生物に与えた仕組みよ。でないと、私たちが作り出したステータスにアリエス様から頂いた加護が表示されるわけないじゃない」
「確かにそうなのかもな」
変なところであの女神介入してるな。どうせ面白そうとか、そんな理由で加えたに違いない。
昼食を終えた俺たちは店を出た後、また色々な場所を見て回った。また武器関連かと思ったが普通に飲食店や本屋、大きなデパートなんかを案内してくれた。最初からこっちを案内して欲しかった。
夕食を食べ終えた俺はハロルドのおっさんの許に向かった。
まずはノックして。と。
「誰だね?」
「ジンだ」
「入って構わないよ」
了承を終えた俺は扉を開けて中に入る。
「それでどうしたんだい」
「いや、少し出かけたいから伝えておこうと思ってな」
「わざわざ私にかい?」
「いや、その……イザベラには言いにくいからな」
その言葉で理解したのかハロルドのおっさんはニヤリと笑った。
「確かに君も年頃だからな。仕方が無い。その欲求を娘やメイドたちに向けなかったのは大変素晴らしいことだ」
なんか知らないが褒められてしまった。てっきり顔を顰めると思ったんだけどな。
「そんなジン君におすすめのお店を紹介しよう」
そう言って引き出しの置くの方から一枚の名刺を渡してきた。
「このお店は妻に浮気がバレる前に通っていたお店だ。未だに営んでいるから行ってみると良い」
おお、これは思いがけない情報だ!でも……。
「浮気って大半の国が一夫多妻制じゃなかったか?」
「確かにそうなんだが、ライラが許してくれなくてね」
確かにあの温厚そうなライラさんが怒ったら怖そうだが、アンタ一応領主で当主だよな?
「だから私の代わりにどんな子が居るのか調べて味わって来たまえ!ジン二等兵!」
「その任務、謹んでお受けします。ハロルド閣下!」
俺たちは互いに敬礼をする。まさかこんなところに同士が居たとは。少し感激だ。
「では、行ってまいります!」
「武運を祈る!」
「はっ!」
俺は屋敷を抜け出し、午前中見つけた娼館が並ぶ通路を目指す。
さて、ハロルド閣下が渡してくれた名刺の名前だと………ここだな。
現代建築の建物が並ぶ中アンティークな雰囲気を醸し出すお店。看板には『妖精の楽園』と書かれていた。
お金よし!息子よし!いざ、戦場へ!
両手で扉をあけて中に入る。そこには正に楽園が広がっていた。
5時間後。
「あ、ありがとうございました」
と少し怯えた表情で送り出してくれた男性店員は入り口に閉店の名札をかけて店の中へと消えていった。いやぁ満足した。転生して初めてあの女神に感謝したかもしれない。自分の身体の一部を見たとき思わず「ボブ!」と叫んでしまったほどビッグな息子と称号にある精力絶倫の力もあってか閉店させてしまったのだ。
それに俺は転生したら三大欲求に素直になり自重せずに生きると決めていたのだ!それなのにあの島では三大欲求のうち、二つしか叶えることが出来なかったからな。今日はその願いが叶えることが出来て満足だ。
「おっともう3時か。早く帰らなければ」
満面の笑みを浮かべて少し軽くなった腰で俺は帰路を歩く。
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