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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す

第三話 地獄王

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「ああ、別に構わないぞ」
「え、本当に良いの?」
「命の恩人に嘘をつく理由は無いしな」
 驚きの表情を浮かべるイザベラとロイド。どうしてそんなに驚いているんだ?
 そんな事を思いながら俺は出されたホットドックを食べていた。俺がナイフやフォークを使えないと覚えておいてくれたイザベラの配慮らしい。ほんと慈愛に満ちた女神様だよ。

「そ、そう。それなら教えて欲しいの。貴方が禁止区域に来る前の事を」
「この世界に転生してからの事だよな?」
「ええ、そうよ」
 確認のために問い返すとイザベラは好奇心と警戒心を宿した瞳を向けながら肯定の言葉を口にしつつ、軽く頷いた。

「気まぐれ島」
「気まぐれ島?」
 その言葉にイザベラは首を傾げ、ロイドは眉を潜めて苛立ちを露にした。

「貴様!お嬢様を馬鹿にしているのか!」
「馬鹿になんかしてねぇよ!だいたいこの世界の事を知らない俺がどう説明しろって言うんだよ!」
「うっ、そ、それはだな……なにかあるだろ。その場所で暮らしていたなら手がかりか何かが!」
「だからそれが気まぐれ島だって言ってるだろうが!」
 顔を突き合わせて睨み合う俺とロイド。まったくどうしてコイツは俺に突っかかってくるんだ。

「喧嘩はそこまでよ」
 間に割って入って喧嘩を治めるイザベラ。なんだか慣れた対応だな。ロイドは俺以外とも仲が悪い奴が居るに違いない。友達居なさそうだからな。

「貴様、今失礼な事考えていただろう」
「別に」
 けっ、勘の鋭い奴。

「ジン、その気まぐれ島ってのはどういう場所なの。島って事はわかるけど」
「そのままの意味だ。夏みたいにクソ暑いかと思えば次の日には極寒の真冬みたいに猛烈な吹雪が襲う島だ。だから俺は気まぐれ島って呼んでる」
「はっ、そんな島が存在するわけがないだろう」
 そんな俺の話をロイドは馬鹿にするように鼻で笑い飛ばす。

「誰もお前に信じて貰おうとは思わねぇよ」
「何だとっ!」
「はいはい喧嘩はしない」
 まったく胸糞悪い朝だ。どうしてこんな奴と一緒に朝食を摂らないといけないんだ。せっかくのホットドックが不味くなる。

「たった一日で気候が変わるね……たしか文献で読んだことがあるような気がするんだけど……」
 どうやらイザベラは心当たりがあるようだが思い出せないみたいだな。

「お嬢様」
「どうしたのセバス」
「多分ですが、地獄島ヘル・アイランドの事では無いかと」
「そうだわ!ありがとうセバス」
「恐縮にございます」
「その地獄島ヘル・アイランドって?」
 そんなイザベラに助言を出すかのように執事のセバスが答えるが俺は首を傾げる。なんだその物騒な島は。俺は絶対にそんな島には行っていないぞ。

「場所で言えば大陸の遥か東南東にあり、どこの国にも属さない無人島なの。なんでもその島は気候の変化が激しく、ジンが言ったみたいな事が毎日起きてる島なの。それにその無人島に住まうモンスターのレベルは非常に高く島の中心に向かうにつれレベル高くなって行くの。一番レベルの低いモンスターでも推定レベル3000以上、ランクに関してはSSSより上って話よ。中心部のモンスターにいたってはレベルの測定が不可能なほど強いって文献で読んだ事があるわ」
「おいおいマジかよ。それって迷い人や送り人でも無理なのか?」
「無理ね。魔王や勇者でも一撃で死ぬレベルよ」
 なんて恐ろしい島だ。そんな島に転移ばされなくて良かった。てか、魔王や勇者ってこの時代にも居るんだな。

「興味本位で訊くがどんなモンスターが居るんだ?」
「文献を読ん程度だけど、海岸に近い場所だと地龍や蒼雷天大鷲アスルエクレール・ジャイアントイーグル巨靭兎ジャイアントラビット。中間部分にはエレメントテイルやギガントバジリスク。エンペラーウルフ。ここらへんで既にランク外の化け物揃いよね。で、中心部には龍神、神狼、蛇神ゴットスネークなど神獣の類が住んで居ると言われているわ」
「…………」
 イザベラの口から並べられた魔物の名前に心当たりしかないんだが。まさか別の場所だよな。いや、そうに違いない。
 魔王や勇者すら一撃で死ぬような怪物どもが跋扈する島で魔力を持たない俺が生き残れるわけがないからな。

「どうしたの瞳に生気が宿ってないわよ?」
「いや、ちょっと現実逃避をしたくなっただけだ」
 ってそんな場所が複数あるわけ無いよな、クソッたれ女神め。
 どうやらあのクソ女神に言う文句が増えてしまったようだ。

「まさかとは思うけど、ジン地獄島ヘル・アイランドに居たの?」
「………」
「なんで目を逸らすの」
 なんとなく面倒になりそうな予感がするからとは絶対に口が裂けても言えないな。

「正直に言わないとホットドックはもうあげないわよ」
 イザベラは俺の前に置かれた大量のホットドックが乗った皿を取り上げる。なんて事を!この女もあのクソ女神の手先に違いない!

「言うの?言わないの?言わないのならこれ全部ロイドに食べて貰うから」
「なっ!」
 なんて恐ろしい女なんだ!

「そこまで歯を食い縛らなくても……」
 ホットドックが取り上げられた程度で俺の口が簡単に開くと思うなよ、小娘!絶対に俺は負けないからな!

「そうだ俺は地獄島ヘル・アイランドに居た」
 覚悟を決めた数秒後には口を開いていた。
 恐るべし食べ物の力。

「やはり、そうなのね」
「ひふからひふひへひた?」
「食べながら喋らないで。何言っているか分からないわ」
「ゴクリ……悪い。いつから気づいていたんだ?」
「別に確信があった訳じゃないわ。ただ変と思っただけよ」
「変?」
「異世界から禁止区域に転移したばかりなら貴方のレベルは1の筈。なのにレベルが13だった。それを考えると魔物と戦った事になる。なのに貴方の身体には大量の傷跡があった。傷跡は完全に塞がっていることを考えるならこの世界に1年以上居ることになる。それならこの禁止区域を監視している管理塔が気づかない筈が無い。なのにそれが無いとなると貴方は元々別の場所に居てこの禁止区域に転移したと考えただけよ」
 驚いたな。それだけの情報でその答えを導くなんて。美少女探偵になれるぞ。

「どうしたの?」
「なんでもない。ただ驚いただけだ」
「そう……ちょっと待って!」
「どうした?」
「ジンは地獄島ヘル・アイランドに居たのよね?」
「ああ。5年間な」
「5年間も!」
「ああ」
 驚きの表情を浮かべるイザベラたち。驚くのも無理はないか地獄島ヘル・アイランドなんておっかない名前で呼ばれてる島だしな。実際に地獄のような場所だけど。なんど死にそうになったか。

「それでそれがどうした?」
「本当にレベル13なの?」
「…………」
 なるほど。確かにその通りだ。漫画や小説でよく主人公が自分の力を隠していたから真似てみたが、こうもあっさりバレるとは。いや、まだバレてはいないのか?なら誤魔化すか。だがどうやって誤魔化せば………。

「正直に答えないとホットドックを取り上げるわよ」
「答えます」
 この女。人の弱みに付け込むとは何たる非道!美少女探偵なんかになれるものか!こいつは勘が鋭いだけの悪女だ。あのクソ女神と同等の腹黒さを持った悪女に違いない。

「今、失礼な事考えてなかった?」
「いえ、何も」
「………」
 この女は心眼でも持っていると言うのか。今後は気をつけないと。

「それで、正直なところどうなの?」
「勿論、嘘なわけが……」
「…………」
「はい、嘘です」
 皿を取り上げられそうになって思わず口が本音を喋ってしまったではないか!クソ!欲望に正直な自分が恨めしい!

「それじゃあ本当のステータスを見せて」
「え?」
「え、じゃない。今後の事を考えるなら私たちには本当の力を見せておくべきでしょ?それとも私たちの力無しに今後生きていけるの?」
「そ、それは……」
 くっ、反論できない。
 仕方なく俺はスマホに表示されているステータスを元に戻す。今になって思ったけど自動で更新されるスマホってとてつもなく凄いよな。

「これが本当のステータスだ」
 俺はそう言いながらイザベラにスマホを渡す。

─────────────────────
 鬼瓦仁おにがわらじん
 種族 人外
 職業 拳闘士?
 レベル 測定不能
 魔力 0
 力 測定不能
 体力 測定不能
 器用 測定不能
 敏捷性 測定不能

 固有スキル
 アイテムボックス
 言語理解
 無限強化

 スキル
 体術Ⅹ
 投擲Ⅹ
 隠密Ⅹ
 耐熱Ⅹ
 耐寒Ⅹ
 雷電耐性Ⅹ
 魔法攻撃耐性Ⅹ
 物理攻撃耐性Ⅹ
 状態異常耐性Ⅹ
 危機察知Ⅹ
 覇気Ⅹ
 解体Ⅹ

 称号
 創造の女神を怒らせし者
 龍殺し
 地獄王ヘル・キング
 神狼の寵愛を受けし者
 神狼の守護者
 石投げの達人
強敵殺戮者ジャイアントキリング
 人を辞めし者
 無病息災
 精力絶倫
 転生者

─────────────────────

「「「……………………」」」
「これで言いか?」
 どうせロイドあたりが馬鹿にするに決まってる。だから見せたくなかったのに。

「おい、聞いているのか?」
 だが数秒立ってもイザベラたちから返事が返って来ないため視線を向けると、ただ驚愕の表情で俺のステータスを凝視していた。
 いったいどうしたんだ?

「ねぇ……これどう言うこと?」
「なにがだ?」
 イザベラは震えた声音で問い掛けて来るが、俺は何に対してなのかさっぱり分からない。

「どうしてMP以外測定不能なのよ!」
「いや、そんな事俺に言われてもな」
 いったい何にそんなに驚いているんだ。こんなの普通だろ。あの島じゃ珍しくもなかった。どうせ俺以外の送り人や魔王や勇者も似たようなもんだろ。いや、魔王や勇者でも無理だって言ってたな。だけど絶対に俺と同じような奴が居るのは間違いない。

「こんなの異常としか言えないわよ……」
「なんか言ったか?」
 小声でよく聞こえなかったんだが。

「お嬢様、このスマホが壊れているのでは?」
「それは無いわ。ほら、私のはちゃんと表示されるもの」
「って事は………」
「ええ。間違いなくこのステータスがジンの力なの。このスマホですら測定不可能。それがジンよ」
「弱すぎて測定不可能って事は?」
「無いわね。だったらこの禁止区域で生きていけない筈だもの」
「確かに……」
 いったいさっきから何をブツブツと言ってるんだ。俺を除け者にして。ま、その間にホットドックを全部食べ終えたからな。これで奪われる心配はない。なぜなら全て俺の腹の中なのだから!ハハハッ!

「………ねぇ、ジン」
 丁度その時、少し恐怖を宿らせたイザベラが話しかけてきた。

「なんだ?」
「絶対に私たち以外にこのステータスを見せちゃ駄目よ」
「分かった」
「絶対よ!」
「お、おう……」
 何故かは分からないが、面倒事になる事だけは分かった。
 ま、これで一段落したし、ゆっくり過ごせるな。
 俺は立ち上がり、部屋に戻ろうとした。

「ちょっと待って」
「まだあるのか?」
「ジンのステータスにあった神狼の守護者についてだけ。もしかしてギンって……」
「ああ。神狼だ」
「「「っ!」」」
「そんなに驚くことか?まだ子供だし。レベルにしても300位だぞ?」
「その小ささでレベル300ってのが既におかしいのよ!」
「クウゥ……」
「あ、ごめんなさい!別にギンが悪いわけじゃないのよ」
 突然大声で否定された事に悲しむ銀。大丈夫だ、お前には俺がついている。
 数分掛けて誤解を解いたイザベラは心から安堵していた。
 どれだけ凛々しい女性でも子供の狼には勝てないな。まさにカワイイ最強説。

「それじゃあ俺は部屋に戻るけど良いよな」
「え、ええ」
 ようやく昼寝が出来る。時間にすればまだ朝の10時前だが俺には関係ない。
 そんな時だった。
 突如車内にサイレンが響き渡る。

「なんだ!緊急避難警報か!」
 そんな前世での記憶を照らし合わせる俺だが、答えは違った。

「違う!この装甲列車に魔物が接近しているの!」
 即座に行動したイザベラは近くの窓から外を覗き見るように凝視する。

「嘘でしょ……」
 そんなイザベラから出た言葉には驚愕と絶望が含まれていた。
 言葉に含まれていた感情には気づいてはいないだろうが、イザベラが吐いた言葉に緊急事態であると察したロイドが慌てた声音で問いかける。

「どうしましたお嬢様!」
「炎龍よ!」
 そんなイザベラの吐かれた接近する魔物の正体にセバスとロイドは驚愕の表情を浮かべた。

「ランクS+に危険指定されている炎龍ですか!」
「そうよ!セバス、全員に迎撃態勢の準備、砲撃部隊には私の合図を待てって伝えて!」
「畏まりました」
 この緊急事態に平然とした対応。なんて肝っ玉の大きさだ。それより一瞬で消えたぞ。俺の目を以ってしても追いつけないっていったい何者なんだ?いや、今はそれよりもだ。

「俺に出来ることはあるか!」
「何も無いわ」
「だが、俺のスタータスは知ってるだろ!」
「別に貴方の実力を信じていないわけじゃないわ。でもこれはこの領地を守るルーベンハイト家が片付けるべき問題なの!客人に手伝って貰うわけにはいかないわ。ましてや貴方はさっきまで倒れていたでしょ。そんな人間を戦場に連れ出すわけにはいかないわ」
「だが!」
「お嬢様の命令に従え!行き倒れが!」
「……チッ!」
 俺は仕方なく部屋に戻るのだった。
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