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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第八十三話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ⑭
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その事に気が付いた萩之介たちはグリードに問いかける。
「このおにぎりはもしや……」
「はい、イノマタさんたちのおにぎりはアヤカさんが握ったものです」
その言葉に驚きの表情が出るが直ぐに歓喜の表情に変わる。萩之介に至っては涙を流しながら食べていた。
「まさか、姫様の手料理が食べられる日がこようとは、某……感無量です!」
涙を流しながらおにぎりを頬張っていた。
さすがの綾香ちゃんも恥ずかしいのか軽く頬を赤らめて俯いていたが口元は緩んでいたのできっと嬉しいかったのだろう。
そのあとは何事もなく楽しい朝食を堪能した。
朝食も終わりグリードが用意した食後のお茶を飲みながら昨夜の出来事についてみんなで話し合う事にした。因みにグリードは食器の跡片付けをしている。
「昨夜、蝶麗さんが気づいてくれたおかげでこのフロア攻略の手がかりが見つかったわけだが……俺にはさっぱり分からん。なのでみんなで考えてみよう!」
完璧な開始の挨拶だな。ってなんでみんな呆れた顔をしてるんだ。そんなにおかしな事を言った覚えはないぞ。
それよりさっさと頭を切り替えて考えろよ。
「既に知っている人が大半でしょうが、知らない人と頭の悪い蛆虫の為にもう一度内容を言います」
おい、その頭の悪い蛆虫って俺の事じゃないだろうな。
とアインを睨みつけると、嘲笑うかのように笑みを浮かべた顔をこちらに向けて来た。
このポンコツメイドが!
しかし口喧嘩した所で話が進まないので俺は我慢する。
「遺跡に書かれていた内容はこうです。この地を統べる支配者は全世界の支配者なり、塩の湖、木々生い茂る大地、命枯れた大地の支配者なり、支配者死す時、新たな世界が開かれる」
とアインは呟く。
「昨晩の段階で既に一部の内容は解読が出来ています。皆さんも聞いた段階で分かると思います。蛆虫を除いて」
ポンコツメイド、お前は俺をそこまでして陥れたいのか!
そんな俺とアインの水面下での闘いなど気にした様子も無い萩之介たちは遺跡の文面に付いて話し合いを始めていた。
「海、森、砂漠の全ての支配者、その支配者を屠れば、この階層から抜け出せるわけだな」
「そのようだ。しかし全ての支配者など余は聞いた事もないぞ」
「某もです」
と萩之介と綾香ちゃんが互いの記憶を掘り返すが該当する魔物はいなかったようだ。
その後も幾度となく支配者に付いて話し合いが続いたが記憶に該当する魔物はおらず、それどころか推測の域を出る魔物すら出てこなかった。
結局、昨晩と同じで支配者に関する話し合いは行き詰ってしまった。
休憩がてらにグリードが淹れてくれた冷たい麦茶を飲みながら俺はアインに問いかける。
「アイン、あの遺跡に文字以外に手がかりになりそうなものはなかったのか?」
「殆どが崩壊して瓦礫と化していますからそう簡単に見つかりはしません。そもそもあの石板自体が読める形で残っているのが奇跡なのです」
ま、そうだよな。
原型がまったく想像もつかないほど崩壊した遺跡だ。まともに残っている方が凄いんだよな。
「ただ時間は掛かりますがパズルのように組み合わせて行けば、なにか分かるかもしれません」
「そ、そのような事が可能なのか!?」
と綾香ちゃんは驚愕の顔でアインに問いかけた。
「私は天才ですから可能です」
と平然と答える。
いったいどうすれば真顔であんな事が言えるのか、コイツを創った野郎はどう考えても人格設定を間違えてるだろ。
だが、これで次にするべき事はハッキリとしたな。
「アインは瓦礫とかした遺跡の中から手がかり探し、俺、影光、クレイヴ、アリサ、ヘレンは周囲の見回りついでに素材集め、グリードは昼食の準備だ。銀はアインの傍で手伝いつつ応援してやれ」
「ガウッ!」
と銀から分かったと返事が返って来る。
「蛆虫にしては良い判断です。蛆虫からミジンコに昇格させてあげます」
「全然嬉しくねぇからさっさと作業に取り掛かれ」
と手で払い除けるように合図を出す。
「さてと、俺たちはする事が決まったが綾香ちゃんたちはどうする?」
「このフロアを攻略したいのは余とて同じ事。なら手伝うのは当然であろう」
と真っ直ぐな目を向けながら言い放った。まったくアインと違って賢くて良い子だな。
「なら、そっちの人選は綾香ちゃんに任せる」
俺はそう言って見回りの為に準備を開始した。他の連中も既に準備が終わろうとしていた。
綾香ちゃんたちの人選も決まり、遺跡周囲の探索に出るのが俺、影光、クレイヴ、アリサ、ヘレン、蝶麗さん、愛莉の7人で、遺跡調査をするのがアイン、銀、綾香ちゃん、萩之介、一朗太の4人と1匹である。
グリードは1人で俺たちの昼食づくりである。
数分して遺跡周囲の探索チームの準備が終わったのを見計らい俺は大きめな声で強く言い放った。
「それじゃ、11階層砂漠フロア攻略目指して行動開始だ!」
それぞれ胸を躍らせながら自分の役割を果たすため行動を開始した。ま、1人だけ面倒と言わんばかりの顔をした奴がスナイパーライフルを担いで決められた場所へと向かっているが、気にしないでおこう。
情報収集と素材集めのためセーフハウスから出た俺たちだが、偵察とは違い素材集めが目的のため、必ず戦闘する事になる。
もしもアクシデントがあった時、直ぐに対応が出来るように2人以上のパーティーを組んで行動する事にした。
だが人数が奇数なので1組だけは3人で行動する事になるが。
それで俺が決めた組み合わせは俺とアリサ、クレイヴとヘレン、影光と蝶麗さん、そして愛莉である。
出来るだけ実力と戦闘スタイルがバランス良くなるような組み合わせにした。
クレイヴはあれでもSランク冒険者だ。だから近接戦闘スタイルのヘレンと組ませ、俺は中距離から乱射するアリサと組むことにした。
影光を蝶麗さんと愛莉の2人と一緒にしたのは幾つか理由がある。
一つ目は蝶麗さんたちにもしもの事があった時に俺たちが直ぐに駆けつけるまでの時間稼ぎをしてもらうため。
二つ目は互いの技や戦闘スタイルを知っているため俺たちに比べて連携がしやすいから。
三つ目は精神面的に昨日会ったばかりの人間よりも昔から顔見知りの人間の方が気が楽だから。
四つ目は蝶麗さんの実力は影光にも劣らない実力だが愛莉は違う。そこで愛莉と同じ前衛の影光が居ればフォローし易いと思ったから。
以上の理由からこの組み合わせにしたのだ。
な、これほどの事を考えられる俺って優秀だろ。けして馬鹿なんかじゃない!
ま、そんなわけでこの組み合わせで俺たちはそれぞれ別行動で素材集めを開始した。
俺とアリサは北方面をクレイヴとヘレンは南方面、影光、蝶麗さん、愛莉の3人は東方面を担当する。
勿論これにも理由がある。
俺は相手の気配を読めばある程度の実力を見抜けるが技や相性が分かるわけではない。
だからこそ訓練場でフリーダムメンバーの技や実力、相性なんかを把握するためにも訓練を行っているわけだ。しかし蝶麗さん、愛莉は昨日会ったばかりのため俺は彼女たちの戦闘スタイルを全て把握しているわけじゃない。
だからこそのこの配置なわけだ。
過大評価になるかもしれないが、影光の実力を考えればあの2人のフォローをしながらでも大丈夫だろう。
もしもの時は俺たちが直ぐに駆けつければ良いだけだしな。
そんな事を思いながら俺とアリサは煙草を吸いながら魔物探しをする。
探索を開始して十数分が経った。
「お、魔物の気配がするな。数は……23体。気配の形からして熊のようだな」
数十メートル先に魔物の群れの気配を感じ取った。
だが、目視は出来ていない。多分この砂丘の向こう側だろう。
「相変わらずジンの大旦那の気配感知はすげぇな。アタイは全然気配なんて分からねぇぞ。魔力感知で何となく居るのが分かる程度だ」
と、アリサが新しい煙草に火を着けながら感嘆の言葉を漏らしていた。
「別に大した事じゃない。気配感知なんて戦場に居れば自然と身に付くものだ。それに魔力感知と違って生命力のない相手には使えないからな。アインのような奴とかな」
(ジンの大旦那はああは言ってるが、普通はありえないぜ。アタイも近くにいる奴の気配なら何となく分かる。だからこそ今のジンの大旦那からはまったく強さを感じない。ほんの僅かアタイより少し強い程度の実力しか感じない。それなのり十数メートル先の魔物の数や種類まで正確に当てるなんてほんとジンの大旦那は化け物染みてる)
砂丘を登り切った直後、数十メートル先に一角の熊の群れを目視した。
「あれは砂漠角熊だな」
とアリサが煙草の灰を落としながら魔物の種類を教えてくれる。
「で、強いのか?」
素材が高く売れるとかよりも強いかどうかが俺たちにとっての判断基準である。これは俺たちに限った事ではなく、冒険者なら当然の判断基準である。
しかし他の冒険者と俺たちフリーダムの判断基準の意味は大きく違って来る。
「砂漠角熊は1体でランクBの魔物だ。あの大きさの群れならランクA+だろうな。で、砂漠角熊はこの距離からでも確認できる巨体に加え、パワー、スピードにも秀でているし、何より奴らは額から生えている角で周囲の空気の振動を感知する能力を持っているから接近するのは一苦労だ」
なるほどな。
「ならここから射殺するのはどうだ?」
「それも難しいだろうな。奴らの外皮は魔導弾でもおいそれと貫通するものじゃない。なにより角の振動感知能力はジンの大旦那が想像しているよりも遥かに優れている。弾丸が発射された振動だけでも直ぐに察知するだろう。風下に居るとは言え、この距離で未だにバレていないのが不思議なぐらいさ」
「なるほどな」
もしも砂漠角熊の外皮を貫けたとしても命を狙われていると悟った他の連中には逃げられるわけか。
運が良ければ激情してこっちに向かって群れで突進してくる可能性はある。そうなればアリサが乱射すれば良いだけだからな。
だが、奴らとて馬鹿じゃない。仲間が一発で仕留められるほどの実力者相手に向かって来るとは思えない。生存本能が警鐘を鳴らすだろうからな。
「となると、砂漠角熊に気付かれなように包囲して集中砲火するのがセオリーと言ったところか。しかしそれは普通の冒険者の場合だろ。今俺たちは2人しかいないわけだが、どう思う?」
と新たな煙草に火を着けるアリサに視線を向けて問い掛ける。
「楽勝」
と自信満々の笑みを向けて煙草の煙を吐く。
そうだろうと思った。
アリサが今まで話していた事は普通の冒険者、Bランク、もしくはAランク1人居る冒険者のパーティーだった場合の話だ。
冒険者ランクに対して実力が合っていない俺たちにとってこの相手は苦戦するような相手ではないのだ。
「だが、群れが俺たちの事を危険な存在だと認知した瞬間逃げられる可能性があるだろ。そうなれば全滅させるのは難しいが、どうする?」
とアリサに問いかけるが、
「仁の大旦那はアイツらを全滅させたいのか?」
と意地悪そうな笑みで問い返して来る。
「フッ、いや、半分以上倒せれば別にそれで良い」
俺は思わず鼻で笑い返すと、本音で思った事を答えた。
素材集めを目的とした今回の魔物狩りだが、別に全滅が目的じゃない。だいたい俺たちにとってすればたった2人相手に逃げるような魔物を沢山かったところで面白味の無いただの作業と一緒だ。
「だと思ったぜ」
とニヤリと笑ってアリサは答えた。
「それじゃ、さっそく始めるとするか」
「ああ、そうだな」
と俺の言葉にアリサは新しい煙草に火を着けながら同意した。
砂丘が波打つ程度の微風を肌で感じながら俺たちは同時に砂丘を駆け下りた。
************************
仁とアリサが戦闘を開始した時間からほんの数分遡った現在、影光、蝶麗さん、愛莉の3人は未だに魔物を発見できず、砂漠地帯を歩いていた。
しかし、仁とアリサの2人の時とは違って3人と言う人数でありながら、まったく会話がない。
魔物を探している作戦行動中に無駄な音を立てないのは冒険者として当然の事だが、世間話もないとなると本人たちからしてみればとても気まずい状況でしかない。
そしてこの状況は仁すらも想像していなかった事だろう。
先頭を歩く影光、一番後ろを歩く蝶麗。そんな2人に挟まれるようにして歩く愛莉。
2人の関係を事細かに知っている訳ではない愛莉だが、2人が道場の兄妹弟子という事ぐらいは知っているため、猶更この状況と自分の定位置に不満にもにた気まずさを感じていた。
(誰かこの空気をなんとかして!)
「このおにぎりはもしや……」
「はい、イノマタさんたちのおにぎりはアヤカさんが握ったものです」
その言葉に驚きの表情が出るが直ぐに歓喜の表情に変わる。萩之介に至っては涙を流しながら食べていた。
「まさか、姫様の手料理が食べられる日がこようとは、某……感無量です!」
涙を流しながらおにぎりを頬張っていた。
さすがの綾香ちゃんも恥ずかしいのか軽く頬を赤らめて俯いていたが口元は緩んでいたのできっと嬉しいかったのだろう。
そのあとは何事もなく楽しい朝食を堪能した。
朝食も終わりグリードが用意した食後のお茶を飲みながら昨夜の出来事についてみんなで話し合う事にした。因みにグリードは食器の跡片付けをしている。
「昨夜、蝶麗さんが気づいてくれたおかげでこのフロア攻略の手がかりが見つかったわけだが……俺にはさっぱり分からん。なのでみんなで考えてみよう!」
完璧な開始の挨拶だな。ってなんでみんな呆れた顔をしてるんだ。そんなにおかしな事を言った覚えはないぞ。
それよりさっさと頭を切り替えて考えろよ。
「既に知っている人が大半でしょうが、知らない人と頭の悪い蛆虫の為にもう一度内容を言います」
おい、その頭の悪い蛆虫って俺の事じゃないだろうな。
とアインを睨みつけると、嘲笑うかのように笑みを浮かべた顔をこちらに向けて来た。
このポンコツメイドが!
しかし口喧嘩した所で話が進まないので俺は我慢する。
「遺跡に書かれていた内容はこうです。この地を統べる支配者は全世界の支配者なり、塩の湖、木々生い茂る大地、命枯れた大地の支配者なり、支配者死す時、新たな世界が開かれる」
とアインは呟く。
「昨晩の段階で既に一部の内容は解読が出来ています。皆さんも聞いた段階で分かると思います。蛆虫を除いて」
ポンコツメイド、お前は俺をそこまでして陥れたいのか!
そんな俺とアインの水面下での闘いなど気にした様子も無い萩之介たちは遺跡の文面に付いて話し合いを始めていた。
「海、森、砂漠の全ての支配者、その支配者を屠れば、この階層から抜け出せるわけだな」
「そのようだ。しかし全ての支配者など余は聞いた事もないぞ」
「某もです」
と萩之介と綾香ちゃんが互いの記憶を掘り返すが該当する魔物はいなかったようだ。
その後も幾度となく支配者に付いて話し合いが続いたが記憶に該当する魔物はおらず、それどころか推測の域を出る魔物すら出てこなかった。
結局、昨晩と同じで支配者に関する話し合いは行き詰ってしまった。
休憩がてらにグリードが淹れてくれた冷たい麦茶を飲みながら俺はアインに問いかける。
「アイン、あの遺跡に文字以外に手がかりになりそうなものはなかったのか?」
「殆どが崩壊して瓦礫と化していますからそう簡単に見つかりはしません。そもそもあの石板自体が読める形で残っているのが奇跡なのです」
ま、そうだよな。
原型がまったく想像もつかないほど崩壊した遺跡だ。まともに残っている方が凄いんだよな。
「ただ時間は掛かりますがパズルのように組み合わせて行けば、なにか分かるかもしれません」
「そ、そのような事が可能なのか!?」
と綾香ちゃんは驚愕の顔でアインに問いかけた。
「私は天才ですから可能です」
と平然と答える。
いったいどうすれば真顔であんな事が言えるのか、コイツを創った野郎はどう考えても人格設定を間違えてるだろ。
だが、これで次にするべき事はハッキリとしたな。
「アインは瓦礫とかした遺跡の中から手がかり探し、俺、影光、クレイヴ、アリサ、ヘレンは周囲の見回りついでに素材集め、グリードは昼食の準備だ。銀はアインの傍で手伝いつつ応援してやれ」
「ガウッ!」
と銀から分かったと返事が返って来る。
「蛆虫にしては良い判断です。蛆虫からミジンコに昇格させてあげます」
「全然嬉しくねぇからさっさと作業に取り掛かれ」
と手で払い除けるように合図を出す。
「さてと、俺たちはする事が決まったが綾香ちゃんたちはどうする?」
「このフロアを攻略したいのは余とて同じ事。なら手伝うのは当然であろう」
と真っ直ぐな目を向けながら言い放った。まったくアインと違って賢くて良い子だな。
「なら、そっちの人選は綾香ちゃんに任せる」
俺はそう言って見回りの為に準備を開始した。他の連中も既に準備が終わろうとしていた。
綾香ちゃんたちの人選も決まり、遺跡周囲の探索に出るのが俺、影光、クレイヴ、アリサ、ヘレン、蝶麗さん、愛莉の7人で、遺跡調査をするのがアイン、銀、綾香ちゃん、萩之介、一朗太の4人と1匹である。
グリードは1人で俺たちの昼食づくりである。
数分して遺跡周囲の探索チームの準備が終わったのを見計らい俺は大きめな声で強く言い放った。
「それじゃ、11階層砂漠フロア攻略目指して行動開始だ!」
それぞれ胸を躍らせながら自分の役割を果たすため行動を開始した。ま、1人だけ面倒と言わんばかりの顔をした奴がスナイパーライフルを担いで決められた場所へと向かっているが、気にしないでおこう。
情報収集と素材集めのためセーフハウスから出た俺たちだが、偵察とは違い素材集めが目的のため、必ず戦闘する事になる。
もしもアクシデントがあった時、直ぐに対応が出来るように2人以上のパーティーを組んで行動する事にした。
だが人数が奇数なので1組だけは3人で行動する事になるが。
それで俺が決めた組み合わせは俺とアリサ、クレイヴとヘレン、影光と蝶麗さん、そして愛莉である。
出来るだけ実力と戦闘スタイルがバランス良くなるような組み合わせにした。
クレイヴはあれでもSランク冒険者だ。だから近接戦闘スタイルのヘレンと組ませ、俺は中距離から乱射するアリサと組むことにした。
影光を蝶麗さんと愛莉の2人と一緒にしたのは幾つか理由がある。
一つ目は蝶麗さんたちにもしもの事があった時に俺たちが直ぐに駆けつけるまでの時間稼ぎをしてもらうため。
二つ目は互いの技や戦闘スタイルを知っているため俺たちに比べて連携がしやすいから。
三つ目は精神面的に昨日会ったばかりの人間よりも昔から顔見知りの人間の方が気が楽だから。
四つ目は蝶麗さんの実力は影光にも劣らない実力だが愛莉は違う。そこで愛莉と同じ前衛の影光が居ればフォローし易いと思ったから。
以上の理由からこの組み合わせにしたのだ。
な、これほどの事を考えられる俺って優秀だろ。けして馬鹿なんかじゃない!
ま、そんなわけでこの組み合わせで俺たちはそれぞれ別行動で素材集めを開始した。
俺とアリサは北方面をクレイヴとヘレンは南方面、影光、蝶麗さん、愛莉の3人は東方面を担当する。
勿論これにも理由がある。
俺は相手の気配を読めばある程度の実力を見抜けるが技や相性が分かるわけではない。
だからこそ訓練場でフリーダムメンバーの技や実力、相性なんかを把握するためにも訓練を行っているわけだ。しかし蝶麗さん、愛莉は昨日会ったばかりのため俺は彼女たちの戦闘スタイルを全て把握しているわけじゃない。
だからこそのこの配置なわけだ。
過大評価になるかもしれないが、影光の実力を考えればあの2人のフォローをしながらでも大丈夫だろう。
もしもの時は俺たちが直ぐに駆けつければ良いだけだしな。
そんな事を思いながら俺とアリサは煙草を吸いながら魔物探しをする。
探索を開始して十数分が経った。
「お、魔物の気配がするな。数は……23体。気配の形からして熊のようだな」
数十メートル先に魔物の群れの気配を感じ取った。
だが、目視は出来ていない。多分この砂丘の向こう側だろう。
「相変わらずジンの大旦那の気配感知はすげぇな。アタイは全然気配なんて分からねぇぞ。魔力感知で何となく居るのが分かる程度だ」
と、アリサが新しい煙草に火を着けながら感嘆の言葉を漏らしていた。
「別に大した事じゃない。気配感知なんて戦場に居れば自然と身に付くものだ。それに魔力感知と違って生命力のない相手には使えないからな。アインのような奴とかな」
(ジンの大旦那はああは言ってるが、普通はありえないぜ。アタイも近くにいる奴の気配なら何となく分かる。だからこそ今のジンの大旦那からはまったく強さを感じない。ほんの僅かアタイより少し強い程度の実力しか感じない。それなのり十数メートル先の魔物の数や種類まで正確に当てるなんてほんとジンの大旦那は化け物染みてる)
砂丘を登り切った直後、数十メートル先に一角の熊の群れを目視した。
「あれは砂漠角熊だな」
とアリサが煙草の灰を落としながら魔物の種類を教えてくれる。
「で、強いのか?」
素材が高く売れるとかよりも強いかどうかが俺たちにとっての判断基準である。これは俺たちに限った事ではなく、冒険者なら当然の判断基準である。
しかし他の冒険者と俺たちフリーダムの判断基準の意味は大きく違って来る。
「砂漠角熊は1体でランクBの魔物だ。あの大きさの群れならランクA+だろうな。で、砂漠角熊はこの距離からでも確認できる巨体に加え、パワー、スピードにも秀でているし、何より奴らは額から生えている角で周囲の空気の振動を感知する能力を持っているから接近するのは一苦労だ」
なるほどな。
「ならここから射殺するのはどうだ?」
「それも難しいだろうな。奴らの外皮は魔導弾でもおいそれと貫通するものじゃない。なにより角の振動感知能力はジンの大旦那が想像しているよりも遥かに優れている。弾丸が発射された振動だけでも直ぐに察知するだろう。風下に居るとは言え、この距離で未だにバレていないのが不思議なぐらいさ」
「なるほどな」
もしも砂漠角熊の外皮を貫けたとしても命を狙われていると悟った他の連中には逃げられるわけか。
運が良ければ激情してこっちに向かって群れで突進してくる可能性はある。そうなればアリサが乱射すれば良いだけだからな。
だが、奴らとて馬鹿じゃない。仲間が一発で仕留められるほどの実力者相手に向かって来るとは思えない。生存本能が警鐘を鳴らすだろうからな。
「となると、砂漠角熊に気付かれなように包囲して集中砲火するのがセオリーと言ったところか。しかしそれは普通の冒険者の場合だろ。今俺たちは2人しかいないわけだが、どう思う?」
と新たな煙草に火を着けるアリサに視線を向けて問い掛ける。
「楽勝」
と自信満々の笑みを向けて煙草の煙を吐く。
そうだろうと思った。
アリサが今まで話していた事は普通の冒険者、Bランク、もしくはAランク1人居る冒険者のパーティーだった場合の話だ。
冒険者ランクに対して実力が合っていない俺たちにとってこの相手は苦戦するような相手ではないのだ。
「だが、群れが俺たちの事を危険な存在だと認知した瞬間逃げられる可能性があるだろ。そうなれば全滅させるのは難しいが、どうする?」
とアリサに問いかけるが、
「仁の大旦那はアイツらを全滅させたいのか?」
と意地悪そうな笑みで問い返して来る。
「フッ、いや、半分以上倒せれば別にそれで良い」
俺は思わず鼻で笑い返すと、本音で思った事を答えた。
素材集めを目的とした今回の魔物狩りだが、別に全滅が目的じゃない。だいたい俺たちにとってすればたった2人相手に逃げるような魔物を沢山かったところで面白味の無いただの作業と一緒だ。
「だと思ったぜ」
とニヤリと笑ってアリサは答えた。
「それじゃ、さっそく始めるとするか」
「ああ、そうだな」
と俺の言葉にアリサは新しい煙草に火を着けながら同意した。
砂丘が波打つ程度の微風を肌で感じながら俺たちは同時に砂丘を駆け下りた。
************************
仁とアリサが戦闘を開始した時間からほんの数分遡った現在、影光、蝶麗さん、愛莉の3人は未だに魔物を発見できず、砂漠地帯を歩いていた。
しかし、仁とアリサの2人の時とは違って3人と言う人数でありながら、まったく会話がない。
魔物を探している作戦行動中に無駄な音を立てないのは冒険者として当然の事だが、世間話もないとなると本人たちからしてみればとても気まずい状況でしかない。
そしてこの状況は仁すらも想像していなかった事だろう。
先頭を歩く影光、一番後ろを歩く蝶麗。そんな2人に挟まれるようにして歩く愛莉。
2人の関係を事細かに知っている訳ではない愛莉だが、2人が道場の兄妹弟子という事ぐらいは知っているため、猶更この状況と自分の定位置に不満にもにた気まずさを感じていた。
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