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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく
第七十六話 夜逃げから始まるダンジョン攻略! ⑦
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「どれぐらい滞在するか分からないが今日からよろしく頼む」
俺は普段通りに返事をすると女性はどこか困惑した態度に変わる。それだけで俺は察した。
どうやら察したのは俺だけではなかったらしくグリード以外全員が女性にジト目を向けていた。
「あ、あの~怖くなかったですか?」
オドオドした態度で女性は訊ねて来る。
「まったく」
簡潔に答える俺。
「恰好が定番すぎる」
と答える影光。
「出現する方法も考えた方が良いと思います」
アドバイスするアイン。
「ありきたり過ぎるぜ」
つまらなそうに言うアリサ。
「建物の迫力に負けてる」
眠たそうに答えるクレイヴ。
「面白いとは思うけど怖くはないのだ」
正直に答えるヘレン。
結果、
「て、手厳しい!」
と辛口な回答に女性はその場に両手をついて落ち込んでしまった。
見た目に反してこの人は明るい性格の人なのかもしれない。
玄関先でずっと突っ立っているわけにもいかないので、俺から話を切り出す事にした。
「弥生さんにこの宿を紹介されてきたんだが間違いないよな?」
「はい、弥生さんから連絡は受けてます……」
まだ完全に立ち直れてはいないのか、落ち込んだ雰囲気を漂わせながら答えてくれる。
「改めましてこの幽麗荘の女将をしております、墓塚幽子と申します」
お辞儀をする幽子さんの挨拶に答えるように俺たちも自己紹介をする。
ようやく靴を脱いで家に上げて貰った俺たちは幽子さんの案内で部屋に向かう。
内装の作りは幻楼館と一緒で木造だが、幻楼館のような神秘さはなく、大正時代の学生寮に入ったかのような造りになっている。ま、大正時代の学生寮なんて知らないけど。
場所が場所だけに俺たち以外の宿泊客はいないらしく、2人1組で部屋が割り振られた。因みに1人部屋はアインである。
それから1時間ほどして1階の食堂で幽子さんお手製の山菜の天ぷら定食を堪能したのち俺たちはお茶を飲みながら明日のダンジョン攻略に付いて話し合う。
「1階~10階層までの構造は比較的に多い石造りの通路だ。枝分かれした道も殆どなくランクの低い魔物を倒して進んで行けば自然と10階層のフロアボスが居る部屋に到着する」
「情報によれば既に1~10の魔物の素材は大量に出回っていますから、換金したところで二束三文でしょうね」
アインから齎される情報だがその手にはスマホを弄る様子がまったくない。また脳内ネットで検索して調べたんだろう。
「ま、小遣い程度だと思えば良いだろう。それに食える肉なら食料として使えば良いしな」
普段の依頼と違いダンジョン内での素材のお金はギルドの取り分を差し引いた金額を均等に分配する事になっている。一々換金所に持っていくのは面倒だし、換金するお金が討伐者の物となれば魔物の取り合いになる可能性だってある。俺たちフリーダムメンバーはそんな馬鹿な事はしないが、血の気が多い連中が大半なので戦いたい衝動に負けて奪い合いになる可能性は否定できないが。
「どれだけ先に勧めるか分からないが、長期間潜り続ける予定だからな前半は魔導弾を使用する連中は戦闘を控える形で良いんじゃないか?」
「そうですね、蛆虫にしてはよく考えていると思いますよ」
相変わらず俺を罵らないと気が済まないようだな。
アインの小言を聞き流しながら俺たちは更に話し合う。
1時間ほど話し合い決まった俺たちは明日に備えて切り上げた。
我が家ほどの大きさの浴槽で疲れを癒した俺は6畳の部屋の壁に凭れた俺は一服する。相部屋である影光は既に布団に横になっている。無防備に見えるが殺気を放てば即座に動いて対応してくると分かる。ま、そんな事はしないけど。
灰皿で火を消した俺も布団に入り目を瞑る。
公暦1327年2月20日水曜日午前8時32分。
食堂で太刀魚に似た火流魚と言う魚の塩焼き定食で腹を満たした俺たちは完全武装でダンジョンへ向けてスライド式の扉を開けた。
「お気をつけて」
切り火で送り出してくれた幽子さんに「言ってくる」と返事をして出発した。
煉獄大迷宮があるのは都市を出て10キロほど離れた場所にある。
地元の人間ならば車で移動するらしいが州外や国外から来た冒険者たちには煉獄大迷宮と都市を往復している大型トラックが頻繁に出ているんでそれに乗って移動するらしい。
近場にダンジョンが出現すればよくある事らしい。
ダンジョンが近くに出現すればそれだけ冒険者の数が増える。特に素材を持ち帰る際には非常に便利だからな、冒険者たちは挙って使うだろうよ。
この商売を考えた奴は天才だな。途中で魔物が現れても冒険者を運んでいる訳だから護衛替わりになるし、持ち帰って来た素材の量によって支払う代金の設定をしておけば懐に入る金額も増えるわけだからな。ま、アイテムボックス持ちはただの移動手段としか思っていないだろうけど。
そんなわけで俺たちも煉獄大迷宮行きの大型トラックの荷台に乗り込んで都市を出た。
5分程鋪装された道を進んでから途中から鋪装されいない横道を進む。アップダウンはそこまで激しくないが、少し尻が痛い。昔の人たちはこんな道を馬車で移動していたと思うと尊敬の念さえ覚えるな。
森の中を進んでいると木々が切り倒され、開けた場所に到着する。
有刺鉄線付きの柵と堀で囲まれており、その内側には各方角に機関銃を搭載した戦闘車両が2台ずつ配置されていた。
都市の防衛に比べれば天と地の差があるが、この場に居る9割が冒険者と考えれば十分な防衛設備と言えるだろう。
だからこそ幾つものテントとプレハブ小屋が置かれており、一番奥にはダンジョンの入り口と思しき石造りの高さ5メートル幅4メートルの入り口があった。これならグリードも余裕で入れからありがたいが、なんでここまで大きいんだ。
その場所はまさに採掘所と言っても良いだろう。ま、採掘じゃなくて探索だけど。
トラックから降りた俺たちはさっそく煉獄大迷宮に入るべく入口へと向かった。
それにしても周囲の冒険者たちはやはりこの国の冒険者が大半だが、中にはベルヘンス帝国やスヴェルニ王国に住む連中と似た顔立ちの奴らも居る。俺たちと同じように出稼ぎに来たのかもしれない。
5、6人のパーティーが列を成しているのが見える。この入り口の大きさから考えて別に行列を作る理由が分からなったが、どうやら冒険者組合の組合員が入る冒険者の確認をしているようだ。そう言えば弥生さんがたまに冒険者になりますまして勝手にダンジョンに入る奴が居るって言ってたな。多分それを防ぐために組合員が確認をしてるのか。
最後尾で並ぶ事10分。
さほど列の並びが少ない事もあってか、直ぐに俺たちの番がやって来た。
「冒険者免許書を提示して下さい」
20代後半の茶髪成年が折り畳み式の長机を挟んで言ってくるので俺たちは長机の上に免許書を置く。
成年は真面目な性格なのかなんとも愛想の無い表情で「調べさせて貰います」と呟くとカードリーダでデータを読み取ると俺たちからは見えない角度のパソコン画面を覗き込み表示されている俺たちのデータを見ていく。
「え、フリーダム!?」
免許書に登録されているギルド名を見て成年は食い入るように画面を凝視する。
成年は何やら小声で「偽物?」や「いえ、本物ですね」なんてブツブツと呟いている。いったい何に驚いてるんだ。
「入って良いのか?」
このまま長引けば待っている冒険者たちが不満の声を荒立てるかもしれないので俺は催促するように問いかける。
「あ、すいません。では幾つか質問させて頂きます」
そう言って来た成年に俺は了承の言葉を口にする。
「国外の冒険者のようですが、どうして煉獄大迷宮に?」
「別に大した理由じゃねぇよ。普通のダンジョンとは違うって耳にしたからな。ギルドメンバーの実力向上とお金が目的だ」
そんな俺の言葉に成年は納得したなのか「なるほど」と俺たちに聞こえるかどうかの小さな声で呟いていた。
「ではこの煉獄大迷宮についてはどこで知りましたか?」
「冒険者の友達がこの国の出身の人が居てな、その人に教えて貰ったんだ」
と答える。が納得していないと言う顔で成年は更に質問して来た。
「このダンジョンに付いて教えて下さった友人の名前を聞いても構わないでしょうか?」
国外の冒険者だからなのかしらないが随分と警戒されてるな。あまり良い気はしないが、これも仕事なのだろうと勝手に納得しておく。
「東雲朧さんだ」
そんな俺の言葉に成年はパソコンに名前を打ち込んで調べていた。この国の出身なんだから一々調べる必要もないだろ。SSランク冒険者なんだし。
それから数分して、
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
そう言って俺たちに冒険者免許書を返してくれた。いった何を調べていたのか分からないが、多分俺たちと朧さんの関係を調べていたんだろう。それで俺の言葉が嘘ではないと言う情報があったから通しくれたのかもしれない。
それにしても入るまでに随分と時間が掛かったな。国外の冒険者だけこんなに長いのか?
ま、そんな疑問は本人に聞かなければ分からないので考えるのは止めて、煉獄大迷宮の攻略に集中するか。
「行くぞ」
『おう!』
俺を先頭にして全員で煉獄大迷宮の中へと足を踏み入れた。
スメルティス砂漠にあった遺跡と似た内装だが、ところどこと苔や草が生えている。ダンジョン内でも草は生えてるんだな。
5分掛けて階段を降りるとどこまでも続いていそうな長い通路が続いていた。
しかし冒険者を招き入れるためなのかありがたい事に天井や壁に等間隔で淡い青色を放つ発光石が埋め込まれているため懐中電灯を使う必要は無いようだ。
薄暗いと感じる程度で先に進む支障はないため俺たちはいつも通りに進んでいく。
魔物の気配はまったく感じないが、アインのような生命体ではない敵だって潜んでいる可能性だってある。朧さんや弥生さんから情報は貰っているが、まだ姿を見せていない可能性だってあるからな。
「アイン魔力反応はあるか?」
「今のところは問題ありません」
フリーダムメンバーで一番の魔力感知能力を持っているアインに聞いてみたが今のところ杞憂に終わっているようだ。
弥生さんたちの情報では1階層に罠の類は一切ないって話だったからな。さっさと先に進むとするか。時は金なりって言うしな。
10分ほど歩くと遮蔽物の無い広い空間に出た。目算で20×20の正方形と言ったところか。
そんな俺たちを待ち構えるように1匹のホブゴブリンが錆びた剣を持って立っていた。
「まさかと思うがあれがこのフロアボスなのか?」
「魔力はあのホブゴブリンだけですので間違いないと思います」
気配も奴のしか感じないって事は間違いないのだろう。
しかしこれは酷い。冒険者たちが調子に乗って先に進むわけだ。
朧さんが10階層まではE~Bランクの魔物が単体もしくは数体で出現するだけだと言っていたがここまで酷いとは思っていなかった。
あまりの拍子抜けに俺たちは逆に驚きを隠せずにいた。
時間制限があるわけではないが、こんな所で時間を潰すのも勿体ないのでさっさと倒して先に進むことにするか。
「ほい終わりっと」
ホブゴブリン相手に魔導弾を使うのも勿体ないので俺が接近して奴の首を折って終わらせた。
ま、そんな拍子抜けな戦闘が10階層まで続く。確かに少しずつ魔物との戦闘回数は増えていったが、ハッキリ言ってEランクの初心者パーティー向けとしか思えない。これなら最初に入った冒険者は警戒心を無くすのも無理はないな。
それにしても最初に入った冒険者たちの姿がまったく見当たらないと思い影光に聞いてみるとどうやら10階層まで到達している冒険者は転移の魔法陣で移動が可能らしい。
そう言えば殺気10階層のフロアボスを倒した瞬間口からコインのようなものを吐いていたな。人数分の枚数を吐いていたから少し驚いたがあれが到達した証明書のようなものだったんだろう。ま、汚かったから水で洗ってアイテムボックスに収納したけど。
久々にこれこそ異世界ファンタジーの世界だよな!て思いながら俺たちは11階層へと続く扉を開けた。因みに魔法陣による転移魔法は未だ開発されていないらしい。ま、当たり前に考えてそうだよな転移魔法があれば電車や飛行機の利用者が少ない筈だからな。
扉を開けるとそこには8組の冒険者パーティーが待機していた。中には輪になってお茶を飲みながら団欒な雰囲気のパーティーまである始末だ。
ダンジョン内で無警戒過ぎるだろと思ったが、スヴェルニ学園時代にダンジョン内にはたまにセーフティエリアが存在すると授業で先生が言っていたのを思い出しここがそのセーフティエリアなんだと気づく。
俺は普段通りに返事をすると女性はどこか困惑した態度に変わる。それだけで俺は察した。
どうやら察したのは俺だけではなかったらしくグリード以外全員が女性にジト目を向けていた。
「あ、あの~怖くなかったですか?」
オドオドした態度で女性は訊ねて来る。
「まったく」
簡潔に答える俺。
「恰好が定番すぎる」
と答える影光。
「出現する方法も考えた方が良いと思います」
アドバイスするアイン。
「ありきたり過ぎるぜ」
つまらなそうに言うアリサ。
「建物の迫力に負けてる」
眠たそうに答えるクレイヴ。
「面白いとは思うけど怖くはないのだ」
正直に答えるヘレン。
結果、
「て、手厳しい!」
と辛口な回答に女性はその場に両手をついて落ち込んでしまった。
見た目に反してこの人は明るい性格の人なのかもしれない。
玄関先でずっと突っ立っているわけにもいかないので、俺から話を切り出す事にした。
「弥生さんにこの宿を紹介されてきたんだが間違いないよな?」
「はい、弥生さんから連絡は受けてます……」
まだ完全に立ち直れてはいないのか、落ち込んだ雰囲気を漂わせながら答えてくれる。
「改めましてこの幽麗荘の女将をしております、墓塚幽子と申します」
お辞儀をする幽子さんの挨拶に答えるように俺たちも自己紹介をする。
ようやく靴を脱いで家に上げて貰った俺たちは幽子さんの案内で部屋に向かう。
内装の作りは幻楼館と一緒で木造だが、幻楼館のような神秘さはなく、大正時代の学生寮に入ったかのような造りになっている。ま、大正時代の学生寮なんて知らないけど。
場所が場所だけに俺たち以外の宿泊客はいないらしく、2人1組で部屋が割り振られた。因みに1人部屋はアインである。
それから1時間ほどして1階の食堂で幽子さんお手製の山菜の天ぷら定食を堪能したのち俺たちはお茶を飲みながら明日のダンジョン攻略に付いて話し合う。
「1階~10階層までの構造は比較的に多い石造りの通路だ。枝分かれした道も殆どなくランクの低い魔物を倒して進んで行けば自然と10階層のフロアボスが居る部屋に到着する」
「情報によれば既に1~10の魔物の素材は大量に出回っていますから、換金したところで二束三文でしょうね」
アインから齎される情報だがその手にはスマホを弄る様子がまったくない。また脳内ネットで検索して調べたんだろう。
「ま、小遣い程度だと思えば良いだろう。それに食える肉なら食料として使えば良いしな」
普段の依頼と違いダンジョン内での素材のお金はギルドの取り分を差し引いた金額を均等に分配する事になっている。一々換金所に持っていくのは面倒だし、換金するお金が討伐者の物となれば魔物の取り合いになる可能性だってある。俺たちフリーダムメンバーはそんな馬鹿な事はしないが、血の気が多い連中が大半なので戦いたい衝動に負けて奪い合いになる可能性は否定できないが。
「どれだけ先に勧めるか分からないが、長期間潜り続ける予定だからな前半は魔導弾を使用する連中は戦闘を控える形で良いんじゃないか?」
「そうですね、蛆虫にしてはよく考えていると思いますよ」
相変わらず俺を罵らないと気が済まないようだな。
アインの小言を聞き流しながら俺たちは更に話し合う。
1時間ほど話し合い決まった俺たちは明日に備えて切り上げた。
我が家ほどの大きさの浴槽で疲れを癒した俺は6畳の部屋の壁に凭れた俺は一服する。相部屋である影光は既に布団に横になっている。無防備に見えるが殺気を放てば即座に動いて対応してくると分かる。ま、そんな事はしないけど。
灰皿で火を消した俺も布団に入り目を瞑る。
公暦1327年2月20日水曜日午前8時32分。
食堂で太刀魚に似た火流魚と言う魚の塩焼き定食で腹を満たした俺たちは完全武装でダンジョンへ向けてスライド式の扉を開けた。
「お気をつけて」
切り火で送り出してくれた幽子さんに「言ってくる」と返事をして出発した。
煉獄大迷宮があるのは都市を出て10キロほど離れた場所にある。
地元の人間ならば車で移動するらしいが州外や国外から来た冒険者たちには煉獄大迷宮と都市を往復している大型トラックが頻繁に出ているんでそれに乗って移動するらしい。
近場にダンジョンが出現すればよくある事らしい。
ダンジョンが近くに出現すればそれだけ冒険者の数が増える。特に素材を持ち帰る際には非常に便利だからな、冒険者たちは挙って使うだろうよ。
この商売を考えた奴は天才だな。途中で魔物が現れても冒険者を運んでいる訳だから護衛替わりになるし、持ち帰って来た素材の量によって支払う代金の設定をしておけば懐に入る金額も増えるわけだからな。ま、アイテムボックス持ちはただの移動手段としか思っていないだろうけど。
そんなわけで俺たちも煉獄大迷宮行きの大型トラックの荷台に乗り込んで都市を出た。
5分程鋪装された道を進んでから途中から鋪装されいない横道を進む。アップダウンはそこまで激しくないが、少し尻が痛い。昔の人たちはこんな道を馬車で移動していたと思うと尊敬の念さえ覚えるな。
森の中を進んでいると木々が切り倒され、開けた場所に到着する。
有刺鉄線付きの柵と堀で囲まれており、その内側には各方角に機関銃を搭載した戦闘車両が2台ずつ配置されていた。
都市の防衛に比べれば天と地の差があるが、この場に居る9割が冒険者と考えれば十分な防衛設備と言えるだろう。
だからこそ幾つものテントとプレハブ小屋が置かれており、一番奥にはダンジョンの入り口と思しき石造りの高さ5メートル幅4メートルの入り口があった。これならグリードも余裕で入れからありがたいが、なんでここまで大きいんだ。
その場所はまさに採掘所と言っても良いだろう。ま、採掘じゃなくて探索だけど。
トラックから降りた俺たちはさっそく煉獄大迷宮に入るべく入口へと向かった。
それにしても周囲の冒険者たちはやはりこの国の冒険者が大半だが、中にはベルヘンス帝国やスヴェルニ王国に住む連中と似た顔立ちの奴らも居る。俺たちと同じように出稼ぎに来たのかもしれない。
5、6人のパーティーが列を成しているのが見える。この入り口の大きさから考えて別に行列を作る理由が分からなったが、どうやら冒険者組合の組合員が入る冒険者の確認をしているようだ。そう言えば弥生さんがたまに冒険者になりますまして勝手にダンジョンに入る奴が居るって言ってたな。多分それを防ぐために組合員が確認をしてるのか。
最後尾で並ぶ事10分。
さほど列の並びが少ない事もあってか、直ぐに俺たちの番がやって来た。
「冒険者免許書を提示して下さい」
20代後半の茶髪成年が折り畳み式の長机を挟んで言ってくるので俺たちは長机の上に免許書を置く。
成年は真面目な性格なのかなんとも愛想の無い表情で「調べさせて貰います」と呟くとカードリーダでデータを読み取ると俺たちからは見えない角度のパソコン画面を覗き込み表示されている俺たちのデータを見ていく。
「え、フリーダム!?」
免許書に登録されているギルド名を見て成年は食い入るように画面を凝視する。
成年は何やら小声で「偽物?」や「いえ、本物ですね」なんてブツブツと呟いている。いったい何に驚いてるんだ。
「入って良いのか?」
このまま長引けば待っている冒険者たちが不満の声を荒立てるかもしれないので俺は催促するように問いかける。
「あ、すいません。では幾つか質問させて頂きます」
そう言って来た成年に俺は了承の言葉を口にする。
「国外の冒険者のようですが、どうして煉獄大迷宮に?」
「別に大した理由じゃねぇよ。普通のダンジョンとは違うって耳にしたからな。ギルドメンバーの実力向上とお金が目的だ」
そんな俺の言葉に成年は納得したなのか「なるほど」と俺たちに聞こえるかどうかの小さな声で呟いていた。
「ではこの煉獄大迷宮についてはどこで知りましたか?」
「冒険者の友達がこの国の出身の人が居てな、その人に教えて貰ったんだ」
と答える。が納得していないと言う顔で成年は更に質問して来た。
「このダンジョンに付いて教えて下さった友人の名前を聞いても構わないでしょうか?」
国外の冒険者だからなのかしらないが随分と警戒されてるな。あまり良い気はしないが、これも仕事なのだろうと勝手に納得しておく。
「東雲朧さんだ」
そんな俺の言葉に成年はパソコンに名前を打ち込んで調べていた。この国の出身なんだから一々調べる必要もないだろ。SSランク冒険者なんだし。
それから数分して、
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
そう言って俺たちに冒険者免許書を返してくれた。いった何を調べていたのか分からないが、多分俺たちと朧さんの関係を調べていたんだろう。それで俺の言葉が嘘ではないと言う情報があったから通しくれたのかもしれない。
それにしても入るまでに随分と時間が掛かったな。国外の冒険者だけこんなに長いのか?
ま、そんな疑問は本人に聞かなければ分からないので考えるのは止めて、煉獄大迷宮の攻略に集中するか。
「行くぞ」
『おう!』
俺を先頭にして全員で煉獄大迷宮の中へと足を踏み入れた。
スメルティス砂漠にあった遺跡と似た内装だが、ところどこと苔や草が生えている。ダンジョン内でも草は生えてるんだな。
5分掛けて階段を降りるとどこまでも続いていそうな長い通路が続いていた。
しかし冒険者を招き入れるためなのかありがたい事に天井や壁に等間隔で淡い青色を放つ発光石が埋め込まれているため懐中電灯を使う必要は無いようだ。
薄暗いと感じる程度で先に進む支障はないため俺たちはいつも通りに進んでいく。
魔物の気配はまったく感じないが、アインのような生命体ではない敵だって潜んでいる可能性だってある。朧さんや弥生さんから情報は貰っているが、まだ姿を見せていない可能性だってあるからな。
「アイン魔力反応はあるか?」
「今のところは問題ありません」
フリーダムメンバーで一番の魔力感知能力を持っているアインに聞いてみたが今のところ杞憂に終わっているようだ。
弥生さんたちの情報では1階層に罠の類は一切ないって話だったからな。さっさと先に進むとするか。時は金なりって言うしな。
10分ほど歩くと遮蔽物の無い広い空間に出た。目算で20×20の正方形と言ったところか。
そんな俺たちを待ち構えるように1匹のホブゴブリンが錆びた剣を持って立っていた。
「まさかと思うがあれがこのフロアボスなのか?」
「魔力はあのホブゴブリンだけですので間違いないと思います」
気配も奴のしか感じないって事は間違いないのだろう。
しかしこれは酷い。冒険者たちが調子に乗って先に進むわけだ。
朧さんが10階層まではE~Bランクの魔物が単体もしくは数体で出現するだけだと言っていたがここまで酷いとは思っていなかった。
あまりの拍子抜けに俺たちは逆に驚きを隠せずにいた。
時間制限があるわけではないが、こんな所で時間を潰すのも勿体ないのでさっさと倒して先に進むことにするか。
「ほい終わりっと」
ホブゴブリン相手に魔導弾を使うのも勿体ないので俺が接近して奴の首を折って終わらせた。
ま、そんな拍子抜けな戦闘が10階層まで続く。確かに少しずつ魔物との戦闘回数は増えていったが、ハッキリ言ってEランクの初心者パーティー向けとしか思えない。これなら最初に入った冒険者は警戒心を無くすのも無理はないな。
それにしても最初に入った冒険者たちの姿がまったく見当たらないと思い影光に聞いてみるとどうやら10階層まで到達している冒険者は転移の魔法陣で移動が可能らしい。
そう言えば殺気10階層のフロアボスを倒した瞬間口からコインのようなものを吐いていたな。人数分の枚数を吐いていたから少し驚いたがあれが到達した証明書のようなものだったんだろう。ま、汚かったから水で洗ってアイテムボックスに収納したけど。
久々にこれこそ異世界ファンタジーの世界だよな!て思いながら俺たちは11階層へと続く扉を開けた。因みに魔法陣による転移魔法は未だ開発されていないらしい。ま、当たり前に考えてそうだよな転移魔法があれば電車や飛行機の利用者が少ない筈だからな。
扉を開けるとそこには8組の冒険者パーティーが待機していた。中には輪になってお茶を飲みながら団欒な雰囲気のパーティーまである始末だ。
ダンジョン内で無警戒過ぎるだろと思ったが、スヴェルニ学園時代にダンジョン内にはたまにセーフティエリアが存在すると授業で先生が言っていたのを思い出しここがそのセーフティエリアなんだと気づく。
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