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第三章 魔力無し転生者はランクを上げていく

第六十九話 あれからのスヴェルニ学園 ⑤

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「凄いわねジン。完璧に相手を手玉にとってるわ」
「はい。相手の動きも悪くないのに釈ですが流石です」
 イザベラ様とロイド様が解説してくれるおかげでこの状況で戦うジンさんの凄さが際立ちます。
 タブレットに映し出されるジンさんの姿はエレイン先生やイザベラ様たちと戦った際に見せた不敵な笑みを浮かべていました。

 ――そのままの意味さ。楽しんだ者の勝ちって言うだろ?

 私がベルヘンス帝国に逃げるように身を隠していた時にジンさんが私を励ますために言った言葉。
 あの時は私のために言っているものだと思っていましたが、改めて違うと分かりました。
 どんな環境、状況であろうと楽しめる精神力。
 驕り、自信過剰、油断。楽しむとは最悪の事態になりかねない行為。
 だけど『楽しむ』と言う行為が出来るだけの圧倒的力量差があれば、『最悪の事態』ですら凌駕する事が出来る。
 窮鼠猫を嚙むと言う状況を捻じ伏せる圧倒的力。
 相手は鼠じゃない。生まれたばかりの雛鳥。
 猫が雛鳥で遊んでいるような光景。
 どれだけ楽しめるかはその者の強さに比例している。
 ジンさんと殺し合っているのは私ではないのに思い知らされる光景。きっと相手の方は苛立っているでしょうね。
 そんな時でした。

「「「ムッ」」」
 映し出される映像に思わず私はジンさんの戦いの凄さなんか忘れて不機嫌になっていました。

「今目が合ったわよね?」
「そうでしたか?」
 イザベラ様は気づいたらしく不機嫌気味にロイド様に質問していましたが、ロイド様は気づいていなかったようです。

「いえ、合いましたね」
「はい。間違いないです」
 そんなイザベラ様の言葉にジュリアスさんと私が同意していました。

「そうよね。これは今度会いに行って聞いた方が良いようね」
「そうですね」
「私も賛成です」
 更に同意する私たち。そんな私たちに目を向けないロイド様達。いったいどうしたのでしょうか?
 その後5分程の映像を見終わった私たちは改めて席に座り直しました。

「さて、こうしてジンの成長や日常を知る事が出来たわけだけど、やはり会って話したいわね」
「ナイス考えです、イザベラ様!」
 そんなイザベラ様の考えにレオリオ君が賛同していました。
 まるでそうなる事が分かっていたかのように笑みを浮かべたイザベラ様は更に言葉を続けた。

「なら私たち全員でベルヘンス帝国に卒業旅行に行きましょ」
 何やら色々な思惑がありそうな雰囲気ですが、私もまたジンさんに会えるのは楽しみです。
 こうして私たちは卒業旅行でジンさんに会いに行く事になりました。

「卒業旅行の日取りは後日決めるとして、せっかく久しぶりにこうして集まったんだからジンの事は抜きにして話しましょ」
 食器の中身が無くなっているところから既にイザベラ様は食べ終わっているらしく楽しく話せる準備を整えていました。流石は軍務科迅速な行動です。
 本来平民と貴族が同じ食卓を囲み会話を楽しむなんて事は出来ません。ですがそれすらも可能にしているのがこの学園。
 しかしあと数ヶ月で卒業。だからこそ今のうちに話せる事は話しておこうと言う考えなのかもしれません。
 そんなイザベラ様の提案に誰も反対する者は居ません。だからこその肯定の笑みで返すのです。

「私たち軍務科は卒業すれば軍に入隊する事は分かっているけど、ジュリアス君やフェリシティーさんたちは卒業したらどこのギルドに入社するのかしら?」
 軍務科の生徒とは違い冒険科の生徒は卒業しギルドに入社する方法は大まかに分けて2つ。
 1つ目はスカウト。ギルド側から声を掛けられ入社する方法。
 2つ目はトライアウト。自分の実力を活かせそうなギルドの入社試験を受ける方法。
 ジンさんのように冒険者資格試験を受けなければ冒険者になれない人たちは大抵入社試験を受けなければなりませんが、私たちは学園を卒業すると同時に冒険者資格が貰えるため、スカウトされる事を目指して日々勉学に励むわけです。私たちにとっては2学期中旬に行われた卒業試験が冒険者資格試験だと思っています。

「私たち全員は、フェリシティーさんの父親がギルドマスターを務めるギルド『バルボア・カンパニー』に入社する事が決まっています」
「おめでとう、友人が無事ギルドに入社出来る事が決まっていて嬉しいわ」
 簡素な祝いの言葉ですが、私たちにとっては充分嬉しい言葉です。なによりギルドに入社した事だけでなく無事に卒業試験に合格している事を察した上での言葉ですから更に嬉しいです。

「フェリシティーさんには悪いけど、ジュリアス君なら他のギルドからのスカウトもあったでしょうし、確か入りたいギルドがあったと思うのだけど?」
 冒険者を目指す学生の大半は憧れの冒険者が所属しているギルドに入社する事を目指すものです。ですが最終学年になって未だに下位のクラスの生徒はそんな夢を捨て身の丈にあったギルドに入社する事は目指してしまいます。ですがジュリアスさんは私たちとは違い1組の生徒夢のあったギルドに入る事は不可能ではありません。
 そんな彼が私たちと同じギルドに入る事にイザベラ様は疑問を感じたのでしょう。

「はい、最終学年になった頃はずっと『眠りの揺り籠』に入りたいと思っていました」
 眠りの揺り籠――27歳と言う若さでSSランクにまで上り詰めたヴィオラ・ヘンドリクセンさんがギルドマスターを務めるギルド。
 スヴェルニ王国内ギルドランキングでもトップ10に入るギルドで、個人ランキングではトップ5に入るほどの実力者。そんな彼女のギルドに入る事を目指していたジュリアス君がどうしてお父様のギルドに?

「小さい時から憧れていた彼女のギルドに入りたいとずっと思っていました。ですが改めて私がもっと強くなるために一番必要なのは何かと考えた時、思いついたのは現場でしか得られない経験と知識。それを手に入れるにはまだ若いヴィオラさんのギルドでは無く昔から長年あるバルボア・カンパニーの方が良いのではないかと思ったんです」
「なるほど……そこから新たな戦術や戦略を考えて行きたいって事ね」
「はい」
 ジュリアスさんの話を聞いて私は団体戦へ向けて訓練している時の事を思い出していました。そしてそれはエミリーやレオリオ君も同じだったようです。
 私たちよりも持っていないからこそ、閃きで新たな戦術や戦略を考えだす姿。思考は止めないだけど固定概念は縛られないジンさんの姿。
 きっとそんな彼の姿にジュリアスさんは強くなる道を見つけたのでしょう。私はまだ道を見つけられてはいませんが、ベルヘンス帝国で道を見つける方法は教えて貰えました。ですからまた会う時までにはもっと強くなります。いえ、なっていなければアインさんに怒られそうですから。

「頑張ってね、そしていつの日か一緒に任務を熟せる日が来ると良いわね」
「はい!」
 軍の任務は国の防衛や治安維持が主な仕事ですが、それは配属される科によって違います。そしてたまにですが大氾濫のような魔物が出現する事もあります。そう言った災害時に冒険者と軍は共同で対処するためきっとその時の事を言っているのでしょう。

「そろそろ昼休みも終わるわ。それじゃ卒業旅行の日程については後日話し合いましょ」
「「「「はい」」」」
 席を立ちあがったイザベラ様の言葉に私たちは声を合わせて返事をするのでした。ジンさんもう少ししたら皆と会いに行きますからね

            ************************

 同時刻。

「ハックシュン!……何故だクシャミが止まらない。それに何やら悪寒が……暖房付けて寝るか」
 リモコンでエアコンの暖房をONにした俺は改めてベッドの中で意識を飛ばす。ああ、惰眠を貪るって最高だな。
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